とユエルにレックス、アティと生徒4人。
 計8人は爆発のあったユクレス村へ走っていた。

「どうした!なにがあっ・・・た・・・」
「ヒゲおじちゃん、なにやってるの・・・?」
「あー・・・・」

 現場に到着しその光景に目にした途端、必死で駆けつけたレックスとアティも目を点にした。
 その中では1人、顔を天に向けて府抜けた声を発していた。


「がっはっはっはっは!!」


 視線の先には、けして顔色がいいとはいえないオウキーニと、彼を羽交い絞めにして高笑いをしているジャキーニの姿があった。
 さらに、2人の左右と背後にはどこから仕入れたのか、短剣や投具を携える海賊たちが歯を見せつつ笑みを浮かべていた。

「・・・なんですか、あれは」
「あの・・・ジャキーニさんの隣にいるのってオウキーニさんですよね?・・・なんで羽交い絞めにされてるんでしょうか・・・?」
「アリーゼ、それを口にしてはダメよ。あの方たちは多分・・・ホントに多分ですが、彼を人質にしてるんですわ・・・まったくと言っていいほど意味ありませんけど」
「いや、ベル・・・お前もヘンなこと口走るなって」

 おどおどとジャキーニと自分たちの先生たちを見比べるアリーゼをよそに、説明を施すベルフラウを見てナップはツッコミをいれた。


「ああ、やっぱり気がついちまったか」
「できれば、貴方の手はわずらわせたくはなかったのですが」
「いっそ、帝国軍のほうがややこしくなかったんでしょうけどね・・・」

 大きな手でガシガシと頭を掻いて、ヤッファは苦笑いを浮かべた。
 隣のヤードやスカーレルもカイルと同様である。



「わっはははははっ!どうじゃ、どうじゃ。ワシらの怒りを思い知ったか!!」



 おそらく今回の事件の主犯であろうジャキーニは、心底楽しそうに笑っていた。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜


     第23話  反則技





「「ジャキーニさん!?」」
「貴方たちが出かけてしばらくしてから急に彼らが、暴れ出したの。あの一角に陣取って通りかかる人たちへとイヤがらせをして迷惑をかけてるのよ」

 アルディラの説明にヤッファが「困ったもんだぜ」と言いつつうなだれた。

 味方を人質に取るなど、そうする意味すらわからない・・・と言うより完全に無意味だ。
 さらに島を乗っ取るとか、住人たちを手にかけるとか。そんな行為をしたわけではなく、ただ通りがかる住人にイヤがらせをしているだけとは。

「やってることが意味不明じゃないか・・・」

 何を考えてるんだろう、とは内心で思いつつ、ため息を吐いた。





「あのバカ・・・こりもせず、なんのつもりだよ?」
「どうも、本人は謀反のつもりらしいのですが」
「謀反・・・駄々をこねてるのまちがいだろ?」

 の言葉にその場がなんとも言えない妙な雰囲気に包まれる。
 一時、その空間は沈黙に包まれ、ジャキーニの笑い声だけが耳に届いていた。

「し、しかし、このまま放置しておくわけにもいきませんし・・・」
「だったら、さっさとどかしちゃおうよ?」
「できりゃあとっくにやってるさ」


 はヤッファの言葉に続くように海賊たちを指さした。
 正確にはなぜかつかまっているオウキーニを、である。

「下手な真似をしたら人質の命の保証はせんからのう!」
「た・・・たすけてええ・・・」

 カイルはため息をついた。

「あれが、人質?」
「バカだとは思ってたけど、あそこまでバカだとは、思わなかったわね・・・」
「オウキーニなんか、セリフ棒読みだし」
、今それはあまり関係ないんじゃ・・・」

 レックスがツッコミを入れるが聞いていないふりをする。
 あまりにもマヌケな状況にスカーレルは額に人差し指を当ててふう、とため息をついた。

「じゃが、本気だったらどうするつもりじゃ?」

 あの人のやることだけに、否定できない。
 ミスミに続き、ヤードがそんなことを口走る。何を考えているのかまったくわからないため、否定できない。その場の全員が口をつぐんだ。

「・・・と、そんなわけで、手のつけようがないのよ」
「はぁ・・・」

 場を取り繕うように、アルディラはゴホン、と咳払いをした。

 たぶん非常時だというのに、その場に流れる雰囲気に時間を忘れて立ち尽くしていることに気付き、も気を取り直していた。


 結局、結論として彼らの話を聞く、ということになり、ジャキーニ海賊団に向き直った。









「ジャキーニさん。どうして、こんなことしたんですか?」
「自由を勝ち取るために決まっとるわい!」

 アティの問いに間髪をいれずジャキーニは答えていた。
 ジャキーニは海賊として屈辱の日々を味わってきた、と言い切り、子分の人々も船長である彼に続いて声をあげている。

