「ふうっ・・・」
船から見えない位置まで離れ、すでに手になじんでしまったロギアを鞘から抜き放つ。
目の前で立てるように構えると、刀身が太陽光線に反射してキラリと光り、顔を照らした。
刀にある力の影響だろうか。反射光に呼応するかのようにざあっと風が吹いた。
今、ここには俺だけだ。周りには、誰もいない。何も無い・・・
雑念をかき消し、目を閉じる。
「はっ!!」
閉じていた目を見開き、掛け声と共に剣を振るう。
刃は落ちてきた枯葉にあたり、二つに分かれ浜辺へと落ちた。
「・・・・・・ん?」
一通りの稽古をこなし、一息つくと、目の前に一人の男が立っている。
彼は、ファリエルと同じく青白い光をはなっていた。
「・・・君は・・・」
『はじめまして』
急に挨拶されてどもる。
「ああ、こちらこそ・・・はじめまして」
『・・・くんだね?』
「ああ、そうだけど・・・なんで俺の名前を・・・」
そう尋ねると彼はにっこりと笑い、
『僕の名はハイネル・コープス。君の名前を知っていたのは・・・』
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第19話 火災
ハイネル、と名乗る男は、の持つ刀を指さす。
『その刀から君のことは聞いてる。それに、剣を介して聞いていたし』
「剣、って・・・ああ!レックスの持ってる剣のことか?」
の解釈にハイネルは首を縦に振る。
『それで、僕が君の前に現れた目的は・・・2つ』
「・・・・・・」
の様子を伺うように見る。
『1つは、適格者と共に島を救ってほしい』
「それなら、この剣とも約束してる・・・ってか、その適格者って・・・?」
『適格者は、碧の賢帝シャルトスと紅の暴君キルスレスを持つ者のこと』
ハイネルは一呼吸おくと真剣な眼差しをして話す。
最初に面と向かったときにやんわりとした表情は消えていた。
『何があっても、島を救ってほしいんだ。僕の愛する者たちの住まう、この島を・・・』
「・・・わかった、約束するよ」
『もう1つは・・・』
そこまで言ったハイネルはなぜか肩を落とし、から視線をはずした。
「ハイネル?」
『核識・・・』
ハイネルは、再びに視線を向け、話し始めた。
は核識というその言葉に肩を震わす。
『僕は島の核識なんだ・・・いや、正確には【だった】のかな・・・』
「・・・・・・」
『君は・・・核識にならないでほしい。絶対にだ』
「核識って、いったいなんなんだよ?」
は尋ねた。ハイネルから何度も発される言葉は、単語としては知っていても、意味自体はまったくわからないからだ。
ハイネルはじっとこちらを見つめ、話し出した。
『核識とは・・・万物の意思、エルゴを受け止める者』
「エルゴ?」
『世のありとあらゆるものはエルゴから生じ、エルゴと繋がっている。リィンバウムの神的な存在、それがエルゴなんだ。この島は昔、無色の派閥によって召喚術の実験場にされたんだ。しかし、彼らの中には僕以外にエルゴを受け止める器となりうるものがいなかった』
ハイネルは核識という言葉の意味を述べた後に、追い討ちをかけるかのように真相を口にした。
『君も、僕と同じ核識としての素質を持ってる』
「!?」
は素直に驚いていた。エルゴというものがどのようなものなのか、今の説明でもよくわかっていなかったが、聞いた限りでは、この世界の神的な力を手に入れる素質があるといったところだろうか。
さらに、自分もそんな力を持っていたとは・・・
『その後、実験に失敗した派閥の者たちは島に取り残され、争い、自滅していった。僕も戦った。アルディラやヤッファ、それにキュウマの主君であり、親友であるリクトと共に』
「そうだったのか・・・」
『僕はその戦いの中で、核識としての力を使った。それによって、僕はその装置に取り込まれてしまったんだ』
ハイネルはそう言いきるとうつむいた。
核識としての力を使えば『自分』が無くなる。だから絶対に核識にはなるな、と彼は言いたかったのだろうな、とは解釈をした。
自分と同じ道をたどって欲しくないがために、こうしての前に現れたのだ。
は彼を見て、
「・・・わかったよ」
にっこりと笑みを見せると、を見つめていたハイネルは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「核識ってのはどうもヤバいみたいだし。俺まだ死にたくないし。ならないようにするよ」
『よかった・・・』
本当に安心しきった顔を見せた。
「正直、最初は君のことを疑ってた。何せ、急に現れて見ず知らずの人間に頼みごとをするなんて非常識だからな」
『・・・・・・』
「でも、君の話を聞いていて、信じてみようと思った。俺、無駄に人が死ぬところ見たくないし。何より、君は俺に話してくれている間、ずっとつらそうな顔をしてた」
『!?』
