「なるほどな」
レックスの説明を受け、アズリアは腕を組んだ。
朝っぱらから展開されていた、一連の事柄。
敵も剣を持ち出してきたのだから、もう今までのようにはいられない。
だからこそ、本当に全力でことに当たらなければ自分たちが危険に晒されるから、と。
「非情に徹して敵を討つ覚悟、か。いかにも、あいつが悩みそうなことだな」
学生時代からの長い付き合いのせいだろうか。
顔には確信の色が伺える。
「なにか、知ってるんだな?」
彼女はうなずき、ちらりとレックスを見やる。
彼がうなずくのを見るや否や、呆れたような顔へと変わっていた。
「やはり、お前たちは昔の話はしてなかったようだな」
レックスに向かって言葉を紡ぐ。
言葉をぶつけられた本人は、乾いた笑みを浮かべていた。
「本当は、お前たち自身が語るべきことだとは思うが・・・場合が場合だ・・・私が知る限りのことをお前たちに話そう。いいな、レックス」
レックスに話を振ると、彼は無言でうなずいた。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第42話 理由
それは、帝国内部を探る旧王国の諜報員をアティが発見したことが始まりだった。
内部の情報を国外にもらすわけにはいかない。どんな世界でもそれは同じのようで、彼女は逃がすまいと諜報員を取り押さえたのだが、命乞いをされ、それを信じてしまったせいで事件は大きく、しかも悪い方へと発展する。
逃がした諜報員が鉄道を奪い、国の重要人物たちを人質に取られてしまった、これが、アティが諜報員を逃がした結果だった。
自分の甘さが事件の引き金になったことに対して、責任を感じて軍を辞めた。
これが、アティが軍を辞めた理由だった。
「知らなかったよ。先生が、そんな理由で軍人を辞めちゃったんだなんて」
「こちらから、たずねたことも無かったですし」
以前、軍に所属していたことは知っていた。
しかしやめた理由など、一番近くで彼女に接していた生徒たちですら聞いたことがなかった。
この島に来てからこっち、毎日が戦いだったから。
「聞いても、きっと話してくれなかったよ、アティせんせい」
「あの性格だからな。聞かれたところで笑って、ごまかしたに決まってるだろうな」
ユエルの言葉にアズリアはうなずいた。
彼女は、学校が終わったあとに聞いたことがあったのだ。
もっとも、まわりに生徒たちがいなかったから、知らないのも無理はないのだが。
ユエル曰く、そのときも笑ってはぐらかされたようで。苦笑していたことが強く印象に残っていたらしい。
「レックスも、軍人だったんだろ?」
の問いにレックスは肩を振るわせた。
エリートとして数えられる帝国の軍人は、彼女たちにとって唯一の拠り所だったのだ。
両親に戦で先立たれ、自分たちを育ててくれた村の仲間たちの思いに報いるためにも、必死で勉強した。
軍学校では姉弟でワンツーフィニッシュを飾り、軍に入隊するのも簡単で。
「俺は・・・俺たちは、その事件を解決するために奪われた列車に乗り込んだんだ」
軍人として、任務を全うすることが大事だから。
任務は、人質にとられた重要人物たちを救い出すこと。
そのために列車に乗り込んで、敵の攻撃をかいくぐり、その重要人物たちのもとにたどり着いたところで。
犯人はさらに人質に銃を突きつけ、
「犯人の要求に従えば人質は解放する」
そう口にした。
「解放する」言葉を信じて要求にしたがったが、彼らはそれを踏みにじるかのようにレックスを戦闘不能に追い込み、人質を殺そうとした。
そこで、味方が助けに入ったことによって事件は解決したのだが。
これによってアティ、レックスの両名・・・特にアティは事件の引き金を引いたにもかかわらず、解決に多大な貢献をした人物として事件の悪印象を消すために軍に利用されたのだと。
「もう、アティはあの場所にいられなかった・・・いたくなかったんだ。だから、軍を辞めた」
レックスは軍を辞めた理由を口にした。
「政治的判断、ですか」
やりきれない、といった表情でヤードがつぶやいた。
政治は・・・国は、ときには人に残酷すぎて。
「体面を第一に考える上の連中たちならばやりそうなことだな」
「どこの世界でもそんなものなのかもしれないな」
はそうつぶやくが、実際はどうなのかはわからない。
国の政治など、新聞やテレビ番組の中でのことだったし、知っていることと言えば国民主権だとか、人権尊重だとか。
そう言った学校で教わるような基本的な部分だけ。
「それを嫌ってあいつは、逃げるように、軍を辞めたのさ。お前は、あいつが放っておけなかったんだ・・・そうだろう、レックス?」
そんなアズリアの問いにレックスはうつむきながら、うなずいて見せた。
家族思いだと思う。たった2人の家族だからこそ放っておけない、と考えるのも無理はないだろう。
「おそらく、自分で自分が許せなかったんだろうな・・・」
カイルがつぶやく。
アズリアはうなずくと、最後にこう、言葉を放った。
「それだから、よけいなものばかり背負って傷ついてしまうんだ」
…………
……
…
みんながみんな、その場を動かずに無駄に時間が過ぎていく。
居たたまれなくなったは、生徒たちに顔を向けた。
「ナップ、ベルフラウ、ウィル、アリーゼ。アティのところに、行ってきなよ」
今、彼女を救えるのはきっと・・・君たちだけだから。
それを聞いて彼らはうなずくと、一目散にアティのもとへ走っていった。
「レックスも、ほら」
「え・・・?」
「家族なんだろ?」
前に、レックスとアティは血のつながった姉弟であることを聞いていた。
だからこそ。家族だからこそ、こういう時は側にいてあげなければならないとは思っていた。
レックスは大きくうなずくと、生徒たちの後を追って、森の中へ消えていく。
それを見届けたは向き直ると、
「とりあえず、この話はとりあえずおしまいにしないか?」
そう告げた。
今、自分たちには何もできない。
だから、待っていなければならないと。
そう思ったから。
「・・・!」
ソノラがにらみつける。
心なしか、周りも少しトゲのある視線をに送られているように感じた。
しかし、彼の考えは変わらない。
「場違いなセリフを言ってるのはわかってる。でもな、いつまでもそんな暗い顔してたらこの先の勝てる戦いも勝てなくなるだろ?」
違うか?
周りの全員に問う。
それに答えたのは、海賊たちのまとめ役であるカイルだった。
「の言う通りだ。たしかに、こんな雰囲気背負って戦ってたら気が滅入っちまう」
ほら散った、散った!!
カイルは声を張り上げる。
は彼に小さく「すまない」と声をかけると、彼は笑って「いいってことよ」と答えてみせた。
そんなカイルの器の大きさに深く感謝をした。
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