「シャアアアアッ!!」
「邪魔だァ!」

 襲い掛かってくる暗殺者たちを端から斬り伏せる。
 どうせ武器を壊しても自爆して自らの命を断ってしまうのは目に見えているので、なんとか一撃で気絶させつつ前に進んだ。

「くそ、数が多い!」
「ぼやいてるヒマがあったらどんどん先に進まんか!」

 舌打ちをするカイルをミスミさまが叱咤する。

「よおおぉぉっしっ!!」

 ソノラが銃を乱射する。
 それは暗殺者たちの腕や足などに確実にあたり、彼らは身動きが取れなくなっていた。
 しかし、なにぶん数が圧倒的な差があるためか、額には汗がにじみ出ている。
 生徒たちも幼いながらもスバルと共に必死で暗殺者相手に奮闘していた。

「はあぁぁぁっ!」

 レックスが2人を助けんがために、必死に剣を振るって走る。

「霊界の下僕よ・・・愚者どもを引き裂いて、その忠誠を盟主へと示しなさい!」

 ツェリーヌの持つサモナイト石が彼女の詠唱と共に光を帯びる。

「ッ!?」

 はそれに感づき慌てて後退する。
 発動した召喚術は、味方もろともその場にいた人間たちを引き裂いていった。

「お前ら、仲間をなんだと思っているんだ!?」

 は死んでいった暗殺者を見て、叫ばずにはいられなかった。





    サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

    第39話  暴君





 その叫びにツェリーヌが笑う。

「先ほどヤード・グレナーゼが言っていたでしょう?召喚獣も、人間も、全てを、派閥に利をもたらす道具と思え、と」
「つまり、手駒ってことかよ・・・」

 は歯を食いしばる。
 いくらなんでもやりすぎだ。

「お前ら、ホントに人間かよっ!!??」

 そんな呼びかけを聞くことなく、ツェリーヌは再びサモナイト石へと魔力を注ぐ。
 石が紫色の光を帯びた。

っ、どくんだ!!」

 レックスの声が聞こえる。
 は舌打ちをし、歯噛みながら後退した。
 するとすぐに、レックスの隣にいたアルディラの召喚術が発動する。
 暗殺者たちは、その数を確実に減らしていった。



「まったく・・・情けない」

 ヘイゼルが音もなくの前に現れ、首元を狙ってナイフを振るった。
 突然のことに目を丸めながらも、襲いくる刃を受け止めようと刀を持ち上げる。

「!?」

 甲高い音が響き、刃はの首元ギリギリで刀に阻まれていた。

「あ、あぶな・・・」

 は冷や汗をかきつつつぶやく。
 本当に、危なかった。少しでも反応が遅ければ、自分はあっという間に絶命していたのだから。
 目の前にいる女性は、攻撃を止められたにも関わらず無表情のまま、まっすぐにを見据えていた。

「・・・・・・」

 少し座りぎみなこと以外になんの変哲もない瞳のはずなのに、普通の奥に暗い、なにかを背負った悲しい目をしているようにには見えた。
 敵なのに、どこか哀しい。
 だから、聞かずにはいられなかった。

「・・・君は、一体なんでそんなに悲しい目をしているんだ?」
「・・・!?」

 鋭くにらみつけられるが、答えないのをいいことに、さらに言葉を続ける。

「なにが君をそんなにねじまげたんだ?」
「・・・!!」

 ヘイゼルは無言で刀を弾き飛ばした。
 勢いに押されて、後ろにたたらを踏んだは痺れる自分の手を見つめる。
 彼女の顔を見ると、怒りをあらわにしているように見えた。


 わたしのなかに・・・はいってこないで。


 そう、目で訴えているようだった。



「2人とも、無事ですか!?」

 スカーレルとヤードの元にたどり着いたアティが、まず2人の安否を確かめるように話し掛けた。
 2人とも小さな傷を負ってはいるものの、体力はまだあるようで。

「だいじょうぶです。これくらい・・・」

 ヤードは全員にそう告げた。
 オルドレイクに受けた傷は、それほど深くはないらしい。

「なんで、こんな無茶しでかしたの!? あいつらを倒すのはあたしたち、全員の目的じゃない!?」

 めずらしくぶっきらぼうに答えるヤードにソノラが大きな目に涙をためて叫ぶ。






「・・・違うわ」






 きょとんとしている生徒たちを尻目に、スカーレルは話しはじめた。

「アタシたちがオルドレイクの命を狙ったのは、島のためじゃないの・・・故郷のみんなの無念を晴らすため。ただの、私怨だもの」
「私たちの村は、過去に無色の派閥の儀式が原因で、壊滅しているんです・・・」

