「むむむむ・・・」
は頭を抱えた。
青空の下、行われているのは歴史の授業。今現在、青空学校の授業時間なのだった。
先刻から、アティが黒板にせっせと文字を書いている。
決して、それが読めないわけではない。
それでは、何に頭を抱えていたのかと言えば・・・
その内容に頭を抱えていたのだった。
「ちっともわからん・・・」
誰にも聞こえぬよう、極力小さな声をもらす。
視線だけを黒板に向け、顔は机代わりに使っている切り株の表面と向かい合っていた。
必然的に上目遣いになるのだが、そんなことは気にするようなことではない。
両隣には、ナップとベルフラウ。
前にはパナシェ。
ちらちらと横を見ると、ナップもベルフラウも真剣にアティの話に耳を傾けていた。
所在なさげに瞳を左右に動かし、十数秒。
はまどろみの中へどっぷりとはまり込もうとしていた。
「くん」
意識が飛んでいく・・・
「くん!?」
「兄さん・・・」
誰かが俺を呼んでいる・・・
「起きなさ〜いっ!?」
「うわあっ!」
の脳天に狙い、アティは手に持っていたチョークを思い切り投擲。
それは見事に彼の頭に命中した。
突然の衝撃に意識が覚醒し、キョロキョロと周囲をうかがう。
必死に動かしていた視線をある一点で止める。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
アティが笑う。
つられても苦笑いを浮かべた。
「いたいじゃないか・・・」
「授業を聞かないで寝ているあなたが悪いんですよ!」
通りでさっきから記憶があいまいだと思った。
ふむ、と視線を泳がせると、気づいたかのように目を丸めた。
「そうか、俺・・・寝ちゃってたのか・・・」
「「気づけよッ!!」」
タイミングよくナップとスバルがツッコミを入れていた。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第24話 遺跡
「宿題にしておいた作文。忘れずに持って来るんだよ」
「はーい!」
スバルとパナシェの2人はレックスの忠告に元気よく返事をして帰っていった。
そんな中では一人、アティの監視の元で切り株の上に正座をさせられていた。
「むー・・・」
「マスター、何やってるの・・・?」
「・・・罰」
まるでさらし者だ。
そんなことを考えていると、視界の隅でナップがを見てヒヒヒと笑っていた。
「罰?」
「授業中に寝ていたんです」
「うぐぐ・・・」
はますます頭を下げた。
「だからゴメンって・・・」
やっていることがどうにもわからなかったんです、と意味もなく敬語で話す。
「だったら、近くにいたレックスにでも周りの子供たちにでも聞けばよかったじゃないですか」
「聞こうとは思ったんだけど・・・隣にいたナップもベルフラウも真剣そうに聞いていたから気が引けちゃって・・・」
そう弁解すると、仕方ないですねえ、と言って許しを得ることができた。
「ああ、大変な目にあってしまった・・・」
「マスターが悪いんだよ?」
ユエルに真実を口にし、にいっと笑った。
思わず口篭もる。
「ま、まあ・・・その、なんだ・・・」
冷や汗をかきながらどう切り抜けようか考えをめぐらす。
「と、とりあえず船に戻る!うん、そうしよう!」
「あー、待ってぇー!!」
は早歩きで船に戻った。
ユエルは置いてけぼりをくらいそうになり、駆け足で彼の後をついてきたのだった。
「・・・ダメっ!やっぱり、アタシ耐えられないっ!」
「今さら、泣き言なんて聞く耳もちまへんで」
「ふふふふ・・・さあ、観念しな?」
船に戻ると、なぜかカイルとオウキーニがスカーレルに詰め寄っている。
「三人とも、なにやってるんだよ・・・?」
「ああっ!、ユエルぅ〜・・・ちょうどいいところに!助けてよぉ〜っ!」
スカーレルは地面にぺたんと座り込むと、すすり泣くしぐさをした。
「カイルたちったらいやがるアタシに無理矢理・・・」
「気色の悪い言い方をするんじゃねえ!」
スカーレルの発言にカイルが軽く怒鳴った。
「ウチらはただ、こいつを食べてもらおうとしただけなんですって」
そう言ってオウキーニは手に持った皿をの前に差し出す。
皿の上には、うねうねと動く赤い物体が乗せてあった。
