「でも、剣の破片を集めて、直そうなんてよく思いついたものですよねえ・・・」
「ま、まあね・・・」
「「「・・・・・・」」」

 アティはお仕置きを終え、ぱんぱん、と手を叩きながら晴れ晴れとした笑顔で話す。
 その背後で、レックスが身体の腫れ上がった部分を手でさすりながら地面に突っ伏している。
 膝立ちになっているせいで腰が浮かんでいるのがなんともマヌケで滑稽だ。
 生徒たちは思わず噴出すのを堪えつつ、苦笑いを浮かべて彼を見ていた。
 いわゆる、哀れみの視線というやつだ。

「で、集めた破片はどんな方法で直すつもりだったの?」

 その言葉を聞いて、苦笑い。
 もちろん、探すだけ探して直す方法は後回しにしていたから。
 だから、最初から直す方法なんか知らず欠片を集めていたことになる。
 乾いた笑いを浮かべて、全員で頭を掻いた。

「い、いいではないですか!? 剣がなくとも、こうして先生は元気になったのですから・・・」

 取り繕うように声を荒げたのはベルフラウだった。
 苦笑を貼り付け、取ってつけたように言葉を並べる。
 もっとも、それが事実なだけに返す言葉がないわけだけど。

「レックス先生は逆に落ち込んじゃったけどね・・・」
「アレは、自業自得ですっ!!」

 腕組みをし、そっぽを向くアティがなぜか面白くて。
 全員で声を上げて笑った。

「さて、それじゃ、みんなのところへ帰りましょうか?」

 レックス、帰りますよ?
 そう言ってレックスを起こそうとしたときだった。





     
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第50話  意思





「待て・・・」
「「!?」」

 私と、立ち上がったレックスに緊張が走る。
 声の主は、無色の派閥の人たちと共にいた、一人の剣士だった。

「不要ならば、それはこの場に置いていってもらおうか・・・」
「ウィゼル・・・」

 ナップの声に、全員が武器を取ろうと構える。
 威嚇しつづける護衛獣たちを視界にも入れず、ヒゲを梳いている。
 見下しているようで、どこか品定めをしているような視線が全員を巡り、アティまで来たところでその目が閉じられた。

「そこの小僧たちのおかげで探して回る手間が省けたわ・・・」
「なにが目的だ・・・!?」

 レックスの問いに、かすかに笑みを浮かべる。

「砕けたとはいえ魔剣は魔剣。使い道もあろう」

 最初から、目的は粉々になったシャルトスだったらしい。
 右腰に鍔のない刀を携えた彼に敵意はなく、ただ「それを置いて立ち去れ」と口にした。

「誰が、お前なんかに渡すもんかよっ!」

 もちろん、渡すつもりなんか毛頭ない。
 それを代弁するかのようにナップが声を荒げる。

 そんなナップを押しのけて彼と対峙したのは、アティだった。

「これは、貴方たちが好きにしていいものじゃ、ありません」

 鋼の剣を突きつける。
 それは、あきらかな否定を伝え、その場に緊張が走りぬける。
 ウィゼルはその蒼い目を眺め、腰を落とした。
 右手を柄にかけ、左手の親指で鍔を弾く。
 彼の戦闘態勢だった。
 高速の抜刀から一瞬にして敵を斬り裂く。
 居合とも呼ばれる剣術の極地。

「そのような剣で俺を止められると思うておるのか? イスラの小僧さえも退けた、我が居合いの技を・・・」
「そうだとしても・・・私は、もう気持ちを曲げたりしません!」

 思い切り、目の前の男性をにらみつける。
 負けない、負けられない。強い気持ちを視線に乗せて、ぶつける。

「敗北を経て、ようやく武器と心を重ねるに至ったか・・・面白い」

 しかし、彼は怯まない。
 むしろ、その気持ちのすべてを汲み取ったかのように笑みを浮かべていた。
 敵意もなく、まるで立ち直った自分を試していたかのようだった。

「久しぶりに、見たいと思える素材に、出会うことができた・・・」
「どういうことだっ!?」

 レックスの問い。
 確かに、彼の言動にはどこか統一性がない。
 というか一人で勝手に理解して、会話自体が成り立っていない。
 ウィゼルはその問いに対してふむ、とあごひげを撫でると、

