「そういうわけで、学校はしばらくお休みになっちゃいました」
「やったーっ♪」

 アティの報告にナップの声が部屋に響く。
 叫んだ彼を他の生徒たちはジト目で眺めるが。

「・・・って、普通なら喜ぶんだけど、場合が場合だからなあ」

 視線を感じたナップはバツが悪そうにつぶやいた。

 校長であるゲンジさんとミスミさまの提案で、島の学校は休校になってしまっていた。

 無期限の休校。
 無色の派閥を追い出すまで、という条件でのことだった。


「先生?」

 ベルフラウがレックスの顔をのぞきこむ。
 レックスはそれに気づいて笑顔を作り、

「なんでもない、なんでもないよ」

 生徒たちの心配そうな顔に思わず手を振って否定していたのだった。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第35話  特訓





 が気が付いたときにはすでに夜更けで、カイル一家の船のベッドに横になっていた。
 ずいぶんと休んでいたようだが、上体を起こすと急に全身を脱力感が襲った。
 どれくらい眠っていたのかすら定かではない中で、

「・・・っ」

 思わず小さな声を上げる。
 心配してくれたのだろう。が寝ていた隣でユエルが眠っていた。
 心なしか、目の端に雫のようなものが見える。

「俺は、幸せ者だな」

 こんなにも、心配してくれる仲間がいる。
 自分が困れば、助けてくれる仲間がいる。

 はユエルの頭を軽く撫でながら、軽く微笑んだのだった。



 あたりが静寂に包まれる。
 耳に入る音はただ1つ。波の音だけが部屋の中に響いていた。

 この島に喚ばれてから、ずっと自分を助けてくれていた相棒が手元にない。
 すべての力を使って、あの場を打破できた。
 そのせいであの魔剣は、柄ごと崩れ落ちていったのだ。

「・・・っ」

 今の俺は、戦えない。
 『能力は主の力だ』といわれたものの、実感はまったくない。
 多少動きがよくたって、の場合は武器がなければただのケンカの延長にすぎないのだ。
 だから。

「明日から、ちょっと特訓しないとダメかなぁ・・・」

 そんな小さなつぶやきは、波の音ですぐに消えてしまったのだった。





「おはよう」
「「「!?」」」

 朝。起床したをみんなは幽霊でも見たかのような目で見つめていた。
 はしょぼしょぼと眠そうな目で全員を見渡して、なにかしたのかと頭を掻く。

、貴方もう起き上がっても大丈夫なの?」
「ああ、夕べ一度目がさめた。あの時はちょっとヤバかったけど、今は大丈夫」

 スカーレルの問いにはひらひらと手をふって答えた。

「そんなことより、俺の分の飯ある?」
「あ、ああ! お前、かなり腹減ってんだろ? たくさんあるから食っとけ!!」

 カイルが笑っての背中を叩いた。
 そのあまりの力の強さに前へつんのめってしまったのだが、ソノラが注意を入れることで彼は縮こまっていたのだった。

「良かったです・・・」
「心配かけさせないでくださいよ」
「まったく、しっかりしてくださらないと」
「オレたち、みんなして兄ちゃんの心配してたんだからな?」

 生徒たちはこぼれるような笑顔で、に声をかけてくれる。
 正直な話、とても嬉しかった。

「マスター・・・」
「ユエルにも心配かけたな」

 しゃがみこんで、彼女に視線を合わせると、ごめんな、と軽く頭を下げて謝った。
 ユエルは涙目をそのままに抱きついてきた。
 そんな彼女の頭を撫でてやる。

「なんかさ。端から見てると2人って兄妹か親娘に見えるよね」
「そうですね。微笑ましくて、よいものです」
「あらヤード。なにジジくさいこと言ってるのよ」
「なっ、なに言ってるんですか。私は今の状況をありのままに・・・」

 自分も、みんなも。
 なんだか久しぶりに笑ったような気がした。





 は自分でもわかるくらいすごい勢いで朝飯をかっ食らった。
 なぜなら、身体が大量に栄養の補給を要求しているからだ。
 ようは、かなり腹が減っていたということなのだが。

 みんなが目を丸くしている中でただ一心不乱に手を動かし、食べ物を手当たり次第に口の中へと放り込んでいたのだった。








「刀、ある?」

 朝飯を腹いっぱい食べて、散歩に出ると告げて船を出ると。
 目的の一つとして一通り集落をまわって、最後にメイメイの店に寄っていた。
 もちろん、武器の調達のために。

 今のセリフが、が店に入った瞬間に口にした言葉だった。

「この前譲ったやつは?」
「こなごなバラバラ」
「にゃにいぃぃぃッ!?」

 メイメイは唐突に始まった会話に驚くことなく話をあわせてくると、その答えに身を乗り出した。
 無色の派閥との戦闘の時に起きたことの一部始終を彼女に話して聞かせると、彼女は終始真剣な表情のままでうなっていたのだが。