赤い表面、鼻腔をくすぐるこの香り。そして、表面に目立つ丸い吸盤。
「これは・・・」
「タコだぜ?」
「ゆでダコですわ」
カイルたちの後ろをみると、大きな鍋にタコが丸ごとゆでられており、鍋から頭と数本の足がのぞいている。
皿の上にあるのはその一部のようだ。
「久しぶりだなぁ・・・まさかこっちの世界にもタコがいるとは」
「の世界にもタコがいるの!?」
「うん、もちろん食用だぞ。しかし、うまそうだなぁ・・・」
の発言にカイルたちは顔を輝かせた。
それを尻目に一つつまんで口に運んだ。
「あぁ〜、食べちゃったぁ〜・・・」
スカーレルは絶望に打ちひしがれたような顔をした。
「うん、うまい!」
「おっ!?お前、いけるクチだな!」
ユエルもつまんで口の中にほおりこむと、頬に手を当てて笑顔を見せた。
「おいしい!」
「そうでっしゃろ!?」
「スカーレルも食べればいいのに。うねうね動いてるから、見た目で食べる気が失せるかもだけど、騙されたと思って食べてみなって。・・・うまいぞぉ〜」
スカーレルの前に一つ差し出す。
カイルたちも一緒になって詰め寄った。
「きゃあぁぁぁっ!イヤあぁぁぁ〜っ!!」
「五人とも・・・なにしてるんだ?」
「ああっ、センセ。助けてよぉ〜っ!」
授業を終えたレックスたちが戻ってきたようだ。
生徒を含めた6人が全員、3人の男が1人のオカマに言い寄っているという光景に呆れたような目をしていた。
「ああ、これ。これをスカーレルに食べさせようとしてたんだよ」
はレックスたちの前にタコの乗った皿を差し出す。
「その、赤くてふにゃふにゃしたシロモノは・・・」
差し出されたそれを見てアティがつぶやく。
その瞬間、6人とも変なものを見るかのようにあとずさった。
「そんな気色の悪いもの、絶対にアタシ食べないからッ!」
スカーレルが奇声を上げる。
「なに言いますの!?見てくれで判断してたら、タコに失礼でっせ!」
「そうだぜ?歯ごたえがあってなかなかイケるのに」
「ああ、まったくだ。もったいないじゃないか」
カイルとはタコを一つ口に入れる。
潮の味が口に広がった。
「た、食べてます・・・思いっきり・・・」
「ほれ、レックス、アティ。お前たちもどうだ?」
カイルの発言に2人とも必死に首を振る。
「でしょ!?普通は、食べたりしないわよねっ!?」
スカーレルは顔を仲間を見つけたかのように顔を輝かせた。
「ほら、君らもどう?」
「「「いいです・・・」」」
「じゃあ、一つだけ・・・いただきますわ」
生徒たちの前に皿を持っていくと、ベルフラウ以外は首を振る。
ベルフラウは、タコをつまんで口に入れた。
「あら、なかなかイケるじゃない、これ」
予想外の言葉をベルフラウは口走り、生徒一同目を丸めた。
「ベル、ほんとにおいしいの?それ・・・」
「ええ、なかなか歯ごたえがあって・・・」
みなさんもだまされたと思って食べるといいですわ、と皿を差し出す。
しかし、今度は全員が首+手を振って拒否した。
「もったいねえなあ。こんなにうまいのに」
「ホンマですわ」
そう言ってさらに一つタコを口に入れたカイルとオウキーニ。
彼らにアティが「見た目がちょっと・・・」という指摘をした。
それを聞いたオウキーニはタコをかみつつ首をひねっていた。
「まったく、こんなんで食べるのイヤがってたら、サバイバル生活なんてできないだろうなぁ。俺のいた世界には、食用のミミズやカエルなんかもあるんだぞ?」
「か、カエル・・・」
「ミミズぅっ!?」
さらに勢いよく後ずさったのはタコを拒否した一同。
「マジかっ!?」
「一度、料理してみたいですわvvv」
歓声を上げたのはタコ愛好派の2人だったのは言うまでもない。
「みなさん、お話があります」
タコ騒動もなりを潜めて、時刻はすでに昼下がり。
アティの呼びかけででを含む全員が船長室に集まっていた。
彼女は先ほど遺跡で起こった出来事を話して聞かせ、『護人や島の住人には何も言わずに俺たちだけで遺跡の調査をしたい』と言い出した。
レックスもアティの話した内容をすでに知っているのか、彼女と共に話す側にまわっている。
「でも、本当にいいの?そんな所に、勝手にあたしたちだけで入ったりして」
護人さんたちに見つかったらマズいんじゃない?