「その剣を、修復してやってもよい。そう言っておるのだ」

 そう口にした。
 全員が、目を丸める。
 敵であるはずの人間が、剣を修復してくれるなんて、思わなかったから。

「で、でもっ!? 貴方は、無色の派閥の一員じゃ・・・」
「俺が望むのは・・・使い手の意志を体現する、最強の武器をこの手で作りあげる。それのみだ」

 志を同じくして無色の徒になったわけではない。

 彼は元々、無色の派閥の人間ではない。
 ただ、オルドレイクの狂気を武器にこめるために・・・彼だけの武器を創り出すために、彼らと行動を共にしていただけ。
 そう彼は言う。
 本来なら敵のはずなのだが、

「しかし、同時に見たくなったのだ。狂気に立ち向かおうとあがき続ける、お前の意志が、それに勝てるか否かを、な・・・」
「意志を体現する・・・最強の武器・・・」

 今まではただ、武器の力を引き出しているだけだった。
 心の強さがそのまま力に反映し、具現する。
 しかし、彼は言った。「使い手の意思を体現する、最強の武器を作り上げることが望みだ」と。

「信じるも、信じないもお前たちの自由だ。だが、あえて言おう」

 彼の言葉に、嘘はない。間違いないと、アティは直感した。
 彼はただ、自分の望みのために、無色の派閥とは関係なく動いているのだと。
 そして。

「力無き意志では、意志無き力は止められはせぬ、と」

 この言葉が、決め手になった。
 信じようと。
 剣の修復を頼もうと。
 今の彼の言葉には彼の経験と、強い意志が乗っているような気がしたから。

「信じます・・・」

 守りたいもの、信じたいものがある。
 それが今では、はっきりとわかるから。
 自分をごまかしたり、曖昧に笑って逃げたりも、もうしない。
 自分の進む道を阻むものがいるなら、それに真っ向から立ち向かう。
 そして、負けない。負けたくない。
 だから。

貴方に、この剣の修復をお願いします

 粉々になったシャルトスをすべて、ウィゼルに手渡した。

「よい目だ・・・ならば、この俺もその輝きに応えられるだけの腕を振るってみせようぞ・・・」
「お願いします」

 ウィゼルは嬉しそうにつぶやくと、ついてくるよう言った。
 私たちは、黙って後についていく。
 森に入り、獣道を歩き、茂みを掻き分ける。

「あ、俺・・・みんなに伝えてくるから」
「わかりました・・・あ! あと、に『もう大丈夫です、ありがとう』と伝えておいてください」

 レックスはうなずくと笑みを浮かべて船の方へ走っていった。

兄さまになにか言われたんですか?」
「ええ。私に道を、示してくれたんですよ」

 アリーゼの問いに笑顔で、そう答えた。


 ・・・


「そうか、これで一安心だな」
「これで心配のタネが一つ、なくなったね」
「ここにいるみんなで心配していましたから、安心感もひとしおですね」
「そうね、もうあんな顔してほしくないものだわよ」

 センセが落ち込んじゃうとみんなつられちゃうから。

 カイル一家の4人は心底ホッとした顔をしていた。
 彼女のことが心配で、でも何もできなくて。
 無力感に打ちひしがれる間もなく生徒たちの捜索に奔走して。
 結局彼らの奔走は無意味になってしまったけど、それでもアティの無事を喜んでくれるみんなの気持ちが、レックスにとってはは嬉しかった。
 仲間としても、家族としても。

「もうひとふんばり、ってところだな」
「長かったね、マスター・・・」

 嵐のあの日から、レックスとアティが生徒たちと出会ってから。
 あれから一ヶ月と経っていないはず。それなのに、なぜだかもっと長く感じている自分がいる。
 実際はそれほど経過していないのに。
 ここまでくるのにかなりの時間を要したような気がするのはたちだけではないだろう。
 この会話を聞いている全員が首を縦に振っていた。

