「休日?」
の言葉にレックス、アティの両名がうなずいた。
「明日、俺たち休日をもらったんだけど・・・」
「いいじゃありませんの、明日1日くらい。家庭教師の仕事もお休みでいいですから」
「そうだよ。せっかく、みんなが休めって言ってくれてるんだしさ」
「いくら先生が強くたって、たまには休みが必要でしょうし」
「私も、そうしたほうがいいと思います・・・」
一緒に稽古をしていたマルティーニ家の4人は口々に休むことを勧めている。
ももちろん、2人が休むことはいいことだと思っていた。
「君ら、2人とも働きすぎなんだよ。きっと、なにも言わなければ2人とも休みなしで働き続けそうだし」
「それ、スカーレルにも言われました・・・」
せっかくの休みだというのに、2人はなぜか表情があまりよくない。自分だったら、と休日の風景を思い描きつつ、
「2人とも、休みもらって、嬉しくないの?」
そう尋ねてみると、
「いや、とっても嬉しいよ」
当たり前のように、そんな答えがレックスから発された。
「ただ・・・」
「「「「「ただ?」」」」」
と生徒4人衆は首をかしげて2人の言葉を待った。
すると、レックスは頭をかきながら
「休みをもらうなんて、久しぶりだからさ」
「はい、そういうことなので」
そこで一息つくと、苦笑いを浮かべた。
「「なにをして過ごしたらいいのか、全然思いつかないんだ(ですよ)」」
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第22話 休日
「あっ・・・ははっ、はははははっ!!」
「もぉ・・・笑わないでくださいよぉ、っ!?」
休みをどう過ごせばいいかわからない、と答えた2人を見て、は腹を抱えて爆笑していた。
自分のいた世界じゃありえないだろう、『休日の過ごし方がわからない』という素晴らしく希少な人間だ。
生徒たちは笑いはしないものの、自分たちの教師である2人を見て固まっていた。
「そっ、それじゃ先生たちは、今まで休みの日にはなにをしてたんだよ?」
「そうですねえ・・・」
いち早く我に返ったナップは、声を荒げていることにも気付かずに、尋ねた。
アティがあごに手を当てて考えるそぶりを見せると、
「学生の頃は自習をするか、のんびりするかのどちらかでした・・・」
「レックスは?」
「俺も同じ、かな?」
レックスもそう答えながら苦笑いをした。
「俺とアティのいた村のみんなから学費を出してもらって勉強してたからさ、外へ出て遊ぶのはどうしても、気が引けちゃって・・・」
その言葉を聞いた生徒たちは呆れ顔。
も彼らと似た表情をしているな、と自分自身感じていた。
「は、元の世界にいたときはなにをしていたんですか?」
「俺か・・・そうだな・・・」
は晴れ渡った空を見上げて昔の記憶をたどる。
まぶたを閉じ、記憶をめぐらせた。
「俺は学校に通っていたから休みの日といえば、たしか・・・たいてい家で寝てたかな。友達と遠出することもあったけど、お金がなくてなかなか行けなかった」
「だらしないですね、兄さん」
「うるさいやい」
ジト目で自分を見つめるウィルを見て、はふてくされるように頬を膨らませた。
「のいた世界にも、学校があるんですね」
「学校って言っても、いろいろあるんだよ。こっちでは知らないけど」
リィンバウムに来て、すでに一週間を突破している。さすがに勉強も遅れてきていることだろう。そんなことをふと思い出しつつ、
「他にも似てるところがあるんだよ。食べ物とか、日用品の類なんかもほとんど同じだったからな」
そう話すの話を生徒たちも教師2人も興味深そうに聞いていた。
リィンバウムに住まう人間にとって名もなき世界は、未知の世界なのだ。先生である2人も、好奇心旺盛である生徒たち4人も、の話に新鮮な何かを感じるのだろう。
「まあ、それは置いといて。休みをどう過ごすにしてもそれは君らの自由だから。俺たちに相談されても、な」
「島の人たちにも聞いてみたらどうかな!?」
ユエルがはい!と手を上げて言った。
「そうですね」
「もう少し考えてみるよ」
2人はそう言って森の中へ消えていった。
「さて。稽古、まだやるかい?」
「「「「もちろん!」」」」
そんなこんなで、とユエル対生徒4人衆による稽古を再開した。
どうやら、2人は結局なにをしようか決まらないうちに朝になってしまったらしい。
朝食後、みんなそれぞれの目的のために散り散りになる。
はこの世界に喚ばれてから毎日が休みのようなものだったので、毎日時間が空くたびに稽古に励んでいた。
今回も例のごとく、ユエルを相手に稽古を行っていた。
「ーっ、ユエルーっ!」
「ん?」
「あ、ソノラだ」
ユエルの言った通り、声の主はソノラだった。
急いで走ってきたようで、2人の元にたどり着くと両膝に手を添えて息を整えていた。
「俺たちになにか用か?」
「うん、先生たちがこれからちょっと遠出をするんだって。島の中だけど」
2人も一緒にどう?
