「ヒヒヒヒッ!おとなしくしやがれ。化け物がァッ!!」
ビジュが薄笑いを浮かべて召喚術を行使する。
その召喚術は眼前に迫る島のはぐれ召喚獣たちに炸裂し、煙が立ち昇る。
はぐれたちはうめき声をあげて倒れていった。
「加減を考えなさい。殺してしまっては、元も子もありません」
少々怒りの混じったツェリーヌの声に、ビジュは間髪入れずに了解の返事をした。
「よいのだ、ツェリーヌ。あれぐらいの攻撃にも耐えられぬなら、採取しておく価値はない」
オルドレイクが笑みを浮かべてツェリーヌに近づく。
彼女は納得いかないといった表情を見せるが、うなずいて彼のななめ後ろを陣取った。
「研究材料の収集。いつ見ても、やはり不愉快なものだな」
「ウィゼルさま。言葉が過ぎます」
顔を少しゆがめてつぶやくウィゼルにヘイゼルが注意を入れる。
ウィゼルはゆがめた顔を変えずにヘイゼルに言葉を放った。
「それは苦言か?それとも、忠告か?」
「・・・・・・」
「気にするな。俺は派閥の構成員というわけではない。もっとも、お前とて望んでそうなったわけではなかろうがな。『茨の君』よ・・・」
「・・・っ」
ウィゼルの言葉に眉を吊り上げる。
その目には彼女には見られない激情が見て取れた。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第38話 復讐
「この先にある集落は、はぐれたちが暮らしている場所のひとつです」
イスラが表情を変えずに事務的に話す。
「4つの集落を順番に回っていけば・・・ありとあらゆる種類の標本が、豊富に揃うことでしょうね?」
「楽しみだな・・・」
彼の言葉に、オルドレイクはくくくっ、と笑った。
「そういうわけにはいかないわ!」
アルディラの持つ黒いサモナイト石が光を帯びる。
強い光を発して召喚術が発動した。
「風雷の郷は、我らの第二の故郷・・・貴様らのような外道を踏み込ませたりはしない!!」
キュウマの起こした炎が暗殺者たちを焼き払った。
「わざわざご苦労様です。護人のおふたりさん」
仲間がやられたというのに、それを気にとめることなくイスラは笑みを浮かべた。
「こやつら、たしかこの島の始まりを知るはぐれであったな。ふふふ・・・これは、ぜひとも採取しておかねばなるまい?」
オルドレイクの声にツェリーヌとヘイゼルが前に進み出る。
それぞれサモナイト石と短剣を手に、鋭い視線が2人を射抜く。
「待ちなさいっ!!」
「ほーら、出てきた?本当にわかりやすいね。君の行動原理はさ」
先ほどリペアセンターで別れたアティたちと合流した。
目の前にはたくさんの暗殺者たちを従えたオルドレイクとその隣にイスラの姿を見つけ、自然と表情が険しいものになってしまう。
「あれ、生きてたんだ?しぶといねえ・・・」
憎しみを込めて拳を握るギャレオを見つめるのは、イスラの蔑んだような目。
すぐにその視線を自分の姉であるアズリアへと向けると。
「その様子だと、姉さん。本気で僕とやりあうつもりなんだ?」
「お前を止めてみせる。全ては、そこからだ!」
アズリアが剣を抜く。
鋼の音が妙に耳に響いた。
「貴方の目的は、私の持つ剣のはずでしょう。オルドレイク!?」
「貴様の振るう剣などその気になればいつでも奪えよう。それよりも、まずは実験の成果を採取していこうと思ったまでよ」
アティの声にオルドレイクが表情を変えずに言葉を紡いだ。
「採取、だと・・・?」
「狩りさァ・・・島にいる化け物どもをまとめて、狩ろうってだけのことよォ?」
ビジュが無駄に説明を入れた。
その説明は、島に住む召喚獣たちにを怒らせるには充分で。
その場にいる全員が表情を歪めた。
「この島はもともと派閥の先達たちが作り上げた実験場。ならば、そこに存在している全てを、そう扱おうと、我々の自由」
「ふざけるなッ!?あれだけの仕打ちを行っておいて、まだ我らを道具として利用する気か!?」
「ユエルたちは道具じゃないよーッ!!」
キュウマが、そしてユエルが声を荒げた。
昔、島で召喚獣を無差別に召喚し、戦争した挙句逃げていった。
護人たちの中でそのときの光景が浮かんでいることだろう。