「・・・そうだ。、アティが君に礼を言っていたよ。もう大丈夫です、だって」
「そうか、そりゃよかった。あれだけしゃべった甲斐があったってものだな」

 が珍しく照れたような表情を浮かべる。
 ほんのり顔を赤らめて、それでいて嬉しそうに。
 笑っているようで笑っていないその表情が、照れていることを如実に示している。
 あまりに嬉しそうな顔だったので、思わず見入ってしまった。

「ちょっと〜。アナタ、センセになに言ったのよ?」
「なにって・・・ちょっ、おおろろろ・・・」

 キャー! 黄色い声を上げんばかりに頬を赤く染めたスカーレルがの肩をつかんで前後に振り回している。
 あれじゃ、がしゃべれないと思うけど・・・
 そんなツッコミを入れたいと思ったのは、自分だけではないと思う。
 ほかのみんなも彼の周りに集まり、ことの真相を聞き出そうと躍起になっている。
 スカーレルに解放されても、周りに詰め寄られてとまどう彼の反応に思わず吹き出してしまった。


 ・・・


「ふぃ〜・・・やっと解放された・・・」
「マスター、大丈夫?」


 は今、自分の部屋にいる。
 一眠りしようと布団に寝転がったところだった。
 ユエルの心配そうな表情に苦笑しつつ、大丈夫だと告げてごろりと仰向けになり、目をつぶった時。

「ん・・・?」

 部屋をノックする音が聞こえた。

「はぁい、誰?」

 てってって、とユエルが扉をあけると。
 扉の向こうには、生徒たちを探しに行ったはずのアティの姿があった。
 苦笑いを浮かべながら、ユエルは彼女を中へと通す。

「お邪魔しますね」
「ああ」

 仰向けだった身体を起こして、ベッドの縁に腰掛ける。
 アティを促して隣に座らせると、手持ち無沙汰のユエルはの隣・・・アティの反対側を陣取った。

「「「・・・・・・」」」

 沈黙。
 なにも言わずに彼女が話し出すのを待っていた。
 きっと、全部話してくれると思っていたから。

「あの子たちに、貴方と同じ事を言われちゃいました」

 数刻の後、アティは口を開いた。
 苦笑を混じえて、「叱られちゃいました」と。

「どっちが先生だかわかりませんよね」

 正面の壁を見ながらあははと笑う。
 彼女の顔からは今まで張り付いていた無表情が消え、元の彼女の笑顔になっていた。
 やっぱり、心は壊れていなかった。
 確かに、しばらくは笑うことも忘れてしまっていたのかもしれない。
 でも、それは一時的なことだったのだ。
 だから、今回のように後押しができさえすれば、彼女は自分らしさを取り戻す。

「まぁ、それもいいんじゃないか? 親身になって叱ってくれる人がいるって言うのはいいことだし」
「ええ」

 笑顔を見せる。
 迷いのない、曖昧なものじゃない、彼女自身の笑顔がそこにはあった。

「ちゃんと、他のみんなにも謝っておかないとな」
「はい、とても心配かけましたから・・・」
「ユエルも、とぉ〜っても心配したんだからねっ!?」
「うん、ゴメンね。ユエルちゃん」

 の影から身を乗り出して、ユエルは一抹の怒り口調をアティにぶつけた。
 もちろん、アティは彼女にも心配をかけてしまったことを忘れていない。
 軽く、ユエルに頭を下げると満足したのか、ユエルは何度かうなずいて座りなおしていた。

「とりあえず、その話はおいとこうか・・・で、俺に話があるから、ここに来たんだろ?」
「はい、実は・・・」

 ・・・

 長々とアティの話は続いた。

 オルドレイクやイスラ。言葉も通じない強大な力を持った敵を前にして焦っていたこと。
 みんなを守っていけるのか、怖くて。
 その不安を振り払うように強引に、決着をつけようとしたこと。
 『勝つためなら、自分の気持ちにウソをついても構わない
 そう言い聞かせて、強引に気持ちの整理をつけてしまったこと。
 イスラに切っ先を向けたとき、なにを迷ったのか。
 包み隠さず、すべてを語ってくれた。