ソノラがさも当然のように2人に向けて疑問を投げかける。
だが、彼女はすでに決意しているかのような真剣な眼差しで、
「それでも、私は真実を知りたい・・・彼らは、私たちをまきこみたくなくて真実を隠してきました。そのせいで、傷つきつらい思いをたくさん味わって・・・」
そんなのは、私はイヤです・・・そう答えた。
「それは俺も同じ気持ちだ。なにも知らないまま誰かを傷つけてしまうくらいなら・・・全てを知ったうえで自分自身が、傷つくほうが、ずっといい!」
レックスも半分怒鳴っているかのように話し、周囲を見回す。
彼の視界に入らないような場所を陣取っていたは笑顔を浮かべた。
「君たちらしいな、そういうトコ」
「自分より、他人の涙が気になって仕方がねえ・・・そうだろ?」
続いてカイルが話し、と同様に白い歯を見せて笑った。
「アタシらの目的は元々、あの剣を処分しちゃうことでしょ?」
「目的を果たすためにも私たちは、喜んで貴方に力を貸しますよ」
「そもそも、客人をほっぽっとくわけにはいかないじゃん?」
カイル一家は喜んで賛成した。
生徒たちも行く気満々だと言わんばかりに口々と意気込む。
「ユエルはマスターの行くトコならどこでも行くよ!」
「ユエル・・・」
ユエルも多少理由が違えど、行くことに同意。
満場一致で遺跡へ向かうことに決まった。
「だけど、先生の剣がこの島の遺跡の鍵になっちゃうとはねー」
遺跡へ向かう途中。
ソノラがこんな言葉を口走った。
「剣に封じられていた強大な魔力も、そのためのものだったんでしょうね・・・」
あるいは、あの嵐が私たちをこの島に導いたのも・・・
ヤードはそうつぶやくと考え込むように視線を地面に向ける。
「封印を解くために遺跡が喚び寄せたってことかしら?」
スカーレルの意見にあいまいながらヤードは同意をした。
「だけど、そう考えれば剣の意志が、しきりに私に語りかけるのも納得できるかも」
「なんにしても、あんまり楽しい話じゃねえな、ったくよ・・・」
カイルがつぶやく。
するとスカーレルはなにかに気づいたかのように手を叩いた。
「不愉快ついでっていったら、なんだけど、もう片割れの剣はどうなったのかしら?」
その言葉にソノラは「あーっ!」と声を上げた。
すっかり忘れていたらしい。
自身、いろいろとありすぎて忘れかけていたから人のことを言えないのだが。
生徒たちは少し呆れ気味だった。
「帝国軍のあの様子じゃ連中が持ってるってことはなさそうだな」
「あのまま、海の底に沈んじゃったのかな?」
いろいろな意見が飛び交うが、結局のところ、片割れの剣も探し出して確実に処分するという答えに達し、そのためにもこの島を出るという結論に行き着くことで、歩きながらの会議は収束していた。
「大丈夫か?」
は難しい顔をしているアティに話し掛ける。隣のレックスも今は剣を持っていないとはいえ、他人事ではならしく、彼女同様に険しい顔をしていた。
かけられた問いに2人は大丈夫だ、と答えたが、にはとても大丈夫にには見えていなかった。しかし、2人は考えを曲げる気はないらしく、無言で歩を進めている。
「無理して、なんでも背負い込むんじゃないぞ」
は一言、前を進む2人に言葉をかけていたのだった。
「こいつが、喚起の門か」
そろってその大きな門を見上げる。
土台に固定された大きな輪が目立つ施設で、白を基調としたデザインとなっている。
ジルコーダの騒ぎの時に起こった頭痛は今はない。
「ジルコーダがわいて出てきたのは、たしかこの門のせいだったわよね・・・」
「ゲンジさんもくんも・・・いえ、元をたどればこの島に暮らしている全ての生き物はみな、この門をくぐりリィンバウムへとやって来たんですね」
「あ、そっか・・・そういえばもこの世界の人じゃなかったんだよね」
あたしたちとほとんど変わらないから、忘れちゃってたよ。
ソノラはそう言ってあははと笑った。
「って、見とれてる場合じゃないってば!?」
