。悪いけど、ちょっと俺たちと一緒に来てくれないかな?」

 久しぶりに訪れた、平和な一日。
 今日はずっと寝ていよう、と心に決めた矢先に声をかけられた。
 お邪魔します、と言って部屋に入った瞬間に冒頭のセリフ。
 セリフを発したのはニコニコと笑みを絶やさないレックスだった。
 先日と同じ、有無を言わさず従わせるような、ある意味恐怖な笑み。


 今日はゆっくりできると思ったのに。
 一日中、ずっとベッドに横になっていられる。そう思っていたのに。


 現実とは、さぞままならないものである。

 は、心の中で涙を流した。





     
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第56話  試験





「ゆっくりしてたところを、悪かったね」
「だったら呼ぶなって」

 ザクザクと何度も通った獣道をレックスと、強引についてきたユエルと歩く。
 空を見ると、雲ひとつない青空が視界いっぱいに広がっている。
 俺はこんなところでなにをやっているんだろう、などと考えていたのだが。

「さ、着いたよ」

 気がつけば、すでに目的地にたどり着いていた。
 そこには、大きな切り株に腰掛けて待っていたアティと4人の生徒たち。
 アティはゆっくりと立ち上がって、見惚れるような笑みをこぼす。
 ナップは口と目を丸くし、ウィルは先生と共に現れた青年に気づいて「こんにちは」と挨拶。
 ベルフラウもアリーゼも顔には出さないが驚きを隠せないようだった。

「・・・で、こんなトコにつれてきて、俺にどうしろと?」

 それをこの場でたずねることは、無駄な行為ではないだろう。
 何をするのかがわからねば行動のしようもないし、ここに来させられた理由もわからない。

「そうだよっ、なんで兄ちゃんがここに来るんだよ!」
「私も聞きたいですわ」
「ま、先生たちのことですから、なにか企んでいるんじゃないかとは思ってましたけど」
「・・・今日は、卒業試験のはずですよね?」

 生徒たちもがここにきた理由を聞きたがっている。
 ・・・無理もないだろう。
 彼らの家庭教師でもないが、『卒業試験』の場に現れたのだから。

 アティとレックスは顔を見合わせ、にっこりと笑う。
 なにか裏のある笑顔。
 背筋に、電気のようなものが走る。

 ・・・なにか、面倒なことに巻き込まれそうだ。

 そんな確信が、身体中から危険信号を発していた。

「ここにいるに、卒業試験のお手伝いをしてもらおうと思います!」

 ピシ、と右手の人差し指を立ててアティが口にした。
 理由は簡単。
 卒業試験をするのはいいのだが、生徒は四人。それに対し教師は二人。
 とてもじゃないが二人だけじゃ一日で終えるには手に負えない。
 明日には、もしかしたら戦いが起こるかもしれない。
 だから、できるうちにやる。
 それだけだった。

「・・・だれか」

 冗談だと言ってくれよぉ・・・

 は大きく息を吐いて空を見上げた。
 それとは逆に、生徒たちは普通に驚いているようだが。
 正直な話、自分に先生役は務まらない。
 そう思うから。


「俺だけ?」

 こくこく。

 二人がうなずく。
 ユエルを指さすと、二人は首を横に振った。

「やって・・・くれるよね?」
「やって・・・くれますよね?」

 屈託のない笑顔でたずねる。
 そんな二人に、はうなずく以外選択肢はなかった。
 NOと言える日本人になろう。
 そう強く誓った瞬間だった。


 ・・・


「それじゃあ、課題の説明をするよ」

 すぐすむから、と言ってレックスはを見る。
 今日が、彼らが生徒たちに教える最後の授業。
 困難な課題で、説明に時間を要することも仕方ないと思う。
 ・・・できれば、早々に終われることを願いたいが。
 なにせ、久々の平和な一日なのだから。

「アティがナップ、がウィル、俺がベルフラウとアリーゼを担当する」
「君たちは、今の自分の力を全部出し切って、それをぶつけてください。私たちは、防御に徹します」
「うえっ!?」

