「こんにちはー」

 目的地であるラトリクス・リペアセンターの扉を開ける。
 その先にはクノンとアルディラ。
 アルディラは壁一帯に広がる端末を正面に構えて、カップを片手に作業をしながら隣に控えるクノンと話をしていた。
 の姿を確認してアルディラは「いらっしゃい」と笑みを見せた。

「こんにちは、さま。どのようなご用件でしょうか?」
「えーっと、ほら!前にレックスと俺とで助けた・・・」
「イスラさまのことですね」
「今、子供たちと一緒に風雷の郷へ遊びに行ってるわよ」

 彼に用事だったの?と聞くアルディラにちょっと私用だと答えてリペアセンターを後にした。





「ヤッファ、レックス!」

 風雷の郷に行く途中。は暇人らしく散歩を満喫しながらユクレス村に寄っていた。
 村の名前の由来となったユクレスの木の前でヤッファとレックスが向かい合い、話をしていたのが目に止まり、駆け寄る。

「やあ、じゃないか。どうしたんだい?」
「ああ、散歩だよ。そっちこそなにやってたんだ?」
「火災の調査をヤッファにしてもらったから結果を聞きに、ね」

 レックスはにそう答えると、ヤッファは咳払いをして話し始めた。

「果樹園に火をつけたのは、間違いなく帝国軍の連中だぜ。前に戦った時の匂いと同じのが残っていたからな」
「そうか・・・」

 レックスはそれを聞くとうなだれた。
 隊長であり、レックスとアティの知り合いであるアズリアのことを考えているのだろう。
 確かに昔の友人が敵として目の前に現れれば戦いにくいはずだし、何より悲しい。

「ただ、女の匂いは感じなかったからな。アンタの知り合いが直接、手を下したってことはなさそうだ」

 ちっとは慰めになったか?とヤッファは苦笑いをした。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜


     第20話   卑怯者





 ユクレス村を出たは、風雷の郷へと足を向けた。
 太陽は中天へとさしかかり、真上からの光が木の葉に遮られ影を作る。ザクザクと足音を立てて歩きながら、ただ一心に郷を目指した。

 郷に入るとアルディラの言っていた通り、イスラであろう浜で助けたときと同じ服装の青年と子供たちが遊んでいるのが視界へと飛び込んできたのだった。

「あ、にいちゃんだ!」

 おーい、とスバルがぶんぶん手を振る。
 は笑って手を振り返した。

 遊んでいたスバル、パナシェの2人は笑顔でのもとへと駆けより、イスラは2人の後ろから追いかけるように駆けてきていた。

「こんにちは。イスラ、でよかった?」
「ええ、あなたは・・・」
「レックスからきいてないかな? っていうんだけど・・・」
「ああ、レックスさんから聞いています。その節はありがとうございました」

 イスラは深々とお辞儀をした。

「あー、それは別にいいんだ。俺のことは、でいいからさ。敬語はナシで」

 苗字とか出よばれるのって苦手でさ。
 そう提案すれば、彼は素直にうなずき微笑んだ。

「ところで、なんだけど」

 イスラを含む3人がを見つめる。

「火災のことを話してほしいんだ」

 一瞬、イスラの表情がこわばって動いているのを視界に捉えて、自分の導き出した答えが確信へと変わったのだった。





「びっくりしたよ。みんなで、かくれんぼしていたら、なんだかコゲくさいニオイがしてきて・・・」
「で、行ってみたらワラの山が燃えててさ。一緒に遊んでたイスラを呼んできて火を消したんだ」
「さいわい、燃えたのはごく一部だったんだけど、周りの山に燃え移っていたとしたら・・・そう考えると、本当にぞっとするよ」

 イスラはそう言うと肩を振るわせ、両手を抱きかかえるように自分の身体に回す。
 そんな彼の仕草を見つつ口元へ手を添えしばらく考えるような動きをとると、3人に笑みを
見せた。