ソノラはどうやらその遠出というものに自分たちを誘ってくれているらしい。
稽古以外にやることがなくて参っていたところで、行くと返すと、ソノラは踵を返して、
「じゃあもう少ししたら、船に戻ってきてねーっ!」
そう言い残して走り去った。
「ソノラ、なんだか忙しそうだったね」
「そうだな・・・」
稽古をする気も失せてしまった2人は遠出の準備のため、船に戻ることにしたのだった。
「で、いつの間にやらこんな大所帯になっちゃったりして」
いいじゃないか、とカイルがアティをなだめている。なだめている、というよりいつもと変わらないその光景だったので、本当に休んでいるのかどうか疑問に感じたのだろう。
レックスはなにやら遠い目をしていた。
「マルルゥたちだって先生さんと一緒に遊びたいのですよー!」
「こっそり出かけちゃうなんて、ズルイよ」
「そうだ、そうだー!」
せがむ子供たちをアティは苦笑いをしつつなだめていた。
「安心なさいな。子供たちのことはアタシらが、ちゃんと見ててあげるから」
「今日のところはご自分のことを優先してください」
スカーレルとヤードが2人にそう伝えた。
「そうだよ。今日は先生たち2人の休日なんだから、他の人のことは気にせず思いっきり羽を伸ばせばいいんだよ」
な?とは2人の肩にポンと手を置いた。
「ありがとう、みんな」
「私たち、お言葉に甘えて羽を伸ばさせてもらいますね?」
アティはその場の全員に笑みを向け、感謝の意を述べていた。
「では、そろそろ出発するとしようかの」
「はい、それじゃあ行ってきます!」
ミスミさまが号令をかける。
おみやげ、よろしくねー!!という留守番であるソノラの声に手を振り、一行は出発した。
「なんか、こうしてみんなと歩いているだけで、わくわくして来ますね」
「そうですわね・・・」
「うん、オレもそう思う」
もう見慣れてしまった森の中を歩く。
は最後尾で1人、楽しそうにおしゃべりをする仲間達を見ながら歩いていた。
ユエルは子供たち組に混ざり、笑みを浮かべている。
こんな時間が、ずっと続けばいいのにな。
はそんなことを考え、頬が緩んでいるのを感じていた。
「兄様?」
アリーゼが緩んだの顔を見つつ、隣を歩いていた。
「アリーゼはみんなといなくていいのか?」
「なんだか、兄様が嬉しそうな顔をしてたから。何かいいことがあったのかな、と思って」
そういうとアリーゼは笑顔を作った。
「仲間っていいなって、そう思っただけだよ」
「仲間?」
唐突に話された言葉に、アリーゼは首をかしげている。
「ああ。こうやって後ろから見てるとさ、わかるんだ。みんな、心の底から楽しそうに笑ってるって」
こういう時間がいつまでも続けばいいのにな。
は思っていたことをそのまま彼女に言って笑顔を作った。
「そうですね・・・」
アリーゼは笑みを浮かべて、へ顔を向けていた。
「あ・・・」
「雪だ!」
アティがつぶやき、ユエルが珍しいものを見るかのように飛び回る。
同じ島のはずなのに、目の前には雪がちらほらと舞っていた。
「雪だけじゃありません。ほら、耳を澄ませて」
フレイズが目を閉じると、周りも同じように目を閉じる。
すると、にも聞き覚えのあるような、でもそうではないような、澄んだ音が耳に入ってきていた。
「きれいな音・・・」
「風鈴・・・」
「え?」
こちらを振り向くアリーゼになんでもない、と伝える。
「なんて、きれいな音色なの・・・」
スカーレルは開いた目を輝かせて、目の前を舞う雪をうっとりと眺めている。
「すべて、目的地につけばわかりますよ」
「ふふふ・・・きっと、驚くぞ」
ミスミさまとキュウマはそういい残して先へ進んでいく。
周りは、2人に置いていかれないようにと足を動かしていた。
森を抜け、目の前が開ける。
初めに視界に入ってきたのは大きな滝。
その滝はが今までに見てきたどの滝よりも蒼く、そして澄み切っていた。
「蒼氷の滝じゃ」
「え?」
「山のてっぺんに積もった万年雪が溶けて、流れてきておるのじゃぞ」
ミスミが自慢げにそんな説明を施す。小さな島のはずなのにこんなにも違うんだ、とは今見ている光景に驚愕していた。
「でっかいなあ・・・!」
「そうですわね・・・」
ナップもベルフラウもアリーゼも、その雄大さに感動したのか、じっと滝を見つめていた。
ウィルだけは口には出していないが、気持ちは同じらしく同じように滝を見ていた。
「なかなか、美しい眺めであろ?」
「ああ、すごい・・・」
「アレヲ、ミロ・・・」
ファルゼンの指さす先には氷が木のように生えていた。
「うわあ・・・・っ」
「氷の木がたくさん生えてるですよぉ!?」
誰にも踏まれていない雪の絨毯の上に立ち並ぶ氷の木々。
太陽の光に反射し、キラキラと光って見えていた。
「ソウヒョウジュ、ダ」
