意識のある帝国兵が歓声を上げた。

 彼の視線の先には全身黒い服を身に付けた集団。
 夕日に照らされて影が長く伸びている。

「そ、そんな・・・」
「あんなにたくさんの兵隊、いつの間に来てたんだよ・・・」

 生徒たちの中でもっとも気弱なアリーゼが小刻みに震え、他の3人も敵の数に圧倒されてかただ立ち尽くしていた。
 数だけを数えても、先ほどの帝国軍の比ではない。
 まるで一頭のライオンを狩るためにたくさんの人間が銃を構えているのとなんら変わらない状況だった。

「援軍ですよ、隊長!? これなら、もう一度戦うことができる。あきらめる必要なんてなくなるんです!!」

 ギャレオが嬉々とした表情を浮かべて上官であるアズリアに話し掛ける。
 しかし、彼女はどこか疑いのかかった目で黒い集団をじっと凝視していた。

「まずいぞ・・・あれだけの新手、今のわらわたちには押さえきれぬ・・・」

 ミスミは顔には出さないものの、あせっていることが伺えた。顔に一筋の汗を流して、強く歯噛んでいる。
 マルルゥは黒い集団と自分たちを交互に見回して、命の危険に慌てふためいていた。

「ま、マスター・・・」
「・・・・・・」

 ギリ、と歯を立てる。
 先ほどの帝国軍との戦闘で自分たちは満身創痍だった。

 ・・・このまま、戦いつづけたら間違いなく俺たちは負ける。
 ・・・絶対に殺される。

 争いのない世界から喚ばれて来た彼だからこそ、死への恐怖に身体を小刻みに震わせていたのだった。



「用意・・・」

 マフラーを巻いた女性が手を振り上げて、まわりの兵士たちに合図する。
 それに呼応して、黒い集団がいっせいに武器を取り出して構えを取った。

「違うぞ・・・」
「「え?」」
「そいつらは、帝国の兵士じゃないっ!」
「なに・・・!?」

 全員がアズリアの声に反応した。
 しかし、それを聞いたところで自分たちからすればこれから訪れる結果変わらない。


「・・・いけ!」

 マフラーを巻いた女性が手を振り下ろし兵士たちに命令を下す。
 その瞬間、1つの悲鳴が上がったのだった。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第33話  無色





「!?」

 次々に白い服を来た帝国の兵士たちが血を流して地に伏していく。
 突然の出来事に身体が動かすことすらできず、ただ目の前の光景を凝視していた。

「な、なんで・・・どうして、味方を攻撃すんのよ!?」
「ヒヒヒヒ、そりゃあ味方じゃねェからさ。お嬢ちゃん?」

 ソノラの声にビジュが薄笑いを浮かべて答えた。
 アズリアの言うとおり、彼らが帝国軍人ではなく、他の集団だということ。
 そして、彼らからすれば帝国軍も、自分たちもひっくるめて敵として認識しているのだ。

「僕の部隊は僕の味方さ。援軍だなんて、一言も言ってないってば」
「な・・・っ!?」

 イスラはギャレオの顔を見て笑う。
 話している間にも帝国兵が必死で応戦していてのだが、先刻の戦闘で傷を負っていたためかまったく彼らに歯が立たない。
 ある者は肩口から腰までを一直線に斬り裂かれ、ある者は胸を一突きにされ、ある者は首を掻っ切られて次々と力を失い倒れ伏していく。
 そのときには、もうの思考から恐怖という二文字が吹き飛び、

「おい、イスラ・・・」
「なんだい?ジャマしないでよね、今いいところなんだから」
「今すぐアレを止めろ!」

 早く!