「俺が、アティと同じ考え・・・つまり誰も犠牲を出したくないと考えている理由は、前に言ったよな?」
「・・・ええ」

 それは、彼が戦いの中で犠牲を出したくない理由。
 平和な世界で今まで生きてきたことが大きかったと、アティは記憶している。
 しかし、理由はそれだけではない。

「犠牲を出したくない理由は、平和な世界にいたということと・・・もう1つ」
「もう1つ・・・?」
「ああ。それは、俺の母親に誓ったことなんだ」

 唐突だった。
 彼の母親の話が、こんなところで出てくるだろうとは、思いもしなかったから。
 それはアティ同様で、一瞬呆けたような表情をし、さらに首を傾げて見せた。

「俺は・・・自分の母親を殺した」
「え・・・」

 小さい頃。
 まだ小学校にも上がらない、親がいなければ寝ることすらままならなかった幼い頃。
 の母親は、とある事故で命を落とした。
 10にも満たない彼を、生かすために。
 その命を犠牲にした。

「小さいころだったが、俺は母親を殺したんだ。形はどうあれ、な」

 それは、スカーレルに話した内容そのままだった。
 不慮の事故だったのかもしれない。
 でも、はそうは思っていなかった。
 自分が車道に踊り出たから、彼女は死んだ。
 あの場に自分がいなければ、今も幸せなまま生きているはずだった。
 だからこそ、彼は口にする。

「俺が殺したんだ」

 自身への強い戒めと共に。

「強くなって、誰でも守っていけるようになる。俺の目が黒いうちは誰も犠牲にさせない。それが母親に誓ったことなんだ」
「・・・・・・」

 アティは無言だった。
 過去を聞いて、告げられた誓いを耳にして。

「・・・とは言ったものの、悔しいけどこの世界に来てそれは何度も破られちゃったけどな」
「無色の派閥・・・ですね」

 何もできなかった自分を思い出し、軽く唇を噛む。
 目を閉じれば、鮮明に浮かび上がる虐殺の場面。
 今まで戦いというものを経験したことがなかった生徒たちと同じように吐き気をもよおすとばかり思っていたから、あのとき平和な世界を生きていた自分がよくその光景を見ていられたと改めて感心する。
 でも、あんな光景はできれば二度と見たくない。
 暗くなりつつあった雰囲気をゴホン、とわざとらしく咳払いをすることで吹き飛ばし、場を取り繕った。

「そ、それでなにが言いたいかというとだ。つまり、気持ちを強くもって欲しいってことだな。偉そうだと思うかもしれないけど」

 ふるふるふる、とアティは首を横に振る。
 相手は年上だから、知ったかぶりというよりは本当に偉そうに聞こえるかもしれない。
 でも、きっと彼女はそんなこと思わない。
 そう思うからこそ、言いたいことをとにかく一気に話すことにした。

「強き意志は、時に最強の武器になる。俺の父親が言ってたことだ」

 それは、アティからすれば初めて聞く言葉だった。
 どんなに甘い考えでも、意思を強く曲げずに突っ走れば道は開ける。
 自分の信じた道を邁進すること。それが大事なのだと。
 彼はそう信じて、召喚される前から行動してきたつもりだった。
 だから、

「君が君のままでいること。それが大事だと俺は思う」
「そうだよね・・・それでいいんですよね、きっと・・・」

 アティの顔を見て笑顔を見せる。
 必要なのは、失敗を恐れず目的の達成へ向けて突き進む強い意思。
 迷ってもいい。
 間違えてもいい。
 ただダメなのは、諦めてしまうこと。

「君の思うままにやってみるといい。万が一失敗しても、君の後ろにはレックスや俺たちがいるから、問題ない」
「うん・・・ありがとう、。私、自分が忘れていたものが何か、わかった気がします!」

 満面の笑みを浮かべ、アティは立ち上がりる。
 は軽く拳を作り、差し出すように前に出した。
 それは、もう少し頑張ろう、という一つのメッセージ。
 ここに集まった仲間たち共通の目的を果たすために。