ソノラはゴホン、と咳払いをして呼びかける。
「今でも、この門から化け物が出てくるかもしれないんでしょ?」
この発言に、アティは確信したかのように話をした。
「碧の賢帝を抜かない限り、遺跡が反応することはないはず・・・」
引き返すんだ・・・今の君では・・・君たちでは・・・まだ・・・僕と、同じ・・・とり・・・っ
「!?」
なにか、きこえた。
ではない誰かにに向けて放った言葉。
口調から、何かに囚われているかのように苦しげだが、どこか必死であることが感じられていた。
「ほら、ぼけっとするなよな?」
ナップに諭されたアティは気を取り直してさらに遺跡の奥へ歩を進める。
もリフレインする言葉を消すために、首をぶんぶんと振って後に続いた。
「こりゃまた、随分とたいそうなモンだな」
「ずいぶん、ボロボロになっちゃってるけどやっぱ、これ・・・」
「戦争の跡よ・・・ほら、そこの草むらを見てごらんなさい」
スカーレルにそう言われ、生徒たちは指さされた草むらをのぞきこんだ。
それとほぼ同時に驚きの声を上げた。
「人の、骨・・・か。物騒だな・・・なんだかやな感じがする」
「島の中心部だけあって相当、激しい戦いがあったのでしょうね」
「こりゃ、亡霊も出て当然ってもんだわ」
全員の間に沈黙が走る。
「よお、それでこっから先のことはどうするんだ?」
カイルの問いにレックスが答えた。
「遺跡の中に入れば俺たちの知りたい情報が引き出せると思うんだけど」
「入り口は・・・あれだな」
「でも、入り口の扉はきっちり閉まったまんまだよ」
ソノラの声にアティは眉をつりあげ、目を閉じる。
彼女の周囲を緑の光が覆いはじめた。
「だいじょうぶです。こうすれば・・・」
そうつぶやいて碧の賢帝 ―― シャルトスを抜く。
かすかだった緑色の光が、抜剣したと同時にあふれだし、その光に反応したかのように音をたてて古ぼけた入り口が開いていった。
「扉が、剣の光に反応して・・・」
ナップがつぶやく。
「・・・反応したのはそっちだけじゃあ、なかったみたいよ?」
スカーレルは冷や汗を流して後ろを見つめた。
そこには全身黒いの煙のような物体、それに先ほど見た人骨がカタカタと動き出していた。
生徒たちの護衛獣であるアール、オニビ、テコ、キユピーがうなる。
ユエルも全身の毛を逆立てていた。
「ウウウゥゥゥ・・・」
ユエルも威嚇するかのようにうなる。
すると、動きだした物体たちが声を上げる。
「ウオォォォォォン!!」
それは、苦しむように。嘆いているように。
断末魔の叫びのような声だった。
「島に巣食う亡霊たち、か・・・」
「剣の力に反応するってのは、ただのフカシじゃなかったみてえだな」
「ごめんなさい。多分、こうなるってわかってたけど・・・」
アティが謝罪の言葉を口にする。
「それぐらい、こっちも承知の上ですよ」
「アタシたちはこういう時のためについてきたんだから」
「邪魔者はまとめてぶっちめてやるぜ!」
カイルの声と共にその場にいる全員が戦闘態勢を取る。
「・・・・・・・」
「・・・マスター?」
顔色が悪いのが自分でも理解できる。カタカタと身体は小刻みに震えはじめ、止まらない。
目の前にいるのはなんだ?
声をあげたのはなんだ?
これから俺たちに襲い掛かってこようとしているのはなんだ?
目を伏せる。
ユエルが心配そうにを見つめるが、もちろん彼にはわからない。
「ぞ・・・・」
「ぞ?」
身体を震わしたまま、言葉を発しようと口を動かす。
「ど、どうしたんですの?しっかりしてくださいませ、兄様っ!」
ベルフラウの声が聞こえるが、今の彼にはそれどころではない。
「ゾンビだぁーーーーっ!!!!」
『っ!?』
急に叫び声を上げるに一同は目を見開く。
「俺は・・・俺は、ゾンビだけは苦手なんだーーーーっ!!!!」
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