 怒りへとその姿を変えていた。
 イスラは言い寄るを一瞥して、虐殺を繰り返す黒い兵士たちへ声援を送る。
 肩を揺さぶり無理やり顔を向けさせると、彼は嘲笑を顔に貼り付けて、

「何言ってんのさ? 僕には君の命令を聞く筋合いなんてないのにさ」

 満足そうに高笑いをした。
 それを聞いたはイスラw軽く突き飛ばして地面に視線を向け身体を震わせたのだった。





「刻まれし痛苦と共に汝の為すべき誓約の意味をさとるべし」

 白い法衣に身を包んだ女性の持つ紫色のサモナイト石が淡い光を放つ。

「霊界の下僕よ・・・愚者どもを引き裂いてその忠誠を盟主へと示しなさい!!」

 声と共に馬に乗り突撃槍を携えている召喚獣が現れて、命令どおりに兵士たちを容赦なく貫き、引き裂いていく。
 大量の血が空中を舞った。

「だずげ・・・っ、げ、ふぁ・・・っ!?」

 生徒たちの目の前で1人の兵士が黒服の1人に身体を貫かれた。
 うめき声を上げてその兵士は動かなくなった。

「あ、ああぁ・・・っ」
「ああ、ああ・・・」
「イヤアァァァッ!!」
「うっ・・・」

 生徒たちはそれを見て悲鳴をあげ、吐き気を訴える。
 アティとレックスはあわてて、4人の目を隠した。

「4人とも、見ちゃダメだッ!!」

 レックスが声を張り上げるが、時すでに遅し。
 腰が抜けたように地面に座り込んでしまった。
 悔しそうに表情をゆがませ、座り込んだ4人を抱きしめる。
 歯噛むレックスの唇は切れて、一筋の血を流していた。

「これだよ。これこそが、本物の戦場ってヤツさ」

 召喚術が直撃する音や、剣戟の中でイスラは手を広げて、笑みを浮かべる。

「強い者が、弱い者からなにもかも奪い取る。単純で、明快な真実。君たちのやってきた戦争ごっことは違う! 綺麗事なんて意味ない世界なんだよ!!」

 力なくアズリアがイスラに近づく。

「やめさせて・・・やめさせて・・・」

 小さな声で語りかける。
 しかし、その声が彼に届くことはないのだ。





 1人の剣士が刀を振るう。
 マフラーを巻いた女性がすばやい動きで目の前の兵士の首を掻っ切る。

 これは、戦場じゃない。どう見ても虐殺に他ならない。
 スプラッタな光景など今までに見たことなどあるわけがない。は、初めて虐殺というものを目の当たりにしていた。

「う・・・っ」

 吐き気がこみあげる。




「目障りなものはこの際、まとめて排除するって、もう決めたんだもの」
「お前が止めないなら・・・力ずくで、止めるだけだッ!!」

 アズリアの頼みも聞かず、イスラは笑った。
 そんな彼に向けて声を荒げ、ギャレオは満身創痍に近い姿のまま惨劇の中へと身を投じる。

「・・・っ」
「マスター!!」

 は刀を抜き放ち、走り出す。
 ユエルが呼び止めるが、聞こえないふりをした。
 自分が立てた誓いを、ここまでぐちゃぐちゃにされた・・・否、惨劇を目の当たりにして動けずにいた自分にはとにかく腹を立てていた。

「・・・絶対に、止めて見せます!!」
「こんなこと、許しちゃいけないんだ!!」

 4人を慰め、抱き込んでいた腕を開放してアティとレックスがに続いて走り出す。

「俺たちも行くぞッ!!」

 カイルの号令でカイル一家も戦場という名の赤い大地へと身を投じた。
 イスラはそれを見て、満足そうな顔をして笑みを浮かべていたのだった。





「うわああああッ!!」

 がむしゃらに刀を振るう。
 が近づくと、黒服の兵士たちは彼に気づいて猛然と襲い掛かる。
 相手は訓練された帝国兵をも軽々と駆逐するほどの手練。肉体的にも精神的にもボロボロの自分には太刀打ちできないのではないか、といった思考を凝らすが、今はただ怒りに身を任せて行動している。