「もうひとふんばり。島の全員が笑顔になれるように頑張ろうぜ、お互いにな」

 そんなの一言を最後に、アティは部屋から出て行った。
 大きな肯定の返事と共に。

「さて・・・行こうか、ユエル」
「うんっ!!」

 ゆっくりと立ち上がる。
 ユエルも俺の考えを察して、立ち上がる。
 もはや、寝ているヒマはない。ここまでくれば、やることはたった一つだから。
 刀を手に取り、ユエルと共に部屋を出た。


 ・・・


「おう、来たな」

 船を下りた2人を迎えてくれたのは、仲間たちだった。
 カイル一家に護人たち。ミスミにスバルにマルルゥ、アズリアにギャレオ。
 はアティの状態を軽く報告すると、全員の顔がが安堵の表情に包まれた。

「そう・・・それなら、もうだいじょうぶね」
「あの子たちもついてるんだもん。きっと、元気になってくれるよ」

 これ以上、心配させないでほしいわね、とスカーレル。
 そのスカーレルのぼやきにうなずくソノラ。
 アティもレックスも、きっと大丈夫。
 今は何をしているのかは知らないが、とユエル以外のメンバーはアティが嬉しそう森へ消えていく様子を見ているから。
 それこそ、問題ないと思う。

「それで、レックスは?」
「アティ先生と一緒にメイメイさんの店に行ったよ」

 ソノラが人差し指を立てて問いに答えてくれた。
 深緑の大剣について、わかることがあれば聞いてくる、ということらしい。
 アティと一緒に行った、ということは、目的地は一緒なのだろう。
 ということは、その先に生徒たちもいるはず。
 それさえわかれば。

「・・・俺らのやることは決まったな?」
「ああ・・・」

「遺跡を封印してこの島から、争いの火種を消し去ること」

 全員が、武器を手に取る。
 遺跡の封印を最優先に行うこと。
 元々、島の中心に位置するあの遺跡が事の発端だったのだから。
 それさえ封印してしまえば、争いもなくなる。
 それは、この場にいるメンバーの総意だった。
 彼らが戦うことがないように。
 つらい思いをしなくていいように。
 そのために。

「手負いの無色をブッ潰して、遺跡を完全に封印だな?」
「ええ、その通りよ」

 カイルの言葉に、アルディラがうなずいた。
 言い方こそ乱暴なものだが、実際やることに代わりはない。
 だから、彼女も言い直すこともなく肯定し、笑みを浮かべた。

「そのあとでイスラをブッ倒して、剣の奪回だな」
「口にするほど簡単ではないことは、承知の上なんですけどね?」


 の一言に、ヤードは苦笑しつつ突っ込んだ。
 手負いとはいえ無色の派閥を潰すことも、キルスレスの力を得たイスラを相手にすることも、どれも簡単には為し得ない。
 だからこそ、ここにはそれ相応の覚悟がある。
 死んでも倒す。這いつくばってでも、剣を取り戻す。
 捨て身ではない。
 そうしなければ、きっと
勝てないから。
 だから、全員がその覚悟を胸に刻み込んだ。

「ふふっ、だからとてここにいる誰もが退く気など、ないのであろう?」
「そうですとも!」

 そう。
 最初から、退く気など毛先ほども存在しない。
 言葉を放ったミスミも、それにうなずいたマルルゥも。
 そして、この場にいる全員に『逃げる』という言葉は影も形もありはしない。

「俺たちの底力、あいつらに見せてやろうぜ!!」
「ユエルも、負けないよっ!!」

 気合十分。みんなの表情は明るい。
 勢いよく、カイルが拳を振り上げる。
 すべてはここから。
 ここを乗り切れば、きっとすべてが上手くいく。

 例えその道が険しくても、進む足を止めることはない。
 明日を迎えるために。
 彼女の微笑みを、永遠のものにするために。
 彼らが二度と戦わなくていいように。


 「よぉし・・・そんじゃ、みんな。気合い入れて行こうぜ!!」


 願いの元に一つになった彼らの心からの声が、島中に響き渡ったのだった。







←Back   Home   Next→
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送