「うー・・・」

 うろうろ

「あー・・・」

 うろうろ

「うあうあうあ〜っ!?」

 うろうろうろうろうろうろうろうろ

「メイメイさん、落ち着いてください」

 右へ左へ。
 客のこない店中をメイメイは歩き回っていた。
 変な声を上げながら。
 一緒にいたアティが彼女をなだめようと声をかけるが、まるで効果はない。
 は素直に呆れていた。

「・・・どうしたんだよ、そんなにイラついて」
「どうもこうもあったもんじゃにゃーいっ!!」

 ダンッ!!との目の前の机を思い切り叩いて身を乗り出して。
 ずいと顔を近づけると、

「非常にマズイのよ大変なのよ死活問題なんよ―――ッ!!!」

 一息でまくしたてた。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第37話  狩猟





 メイメイが言うには、無色の派閥がきたせいで島の住人はみんなおびえきってしまって客が来ないのだという。

「俺がいるときっていつも君しかいないじゃないか・・・」
「うるさーいッ!!」

 ダンッ、ダンッ!!とさらに机を叩いた。

「お客が来ない・・・これ、すなわちお酒が来ないってことなのよぉ!?」

 メイメイさん、絶体絶命の危機!? よよよ・・・。
 そんなことを言って地面に座り込んですすり泣くしぐさをした。

「それは・・・絶体絶命の危機なのかもしれませんね。たしかに・・・」
「アティ・・・」

 どんなことでも真正面で受け止めてしまうアティの性格がある意味すごいなと感じた瞬間だった。




「ねえ、先生だったらその剣で、ぱぱーっとアイツらをやっつけられるんでしょお?」

 すすり泣きをやめたメイメイは顔を輝かせてアティに詰め寄る。
 アティは苦笑しながら助けを求めるようにを見た。
 仕方ない、と言わんばかりに2人に近寄ると、

「アティを困らせちゃダメじゃないか・・・」

 アティにすがりつくメイメイをべりと引き剥がした。

「ヤダヤダヤダぁっ! やっつけてくんなきゃ、ヤなのぉーっ!?」

 突然、床に寝転んでダダをこねはじめた。
 彼女の突拍子もない行動にはお手上げと言わんばかりに手で顔を覆った。

「そう言われても・・・」
「ダダこねるなよ・・・子供じゃあるまいし・・・」
「うえーん!先生とがメイメイさんのことをいぢめるうぅ・・・っ」
「・・・おい」

 違うだろ、とツッコミを入れる。
 アティはあきらめたかのように肩を落とした。

「はあ・・・わかりました・・・努力はしますから。だから、落ち着いてください」
「安請け合いは良くないぞ、アティ。自分のペースでやればいいんだからな」

 メイメイは結局、2人が店を出ていくまでうなっていた。



は、これからどうしますか?」
「うーん、とりあえず適当にぶらぶらしてから船に戻るよ」

 アティは考えるしぐさをしてから

「じゃあ、今日は一緒にまわりましょうか。1人じゃなにかと危険ですから」





 そんなわけでとアティは状況が状況なのにのんびりと風の向くまま気の向くまま。
 散歩を楽しみつつユクレス村に来ていた。

 無色の派閥のことについてメイトルパの戦闘種族であるヤッファの見解を聞こうというのが目的ではあったのだが。

「・・・・・・」

 村は閑散としていた。
 やはり無色の影響は大きいようで、人っ子1人見当たらない。
 互いにうなずいてヤッファのいる庵へ歩を進めた。


 庵に着くと、ヤッファはやはりというか眠っていた。
 となりにマルルゥがいて、さらにその隣にユエルがいるのが見え、マルルゥはなにやら退屈そうにふよふよと宙を漂っていたのだが。

「あっ♪」

 2人を見つけると面白いこと見つけたといわんばかりに嬉しそうに飛んできた。

「先生さん、ガクランさん。よくきたですよ」
「マスターッ!!」

 ユエルもマルルゥと同様にとアティの姿を見つけて2人に駆け寄る。
 彼女たちからすれば、遊び相手見つけた、というところなのだろう。

「ユエルちゃんもマルルゥと遊んでたんですか?」
「うんっ!」
「俺たち、ヤッファに用があって来たんだけど・・・」
「あ、そーなんですか?」

 ちょっと待っててくださいね、とマルルゥはヤッファもとへぴるると飛んでいき、起こそうと彼の身体をゆする。
 しかし、蚊でも叩くかのようにビシッといい音をさせてこちらへ一直線に飛ばされてきた。