「お前らなんかに・・・負けてたまるかぁっ!!」

 攻撃を紙一重でかわし、刀を薙いで攻撃を加える。
 もちろん、刃は立ててあるので、兵士たちは血を流して倒れていった。
 返り血に臆することなく、ただ目の前の赤い大地を疾駆する。

「!?」

 目の前に立ちはだかる兵士をものともせずに、身を翻し刀を振るった。
 数人の兵士たちを地に斬り伏せると、次に目の前に現れたのは剣士だった。浴衣に近い薄手の着物で身を包み、右手は鞘に納まっている刀の柄を、左手を腰の鞘に添えて腰を落とした。
 は放たれる威圧に構うことなくその剣士に向かって刀を振るう。
 剣士は顔色一つ変えずに抜刀し、受け止めた。

「・・・いい太刀筋をしている」
「太刀筋なんかどうでもいい・・・今すぐ他の奴らをやめさせろ!」
「・・・」

 剣士は力をこめて交わった刀をはじき返すと、はある程度距離をおいて剣士と対峙した。
 途中、背後から奇声をあげて斬りかかってくる兵士がいたが、難なくそれを斬り伏せた。
 無論、殺すつもりなどない。ただ、再起不能にさえなればいいのだ。

「人を殺すことに戸惑いはないのか?」
「殺してなんかいない。今の奴だってまだ生きてる」

 俺は無表情のまま淡々と答える。
 剣士は、口元に手を当てた。

「俺は・・・お前らとは違う」
「・・・・・・」
「無差別に殺しまわっている、お前らとは違うんだッ!!」

 刀の柄を両手で握り、振りかざして剣士に向かっていく。

「!!」

 剣士は刀を鞘に納めて自らの身体を前方に軽く傾けると、柄に手を添えた。
 抜刀術の構え。眉を吊り上げて己の間合いに入るまで、その構えを説くことはなく。
 間合いに入ったところで、の斬撃より疾く、勢いよく鞘を走らせて刀を抜き放った。

「!?」

 すると、剣士のまわりの草がざわめき、カサカサと音を立てる。
 そして次の瞬間、斬撃がを襲った。

「・・・っ!?」
「腕はたつようだが、まだまだ未熟」

 胸元から血を流し地面に手をつけ、顔を上げる。傷口から察するに、致命傷ではないだろうが動くことはできないだろう。
 視線の先には、腕組みをし周囲を見回す剣士がたたずんでいた。
 黒い集団のほとんどがレックスやアティ、カイル一家や護人によって倒されていた。
 倒れている白と黒が、夕日に照らされて赤い大地に影を伸ばしている。

