朝。
 甲板に出たはぐぅっと背伸びをした。
 太陽はさんさんと輝き、水平線がその光に反射し光っている。
 島に群生している大きな葉っぱから、朝露がつつ、と滴り落ちた。



「いや〜、いい気分だなぁ・・・」
「そうだね〜・・・」


 そんな中をユエルと2人で、寝起きの余韻に浸る。
 そんないい感じの雰囲気は・・・




「なんだと!?!?」
「「!?」」




 放たれた怒号に近い大声によって見事に吹き飛ばされた。
 あまりの声の大きさに耳をふさいで、船から顔を出すと、その先には、カイルを筆頭とした海賊一家、それにレックスと生徒たちがそろっていた。


「お〜い・・・いきなり大声出すのやめてくれないか」

 せっかくのいい気分がパァだ。


 ただならぬ雰囲気に小さく声をかける。
 彼の声に、その場にいた全員の視線が向けられた。

「あ、。おはよー」

 ソノラがひらひらと手を振って挨拶する。
 は彼女に挨拶を返しつつ、甲板から地面に降り立った。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第41話  葛藤





「それで、なんでもめてたんだ?」
「それは―――」

 ヤードの話を簡単に要約すれば。

『これから先、どんな相手でも全力全開、叩き潰すつもりで戦って欲しい』

 とまぁ、そんなところだろう。
 紅の暴君キルスレスの出現によって、こちらが優位に立っていたという図式が通用しなくなった。
 それの所有者であるイスラを止められるのは、シャルトスを持つアティのみ。
 だからこそ、これからの戦闘からは、情け無用。
 相手を叩き潰すつもりで動いて欲しい。
 根っから優しいアティには、ずいぶんと酷な話ではある。しかし、そうでもしないとこちらが危険に晒される。
 つまり。

「アティが今まで積み重ねてきたものすべてを無にする、ということか」

 となるのだ。
 アティもレックスも、優しすぎる。とても戦いには向いていない性格だ。
 元軍人とは言ったものの、その要求は彼女にとっても、今ココにいるレックスにとっても、つらいことこの上ないものだ。

「だから、さっきから言ってんだろ、そんなことあいつに要求できねェって!」
「俺だって、自分の肉親にそんな要求・・・」
「カイルにレックス。落ち着けって」
「これが落ち着いていられる状況かよ!?」

 確かに、落ち着いてはいられない。
 しかし、こう言うときこそ、冷静に行動できるストッパーが必要なのだ。
 本来なら一家のご意見番であるスカーレルの役目なのだが、彼の意見はカイルとは真逆。
 魔剣を扱えない自分たちが、束になってイスラに挑んだところで負けは見えてるから。

「落ち着けって言ってるんだ」

 の静かな気迫に押されたのか、カイルは黙り込む。
 そのままカイルに背を向けて全員を見渡すと、

「それが今必要なことだとしても、個人的には、あまりそういうことはしたくないな」

 視点を変えると、それは彼女の存在自体を否定しまいかねない。
 話せばわかる、絶対にわかりあえる。ノーベル平和賞受賞者も真っ青の平和主義っぷりだ。
 島がこんな状況でなかったら、まずありえない提案だった。

「状況が状況だけに、否定できない・・・悲しいな」
「そうだね・・・」

 ソノラは表情に影を落とし、に同調するかのようにうなずいた。

「けどよ、相手がどんなにゲスで情け容赦のいらない野郎どもでも・・・あいつが、本気で叩きのめせないってのは・・・」

 視線をおとして悲しげな表情を浮かべるカイル。

「わかりきってるだろうがよ・・・?」

 彼女は優しい。だからこそ、相手が誰でも、本気になって戦えない。
 今までの彼女を見てきたからこそ、言えたことだった。

「・・・でも、そうしなきゃ叩き潰されるのはあたしたちなのよ」

 スカーレルが冷ややかな目つきで淡々と話す。
 カイルは顔を地面に向けたまま舌打ちをした。

 自分たちが束になっても、魔剣を持つイスラにはかなわない。
 対等に戦えるのは、同じ力を持つ彼女だけ。
 でも、優しすぎる。
 否定したいけどできない、そんな状況なのだ。今は。



「俺にまだ、あの剣を使う力が残っているなら・・・」

 彼女ばかりにつらい思いはさせないのに。

 レックスは拳を固く握り、自分の無力さに腹を立てていた。
 あの時、自分が剣を渡さなければ。
 剣も渡さず、人質も助けられる方法を思いついていれば。
 後悔だけが募ってしまう。