「あわわわ〜!!」
「マルルゥ!?」

 は飛んでくるマルルゥを受け止めた。
 案の定、彼女は目を回していた。
 その後何度か彼を起こさんと奮闘したが、当のヤッファはまったく反応を見せなかった。

「起きないなら、またあとで来ますけど・・・」
「・・・いいえッ! せっかく来たですからちゃんとシマシマさんと話していくですよ!!」

 こうなったら妖精の意地ですっ!!

 マルルゥはグッと小さな手を握り締めてヤッファに向かっていった。
 「ユエルも手伝う!」と言ってマルルゥの後をユエルが追っていったが、彼女の顔は新しいオモチャを見つけた子供のような顔をしていた。
 俺たちはその光景を見てぽかんとしていた。

 ひげを引っ張ったり、顔に落書きをしたり、ほっぺたをびろーんと伸ばしてみたり。

「くぉらてめーらぁっ!!!」

 ヤッファの怒声が響き渡ったのは言うまでもない。






「・・・」
「・・・」
「・・・ったく」
「シマシマさんが起きなてくれないのが悪いんですよう・・・」
「つ、疲れたぁ・・・」

 とアティは無言で顔を見合わせる。
 目の前には顔のいろんなところをいじられたヤッファと息切れをしたマルルゥとユエルがいる。

「あー、すまねェな。せっかく来たのに、眠りこけてて」

 ヤッファは棒読みでそう、言葉を発した。
 マルルゥに強要でもされたのだろう。

「いえ、そんな・・・いいですよ」
「起きないならいいって、言ったんだけどな・・・一応」

 苦笑しながらそう答えた。
 本当に、今でなくても後でよかったのだが。
 マルルゥに押し切られたような形になってしまっていて、とても口の出せる状況ではなかったのだ。

 さて、本題に入ろう。





「派閥の兵隊の戦い方。ありゃ、軍隊っていうより、群れで行う狩りみたいなもんだな」
「群れで行う狩り?」

 当初の予定どおり、ヤッファに派閥についての話を聞くことにした。
 ヤッファはかったるそうな顔だったのだが。
 やはり島全体の危機なだけあってか、すぐに真剣な表情へと変わっていた。

「ああ、メイトルパでいえば、オルフル族の戦い方に近いな」

 そうだな、ユエル? とヤッファはユエルの方に顔を向ける。
 ユエルは神妙な顔つきでうなずいた。

「ユエルたちオルフルはたくさんのなかまたちでかたまって動くの。狩りをするときも同じ」

 ユエルはそう、説明してくれた。

「目標を定めたあとは個人の判断で動き回り、吠え声をかけあって連携をとるのさ」
「そういえば、みんな。しゃあー、とかヘンテコな声をあげていたですねえ・・・」

 マルルゥがシャアー!とか声をあげて戦ったら滑稽だろうな。
 そんな光景を想像しては思わず笑ってしまった。

「よほど訓練されている。そういうことですか?」
「まあな・・・だが、つけこむ手がないこともねえ」
「本当ですか!?」

 ヤッファはああ、とうなずく。
 統率された集団を少数で叩くには、そのメンバー全員を混乱させてやればいい。
 しかし、そんな強い召喚術が使えるわけでもない。
 そこで集団戦闘の常套手段として。

 その集団の頭を叩く。

 これが第一だろう。

「で、今回はおそらく・・・」
「兵隊の中で一人、戦況を見守ってた彼女だな」

 の言葉にヤッファはうなずいた。

「いたです、いたです。ぶかぶかのマフラーを巻いてた女の人!」

 マルルゥは両手をぽんと叩いてそう口にした。
 表情を崩すことなく、現われたところですぐに全員に命令を下して始まったのが先日の虐殺劇だったのだから。

「おそらく、あの女が群れのアタマだ。そいつをうまく押さえちまえば・・・」
「アイツらを倒せるってことだねっ!?」

 ユエルの言葉にヤッファはさらにうなずく。
 しかしすぐに苦笑して、

「効果のほどは定かじゃねえが、な」

 と、そんなことを口走っていた。





 ユエルはもう少しマルルゥと遊んでいくといってヤッファの庵に残った。
 ヤッファは2人で礼を言って外に出ようとしたときには、すでに夢の中に入っていた。
 相変わらずだな、と苦笑しつつ、次は風雷の里に行くと決めると、足を動かしたのだった。