「・・・どうやら頃合のようだな」
「なんだと・・・」

 剣士はそれだけ言うと刀をしまって歩いていってしまった。

「・・・っ」




 何もできなかった。
 兵士たちは倒したが、あの剣士のような人間にはほとんど歯が立たなかった。
 それどころか、自分はあの剣士に生かされた。

 自分は無力だ。
 以前となにも変わっちゃいない。
 強くなったと思っていたのは、ただの自惚れだ。

「ちくしょう・・・ちくしょう・・・ちくしょ・・・っ!」

 身体を震わせて涙を流した。










「しゃべれる程度には手加減しといた。ぶっ殺したい気分ではあるんだがな」

 カイルが敵の1人の襟首をつかみ、持ち上げる。

「さあ、答えやがれ!?お前ら、いったいなにも・・・」

 眉をつりあげて敵兵士に問う。しかし、当の兵士はなにも言わない。
 それどころか、笑みを浮かべていた。

 カイル目を丸め、言いかけていた言葉が途切れる。
 彼の視線の先・・・兵士の手には、拳大くらいの黒い物体を持っていた。

「新たなる世界にッ!! 勝利と栄光ををォッ!!」

 そう叫ぶと、その物体に点火する。
 黒い物体の正体は、火薬のたっぷり詰まった、爆弾だった。

「な・・・っ」
「いけない!カイルさん!!」

 シャアアァァッ!という奇声と共に、自爆を敢行したのだ。
 轟音と砂煙が舞い、目の前にいたカイルを包み込む。

「ジバク、ダト・・・」
「逸脱してる・・・こんな戦法、本気で実行するなんて・・・」
「こいつらにとっては当たり前のことよ」

 驚きの表情を隠せない護人たちの横でスカーレルがつぶやいていた。
 涙をぬぐって仲間の所へと走る。

 いつまでも泣いてはいられない。あのときとは、違うんだ。

 そう自分に言い聞かせながら。



「目的を殺すためなら手段を選ばない。命さえ武器にする。『紅き手袋』の暗殺者にはね!」
「暗殺者・・・兵士かなにかじゃなかったのか・・・」
「『紅き手袋』ってたしか・・・」

 ヤードが険しい顔をして答えた。

 『紅き手袋』とは、この世界リィンバウムの大陸全土にまたがる犯罪組織。
 血染めの手袋を由来とした名前なのだという。

「犯罪組織・・・」

 のいた世界では、ありえない組織だ。
 犯罪を犯す人間など、限られていたから。

「なんで・・・知ってんだよ・・・お前ら、どうしてこいつらの正体知ってるんだよ!?」

 カイルの問いにスカーレルは答えない。
 かわりにヤードが答えようとしていたときだった。

「ぎゃあああっ!!」

 帝国兵の悲鳴がこだまする。
 倒れる兵士の目の前には短剣にこびりついた血を払い落とす女性の姿が見て取れた。

「雑魚の始末はこれでおしまい」

 女性は表情を少しも変えずに、つぶやいた。

「ヒヒッ、寄せ集めの部隊なんて、所詮はこんなもんよォ」
「ビジュぅぅッ!!貴様が、それを口にするかアァァッ!?」

 ビジュの言葉に激昂したギャレオが自らの拳を振るう。
 しかし、かわされた拳は空を切ると、度重なる戦闘で疲労したギャレオは自らの力に耐え切れずたたらを踏んだ。

「おっと・・・まあ、そんなに熱くならないでよ? どうせ、玉砕覚悟の戦いだったんだからさ。殺される相手が違っただけのことじゃない」

 イスラがはははっ、と笑う。
 肩ひざをついて息を荒げるギャレオは、歯を食いしばって彼をにらみつけていた。



「それより、静粛に。今から、式典が始まるんだからね」
「式典、だと・・・」

 イスラは自らの姉を見て表情を崩さずに話す。

「そうさ、姉さん。病気で苦しんでいた僕に、生きるための方法を教えてくれた偉大な力の持ち主。この血染めの宴の主賓が登場するのさ」
「主賓・・・?」

 イスラは輝く夕日の方角に向き直る。
 夕日をバックに、黒い影がぽつんと1つ映っていた。
 たたずむの足元までその影は伸び、すぐ近くまできていることを示していた。

「誰かが・・・来る・・・夕陽の向こうから誰かが・・・」

 レックスのつぶやきに、まわりは武器を構える。
 大きな影を作って、その主賓が登場した。




「ようやく、ここまでこぎつけたか・・・ゴミどもの始末、存外手間どったものだ。待ちかねたぞ?」




 小さな丸メガネにオールバックにした長い黒髪。
 召喚師だろう黒を基調としたローブを纏ったその男は、くくくっと笑みを浮かべていた。



「もうしわけ、ございません」

 謝るマフラーの女性に男はよかろう、と口にする。
 手招きをする白い法衣を着た女性の元へと歩み寄り、閉じていた目を見開いたのだった。

「・・・っ」

 なんという威圧感。
 その場にいるだけなのに、思わず逃げ出したくなる。
 それは周囲の仲間も同じようで、おびただしいほどの冷や汗が頬を伝った。
 中でもヤードは驚愕を露わにし、身体を小刻みに震わせていた。