ハイネルが驚きの表情をしたが、はニッと笑って見せた。
『ありがとう・・・よろしく頼む』
「ああ」
ハイネルはそう言うと消えていった。
「核識、かぁ・・・」
は何度も頭の中にその2文字を描きつつ、船へと戻るのだった。
「ソノラはん、そっちの具合はどうでっか?」
「うん、エビはいいカンジにゆだってきたみたい。真っ赤になってるよ」
「お!?いいにおいだなぁ・・・」
戻ってきたはつい、口に出してつぶやいた。
煮立った大きな鍋を前に汗を拭うのはオウキーニ。その隣でソノラはエビを眺めて悦に入っているのが見て取れた。
「あ、!やっぱいいよねぇ、エビは!」
「ソノラはん、鍋から出して、水でさあっと洗っといてください」
オウキーニは一人で悦に入っているソノラを現実に引き戻し、指示をだした。
ソノラは元気よく返事をすると、茹ったエビを洗い始めた。
「オウキーニさんが料理に来てくれるようになって、ご飯が楽しみですよね?」
「本当だね」
「お、アティ。レックスも」
「順番で集落を回るから毎日ってワケにはいかないのが残念ではあるんだけどなー」
エビを洗ったソノラは手を振って水を落としながら言った。
「ユクレス村でも風雷の郷でも、大人気だもんな」
「そうなのか!?」
「そないにほめてもらうと困りますわ」
驚いているをよそにオウキーニは照れて顔を少し赤くした。
「いっそのこと海賊はやめちゃってお店を開くってのはどうですか?」
「お店でっか・・・」
オウキーニは少し考えて、笑顔でこんな言葉を口にした。
「それも、ええのかもしれまへんな・・・」
「でも、もし本当に店を開いちゃったらジャキーニが困るよな」
はそうつぶやく。周りのものはみな、なんで?といった表情で俺を見ている。
「だって、そうだろ?この前言ってたじゃないか。彼、好き嫌いが多いって」
「「「「あーっ!?」」」」
「あいつの好き嫌いを知っていてそのことをしっかりと考えて料理を作ってくれる君がいなくなっちゃ、マズいことになるのでは?」
「・・・そうですな」
「「は、はははは・・・」」
アティとソノラは微妙に残念そうに苦笑いをしていた。
「ヤッファ、いるか?」
は核識について、詳しいことを聞こうかとユクレス村のヤッファの庵を訪ねたが、そこには人の気配はなかった。
あきらめて帰ろうかと思って踵を返したところで、は誰かの声を聞いて足を止めた。
「ぐ、うガ・・・ッ」
「この声、ヤッファだ!なんだ、いるんじゃないか」
はその声の方向へ歩いていった。
「おーい、ヤッファ。居るならいる、って・・・」
そこには、頭を抱えたヤッファが地面に倒れ、大量の汗を流している姿が見えた。
「ヤッファ!?」
「ぐ、ぎ・・・ッ。あ、あがァァァァッ!」
「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」
慌てて駆け寄り声をかけるが、うめくだけで返事が返ってくることはなかった。
自分に医学の知識がないことを悔やみながら立ち上がり、
「待ってろ、すぐにクノンを呼んで・・・」
「やめろオォォッ!!」
「!?」
何を言っても反応しなかったヤッファがクノンを呼びに行こうとした俺の腕をつかんだ。
「知らせたら・・・ッ、コロ、す・・・ッ!いつも、の・・・ッ、こと・・・ガあッ!?ウガアァァァッ!!」
「ヤッファ!?」
を掴んだその腕は以外にも強く、その場を動くことすらままならず、ただヤッファが回復するのを黙って待っているしかなかった。
待つこと数分。ヤッファは声をあげなくなったかと思うと、何事もなかったかのように立ち上がった。
「まったく・・・無事でよかったよ」
「・・・言ったろう?いつものことだってよ」
そう言うとヤッファは苦笑いを見せた。
「なにか病気してるんだったら、ちゃんと診てもらわないと。これがアティとかレックスだったらスゴいことになってたぞ、きっと」
「無駄さ・・・こいつばっかりはな薬なんかじゃどうにもならねえんだよ」
ヤッファは一度言葉を切ると、目を伏せた。
「痛みの原因は、オレの身体にかけられた誓約なんだからな・・・」
「誓約って・・・」
「一種の呪いみたいなもんさ。時折、こうやって全身が痛みやがる・・・我慢するより他に手の打ちようはねえ」
ヤッファはそれだけ言うとまじめな顔になった。
「。このことは、誰にも言うんじゃねえぞ。余計な心配・・・させたかねえからな」
「しょうがないな・・・」
は頭を掻くと、それに了承した。
「マスター!!」
「ガクランさーん!!」
「ユエルにマルルゥじゃないか。どした?」
2人はのところまで来ると、息を整えるために大きく空気を吸い込んで、吐き出す。それを数回続けると、ユエルは両手をあげてマルルゥに向けて声をあげた。
「もーっ、マルルゥ。マスターはガクランさんじゃないよーっ!!」