「よっ、よっ、よっ、よ・・・わわわ!?」

 ぽと、ぽと。

「懐かしいな、お手玉か」
「おお、アティにではないか」
「惜しい、惜しい。もうちょっとで10回できたのに」

 アティが笑顔で畳の上に腰を下ろした。

「落ち着きが足りぬからじゃぞ、スバル?」

 スバルがうなった。
 貸してみよ、とミスミがスバルからお手玉を受け取ると。

「ひとめの ふため みやかし ・・・」

 ひょいひょいと二つのお手玉を空中で自在に操っていた。

「へえ、ミスミさま。すごく上手ですねえ」
「当たり前だい。だって、お手玉は女の子が得意な遊びなんだぞ・・・」
「そう、むくれるな。わらわの知っておる部屋遊びは、これだけなのじゃ」

 アティの声にスバルはふてくされたような声を出す。
 ミスミとアティは苦笑していた。

「女の子の遊びだなんて・・・そんなことはないぞ?」
「「「え?」」」

 みんながみんな変な声を出す。

「俺はお手玉、得意だぞ。俺の世界では、お手玉とはちょっと違うけど。コレを仕事にしてる人だっているくらいなんだからな」

 はそう言うと、ミスミの持つお手玉二つと、畳の上の一つを持ってぽんぽんと投げ始める。

「おお・・・!」
、すごい!?」

 ミスミとアティは驚きの声を上げた。
 ニッと笑って「もう一つくれ」とアティに頼むと、アティは「へっ?」と変な声を出していたが、すぐに我に返ってにお手玉を投げよこした。
 バランスを崩しつつ、それを手に納めるとミスすることなく4つのお手玉が宙を舞う。

「おっとと・・・」
にいちゃん、すごい・・・」

 手の中でお手玉を操りながら、

 昔、夢中になって練習したことがあったんだよ。

 と。はそう話して聞かせた。


「それに、これは反射神経と動体視力を養う稽古になるんだぞ」
「えぇっ、うそだぁ?」

 ミスミに目配せする。
 それに気づいたミスミはハッと気づいたようなしぐさをして、同調するかのようにうなずいた。

「本当じゃとも。も言っておるではないか」
「そうですね、たしかに反射神経や動体視力を養う訓練にはなるかも」
「ほれ、先生もああ言うておる」

 スバルは少し考えるしぐさを見せて、答えた。

「・・・なら、やる!」

 その答えに、ミスミさまは満足したらしく目配せすると、はそれを笑顔で返した。

「よしよし、スバル。母が教えてやろう」

 ミスミさまは笑顔を見せてスバルにお手玉を教え始めた。

 これでスバルのことは問題なし。

 とアティは笑みを浮かべてうなずいた。





「二人とも、具合はどうですか?」
「貴様に心配をされるいわれはない・・・」
「失礼だな」

 クノンの許可を貰って、俺たちは最後にラトリクスのリペアセンターを訪れていた。
 アティがどうしても、と言うので。
 敵だったとはいえ、やはりアズリアたちのことが心配だったのだろう。

 とても失礼なことを口走るギャレオを叱咤したアズリアは笑みを浮かべた。

「すまんな・・・助けられたことは自覚しているのだが」
「気にしないでください。恩に着せるつもりでしたことじゃないし」
「やはり、簡単には割り切れぬらしい。こいつも、私もな」