「どうしたの、ヤード。顔、真っ青だよ!?」
「まさか、直々に出向いてくるなんて、そんな・・・!?」

 ソノラの問いを聞かずに、ヤードが表情を変えず呟く。
 スカーレルは嬉しそうに笑みを浮かべて男を見つめていた。



 イスラはどこだ? という男の言葉にすぐさま本人が名乗り出る。
 そしてくっくっく、と笑ってイスラをねぎらった。

「ありがたきお言葉、感謝にたえません。そして・・・遠路よりのお越し、心より歓迎いたします。オルドレイクさま」

「オルドレイク・・・」

 その男の名前。
 あたりまえだが、初めて聞く名前である。




「控えなさい、下等なるケダモノどもよ!」

 突如、オルドレイクの隣にいた法衣の女性が一歩踏み出して、声を張り上げた。

「この御方こそ、お前たち召喚獣の主。この島を継ぐためにお越しになられた無色の派閥の大幹部、セルボルト家のオルドレイク様です!」

 その声に護人たちの顔が今までよりさらに険しくなった。
 セルボルト家のオルドレイク、という名前に心当たりでもあるのだろう。その表情は、自分たちにとってよくない名前であることを如実に示していた。

「今頃になって・・・まだ、出しゃばってくるかよッ!?」

 ヤッファが声を上げる。
 オルドレイクは一歩前に進み出ると、一礼をした。

「我はオルドレイク。無色の派閥の大幹部にして、セルボルト家の当主なり・・・始祖の残した遺産、門と剣を受け取りにこの地へとまかりこした」

 頭を上げたオルドレイクはニヤッと笑みをうかべる。
 それは良心的な笑みとは違う、自分たちを蔑んだ嘲笑だった。

「それがどうしたッ!?」

 突然。ギャレオが声を上げた。

「ゴミだ? 雑魚だ? 目障りだ? 貴様らに、そんな扱いを受けるいわれがあるものか・・・」

 ギャレオは拳を震わせて叫んだ。

「帝国軍人を・・・ナメるなあアァッ!!」

 猛然とオルドレイクに走りよる。
 アズリアの制止の叫びも聞かずにギャレオはオルドレイクをかばうように現れた剣士の斬撃を受け、その場に崩れ落ちた。

「武器も、技量もその程度では結果など知れている。己の技量を恥じて、出直すがいい!!」

 そう言った剣士は倒れたギャレオの腹を蹴り飛ばす。
 彼の巨体は虚空を舞い、アズリアの前にドスンと音をたてて地面に叩きつけられた。

 アズリアはあわててギャレオのところに駆け寄る。

「さすがはウィゼル。その剣の冴え、実に頼もしいな」

 剣士の名前はウィゼルというようだ。
 頼もしいな、と言葉を放つオルドレイクを一瞥すると、目を閉じて鼻を鳴らす。

「お前を喜ばせるために振るったわけではない」

 そう言葉を紡いだ。
 オルドレイクはそれに動じることなく、ふふふ、と笑った。

「さて、まずは剣のほうから受け取ることとしようか」

 そう言うと、彼は1人歩き出す。
 すると、オルドレイクの魔力に感化されたのかシャルトスの持ち主であるアティの輪郭が淡く光った。
 彼女を見やり、オルドレイクは笑みを浮かべる。

