「よいか、気とは集中力じゃ」

 集中力を高めれば高めるほど大きな力が操れるのじゃ。

 屋敷の庭でミスミに気の扱い方を教わる。
 なんとも自慢げにぴんと人差し指をたてて話していた。
 屋敷の縁側にキュウマとスバルが腰をおろしてお茶を飲んでいる。
 特に、スバルはなんだかつまらなそうな顔をしていた。

「言葉で教えるよりも、実際にやってみたほうが早かろう」

 一通り話したミスミはにっこりと笑ってキュウマを見やる。
 キュウマは、なにも言わずに立ち上がって屋敷の奥へ消えていった。

「キュウマが来るまでの間、そなたはここで座禅じゃ」
「・・・は?」

 突然の言葉に耳を疑った。

「だから、座禅じゃと言うておる。修行の一環じゃ」

 ここへ来やれ、と自分の前を指さす。
 はしぶしぶ指さした先にどっかりと座り込んだ。





     
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第36話  気





 座り方は自由でよいぞ、と言われたので遠慮なくあぐらをかく。
 目をつぶり、昔稽古で行ったように神経を研ぎ澄ました。
 実は、自分の父親にも同じようなことをやらされた経験があったのだ。


「ふむ・・・!?」


 の周りの音が消える。
 ここまで集中力を高められる者はそうはいない。
 自分でも、ここまで高めることは未だできていない。
 その姿は、生前の自分の良夫を見ているようだった。
 彼も、魔力が少なかったため精神力を異常なまでに鍛え上げていたからだ。

 も彼のように召喚される前に相当の修行をしてきたのだろう。

 これならば、集中力を養う修行はいらないようじゃな。

 素直にそう思った。


「ミスミさま。例のものをお持ちしま・・・」

 彼を見た瞬間、キュウマの目の色が変わる。
 驚くのも無理はない。
 自分よりも年下の人間が、目の前で声をかけた自分に気づかないほどの集中力を見せる人間がいるとは思わなかったのだろう。
 実際、彼の持ってきた道具は集中力の基礎を養う道具だった。

よ、もういいぞ」

 目の前で禅を組む少年に声をかけた。




 うっすらと目をあける。
 周りの様子は手に取るようにわかっていたが、気がどんなものなのかわからなかったので。
 つい、いつもの稽古のような形になってしまった。

「どんなもんです?」
「うむ。それだけできれば大丈夫じゃろう」

 あまりに簡単なことだったため、一瞬きょとんとしたがすぐに我に返って頭を掻いた。

「・・・そうですか?」
「心配は無用じゃぞ。そなたの気はわらわたちよりはるかに高いようじゃからな」

 ミスミは少し悔しそうな顔をしていた。
 スバルも普通に驚いていたようだ。

「これからわらわたちが手本を見せるゆえ、それにならってやってみるのじゃ」
「わかりました」

 すると、ミスミさまは一つの木片をキュウマから受け取る。
 それを地面に置いて、ある程度の距離をとった。

 そして、数秒目を伏せて手を振り上げた。

「風刃ッ!!」

 叫びと共に風が吹き、木片を傷つけていく。
 今のはなんでも、かまいたちというものらしく、気を魔力に乗せて発生させたものなのだとか。
 の世界にもその言葉は存在しているが実際に、しかも人為的に見たのは初めてだった。

 ミスミはふう、と息を吐く。

「集中力を維持した上で、体内で気を練る。それを解き放つことで、あのように風を起こすことができるのじゃ」

 ミスミが風、キュウマが炎、スバルが雷といったように、気の種類は人それぞれで操る者によって発生する現象は違うのだそうだ。
 キュウマとスバルもミスミさまと同じようにそれぞれ炎と雷を発生させた。

「気の練り方は使用者によって違います。殿が一番落ち着く形で練ってみるといいですよ。後は、貴方の努力次第です」

 キュウマにアドバイスを貰い、はどんな形が一番いいか考える。
 しかしどう考えても、いまいちピンとこない。
 そこで、普段戦闘時や稽古時などにとる形にした。

 縁側にいるスバルについさっき購入した刀を投げてもらう。
 受け取ったは数回、深呼吸をする。
 そして、右足、右肩を前方に突き出し、左手で鞘を、右手を柄に掛けて。
 普段使うことこそ少ないが、抜刀術の構えを取った。

 目の前のそれほど大きくない木片を見つめる。



「・・・っ」

 実際、気を練るなんて言われても具体的にどうすればいいか、まったくわからない。
 とりあえず、さっきと同じように、集中をしてみることにした。



 数分。あたりまえだが、何の反応もない。

「ミスミさま」
「ん、なんじゃ?」
「気を練る、って具体的にはどうやるんですか?」
「具体的、にか?」

 首を縦に振った。
 ミスミは、うーん、とうなり、キュウマに振る。
 しかし、キュウマもしばし考えるしぐさをするがミスミさまと同じで首をかしげてしまった。
 スバルも同様だった。