「そっか・・・ありがとう。3人とも・・・それから、イスラ」
「?」
「ちょっと話があるんだ。2人には悪いんだけど一緒に来てくれないか?」

 その言葉を聞いたスバルとパナシェは顔をしかめて「えーっ!」と声をあげたが、すぐに終わるからと諭して納得してもらった。










「さて、と」

 場所は変わり、ここは郷のはずれにある鎮守の社。
 この社はキュウマの主君であるリクトさんの墓だとアティから聞いていた場所だった。
 墓とはいっても、ただ墓石が置いてあるだけ。リィンバウムでの弔い方はわからないが、肉体自体はここには埋まってないらしい。

 はイスラへと向き直ると、笑みを見せた。

「ゴメンな、こんなトコまで来てもらっちゃって」
「いえ、別に構いませんよ。それで、話って・・・?」
「あぁ、話の内容はさ、火災のことなんだけど」

 イスラの身体がこわばり、震える。しかし、すぐに震えは消えており、むしろ堂々とした態度を見せ始めていた。

「会ったばかりでこんなこと言うのもどうかと思うんだけど・・・」
「僕が火事を起こした・・・そう言いたいのかい?」

 遮るようにイスラはの言いたいことをさらりと言ってのけた。
 そうでしょ?と聞き返すイスラに、は首を縦に動かした。

「・・・ああ。証拠もないから最初から疑うのもどうかと思ったんだけど」
「まあ、疑われても当然だとは、思ってるけどね・・・」

 イスラはふう、と息を吐くと、を見つめた。

「俺なりに考えたんだよ」
「・・・・・・」

 イスラは口を閉じ、ただ視線をへと向ける。
 は笑みを消し、答えに至った経緯を話し始めた。


「火災があったのは2ヶ所。1つは風雷の郷のワラの山。もう1つはユクレス村の果物畑。どちらも火の不始末とは無縁の場所だ。それに、どちらも集落の中にあるから帝国軍の連中はうかつに近寄らない。島の住人が火を放ったっていう考えもあるが、そんなことをしたって利益どころか損害のほうが大きいはずだ。つまり、火を放ったのは島の住人ではなく、火災の現場の近くにいた者と、考えられる」
「・・・・・・」
「第一発見者である子供たちはまずそんなことをするはずがない」

 イスラは何も言わず、を見つづけている。

「そう考えると、一緒に遊んでいた君しかありえないんだよ」

 はそこまで口にして、息を吐いた。



 流れる沈黙。
 耳に入ってくるのは、風に揺られて重なり合う葉の音だけ。



 ふいに、イスラは顔を上げた。

「逆に聞きたいんだけど、火をつけたところでいったい、僕になんの得があるんだい?」

                    キ ミ
「そこまではわからないさ。俺は犯人じゃないからね」

 再び口を閉ざし、イスラはにらむようにを見つめる。
 その視線に臆すことなく、もイスラを見つめた。

「じゃあ、僕が犯人だとしたらどうして、わざわざ火を消すのさ?それ以前に、なんで逃げなかったんだと君は思わないんだい?」
「目の前で火災が起きているんだ。子供たちが呼んでいるのに逃げたら露骨に怪しいとは思わないか?」

 子供たちが火を消そうと必死に呼びかけているにもかかわらず、それを聞かずに1人こそこそと背を向ける。そんなことをしては、子供たちからも、火を消し止めた大人たちからも怪しがられて当然。そうならないためには、自分も一緒に火を消すしかない。
 の的を射た返答にイスラは黙り込んでしまった。



「・・・ま、君が何をしようと俺は知らないけど」



 そこでいったん言葉を切る。
 一息つくと彼の顔をまっすぐに見つめ、言い放った。

「島の住人に手を出すようなら絶対に許さない」
「・・・・・・」

 それだけ言うと、悪いな、とは手を振って社に背を向け、石段を下っていった。
 社の前には残されたイスラだけがたたずみ、風が彼の身体を撫でていた。













「アティ殿!!」

 社へとつづく石段を下りたはキュウマの必死な叫び声が耳に入り、屋敷へと顔を向けた。

「おう、そなたはそう言うてくれるか!だったら・・・」
「なりません!ミスミさまがお出ましにならずとも自分たちが、必ず始末をつけますゆえに!」

 中を覗けば、縁側から見える和室でミスミとキュウマが言い争うように身体を正面に向けて、その2人の中心でアティが苦笑いを浮かべているのが見えていた。
 は「お邪魔しまーす・・・」と小声でつぶやきつつ中へ足を踏み入れ、庭へと足を運ぶ。

