「久しいな、店主よ」
「にゃははははっ。こりゃ、ずいぶんと懐かしい顔だわねえ」
「奥の工房を借りるぞ」
「はいはい、どうぞごゆっくりぃ♪」
店に入るや否や、ウィゼルは店主であるメイメイとそんな会話を交わしていた。
昔からの知り合いであるかのように、親しげであり互いに勝手を知っている。
そんな会話だった。
みんなに事の次第を報告しに行く、というレックスと別れて数刻。
獣道を掻き分けて、たどりついたのがここ、島唯一のお店であるメイメイの店だった。
「メイメイさん。あの人、一体どのような方なんですか?」
「にゃに?」
知らないの?
私を見つめる瞳に驚きが浮かぶ。
そんな表情もすぐになりを潜めると、彼女は再び酒をあおった。
頬を赤く染めて、
「ウィゼル・カリバーンって言ったら、伝説的に有名な、魔剣鍛冶師じゃないのよぉ」
そんな言葉を口にした。
彼は、無色の派閥の剣士ではなかったのだ。
初めて会ったときには彼らと共にいたから、てっきり派閥に属しているものとばかり思っていたのだけど。
「究極の武器を作るためなら、剣の奥義だって極めてのけちゃう。そういうトコあんのよ、あの御仁はね」
にゃははははははっ♪
屈託もなく笑う彼女の笑顔を見て、私は苦笑いをするしかなかったのだった。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第51話 仕事
伝説的に有名な魔剣鍛治師で、自分の眼鏡にかなった相手にしか、その腕を振るわない。
無色の派閥と行動を共にしていたのは、オルドレイクの狂気を武器にこめるため。
ついこの間まで敵だと思っていたものが実は違っていたとか、そういうわけではないのだが、こうしてこの場にいる以上、約束は必ず守ってくれるのだというメイメイの言葉もあながち間違いではないらしい。
「うまくやったじゃない。この、このぉ?」
「え、えーっと・・・」
うりうりとわき腹を肘でつつくメイメイ。
そんな彼女に、私には苦笑する以外に選択肢はなかった。
「炉も、道具も、問題はないようだ。すぐにでも、修復に取りかかれる」
・・・ついつい、頭を抱えたくなる。
っていうか、この店はすでに何でもアリなのだろう。
ここまで来ると、もはや巨大な帆船とかが出てきてもおかしくはない。
まるでどこぞの四次元空間に繋がるポケットのように。
「そんなモンまであるのかよ、この店は!?」
驚きと共に声を張り上げるナップを見て、私は思わず同情してしまう。
それと同時に、私は悟っていた。
ナップ君。このお店はすでに、何でもアリなんですよ。
「う〜ん・・・めまいがしてきましたわ・・・」
「ああっ、ベル姉さま!?」
額に手を当ててふらりとふらつくベルフラウを見てアリーゼが慌てふためき、ウィルはぽかんと口をあけて放心している。
ナップに至っては頭を抱えていたのだが、十数秒で思考を放棄して目の前のイスにどっかと座り込んでいた。
「お主たち、手伝いを頼めるか?」
そんな中、ウィゼルはそんな言葉を放っていた。
生徒たちはその一言に一瞬呆気に取られながらも、二つ返事で了承した。
自分がやればいいのでは、と私が進言したけれど、あっけなく却下。
「お前がこの剣へとこめるべき、確たるものを探せ」
それが、私の仕事だった。
彼がこれから打つ剣は、緑の賢帝とは似ているようでまったく違うもの。
今まで遺跡の意志を鍵として行使していた力も、これから創られる新たな剣には備わっていない・・・否、備わるはずがない。
それはなぜか。
剣そのものが、私の一部となるからだった。
代わりに、担い手である私の強い思いを核にして、力を振るう。
一人鬱になっていた自分が、後押しをされることで、渦巻いていた迷いを振り切った。
しかし、それだけでは足りないと彼は言った。
私の気持ちそのものとなる『なにか』が必要なのだ。
しかし、それがなんであるのか、とんと検討がつかない。
心配させないように、生徒たちが自分を励ましてくれるのだが、探すものが目に見えない以上、ヒントもなく探し当てるのは不可能に近い。
さらに、相手は人の心そのものだ。
そんな『なにか』を探す手段すら、わからない。
「難しく考えなくていいのよ、先生」
頭を抱えた私に、メイメイは告げた。
貴方にとって一番、大切な想い。守りたいもの。それが、答えよ」
「一番、大切な・・・守りたいもの・・・」
そのとき。
深く考えすぎたのか、もやのようなものがかかっていた頭の中が急にクリアになっていく。
へばりついた細かな砂が風で飛んでいくように、ゆっくりと。
そこで私の脳裏に映ったのは、一人の少年だった。
彼は私に背中を向けて、口元だけが見えるように首を軽くひねる。
目元を長い前髪で隠し、口の端が軽くつりあがっている。
そんなシルエットが、私になにかを訴えかけているかのようにも見えた。
「見つけたかしらん?」
メイメイは一言、私に告げた。
尋ねてきてはいるものの、目はそう告げていない。
すべてを見透かしてしまいそうな彼女の瞳が、私に向かっていた。
・・・というよりは、もうなにもかもわかっているのかもしれない。
「会ってらっしゃいな。貴方が今、思い描いたその人に・・・きっと、その人が貴方を導いてくれるわ」
そのときに見せてくれた笑みは、いつもの笑顔とは違っていた。
私を安心させるかのように穏やかで、優しげな微笑み。
「・・・はい!」
だから、私はお店を飛び出した。
目指すは、今まで生活してきた海賊船。
碧の賢帝を破壊され、生きる気力を失った私に道を示してくれた、名もなき世界から召喚された少年のもとへ。
彼と話をすれば、きっと答えは見つかる。
目には見えない『何か』がわかる。
私は先へ進める。
そう信じて、私はただ歩を進めた。
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