「仕える主人を無くしたはぐれの分際が、よく吠えたものだな? 行き場もなく存在価値を失った貴様らを、わざわざ役立ててやるのだ。それだけでもありがたく思え」
「お前・・・」
なんて、人間たちだ。
召喚獣たちだって同じ生き物だというのに、この扱いはどうだ。
は皮膚が白くなるほど拳を握り締め、歯を食いしばる。
「自己中心にもほどがあるわね」
「外道め・・・っ」
「俺には、そうやってなんの罪もない召喚獣たちを殺しまわっていくお前たちの方がよっぽど化け物に見えんだよ・・・この島も、この剣も、そんなことに使っちゃいけないんだ!! いや、お前たちがこの島に干渉すること自体、お門違いなんだよ!」
オルドレイクはの言葉に顔色一つ変えずに一瞥する。
「彼らにとってはそれが当たり前のことなんですよ」
「ヤード?」
レックスの声に耳を貸さずにヤードは話を進めていった。
「召喚獣も、人間も、全てを、派閥に利をもたらす道具と思え。より有効な使い道を求め、壊れたならば速やかにうち捨てよ。そう私に教えたのは貴方でしたね・・・」
ヤードがオルドレイクに視線を送る。
オルドレイクは鼻で笑うとヤードへと視線を移した。
「久しいな、ヤード。不肖の弟子よ」
一瞬、あっけにとられる。
「弟子、って・・・」
「ええ、そうです。オルドレイクは、私の召喚術の師です」
「そんな・・・」
カイルの表情が驚きに変わる。
他のみんなも同様だった。
「ヤード・グレナーゼ。なぜ、私の期待を裏切ったのだ?お前の才能を、私は買っていたのだがな」
ヤードの顔が今までに見たこともない怒りのこもった表情に変わる。
「それは、貴様にとって私が、都合のいい道具だったからだろう!? 私は知っているんだ。派閥の記録をあたって、知ったんだ・・・貴様こそが、私たちから全てを奪った元凶だったということを!?」
憎しみをオルドレイクにぶつけるように叫ぶ。
涙が一筋、彼の頬を流れていった。
ヤードも、悲しい過去を背負って生きてきたのだろう。
ひょっとしたら、のそれよりもよっぽどひどいものだったのかもしれない。
オルドレイクはヤードの叫びを「くだらない」の言い捨てた。
ヤードの顔がますます憎悪に満ちていく。
「父と母の仇・・・っ、思い知れえぇぇっ!!」
「!?」
ヤードのサモナイト石が光る。
彼はどうやら昔、オルドレイクに両親を殺されたのだと。
すぐに察することができた。
オルドレイクがサモナイト石を構える。
「弟子が、師にかなうはずあるまいに!?」
そう叫んだ瞬間、ヤードの放った召喚術はかき消された。
「ぐ、あ・・・」
「ヤードっ!?」
召喚術同士の激突だったのに、オルドレイクの放ったそれは瞬く間にヤードの召喚術をかき消して。
彼に深い傷を残していた。
「ふははははははっ!」
「・・・今です!!」
高笑いをするオルドレイクを尻目に、傷を負ったヤードは笑みを浮かべ、叫んだ。
「くたばれッ!!!!」
叫んだ瞬間、彼の背後からスカーレルが現れ、オルドレイクを襲う。
しかし、スカーレルの正面にウィゼルが立ちはだかった。
振るったナイフを軽々受け止められ、スカーレルは舌打ちをした。
「召喚師は囮か。俺さえなければ成功したろうがな?」
「まったくね・・・」
あきらめたように、スカーレルは顔をゆがめた。
「なるほど・・・追っ手を始末したのは貴様だったか・・・『珊瑚の毒蛇』。裏切り者め!!」
ヘイゼルの声にスカーレルは笑みを浮かべる。
「ご挨拶だわねえ? 『茨の君』さん!」
なにがなんだか、さっぱりわからない。
ただ、状況は流されるままに変化していっている。
わからないのも、仕方ないといえば仕方ないのだが。
新たにわかった関係と、根の深さ。
生徒たちを含め、もユエルも場の状況を理解できないでいた。
でも、今は。
「ナップ、ウィル、ベルフラウ、アリーゼ! 迷うのは後だ!」
は無色の派閥の人間たちをにらみつけたまま、叫んだ。
「今はスカーレルたちを助けるのが先決だろう!!」
生徒たちが、ソノラが、カイルがそれぞれうなずいた。
「待ってろよ。スカーレル!ヤード!」
カイルの声とともに、それぞれの武器に手をかけた。
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