「お前が、そうだな?」
「来ないで・・・っ」

 アティはおびえながらも抜剣する。
 彼女の姿が変わっていった。

「おお、素晴らしいぞ。解き放たれた魔力が心地よく、吹き付けてくるではないか」

 吹き付けられた魔力に動じることなく、アティに近づいていった。
 アティはさらに表情をゆがめるとシャルトスを振り上げて、

「来ないでええぇっ!!」

 叫ぶと同時に剣を振るった。
 轟音とともにあたりに砂煙が舞う。しかし、

「どうした?それで、終わりか?」

 砂が舞う中、オルドレイクは悠然と立っていた。
 しかも、傷一つついていない。

「うそ・・・」
「あの一撃を受けて、無傷というのか!?」
「違うわ・・・やつの結界が強大なだけじゃ、ああはならない・・・」

 ヤッファはなにかに気づいたようにアティを見つめた。




「どこを狙っているのだ。そんな有様では私から逃げられぬぞ」

 視線の先に、おびえたアティと笑みを浮かべるオルドレイクがいる。
 それを見て、気が付いたのはキュウマだった。

「できないんだ・・・あの人には・・・戦う相手の身まで案じる優しさをもったアティ殿には・・・確実に命を奪う一撃をくり出すことなどできないんだ!」

 ミスミさまが加勢に向かうが、マフラーの女性に止められる。
 その隣で法衣の女性によってサモナイト石に魔力を注がれ、淡い光を帯びる。

「あの御方の大望を阻む者は、妻であるこの私が・・・」
「・・・どけ」
「・・・ッ!?」

 言い放つ彼女の手元に向けては刀を振るう。
 鞘に入ったままだったので斬ることはなかったが、手のサモナイト石をはじくことができた。

ッ!」
「お前ら、ジャマなんだよ・・・」

 隣のマフラーの女性も刀で鞘に入れたまま殴りつける。
 突然の行動に、彼女は思わずたたらを踏んだ。

「みんな」

 背後の仲間たちに声を掛ける。
 首を軽くひねり、背後を見やると。

「俺が道を作るから、アティを助けるんだ」
「・・・させないっ!!」

 そう告げたところでマフラーの女性が短剣を抜き、斬りつける。
 それを軽々と避けて、さらに打撃を加えた。

「・・・ッ!?」
「行くぞッ!!」

 を先頭に走り出す。
 仲間たちは、彼の後ろを着いてきてくれているようで、複数の足音が耳に入ってきていた。







 アティは力を使い果たし、肩で息をしながら元の姿に戻った。
 オルドレイクはそれを見て含み笑う。

「いかに優れた道具でも、使い手がこれでは宝のもち腐れよな」

 オルドレイクのサモナイト石が光る。
 詠唱を紡ぎ、召喚術が発動しようと明滅したところで。

「・・・っ!?」

 甲高い音をたてての刀とオルドレイクの剣が交差した。
 彼の手にあるサモナイト石は光を失い、ぽとりと地面に落ちていく。
 そのスキに、カイルがつかれきっているアティを担ぎ上げた。

「カイル、行けッ!」
の言う通りだッ!!この血まみれの戦場に、お前たちの居場所などどこにもありはしない!」

 アズリアがの隣で声を荒げる。

「かしましいぞ・・・帝国の犬に、ただのはぐれが・・・」

 剣をはじいたオルドレイクはサモナイト石を掲げる。

「矯正してやろう!」
「させるかぁっ!」

 声とともにはオルドレイクの懐に入り込み、刀を振るった。

「ぐっ!?」

 手に打撃を与えられ、うめく。
 鞘に入ったままの刀をオルドレイクに突きつけると、

「ふがいない自分が悔しい。俺は、仲間を守るためにここにいる。それなのに・・・」

 そこで息を吸いなおし、オルドレイクをにらみつけた。

「動けなかった自分に腹をたてているんだッ!!」

 刀を抜く。
 夕日に当てられて刀身が光る

 オルドレイクはそれを見て目を丸くした。

「お前は、ここで殺す」
「「・・・!?」」



 息を呑むレックスとアティの声を俺は聞かずに、刀をゆっくりと振り上げた。


「マスター、やめてーッ!!」







 ユエルの声が、戦場に響き渡った。








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