「マナを冷気として放出する特性をもった珍しい植物ですよ。その際に生じる現象によって、周囲の熱を奪うのです」
氷が集まってできているだけかとは思っていたが、そうではないらしい。
風がふき、先ほど聞いた音が鳴る。
耳を澄まさねば聞こえないほど、小さな音。夏の風物詩である風鈴の音色のように、リィン、リィンと音を奏でていた。
「この音って・・・」
「カゼニ、アノキガザワメク、オトダ」
「蒼氷樹が群生していることから、山頂付近は特に、空気が冷えているんです」
晴れているのに雪が降る原因がわかりアティは、なるほど、と手を叩いた。
「このあたりならばほどよく、涼しくて過ごしやすかろう。骨休めにはうってつけの場所じゃ」
「では、ここを拠点にして、あとは自由行動にしましょうか?」
「そうだね、そうしようか」
レックスがそう答えると、フレイズは空の散歩をしていますから、といって飛んでいき、ユエルは、スバルたちと一緒に蒼氷樹の方へいってしまった。
みんな、滝を見たり、蒼氷樹を見物している。
は、滝のところの草が生えている部分を見つけるや否やそこに寝転んでいた。
「ああ、気持ちがいいなあ・・・」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「!?」
・・・驚いた。
今さっき寝転がったばかりなのに、いつのまにかミスミさまが隣に座っていたからである。
「み、ミスミさま・・・」
「ん?なんじゃ、。わらわがここにいるのがそんなに珍しいかえ?」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
ならよかろう、とそのまま座り込んでいる。
はなんだか悪いような気になって上体を起き上がらせた。
「そんなに気をつかわなくともよいぞ」
「いや、いいんですよ」
はミスミと2人でぼーっと滝を眺める。
目の前にウィルとアリーゼが座っているが、気になるほどでもない。
「平和ですね」
思っていたことが口にでていた。
急に出たその言葉に、ミスミはやわらかな笑みを見せると、
「そうは言っても、それは今だけかもしれぬがのう?」
「そんな不吉なこと言わないでくださいよ・・・」
間違ってないですけど、と付け加えた。
ミスミはふっと笑うと、
「そなたたちがこの島に来てから、なにかと物騒にはなったが、島の者の笑顔が多くなっておる」
「そうなんですか?」
「これはみなそなたたちのおかげじゃ」
「その言葉は俺にじゃなくて、レックスたちに言ってやってください。・・・それに俺はあなたと同じ、はぐれですよ」
ミスミはそうじゃったな・・・と滝に向けていた顔を地面に向ける。
しばらくの沈黙の後、ミスミはゆっくりと顔を上げた。
「よ。そなたはこの一件が終わったら、どうするつもりじゃ?」
「そうですね・・・とりあえず元いた世界に帰る手段がない以上、ここで生きていくしかないわけですが」
この一件が終わったら。
そんなこと考えたこともなかった。
とりあえず一度家には帰りたい。
しかし、「約束」がある以上、ことが終わるまではこの世界にいるべきだろう。
ユエルも召喚してしまったし・・・
「この島を出て、世界を旅してまわって見ようかと思っています」
思考を巡らせた結果、そんな答えに行き着いていた。
「それは、元の世界へ帰るための手段を探す旅、かえ?」
「それもあります。でも、『約束』があるのでしばらくは帰ることはできないと思います」
ミスミさまは「約束」のことについて聞くことはなく。ただ、笑みをに向けていた。
「そうか。それではこれからも、よろしく頼むぞ」
「ええ、任せてください」
その後、一言も言葉が交わされることなく、船に戻る時間になっていた。
「そろそろ引き上げるわよぉー!?」
「ミスミさま、撤収ですって」
「そうじゃな」
2人は並んでみんなのところへ歩いていった。
「こんなに楽しい休日は本当に久しぶりでした」
「ああ。俺も楽しかったよ」
アティとレックスの2人は嬉しそうに話していた。
「2人とも、休日は堪能できたかい?」
「「ああ(ええ)!」」
満面の笑みを浮かべ、2人はうなずいた。
「先生、また明日から仕事がたくさんですから」
「そうですわよ。」
ウィルとベルフラウは口々に言うと2人は笑顔を見せ、「任せなさい!」と言いつつ胸を叩いていた。
「あとは晩ご飯を食べてたっぷりと眠って・・・っ!?」
「「「「っ!?」」」」
突然の轟音。
「なっ、なんだっ!?」
驚いてあたりを見回すと、ユエルがいち早く煙が上がっているのを見つけ、指差した。
「マスター!今の爆発、メイトルパの村の方だよ!」
「みんな、行くよ!」
ユエルに方向を聞いたレックスはみんなに声をかけ、現場へと向かったのだった。
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