 なんてぶっ飛んだ課題内容。
 子供とはいえ、仮にも帝国兵や暗殺者たちと対等に渡り合える実力の持ち主たちだ。
 そんな彼らを相手に、攻撃をさせてもらえない。
 絶対に無理だ、と目で訴えてみる。

「「(にっこり)」」

 が、効果はなかった。

 生徒たちは、内容を聞いてうなだれていた。

「無理だよ・・・そんな・・・」
「先生たちに・・・勝てるわけ・・・」
「かないっこ・・・ありませんよ・・・」
「兄さんならまだしも・・・」
「・・・」

 ナップ・ベルフラウ・アリーゼの後に、ウィルの遠慮のない言葉の槍を思い切り受け止め、うなだれた。
 ・・・何気にひどいこと言ってくれるじゃないか。
 二人に向けていた視線が落ち込む彼らへと移動する。
 勝てるか勝てないかは、そのときになってみなければわからない。
 も彼らの実力をあまりわかっていなかったからこそ、改めて思う。

 やってやろうじゃないか、と。

「勝てない相手とでも戦わなくちゃいけないことは、誰にだってあるんだぞ!」

 レックスが声を張り上げる。
 それは、誰よりも戦場を知っている者の言葉。
 死と隣り合わせの世界を、この場にいる誰よりも理解しているからこそ、レックスは叫んだ。
 経験の伴うリアルな言葉だからこそ、も・・・そして生徒たちもその言葉を強く胸に刻み込むことができた。

「だいじょうぶだよ。今の君たちの力だったらできないことじゃない」

 先ほどの怒声はどこへやら。
 今までのものと同じ、仲間を安心させるような笑みを浮かべ、レックスは告げた。

『っ!!』

 武器を取った。
 戦わなければならない強い敵。
 勝ち目のない戦いは、彼らにとって初めてだった。

「おい・・・アティ、レックス・・・」
「大丈夫だよ」
「ええ。はつよいです・・・私たちよりも、ずっと」

 貴方らしくないですよ?

 アティはずいぶんと無茶なことを言って笑みを浮かべた。
 彼らの言う『つよさ』とは、腕力や身体能力ではない。
 それは、『こころ』の強さだ。
 何があっても前を向いて、まっすぐ進んでいこうと思うその心が。
 しかし。

「そのことってわけじゃ・・・」

 話がかみ合っていなかった。
 は生徒たちのことを案じて。二人は自身に試験官役が務まるか。
 それぞれが違うことを考えて、意見を交わす。
 は小さくため息をつくと、話をあきらめた。
 生徒たちもやる気になっているし、とめるのは無理と判断せざるを得なかったから。


・・・


「それじゃあ、はじめるか」

 着いたのは、を一望できる浜辺。
 太陽の光が降り注ぎ、砂が光って見えた。

「ここで、やるんですか?」
「せっかく、君の実力が見れるんだからさっぱりしたとこでやりたくてさ」

 ダメか? と聞くと、首を振って答えてくれた。
 すこし距離をとって向かい合う。
 ここは砂浜。土や機械の床とは違い、大きく踏み込むことはできない。
 つまり、力のこもった攻撃をすることが困難になる。
 しかしそれはとて同じ。
 つまるところ、戦い方一つで結果が決まる。

「そうだな・・・」

 だからこそ、ウィルの勝利条件を決めた。
 海辺から二人が現れた森の入り口まで腰から引き出した刀で線を引く。
 ひどく適当だが、別にきれいな直線で引く必要性はないから、そのまま。
 線を引き終えて鞘を腰に戻すと、刀を抜いた。

「この線よりも、後ろに俺を動かすことができればいいことにしよう。もちろん、俺はこの場を動かず防御・・・というか迎撃するからな」
「わかりました」
「ミャミャアッ!!」

 ウィルは返事と共に武器を構え、同様に彼のパートナーも身構える。
 刀を振りぬけば刃は空気を切り裂き、乾いた音を立てた。


「行きますよっ!!」
「よっしゃ、来い!」

 一人と一匹は、勢いよく砂を蹴った。







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