 ヤードとスカーレルが同郷だというのは知っていたのだが、今ここにいることにそんな理由があったとは。
 正直、辛い。

「生き残った子供らは組織の手で連れ去られ、派閥の構成員として教育されました」

 暗い、話だ。
 村を襲われ、ヤードとスカーレルはお互い以外の全てを失って。
 復讐のためだけに、2人でオルドレイクに特攻したのだ。

 ヤードの話は、カイル一家の人間ですら知らなかったことらしく、

「てことは・・・スカーレル、まさかお前も・・・」
「組織の暗殺者よ。カイル、あんたらのオヤジさんに拾われるまではね・・・」

 自嘲するように。
 昔を懐かしむように。

 スカーレルは地面に視線を落としてカイルの問いに答えていた。

「マジかよ・・・」

 は戦闘中であるにも関わらず、顔を手で覆って空を仰いだ。

「ウソだよっ!?そんな・・・」
「ごめんね、ソノラ。でも、本当なの。オルドレイクはね、その儀式を実行した張本人なのよ。だから・・・」

 アタシたちで、アイツを殺さなきゃならなかったのよ。

 スカーレルは弱々しく笑みを浮かべた。

「みんなのこと巻き込みたくなかった」

 その笑みもすぐに消え、その顔は激情にゆれる。
 罪もない村のみんなを殺された事への怒り、家族を失ったことへの悲しみ。
 今の彼らは、そのことだけを考えて行動していたのだった。

「アイツだけは、絶対生かしてはおけないって決めていたから・・・」

 壊滅した村の、最後の生き残りとして。








「・・・やはり、私がじかに手を下したほうがよさそうだな」
「オルドレイクさま。その前に、僕のことを試してみませんか?」

 イスラの言葉にオルドレイクは眉を寄せる。

「・・・できるのか?」
「はい、おそらくは」

 自信に満ちたその表情を見て、オルドレイクはイスラに向かって笑みを浮かべた。

「ならば、見せてみよ」

 イスラはその声にニイッと笑って、歩き出した。



「おい・・・みんな」

 の声に周りが反応する。

「イスラが来る。どうやら次は彼が相手らしい」

 後方にいるイスラを周りが見やる。
 彼は冷笑を浮かべて、間違いなく自分たちのいるこちらへと歩を進めていた。

「・・・っ」

 アズリアの顔色が変わる。



「下がってください。ツェリーヌさま?」

 イスラにそう言われたツェリーヌは舌打ちをしながら後退していく。
 彼はそれを見てさらに深い笑みをもらした。

「そういうワケで。今度は、僕が相手だよ」
「お前が出てきたところで、結果は変わるもんか!?」

 ナップが強気な発言をするが、イスラは余裕の表情を浮かべていた。

「・・・なんのつもりです? ウィゼルさま」
「保険だ・・・」

 イスラは横に立つウィゼルを見やる。
 なにか、思うところがあるのだろうか。
 ふう・・・とため息をついて、イスラは視線を元に戻した。

「行きますよ!?」

 イスラと共に暗殺者たちが襲い掛かってきたのだった。





「っ!!」

 疲労した身体にムチ打って迫る敵を倒していく。
 戦っていた時間はさほどでもないのだろうがにとってその時間がとても長く感じられていた。

 甲高い音があたりに響く。
 碧の光に包まれ、アティが抜剣する。
 皮膚からは肌色の色素が消え、髪からも色がなくなる。
 瞳は爛々と剣と同色の碧色に輝き、迸る魔力が風となってその場の全員に吹き付けていた。

「はああぁぁぁっ!!」

 光を放つ剣を思い切り振り下ろす。
 轟音があたりを支配し、砂塵が舞う。

「・・・!?」

 妙な、感覚にとらわれた。

 それはアティが抜剣したときの感覚に似ているようで。
 帝国軍との戦闘の時に見たあの紅い光の柱の感じと似ていて。






 あたりをシャルトスの碧ではなく、血の色に似た紅が満ちる。






「あれは・・・」
「そんなバカな!?」

 ヤードの声が聞こえる。

「あはははははっ!? あーっはっはっは!!」

 イスラの高笑いが聞こえた。

 砂煙がおさまると、そこには抜剣したアティと同じように色素をなくした皮膚と髪を持つイスラがたたずんでいた。
 唯一アティと違うところは、目の色だけだろう。彼の目は碧ではなく、赤だった。
 右手には、シャルトスと同型の長剣を携えている。

 その姿は満身創痍といっても過言ではないだろう。
 身体のところどころから血を流している。

 しかし、その傷は瞬く間に消え、服に血がこびりついているだけとなった。

「!?」

 アティが目を丸くする。

「傷が、消えて・・・」

 ウィルの声に生徒たちの護衛獣たちが叫ぶように鳴いた。


「いいね・・・実にいい気分だよ。これは・・・
 君が大口を叩く理由。今なら、わかるよ。誰にも、負ける気がしないもんね・・・」

 イスラが自分の体を見ながら笑みを浮かべた。


「バカな・・・どうして、野郎がアレを・・・」
「この魔力、まさか!?」
「紅の暴君・・・キルスレス・・・もう一振りの封印の剣!!」
「あれが・・・キルスレス、か・・・」
「なんだと!?」

