風雷の郷を抜けた、とアティはその足で狭間の領域にやってきた。
元々、目的地なんかない。
久しぶりともいえるこの平和なひと時を、散歩して過ごすのもまた一興。
そんなジジくさい名目のもと、こうしてただ当てもなくぶらついていただけ。
たまたま足が狭間の領域へと向いた。
ただそれだけだった。
水晶のように透き通った岩を避け、ふよふよふわふわ浮かんで飛んでいるタケシーやポワソに軽い挨拶をしながら、奥へと進む。
普段ファルゼンが座しているはずのその場所には、ファリエルとフレイズ、そしてレックスの姿があった。
それぞれが別の岩に腰かけ、主にしゃべっているのはフレイズのようで。
彼の話を聞いたファリエルの身振り手振りが無駄に大げさになっているところがなんだかかわいいと思う。
「珍しいよね、こうして2人が顔を合わせて話しているなんて」
レックスは差し置いて、などと言いつつアティは彼へと視線を向けて、ムフフと笑った。
ファリエルとフレイズは仲が良い。
護衛獣とその主という関係ではある。
しかしこの二人にはそれを超えた何かがそこにはあるのだと、島に流れ着いてから今までの会話を聞いてもそう思える。
『そう言われてみると、そうかもしれませんね』
「帝国軍たちが島に来て以来、私は神経質になって、見回りばかりしていましたからね」
フレイズは真面目で、わり神経質なところがあるから。
かつてない島の危険に一人頭を抱えていたこともあっただろう。
しかし、それらもとりあえず一段落。
帝国軍とも和解し、無色の派閥も追い返して得た、つかの間の平和。
もっとも、帝国軍の兵士たちに関しては複雑なものだが。
「今は、あなた方のおかげで心にゆとりができましたよ」
ありがとうございます。
フレイズはそんな一言と共に、レックスとアティに笑いかけた。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第62話 天使
「それで、なんの話をしていたんだ?」
「天使の間に伝わる、昔のリィンバウムの話だよ」
結構たくさんあって、面白いよ。
レックスはそう言って笑う。
人間と天使、リィンバウムとサプレス。
種族や住む環境の違いが、リィンバウムに伝わる昔話との微妙な違いがある。
しかも人間よりも長命な分、多くの昔話を彼らは知っていた。
レックスとファリエルは、その一部を聞いていたのだ。
『ああ、はリィンバウムの話、全然知らないんですよね? せっかくだし、聞いていってはどうですか?』
はそんなファリエルの提案に、快くうなずいた。
実際、彼はこの世界に召喚されて一ヶ月と経っていないのだ。
勉強がてらに、と話を聞くのも悪くない。
そう思えたから。
・・・無駄な数式とか単語がない分、学校での授業より楽だと考えてしまうのがなんとも『名もなき世界』じみた思考ではあるが。
「そうですね・・・リィンバウムでいう、豊穣の天使の物語などが、いいでしょうかね」
「ああ、それたしか、小さいころに童話を読んでもらったことがあるよ」
「悪魔との戦いで、最後まで人間に味方してくれた天使の話ですよね?」
フレイズはうなずいた。
豊穣の天使アルミネ。
かつてリィンバウムに侵攻してきたサプレスの悪魔たちと戦うため、人間と共に戦ったとされる天使。
しかし、実際は・・・・・・いや、ここで語るのはやめておこう。
「貴方たちの世界ではそう伝わっていますが我々の間では、彼女は罪人とされるんです」
話はフレイズへと戻る。
リィンバウムで伝わっていたアルミネの話は、人間にとってはアティの言うとおり『人間に最後まで味方した天使』だった。
しかし、サプレスでは彼女はフレイズの言うところの『罪人』扱い。
それはなぜか。
「恋した男を守るために界の意志に逆らった最初の堕天使なのだと伝わっているんです」
一人の人間と恋に落ち、その思いを最後まで貫いたからだった。
彼を守りたい。そのために、私は戦う。
味方が少なくなっていく中で、彼女はその思いを胸に戦ったのだろう。
その時間を生きていたわけではない一同には、彼女の心境を察するくらいしかできない。
それでも、
『でも、フレイズにとっては、憧れの御方なんだよね?』
ファリエルの言うとおり彼にとっては憧れであり、いつか会ってみたいと強く思える存在だった。
「界の意志に逆らってまで、人間への愛を貫いたという強さには憧れます」
ほんのりと顔を赤らめながらフレイズはファリエルに答える。
憧れことのできる存在がいるというのは、いいことだとは思う。その人を目指して、さらに自分を高めることができるから。
「たしかに、素敵ですよね。そういうのって・・・」
「力尽きた彼女の魂は今もまだ、この世界をさまよっていると伝わっています」
最後の戦いで大悪魔と相対した彼女は、愛する人を守って散った。
抱いていた思いは、身体を失くしてもその人に会いたいと願い、リィンバウムをさまようほど。
彼女の強さが垣間見える瞬間でもあった。
端から見たら怖いことこの上ないけど。
「できることなら、いつかお目にかかりたいものですよ」
きっと、素晴らしいお話が聞けるでしょうね・・・
そう言いながらフレイズは目を輝かせた。
「そうですね・・・私も会ってみたいです」
『私も、そう思います』
ファリエルもアティも、同じように目を輝かせる。
愛とか恋といった話は男性よりも女性の方が慣れているのだろう。
とレックスは一抹の顔を見合わせ、乾いた笑みを浮かべた。
「そうだな・・・旅の途中で見かけたらフレイズのことを話しておくよ」
「・・・え!? 旅に出るんですか!?」
島の一件が終わったらな、とアティに答える。
まだ全部が解決していないのに、この島を出て行ってしまうほど彼も薄情じゃない。
全てを終わらせて、落ち着いたところで・・・の話だ。
だから、島を出るのはまだまだ先の話しだし、そのためにこの世界の基礎知識だって勉強しなければならない。
できるなら元の世界に帰りたい。ダメなら向こうに自分の無事を知らせたい。
「俺、一応召喚獣だし。元の世界に帰りたいって願望もあるし。まぁ、戻れなくても向こうの状況だけでも知りたいし、な」
「そうですか・・・」
アティが軽く肩を落としていたのが気になったが、とにかくアルミネだ。
もっとも、この世界をさまよっている彼女に出会うことができるなんて、天文学的なほどにまれなのだろうけど。
それでも、お願いします、とフレイズは笑みを作った。
・・・
「そういえば、ファリエルはいつ護人のみんなに自分のこと、話したんだ?」
『無色の派閥が来たときに』
状況が状況だったのでどうかとは思ったんですけどね。
てれてれと頬を赤らめながら、ファリエルは言う。
ここのところ、確かにごたごたしていた。タイミング的にも、ちょうどよかったというのもあったのだろう。
なにより、あのときに言わないともう言えなくなる気がしたというのが理由だそうだ。
『みなさん、本当の私を受け入れてくれたんです♪』
「よかったね、ファリエル」
レックスの声に、本当に嬉しそうにうなずいた。
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