「えー・・・とても言いにくいのですが・・・」
「?」
「私たちは自然にやっていることなので、具体的にと言われてもわからないのです」

 俺はキュウマの答えを聞いて固まった。

「わからな、い・・・?」

 キュウマとミスミはすこし居たたまれなさそうな顔をし、「すまない」と苦笑して見せた。
 ・・・頭を抱えたくなった。

「そ、そうですか・・・わかりました」

 ストラが使えるカイルあたりに聞いてみます。

 は素直にそう答えた。
 ストラは、おそらく気を自己治癒力を高めるために使っているのだろう。
 それに、他にストラが使える人間もいないし。

「じゃあ、キュウマ。居合のほうは?」
「あ、ああ。そうでしたね」

 気を取り直してキュウマは話をした。

「この間も言ったように、居合とはシルターンの侍が使用する技の一つで、体内の気を刀の切っ先へ送り込んで抜刀時に放出して敵を斬る技です」

 私も、いまだに成功したことはありません。

 最後にそう、告げた。

「切っ先に送る、って言うのは?」
「自分も試したことはないので良くはわかりませんが、自分の気が刀の先に流れていくのを感じ取ることが大切なのだそうです」

 あの無色の派閥の剣士は相当の修練を積んでいるはずですよ。

 キュウマは最後にそう言葉を紡ぐ。
 戦闘時。集中もままならない乱戦であるにも関わらず、いとも簡単に斬撃を放ったあの剣士。
 相当な訓練を行っている証拠ともいえる。

 とにかく、今の自分への課題は、気を感じ取ること。
 要するに。

「なるほど。ようは、イメージをするということか・・・?」

 あごに手をあてる。
 数秒、たったところでは顔を上げた。

「ありがとうございます、ミスミさま、キュウマ、スバル。なんとかなりそうだから後は自分で頑張ってみますよ」

 笑顔で、そう伝えた。

「うむ、すまんな。力になれず」
「頑張ってくださいね」
「近いうちに稽古してくれよな!」
「ああ。それじゃ、これで」

 は屋敷を後にした。






殿のあの集中力・・・」
「うむ、あれにはわらわも驚いていたところじゃ」

 が屋敷を後にしてから、ミスミさまとキュウマは改めて話をする。
 彼の放った気により、周囲は静けさを増していた。
 あれほどの集中力の持ち主は、彼女の良夫であるリクト以外に今まで見たことがなかった。

 2人は、改めて彼が出て行った門の方向を眺めていた。






「ふうっ」

 風雷の里を出て、浜辺に出てきた。
 夕暮れ時の赤い空。
 夕日が反射して海が光っていた。

「イメージ、か・・・」

 先ほどの話の結果、たどり着いた答え。
 実際、本当にそれができるかだけが心配だった。

「おーい!」

 声がする。
 周りを見回すと、生徒たちとユエルがこちらに走ってくるのが見て取れた。

「まったく、いったいどこをほっつき歩いてたんですの!?」

 だいぶ探したんですのよ?

 のところに来たとたんベルフラウが声を張り上げた。
 ずいぶんと必死で走ってきたのだろう。
 みんな息を切らしていた。

「なにかあったのか?」
「・・・別に」

 ナップがぶっきらぼうに答えた。
 聞けば、

 先生たちの家庭教師の仕事も今日はなしになったので、に稽古をつけてもらおうと。
 朝から探していたにも関わらず、どこを探しても見つからず、結局こんな時間になってしまっていた。

 とのこと。

「マスター、は・・・どこにいたの・・・?」
「俺今日はずっと風雷の里のミスミさまの屋敷にいたんだけど」

 その答えに5人は固まる。
 その後すぐにみんなが頭を抱えた。

「そんな近くにいたなんて・・・」
「気づかなかった・・・」

 うかつだった・・・と苦悩しているようだ。

「しかし、ここまでずっと探しつづけてたってことは、だいぶ身体が鍛えられたんじゃないか?」
「それは、そうかもしれませんけど・・・」

 それを聞いたはにっこりと笑う。

「よかったじゃないか。何事にも身体は第一。身体を鍛えるのはいいことだぞ?」
「むー・・・」

 アリーゼがうなる。
 彼らの護衛獣たちが一声、鳴いた。
 一度背後に振り返って屋敷を眺めると、

「大事な用、だったからな」

 誰にともなく、そう口にした。

「「「「「?」」」」」

 今日はもう、無理だな。
 すでに空が暗くなり始めている。



「さ、みんな。船に帰ろうか」








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