――扉はひとつ
――されども
――鍵は
――ふたつ
「!?」
「アティ!」
”勝てる・・・”
そう感じた矢先のできごとだった。
レックスの声で現実に引き戻される。
帝国兵の大半はすでに戦闘不能。
主に気絶している者、ケガで動けないもの。
仲間たちは敵の数の多さに、かなり疲労しているようだ。
みんながみんな、肩で息をしてるのがわかる。
私は、レックスの声で自分へと向かってきていた兵士に気づいた。
剣を振りかざし、今にも振り下ろさんと力をこめている。
「・・・っ!」
私は身をかがめ、無防備になっている腹部へ思い切り体当たりをして距離を作った。
彼がよろめいたところを、とユエルが同時に攻撃。
気絶させた。
「アティせんせい!こんなときにボーっとしちゃ、だめだよ?」
「まだ敵はいるんだからな」
「そうでしたね・・・」
パン、パン、と自分の顔を両手で叩き、気合を入れ剣を構えた。
そのときだった。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第30話 紅
アティを叱咤する。
彼女は両手で軽く自分の顔を叩いて、気合を入れているのが見える。
敵兵の数も大分減ってきているが、こちらの状況もよろしくないようだ。
まわりを見回すと、ヤードを筆頭とした召喚術を中心に戦う者は、魔力切れで立っているだけの力しか残っていないようだ。
レックスやカイルなどの武器を持って戦う者は疲労が顔に浮き出ているのがわかる。
疲れているのは、も同じだった。
初陣であるスバルも額の汗を強引に拭い、肩で息をしている。
襲い掛かってくる帝国兵をかわして武器を破壊する。
「はあっ!!」
武器を失ったところへ自らの拳を叩き込み、気絶させる。
彼らは、これで戦闘を続行するのは不可能だった。
「剣がなくたってみんなと一緒ならどんな困難にだって勝て・・・!?」
アティが言葉を紡ぐ。
しかし、それは途中で止まり、固い表情へと変化していく。
表情がこわばった。
「アティ?」
声をかける。
しかし、なんの反応も見せない。
身体が小刻みに震えているようだ。
「アティっ!!」
さらに呼びかけ、肩をつかんで前後にゆする。
しかし、まったく反応を見せない。
「この感覚・・・っ」
「しっかりしろっ!アティ!」
近くにいたカイルも叫ぶ。
はさらに強く肩をゆすって声をかける。
「あああぁぁぁっ!?」
突如、ゆする手を振り払って自分を抱く感じに腕を回す。
悲鳴と共に、アティの身体から淡い緑の光が発せられた。
「「「「先生っ!?」」」」
「アティっ!?」
ナップが
ベルフラウが
ウィルが
アリーゼが
そして、レックスが叫んだ。
それは、彼女が抜剣したときの光と酷似していて。
光が消えたその先、そこには碧の賢帝 ―― シャルトスを右手に携えたアティが立っていたのだった。
「けっ!なァにが剣は封印した、だよ・・・えェ?テメエが、その手に握ってるシロモノはなんだってんだッ!?」
「ち、違うんです!?こんなはずは・・・喚ぶつもりは無かったのに、どうして!?」
罵倒するビジュに正気に戻ったアティは弁解をしようとする。
しかし、それは急に起こった地震によって阻まれた。
「じじっ、地震ッ!?」
「大地の鳴動と雷雲、バカな!?これではまるで・・・」
「船の時と、まったく同じだなんて!?」
船の時。
はその時の様子を知らない。
そのときの状況を言葉越しに教えてもらっただけだった。
そんな中で、一つだけわかることがあった。
それは・・・島を包む紅。
「これも貴様の仕業か!アティッ!?」
「違います!?私は、剣の力を使ってなんて・・・」
すごむギャレオにアティは手と首を振って否定した。
「冗談よせよ・・・オレたちは、この手で封印を・・・」
「なによ、アレ!?」
ヤッファが驚愕に満ちた表情をする。
スカーレルは空を指差す。
その先には血のような光の柱だった。
「遺跡から・・紅い、光の柱が・・・」
「血の色だぜ・・・まるで・・・」
「『紅の暴君』・・・キルスレス、か?」
ヤッファの言葉には口をはさんだ。
目を丸めて視界に入れるが、彼はヤッファを見ることはなく。
立ち上る紅い紅い光の柱を眺めていたのだった。
「・・・ってお前、なんでそのこと・・・」
「『紅の暴君』、っていうくらいなんだ。アティの剣が・・・『碧の賢帝』であるように・・・」
アティの剣であるシャルトスは碧の光を放つ。
それと同じではないかと踏み、導き出された結果である。
「あの血のように紅い光り・・・まさしく『【紅】の暴君』だろ、あれは」
「!?」
アティはその光を見ながら、元に戻る。
緑色の光が消え、まわりは赤一色に染まっていく。
「いったい、この島でなにが起こっているんだッ!?」
「わかりません・・・あれがなんなのか、どうなってしまうのか。自分にも、なにも・・・」
とヤッファの声はヤードたちには届いていない。
彼自身の考えもあくまで推測なので、ここで口に出して騒ぎにするわけにはいかない。
「マスター・・・あの光、こわいよ・・・」
ユエルは耳をぴったりと頭にくっつけて震えている。
の隣へ歩みよると、彼の服をきゅっと、握ったのだった。
紅い光が消え元の空に戻ったのは、すぐ後のこと。
「総員、撤退する!どのみち、これ以上の戦闘続行は無理だ!」
「り、了解!」
アズリアはなにごともなかったかのように、自らの部下に命令を下した。
その声に、レックスとアティは我に返り、彼女を視界に入れる。
「「アズリア!?」」
「貴様の仕業であろうとなかろうと、関係ない。そこに剣がある限り私は、貴様からそれを奪回してみせる」
2人の悲しげな顔を見て少し顔をゆがめたようだが、それを押し戻し、無表情を作る。
「次が・・・最後だ!!」
アズリアはこちらへ剣を向けて叫んだ。
月の光に刀身が反射する。
帝国軍は倒れた兵士たちを連れて森の中に消えて行ったのだった。
「・・・・・・」
夜中。
あれから一言も言葉を交わすことなく船に戻ってきた。
その場にいた全員が浮かない顔をしていた。
特に、アティの落ち込み具合は郡を抜いていて。
見ていて悲しくなってしまうような表情をしていた。
なぜ、封印したはずの剣が自分の手に収まっていたのだろう?
こんなときでも、変わることなく夜空に輝く星を見つめ、はため息をつく。
「いかん」
ぶんぶんと首を振る。
弱気になってしまってはダメだ。
俺がなにかあったというわけではないのに。
俺なんかより、アティの方がつらいはずなのに。
そんなことを考え、は上体を起こすと気合をいれて立ち上がる。
明日はきっと大丈夫。
アティも、他のみんなも強い。
こんなことでへこんだりなんかしない。
は自分にそう言い聞かせて、部屋に戻ったのだった。
これから先、きっと大変なことが待ち受けている。
そんな、予感がする。
多くの生き物が死ぬかもしれない。
そんな中で俺は、俺たちはこの島を・・・仲間と共に守ることができるだろうか ―――
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