「どうしたんですか?キュウマの声、外まで響いてましたよ?」

 声をかければ、3対の目は弾かれたようにへと注がれた。

「おお、か。そなたも言うてくれんか。久方ぶりに、わらわも戦に出たいのじゃ」
「ミスミさま!」
「まあまあ、キュウマさん。落ち着いてください」

 やんわりと微笑み、キュウマを指差すミスミに向けて、キュウマが声を荒げ、アティがキュウマをなだめる。
 キュウマは苦笑いを浮かべるアティに目を向けて、

「アティ殿!後生ですから、貴方もミスミさまをあおるようなことを言わないでください。殿もですよ!」
「「は、はい・・・」」

 キュウマの押しに負け、なにも言っていないはずのもつい返事をしてしまった。
 ミスミさまは残念そうな顔をそてぶつぶつと小声で文句を言っている。
 それはキュウマにも聞こえたようで。
 ギロリとミスミに視線を向けた。







「あっ、いたー!!ちょっと!」
「ん?」

 風雷の郷を出て船に戻ろうとした矢先、ソノラに声をかけられた。
 どうやらずっと探していたらしく、しかも急いでいたようで、汗をかき息を切らしていた。

「フレイズが戻ってきたの!とりあえず泉まで一緒に来て!」
「ホントか!?よっしゃ、すぐ行こう、それ行こう、やれ行こう!」
「あ゛〜っ、待ってよぉーっ!!」

 はソノラを置いて走り出した。



「はぁ、はぁ・・・ど、どうなったんだ・・・?」
「これから、帝国軍と戦いに行くよ・・・」

 息を切らしながら集いの泉へと駆け込む。建物の中にはとソノラを除いた全員が待機をしていたらしく、2人の到着を待っていたようだった。
 顔に貼り付けたような笑みを浮かべ、レックスはこれからの行動を述べた。

 俺の考えは外れていたのだろうか?と思考をめぐらせつつ、は走った疲れを残したまま仲間と共に建物を出たのだった。




「なんか引っかかるな・・・」
「マスター、どうしたの?」

 の顔をのぞきこむユエルに、ちょっとな・・・と言葉を濁しつつ答えた。


 ・・・胸騒ぎがする。


 レックスとアティをちらりと見やると、やはり元気がないようで顔色がまがりなりにもいいとはとてもいえない様子で、無理をおしてこの場にいることは確実であった。
 生徒たちも自分たちの先生の状態に気づいているようで、数歩歩いては顔を覗き見るという行動を繰り返している。

 帝国軍は風雷の郷の入り口にいるとフレイズは言っていた。天候もよくはない。
 何か良くないことが起こりそうだとは内心、感じていた。


「・・・ユエル。俺の方はいいから、みんなと一緒に帝国軍のところへ行ってくれるか?」
「え・・・?だ、ダメだよ、ユエルは護衛獣なんだから!マスターと一緒にいくの!」

 ちょっと風雷の郷まで行ってくる、とユエルに声をかけたのだが、彼女はは1人で行動することをよしとしないらしく、声を荒げた。
 その声に反応し、その場の全員の視線がとユエルに集まる。
 それでもユエルは、しっかりとを見つめていた。

「しょうがない・・・じゃあ、一緒に来てくれ。みんな、悪いけど先に行っていてくれるか?」
「・・・どこへいくんですか?」
「回り道して、風雷の郷へ」
殿、まさか・・・」

 援軍を要請してくる、と告げた途端、護人であるキュウマの表情が変わる。
 はそれを横目で見つつ、苦笑いを浮かべた。

「なんだか、やな予感がするんだ。援軍を呼ぶにしても、風雷の郷が一番近いし、ね」

 返答を待たず、は一行の進行方向とは別の方向へと駆け出し、ユエルがそれを追っていった。
 そして、帝国軍と鉢合わせしないように迂回する形で、風雷の郷を目指したのだった。