「自由な海の男であるワシらが、なぜに畑仕事に使われねばならんのか!?」
『ならんのかぁっ!?』
「そりゃ、悪さをして捕まったからでしょ?」

 スカーレルはこの言葉に間髪いれずに答えを言い渡した。
 事実を突きつけられたジャキーニはそれに臆すことなく、声を上げた。

「じゃが、それは本当に正当な敗北であったといえるのか!?」
『いえるのか!?』

 子分の方々、なんだか楽しそうに声を出している。
 高々と武器を天に突き上げ、言い切る子分たちを見て、ジャキーニは自らの剣を突きつけると、

「ワシらが負けたのは貴様らが、召喚術などという、反則技を使ったせいじゃ!」

そう言い切った。





「・・・はぁ?」
「反則技・・・」

 ヤードはその言葉に目を丸くし、唖然。

 召喚術が主流のこの世界でソレを反則技呼ばわりする人間がいるとは・・・
 はそんなことを考え、さらにため息を一つ追加した。

 カイルがどうしたいのか、と尋ねると、

「貴様らと再戦してワシらは、失われた誇りを取り戻す!そして・・・」

 ジャキーニは突きつけていた剣を、天へと向ける。

「自由の日々を勝ち取るのじゃあ!!」
『うをををぉぉぉっ!!』

 我らが船長の宣言に一家全員が声をあげた。

「はぁ、仕方ありません。それで納得してくれるのなら勝負しましょう」
「えー・・・っ!?」

 アティの言葉にユエルは否定の声をあげる。
 彼女は、めんどくさいらしい。
 周りもそんな雰囲気で、いまいち緊張感が感じられない。

「ユエル。こういった場では、そういう否定の言葉を上げてはいけない。話がややこしくなるから・・・」
「う・・・」

 ゴホン、とアティは咳払いをして、

「その代わり、負けたらみんなに迷惑をかけるようなことは、やめてくださいね?」

 海賊団に向けて言い放った。

「おう!負けたら土いじりでもなんでも好きなだけ、働いてやるわい!」
「あらまあ、いいのぉ?」

 戦力的に変化がないのなら、再戦しても同じだってことわかってる?
 スカーレルの問いにジャキーニは自身ありげに含み笑いをすると、懐へと手を入れ、緑色の石を取り出す。

「でてくるんじゃあ!?化け物どもぉッ!!」
「「「「!?」」」」
「召喚術・・・」

 ジャキーニが取り出したのは、緑色のサモナイト石だった。
 手に持つサモナイト石はすでに光を帯び、召喚獣が喚ばれようとしている。
 次の瞬間、召喚獣が姿をあらわし、でてくるなり雄叫びをあげた。

「わっははははは!!今日まで、貴様らの留守を見計らっては使わずに置いていったサモナイト石を片っ端からくすねておいたんじゃい!」
「おいおい・・・」

 俺は顔に手を当てた。
 アルディラは彼らの持っているサモナイト石を見るなりじとりとヤッファを見やる。ヤッファは、苦笑いを浮かべて頭を掻く。


「がっはっはっは!どうじゃ、謝るのなら今のうちじゃぞい!」

 ジャキーニが叫んだそのときだった。

「あやまるのは、ヒゲヒゲさんのほうですよ!」
「ま、マルルゥ?」

 唐突なマルルゥの登場にヤッファもアルディラも目を丸くしていた。
 彼女は右手の人差し指を立てて、ジャキーニに向けて身を乗り出すと、

「シマシマさんのものを勝手に持ってったり、道をとおせんぼしてみんなを困らせたり・・・いい加減にしないとマルルゥ、本気で怒るですよ?」

 小さい大人が大きな子供を諭しているようだ、とは素直にそう感じることのできる光景だった。
 ジャキーニはマルルゥの言葉にたじろぐ。
 しかし、今回は召喚術の助けがあるから、とマルルゥに向けて負けじと怒鳴りちらした。

「う、うるさいわいっ!お前みたいなちびっこに海の男の生き様はわからんのじゃあ!」
「ちびっこ・・・」

 そうつぶやいたマルルゥはうつむき、小さく身を震わせている。
 ヤッファが声をかけるがまったく反応しなかった。
 彼はどうやらマルルゥに対して言ってはならないことを口走ってしまったらしい。