 そこまで言うと、アズリアの笑顔が苦笑に変わった。

「あの娘のおかげで、こいつも順調に回復している。もうダメです、とうわごとのように繰り返していたのがウソのようにな?」

 いたずらっ子のようにニイッと笑ってギャレオを見る。
 ギャレオは顔を赤くしてまくし立てた。

「ははははっ。まあ、冗談はおいておくとして・・・今後のことについて話にきたのだろう?」

 アティが遠慮がちにうなずいた。
 アズリアは「よし」と言って立ち上がった。

「そこに座って待っていてくれ。長話になりそうだからな、茶でも用意してこよう」
「あ、俺の分はいいよ、アズリア」

 アズリアはの申し出を聞き届けると、自分がやるというギャレオを上官という地位を利用して動くな、と命令して茶を入れに奥へ消えた。

「じゃ、アティ。あとは君らで話をしてくれ。この先は俺がいてもいなくても同じだろうし」
「わかりました」

 アティがうなずく。
 はギャレオに軽く挨拶をしたのだが思いっきり無視されたのでそのままリペアセンターを出てきたのだった。







『あの乱戦では、ほとんど目にすることはありませんでしたが・・・彼らが用いる召喚術こそ、これから先の戦いで、注意すべきものだと思います』


 は一人で狭間の領域に来ていた。
 あたりまえだが、昼間なので召喚獣たちはほとんどいない。
 ファリエルたちのところへ行くと、そこにはファリエル、フレイズのほかにレックスがいた。

 軽く挨拶をすると、ファリエルは表情を真剣ものにして、先ほどの台詞を口にしていた。

「そうだね。俺たちが習ってきた召喚術とはやり方も、その威力も、別物みたいだから」
「俺、魔力がほとんどない状態だからな。まともに受けたらヤバかったんだろうな・・・」

 一人、遠い目をする。
 ファリエルは根拠もなく「大丈夫ですよ」といってくれている。
 は、ははは・・・と乾いた笑いを漏らした。

『本来、召喚術は使い手ごとに秘伝とされてきたようです。無色の派閥はそうした古い召喚師たちの集団ですから』
「オルドレイクもそうなのか?」
『ええ。セルボルト家は派閥の創始者たちの家系の一つです。派閥の中では、特に古い家系ですね』
「王国の時代にはエルゴの王の側近も務めていたと聞くぐらいだしね」

 ファリエルの説明にレックスが付け加えた。
 王国時代って、なんだろう?
 そんな疑問が浮かんだが、今は奥にしまっておいた。

「ツェリーヌと名乗る女召喚師が用いた大がかりな召喚術。あれは、サプレスの、それも、かなり高位の悪魔の力を借りたものでしょうね。なんらかの儀式で取引をして得た力だと私は思います」
「取引?」

 の問いにフレイズはええ、とうなずく。

「代償として、あの術で倒された者たちの魂を供物として捧げたのでしょうね・・・」

 いくつもの輝きが呑み込まれる光景が見えましたから・・・
 フレイズは肩を落としてそう言葉を紡いだ。

 レックスも、ファリエルも、もちろんも。
 その事実に肩を震わせていた。

「ずいぶんひどいことするんだな・・・死んでしまった人間の魂を代償にするなんて」
『理想のためなら手段を選ばない彼らだからこそ、そういったことさえ、平然とできるんです』

 ファリエルは元無色の派閥の人間だったからか、悲しげな表情を見せていた。

 人間を便利な道具としてしか見ない彼らだからこそ、できる芸当。
 死んでしまった人間の魂などは、大掛かりな召喚術を使うのにうってつけだったのだ。

 レックスもも、ファリエルから伝染したかのように、肩を落とした。



 居たたまれない空気の中、レックスと2人で狭間の領域を出てきた。
 その表情はやはり、暗い。

「ファリエルも、つらい思いをしてきたんだな」
「そうだね・・・」

 無理に笑顔を作り、短くそう答えた。
 他にどんな答え方をしたところで、なくなってきたものが戻ってくるわけでもないし、死んだ人間が蘇るわけでもないから。

「落胆してても仕方ない。俺たちは無色の派閥を島から追い出すことを考えよう。ファリエルが心から笑えるように、さ」

 な? とレックスの肩を叩く。
 レックスはかすかにだが、笑顔を見せた。





「レックスせんせー、マスター!」
「ユエル?」

 息を切らせて走ってくるユエルの姿を確認した。
 だいぶ急いでいるように見受けられるが。

「ユエル。いったい、どうしたんだい?」

 レックスが訪ねる。
 ユエルは肩で息をしながら内容を告げた。

「ヤツらが、ヤツらがスバルたちの郷に来たんだって!!」
「「!?」」
「レックス!」
「ああ!!」

 互いにうなずきあって走り出した。



 向かうは鬼妖界の集落、風雷の郷へ――――







←Back
   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送