「・・・そういうわけで、こなごなになったんだ」
「なるほどねぇ・・・」

 メイメイは難しい顔をしつつをじっと見つめると、ふう、と息を一つ吐いた。

、貴方の身体にはなにか、大きな力が眠っているわ」

 どうやらあの刀は、その一部を引き出していたみたいね。

 そう言ってメイメイは酒をぐびりと飲み込んだ。
 戦闘中に、不意に始まった会話の中で『自分』が同じようなことを言っていたのを思いだす。

「あの刀の住人もそんなことを言ってた」

 それを聞いたとたんメイメイは訝しげな表情を見せると、次の瞬間には視線をはずし、いつものニヤけ顔になっていた。

「わかったわ。ちょおっと待ってて」

 そう言うと、メイメイは店の奥に消えていった。
 ドサドサ、という音やガラガラガッシャン、という音はこの際聞いてなかったことにする。
 明かり、つければいいのにと内心で呟きながら。





「ぜはぁ、はぁ・・・はぁ〜い、これね〜」

 刀を持ってきたメイメイはいつか見たような疲れた顔をしていた。
 渡された刀は、ぱっと見た感じ普通の刀だが、鞘から抜くと刀身の根元の部分に色の違う部分があった。
 丸い穴が5つ。それぞれの穴の中には、色違いの石がはめ込まれている。
 色は柄側から白、紫、緑、赤、黒。

「メイメイ、これ・・・」
「サモナイト石よ、多分ね」
「多分、て・・・」

 彼女の適当な応対にため息をつきつつ刀を鞘に納めると、踵を返した。

「ありがとう。じゃ、これで・・・」
「ちょい待ち」

 メイメイが後ろからがっしとの肩をつかむ。
 おそるおそる首を回すと、そこには笑顔のメイメイがいた。

 お互い、笑顔を見せる。

「お金、今回はいただきまぁ〜す♪」

 やっぱりか、と彼女に金と酒を渡す。
 世の中、そう簡単にはいかないものである。
 酒に向かってほお擦りしているメイメイを尻目に店を出てきたのだった。

 仲間たちによって踏み固められた地面の上を歩く。

「さて、と」

 木の間から差し込む日の光を浴びて伸びをする。
 特訓のため、鬼妖界の集落へ足を運んだのだった。





「・・・特訓、ですか?」
「ああ」

 魔剣がなくなって特殊な力に頼れない以上、己自身が強くなるしかない。
 しかし、今のままでは絶対に彼らに太刀打ちできない。
 だから、特訓がしたいと。

 鬼妖界の集落にある屋敷へやってきたはミスミ、キュウマ、スバルと向かい合わせになって、彼らにそう告げた。

「おいらもトックンしたい!!」
「自分たちは構いませんが・・・」
「で、なぜわらわたちなのじゃ?」

 特訓ならほかでもできよう。

 もっともな意見を口にしたのはミスミだった。
 キュウマも同じ意見のようで、彼女の言葉に深くうなずく。
 スバルだけは自分も特訓したいとただ言い張っていた。
 とりあえず、自分の話を最優先に考えることにすると、

「聞きたいことがあるんだけど、他の人じゃきっとわからないと思うからです」

 そんな答えを口にしていた。
 ミスミは「ほう・・・」とうなずいてたたずまいを直すと、表情を真剣なそれに変える。

「で、その聞きたいこととは?」
「無色の派閥に1人・・・剣士がいたのを、覚えていますか?」

 ウィゼル、という名の壮年の剣士。
 ギャレオの攻撃をあっさりと避けて、致命的な一撃を与えていた男性である。

「その剣士がなにもないところで鞘から刀を抜いたかと思ったら、一瞬で俺が斬られていたんです」

 そのときのことを詳しく話す。
 斬られる直前にふわりとした風が自分に吹き付けたことや、抜刀した際に剣先がまったく見えなかったこと。
 それを聞くとふいに、キュウマが確信したかのようにうなずいた。

殿。それは、シルターンのサムライが使う技で『居合』というものです」
「居合・・・?」

 居合斬りとは体内の気を刀の切っ先へ送り込み、抜刀時に一気に放出して敵を斬る技なのだという。
 訓練次第では、前方にかなりの距離を飛ばすことができるのだと、キュウマは簡単にそう説明した。
 しかし、彼は鬼忍。居合斬りなどという芸当とは無縁なのだ。

 ・・・ぜんぜん忍んでないけど。

「気の扱い方は自分でもいいですが、ミスミさまのほうが詳しいと思いますよ」
「そうじゃな。わらわはかまわんぞ。せっかくじゃ、風を操る術も指南してやろう」

 は助かります、と頭を下げた。







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