「そんなこと言われたって・・・マルルゥ、名前覚えるの苦手なのですよ・・・」
2人をよそに言い合いを始めてしまった。
「あー、2人とも。俺たちに用があったのでは?」
「そうなのですよ!」
「マスター、護人のみんなが泉に集まれって」
は首をかしげた。
「緊急会議、だそうですよ?」
「わかった。2人ともわざわざありがとう。じゃあ、行くか」
は2人と共に集いの泉に向かった。
入り口でレックス、アティの2人と出くわし、そのまま中へ入ると、護人がすでにそこに待機をしていた。
「何があったんだい?」
「カサイ、ダ・・・」
「カサイ・・・って、火事ですかっ!?」
「おい!急いで消さないと・・・」
火災、と聞いた、レックス、アティの3人の反応を見てキュウマは取り繕うように説明を施した。
「あわてずとも、すでに消化は完了していますよ」
「「は?」」
「え・・・あ・・・うう・・・っ」
とレックスはなんだという感じで苦笑いをするが、アティは恥ずかしかったのか、顔を赤くしていた。
「でもね、どう考えても不審な点が多いのよ」
アルディラは軽く咳払いをし、説明をし始めた。
「どうも、放火されたみたいなのよ」
「放火、か・・・物騒だな」
その後数分話をした後、現場が見たい、と言い出した先生2人と共に、は風雷の郷へと向かった。先頭は郷の護人であるキュウマ。その後ろをぞろぞろとついていくと、とある民家の前で立ち止まった。
そこには来ることがわかっていたかのように立っているミスミと、目撃者であるスバルとパナシェが待機をしていた。
「最初に燃えたのはここに積んであったワラの山ですか・・・」
「遊んでいた子供らが最初に気づいたのじゃ」
アティは顎に手を添え、炭と化してしまったワラの山をまじまじと見ていると、ミスミ。
「で、次がオレらの村だ」
「ヒゲヒゲさんたちと果物を取りに行ったら、火がぼおーって・・・あわてて、みんなで消したのですよ」
ジャキーニが火を消し止めたことを自慢げ話したが、アティに素直にお礼を言われたため彼も素直にどういたしまして、と縮こまっていたが、護人たちは一瞥して話を続けた。
「どちらも、火の不始末とは無縁の場所ですね」
「放火があったどちらも風下の集落に合ったことから」
「焼き討ち、ね」
スカーレルが発したその言葉を聞いた子供たちは肩を振るわせた。
「大丈夫だって。俺たちがそんなことさせないから」
「にいちゃん・・・」
は2人の頭に手を置いた。
「うんっ!」
2人は笑顔をみせた。
「連中が次に狙うのは他の集落か、それともアタシらの船か・・・どっちにしろ、警戒はするべきね」
「けど、襲われるのをただ待ってるだけなんて、なーんかムカつかない?」
「ふれいずガ、スデニウゴイテイル・・・ソラカラ、ヤツラノイチヲ、ミツケダシテクレルハズ・・・」
「じゃあ、フレイズの報告待ちだな」
「そうだな。とりあえず、その報告を待とうや」
「そうだね・・・」
会議はそこでお開きになった。
「兄さんは、どう思います?」
「どう、って?」
船に帰ってきたは生徒たちと甲板にいた。そこにいることに関しては特に意味はなく。ただそこから海をぼーっと眺めていたのだった。
「帝国軍のことだよ」
「そうだな・・・この前の戦闘の感じから考えて、彼らがやったって言う可能性は少ないと思う」
人数も、それなりに多かったし、と付け加えた。
「じゃあ、誰がやったって言うんですの!?」
「ベルフラウ、そんなにカッカしちゃダメだよ。それに、そんなこと俺にだってわからないよ」
「あ・・・」
の指摘にベルフラウは頬を赤らめて黙り込んでしまった。
「とりあえず、帝国軍じゃない。たとえ彼らが犯人だったとしても、あのアズリアって隊長さんはなにもいわないよ」
「そうですね、言うとおりです。そう考えると、少人数であることは確かですね」
「・・・じゃあ、もしかして島の誰かってこと・・・?」
アリーゼの問いにどうかな・・・と口を濁した。
顎に手を当てる。
帝国軍じゃないとは確かにそう思う。少人数で村の者たちに怪しまれない、内部の人間とも考えられるその状況に、はとにかく思考をめぐらせた。
「・・・あ!」
は一つの答えにたどり着き、手をぽんとたたくと、すっくと立ち上がった。
「兄ちゃん、何かわかったのか?」
「確証はないから、わからないけど」
「私たちも行きますわ!」
はその意見に首を振る。
「いや、あまり大人数で行くと逆に聞きたいことも聞けなくなる。散歩がてら、行ってくるから。先生たちには、適当に伝えておいて」
「「適当、って・・・」」
「兄様・・・気をつけてくださいね?」
アリーゼの心配そうな表情に大丈夫だよ、とうなずくと刀を持って船を後にした。
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