「マルルゥは・・・マルルゥは、本気で怒ったですよぉ!言うこと聞かない悪い子にはおしおきするです!」

 マルルゥの大きな目に涙を溜めつつ、どこからか弓を取り出した。
 身体全体が淡い緑色に光りを帯びている。内に秘めた魔力が放出されているのだろうか。

「他に、どんな召喚術を隠し持っているのかもわかりません。みなさん、くれぐれも油断しないで!」

 ヤードの声と共に、なんとも緊張感のない戦闘が始まった。




 相手の海賊たちは、みなほとんどがナイフや投具を手にしている。

「うおおぉぉぉっ!!」
「うわっ!?」

 よほど必死なのだろう。
 向かってくる海賊は、ものすごい形相で自らの武器を振りかざしていた。

「ねえ、マスター」
「なんだ?」

 はユエルの声に答えながら、刀を鞘に入れたまま振るった。
 打撃は海賊の胴へと見事に決まり、ふらふらとよろめく。

「ユエル、なんだかやる気でない」
「そう言うなって。一応、戦闘中なんだからさ」
「・・・」

 ジャキーニたちが召喚した召喚獣たちは、外から水を操り攻撃してくる。
 俺はその力を逆に利用できるのでは、と考え、刀の刃を海賊たちに向けて立てると、目を閉じた。

「世界に舞いし水の力よ・・・」

 鞘に収まったままの刀が青く淡く光を帯びる。
 すると、召喚獣たちが繰り出してきていた水はピタリとその動きを止めていた。

「・・・我が前の敵を押し流せッ!!」

 言葉を紡ぎ、立てていた刀を前方に突きつけると同時に目を見開いた。すると、動きを止めていた水がいっせいに召喚獣たちに襲い掛かり、押し流す。

「お、うまくいった。みんな、ここは俺にまかせて!」

 他にもいろいろ試してみたいからっ!

 嬉しそうな表情から一変、言い放った瞬間にから黒いオーラが出始めた、と後に聞かせれるのだが、それは別の話。


 の言葉を聞き入れ、彼の周囲はジャキーニのいる場所へ走っていった。
 それを阻止すべく召喚獣や海賊たちが立ちはだかるが、そのことごとくを俺は刀の力を使って破っていった。




「なぜじゃ・・・召喚術を使ったのになぜ、勝てんのじゃあああぁぁぁっ!?」



 結局負けてしまった海賊ジャキーニ一家。

 船長のジャキーニは剣を取り落とし、地面に四つんばいになると涙を流して叫んだ。

「だからさ、根本的にあんたたち、弱いんだってば・・・」
「陸におる限り、ワシらに勝ち目はないとでもいうのかあぁぁっ!?」

 ソノラの言葉をさらっと無視し、ジャキーニはさらに涙を流す。

 「ジャキーニなんかに無視されたぁっ!」と言って、ソノラは恨めしそうに地面を足で打ちつける。カイル一家のご意見番として、スカーレルがなだめようと彼女に近寄っていた。数分の説得(?)の後、ソノラは次第に機嫌を直していった。




「わめくのもいいが、覚悟は・・・できてるんだろうなァ?」
「ひっ!?」

 カイルが一歩を踏み出し、打ちひしがれるジャキーニ一家に近づく。

「オレんとこからかっぱらった石は当然、返してもらうとしてだ・・・」

 ヤッファはサモナイト石を海賊たちから集めて回る。

「まさか、無罪放免になるとは、思ってないでしょうね?」
「ま、待ってください!」

 キュウマの言葉に、今まで人質にとられていたオウキーニが割り込む。

「魔がさしただけなんや。あんさんは、ホンマはそんな大それたことできる人やない!みんな、あのボウズに入れ知恵されたせいなんや・・・っ」
「え?」
「入れ知恵って・・・まさか・・・」

 レックスが確信を持ったかのように尋ねた。

「ガタガタぬかすなや、オウキーニ!」

 ジャキーニは必死に弁解しようとするオウキーニを止めると、どっかと地面にあぐらをかいて座りこんだ。

「たしかに、ワシはイスラの小僧からくすねた石の使い方を教えてもろうたわい。じゃが、それだけじゃ。アイツの描いた絵図面に、乗っちゃあおらん」
「ジャキーニ、あいつの描いた絵図面って・・・?」
「ホンマやったら、ウチらも、一緒にあのボウズと裏切ることになっとったんです」
「「!?」」

 休日という名目で遠出をしている間に、イスラはジャキーニ一家と会っていた。そのときに召喚術の方法を教わり、さらには島の仲間を裏切って帝国軍と行動をしろ、と言われていたことをオウキーニは全員に話して聞かせた。

「せやけど、あんさんはそんなえげつないことできへんって、思いとどまって・・・」
「フン!それで結局このザマじゃい」

 ジャキーニはあきらめたかのように言った。

「こうなったらもう、ジタバタはやめじゃい。ただし、おとがめはワシだけにしてくれい。子分は、つきおうただけじゃきに・・・」

 子分の人々は涙を流して我らが船長の名前を叫んでいる。

「なあ、みんな、あの・・・」
「ミナマデ、イウナ」
「騒ぎにはなったけど、実害まではいたってないようだしね」

 レックスの発言にファルゼンとアルディラが言った。
 オウキーニは笑顔を見せる。

「それじゃあ!?」
「もう二度と、こんなことしないって約束してくれますか?」
「たまには、海に出してくれるんなら、考えてやっても、いい・・・」
「ああ、考えとくぜ」

 またこんなことされても、めんどくせえだけだからな。
 ヤッファはそういって頭を掻いた。 

「それじゃ、これで恨みっこなしてことにしましょう」

 アティはそういって海賊たちに笑顔を向けた。




「マスター・・・」
「ん?」

 帰り道。
 は隣を歩くユエルに声をかけられていた。返事をし、彼女の表情を伺うと、どことなく陰りがあるかのように見て取れた。

「さっき、その・・・力、つかったでしょ?その・・・大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。契約もしたから、めったなことがない限り倒れたりしないさ」


 大丈夫だよ、と答えると、彼女は笑顔を見せた。







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