 カイルの声にイスラは笑う。
 その笑みは自信に満ちていた。

「ちょっと考えれば、予想できたことだろ?」
「まさか、あの時船を襲った突然の嵐は!?」

 言葉を放つレックスに、イスラは視線を向ける。

「僕が、この剣を『継承』したからさ」

 キルスレスがさらに紅く光る。
 それに反応したのか、アティのシャルトスも碧の光を放った。

「ほら、理屈以前に君の剣は、そうやって反応してるじゃない」

 封印の剣とは、元来使い手の持つ魔力をサモナイト鉱石の刃に通わせることにより比類無き破壊力を発揮する、いわば精神の剣。
 封じ込めた核識の力と一体化することにより、その力はケタ違いに上がっている。

 ウィゼルはそう、独り言をのように口にした。

「つまり、僕もまた適格者ってことさ、アティ。君と同じようにね?」
「デタラメ言うなっ!?」

 ナップの声が響く。

「先生は、貴方と同じなんかじゃありませんわ!」
「先生が、お前みたいな卑怯者なんかじゃない!?」
「先生は、やさしい人なんです。貴方とは違うっ!!」

 生徒たちが口々にそう、叫んだ。

「だが、現に剣は同士イスラに力を与えている。結界を消し去り我らを導き入れたのがなによりの証拠よ」
「結界を消したのはイスラだったのか・・・」

 は結界のことについては話だけ聞いていた。
 外から中に入ることはたやすい。しかし、中から外へ行くことは絶対にできないと。

 それも、無色の派閥が島にきたことで結界がすでに消えていることがわかったのはつい先日のこと。
 だが、結界の消えた原因がわかっていなかったのだ。


「試してみようか?どっちが、本当に剣に選ばれるべき人間なのかさぁ!?」


 イスラは目を見開き、アティに向かって紅く光るキルスレスを振るう。
 アティはそれを同じように碧に光るシャルトスで受け止めた。
 彼女の苦しそうな声が聞こえる。

 剣と剣が交じり合った瞬間、突風が駆け抜けた。
 それは2本の剣がぶつかりあって発生した魔力の風だという。
 その強さは、まるで荒れ狂う暴風のようで。

「なんという・・魔力じゃ・・・」
「ふ、吹き飛ばされそうですよおぉぉ!?!?」

 マルルゥが吹き飛ばされまいとヤッファの毛にしがみついてにその場に留まっている。

 なにか声が聞こえたような気がしたが、うまく聞き取ることができなかった。

 剣がさらにぶつかる。

「やめて・・・っ」
「そら、そら、そらァ!」

 何度も、何度も、何度も。
 甲高い音が響く。
 を含めた全員、それを見ていてもなにもすることができなかった。
 つまり、付け入る隙というものが存在していなかったのだ。

 突然、ぐらぐらと地面がゆれる。

「な、なんだ!?」
「地震!?」
「いや、違う・・・こいつは、そういう代物じゃねえ!?」

 護人たちは身をかがめながら叫んだ。

「剣と剣が激突したせいだと言うの?」
『どちらにしても普通じゃないです!』

 どのくらいの間揺れていただろうか。
 が元いた世界なら、ビルが根元から倒れてくるのではないかと思うほどの大きな振動。
 周りが平地でよかった、とこれほど思ったときはなかった。


 揺れがおさまると、剣を交えていた2人が一言二言話をしたかと思うと、元に戻っていた。

「ふはははははは。天変地異さえ引き起こすほどの威力とはな?」
「とはいえ、さすがに限界のようです。まだ、身体が慣れぬようで・・・」

 イスラはげんなりとした顔つきでオルドレイクに報告をしていた。

「まあ、仕方あるまい。次に期待するとしよう・・・引き上げるぞ!」

 オルドレイクの指示のもとに、無色の派閥の連中は森の奥へ消えていった。













「まさか、剣にあれほどの力があったとは・・・」

 甘く見ていた。
 アティは剣の力を解放したことはなかったので、いまいち実感がなかったのもあったのだが。
 しかし、今回のできごとでその考えを改めさせられた。

 大地を揺るがすほどの大きな力。
 その片割れのバックには無色の派閥の暗殺者や召喚師たち。

 あの集団に、打ち勝つことはできるのだろうか?

 船のベッドの上でそんなことばかり考えていた。
 あれほどの力、自分たちが束になっても勝てっこない。

 そんな気もしていた。


 剣の力を改めて思い知らされた一日だった。








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