「俺はさ、もともとこんな戦いのない世界で育ってきたから、どうしても考え方がアティと同じになっちゃうんだよな・・・」

 戦うったって、剣とか銃とか使わないし。

 は乾いた笑みを浮かべて視線を泳がせた。
 彼のいた『日本』という世界――国は、戦争に敗北して軍事力を捨てた国だ。
 それから60年あまり。今も平和そのもので、平和主義な考え方をするのも無理はない。

「だから、彼女の気持ちがわからんでもないけど・・・」
「「「「・・・」」」」

 そばで聞いている生徒たちも、顔を歪めていた。
 自分たちの先生が、苦しんでいる。
 なのに、自分たちには何もできない。無力だと、認めてしまったから。

 悔しさからか、すでにアリーゼは大きな目に涙を溜め込んでしまっている。
 は彼女のそばに歩み寄り、そっと頭を撫でると、しがみついて嗚咽を上げ始めた。



「・・・畜生がッ!!」



 地面に向かって、カイルが行き場のない悔しさと共に拳を落とす。
 ドスッ、という音が妙に大きく聞こえた。


「あ・・・」


 とても静かだったので、その音は妙に大きく聞こえた。
 その方向を見やると


「おはよう、みんな」


 アティが作り笑いのような笑みを浮かべて立っていた。

「お、おう・・・」
「あはははは。おはよ、先生」

 作り笑いは、こちらも同じだった。
 力になれない無力感と、残酷なことを頼まなければならない罪悪感。
 そして、目の前の彼女の作り笑い。

「よく、眠れたか?」
「ええ・・・」

 アティはの問いに答えたはいいが、目に見えて元気がない。
 歩くにしてもなんだかふらふらしていて、足元がおぼつかないようだった。
 アレでは、よく眠れたとはとても言いがたい。

 それでも、彼女はみんなに笑いかける。
 その笑みが・・・とてもつらかった。

「私、ちょっと・・・散歩してきますね・・・」
「センセ、ゴハンは?」

 ふるふると、アティは首を横に振る。

「今朝はちょっと食欲ないので・・・悪いけど、みんなで食べちゃってもらえませんか」

 アティはそう言うと、ふらふらと散歩に出かけていった。

 彼女のいなくなったその場の雰囲気はさっきより、とても重いものに変わってしまった。
 弱々しい彼女の背中を眺めて、無力感に目を背ける。

「アティ・・・」
「聞こえちゃってたみたいね、今の話」
「もぉ! アニキがあんなバカでかい声なんて出すから!」

 レックスは、表情を歪めて立ち尽くしている。
 そうまくしたてるソノラの声にカイルは顔を地面に向けたまま、いつもの彼らしからぬ弱々しい声で謝っていた。

「あの人のことですから、いたたまれなくなってこの場にいずらかったんでしょうね・・・」

 ヤードの発言に、ナップが身体を震わせる。
 レックスも含めて、2人は自分たちを認めてくれた恩師だ。
 だからこそ、黙って見ていられない。

「オレ、追いかけてくる。心配だから!」
「ちょっと、ナップ!? よしなさいって・・・」
「あ、待ってよナップ。私たちも一緒に・・・」

 制止の声も聞かずに、アティの後を追って走っていく。
 ベルフラウ、ウィル、アリーゼも彼に感化されて走り出す。
 彼らは、まだ子供。後先考えずに突っ走るのが今の彼らにできることだから。

「うわっ!?」

 しかし、先に走り出したナップは鈍い音と共にしりもちをついた。
 現れた巨体に後から続いた3人も慌てて立ち止まる。

「おい、前も見ないで走ったら危ないだろう」

 その声の主は、帝国軍の白い軍服を着た大柄な男・・・ギャレオだった。
 その後ろには、アズリアの姿も見受けられた。

「ギャレオ・・・それに、アズリアも?」
「こんな朝早くにやってくるなんて、どうかしたんですか?」
「なにか、まずいことでも?」

 ヤードとの問に、首を振る。

「アティと・・・レックスに話があってな」
「だったら、残念だけどすれ違いだわね」
「アティなら散歩に行ったよ」

 レックスが彼女のことを話した。
 ふむ、とアズリアは口元に手を当てて、考え込むような仕草をする。

「そうか・・・2人が一緒にいるところを話したかったのだが・・・」
「今のアティ先生に、アンタの相手ができるもんかよ」

 ナップの声に、2人は表情を歪めた。
 今さっき来たばかりの2人に、雰囲気の暗いが立ち込めている原因など分かるわけがない。

「どういうことだ?」

 だからこそ、聞かずにはいられなかった。

「ちょっとばっかしやらかしちまってな」

 頭を掻きながら、カイルは口篭もる。
 大声を張り上げた、自分が原因のようなものなのだから。

「実は・・・」

 レックスは一歩前に歩み出ると、今の状況の説明をするために話し出した。








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