「ミスミさま、いらっしゃいますか?」
「おお、にユエルではないか。どうしたのじゃ?・・・なにやらワケありのようじゃな」

 森を迂回して正解だったらしく、帝国軍とも遭遇せずに郷へ入ることができた。とユエルは一直線に郷で一番大きな屋敷へと足を動かし、たどり着いたときにはパラパラと雨が降っていた。
 少し服を濡らした2人を見て、雰囲気から急ぎの用事だろうと判断してか、やんわりした表情から真剣なそれへと変えていた。

「今の状況は、把握してますか?」
「いや、キュウマからの報告が全く入ってこないのでな」



 は帝国軍が郷の入り口にいることを話した。
 あくまで推測でしかないのだが、イスラのこともミスミに話して聞かせると、それでも真剣にの言葉に耳を傾けていた。



「あいわかった。わらわも出陣しよう」

 互いにうなずき、雨が降る中、屋敷を飛び出した。











「ひ、卑怯者!!」

 郷の入り口で声が聞こえる。
 光景の見える茂みに隠れ、様子を見ようと目を動かした。

 レックスとアティを筆頭とした島の仲間たちが視界の奥に、帝国軍が手前に。それぞれ位置している。
 帝国軍には、アズリアやギャレオといったメンバーに加え、が警告をしたはずのイスラの姿があり、眉をひそめる。
 さらには郷の住人たちを人質に取っているらしく、助けを求める住人の声が聞こえる。さらには、それに混じってスバルの声も聞こえていた。



「君たちよりも利口だっただけさ」

 彼が指を鳴らすと、村人たちに剣が向けられた。













「やはり、あ奴だったか・・・」
「マスターの思った通りだったね」

 は怒りに顔を歪ませつつも素直にそれにうなずく。

「忠告してやったのに・・・結局それかよ・・・ッ」
よ。わらわは村の者を助けるため結界を張る。その間、様子を見ておいてはくれぬか?」
「・・・わかりました」

 ミスミは結界を張るための準備を始めた。
 自分の息子を人質にとられているにしては、冷静そのもの。それは彼女が戦場にいたことを如実にあらわしているようで、は人質がとられて感情を乱している自分が少し情けなく感じた。






 レックスがシャルトスを抜剣した。
 あたりを碧の光が覆い、彼の身体に変化をもたらした。

「これを、渡せばいいんだな?」

 イスラはそんなレックスをあざ笑うかのように見た。そして自分の姉であるアズリアを見て、

「ほら、姉さん。ああ言ってるんだからもらっておいでよ」

 彼の一言でアズリアはレックスのところへと歩みより、碧の賢帝を受け取った。
 手から剣が離れた途端にレックスはもとの姿に戻る。


「これで文句はないはずだ・・・みんなを解放するんだ!!」
「ああ、いいとも」

 イスラは笑って指を鳴らす。
 それに従ってスバルの捕まえていた帝国兵はスバルを解放した。
 他の兵は動かない。

「ほら、あんたたちもさっさとそこをどきなさいってば」
「・・・危ないっ!!」

 詰め寄るソノラに帝国兵は剣を振り下ろす。
 悲鳴と共にファルゼンがソノラのと兵の間に割って入り、身体を張って剣を受け止めた。
 「あっ!」というユエルの声が聞こえる。
 キィン、と甲高い音があたりに響いた。

「ナンノ、マネダ・・・」
「品物に対して人質が一人・・・正当な対価でしょう?全員を解放して欲しいんだったらまた、別の対価を用意してもらわないとね」

 イスラの言葉にみんなは言葉を失った。
 は小さく震え、歯を噛み締める。
 ユエルは心配そうにそれを見つめていた。



「これ以上、何を望むんですか!?」
「そうだね・・・君の命、かな?」












      ぷつん













 は自分の中で、何かが切れる音が聞こえたような気がして、表情が徐々に変化していく。
 あァ、俺はキレたのか、と素直に感じていた。






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