サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
「来たか・・・」
そこにはアズリアを筆頭とした帝国軍がすでに武器をその手にとり、いつ戦闘が開始されてもいいように、準備がなされていた。
それを、一行は顔を横へ移動させつつ眺める。その中に、ビジュの姿が見えないことに誰も気づいていなかった。
「アズリア、俺たちの話を聞いてくれないか?」
「話すことなどもはや、あるまい」
アズリアはレックスの進言を却下。目じりを上げて彼を一瞥すると、右手に持った剣をレックスに向けた。
「私の望みと、貴様の願いは、矛盾するもの。両立することなど絶対にあり得ない。ならば、どんな言葉を交わしたところで無意味であろうが!?」
「そんなことないわ!この島のことも・・・あの剣のことだって貴方はなにも知らないじゃないですか!」
アティの発言にアズリアは肩を揺らす。
必死な表情の彼女を見据え唇の端を吊り上げると、剣を地面に突き立てた。
「私たちに、話をさせて!戦うのは、それからだって遅くはないはずでしょう?」
「よかろう・・・そこまで言うのなら聞いてやろうではないか」
レックスとアティはこの島のことをすべて帝国軍に話して聞かせる。
それは以前、集いの泉で聞いたものとほぼ同じものであった。他に聞いていた話が無いのだから、必然的に話さねばならないのだが。
そんな話をアズリアは腕を組んで聞いている。
「なるほど・・・この島が召喚術の実験場だったとはな。道理で、はぐればかりと出くわすわけだ」
「島のみんなは無駄な戦いを望んでいない。俺たちが武器をおさめれば、共存だってできるはずだ。だから・・・」
島の住人が、無色の派閥によって強制的にリィンバウムへ喚ばれたのだとしても。彼らは戦いそのものをよしとしていない。それが、この場にいる全員の願いだった。
話を聞き終えたアズリアは、一度まぶたを閉じる。
「たしかに、無益な話ではなかったぞ。帝国にとって・・・」
閉じたまぶたを開くと、
「この島を接収する利益は計りしれん!」
笑みを浮かべ、地面に突き刺さった剣を抜いた。
アズリアの発言に2人は半ば確信めいたような顔つきで彼女をにらむ。元々、2人も帝国の軍人だったのだ。考えていることが多少なりわかっていて当然だった。
「無職の派閥でさえ扱いあぐねた魔剣と、あらゆる世界へと続く召喚の門・・・これらを帝国のものとしたならば、忌々しい旧王国の残党どもを駆逐する力となる!当然、その功績は今回の失態を補って余りあるものとなるだろうな」
帝国軍は実力主義。
それを彼女の発言によってはそのことを強く思い知らされた。
第17話 帝国軍
「悪く思うなよ。これが、軍人の思考だ。国益や功績、そうした現実的な尺度の中では哀れみや、いたわりはなんの意味もない!」
「そんな・・・っ」
わかっていたのだろうが、もしかしたら戦わずにすむかもしれない。そんな考えをめぐらせていたアティは顔に落胆の色を見せる。
レックスも顔には出さないが同じ気持ちのようだった。
「もう一度言おう。速やかに降伏するのだ。剣を渡し、この島から立ち去るというのなら、お前たちのことは見逃してやってもいい。それぐらいの器量は私にもある・・・」
「・・・ユエル」
「?」
は今この場にいるはずの人間がいないことに気づき、他には聞こえないくらいの小さな声で隣のユエルに話し掛ける。険しい表情をした彼女は、顔を彼に向けた。
彼女に向けて小さく耳打ちすると、うなずいてその場を走り去っていった。
「どれだけ大勢の人が信じているものでもそのほうが、上手なやり方でも・・・私には、それが正しいって思えないから!納得できません!!」
アティの発言にアズリアが驚く。納得して降伏してくれるだろうと思っていたのだから当然のことだった。
「ごめん、アズリア。俺は、戦いも、降伏もどちらも選びない。戦いから、逃げたくてそうするんじゃないんだ。自分の信じるものを貫くために・・・譲りたくない!」
「ふざけるな!」
2人が剣を抜くと、激昂したアズリアはレックスの眼前まで突進し、剣を振り下ろす。
レックスはその剣を自分の剣でうけとめた。
金属音と共に、帝国軍の兵士達が動き出す。
響き渡った金属音が、開戦の合図となった。
「いくら拒んだところで私が向かっていけば貴様とて、戦わざるを得まい!」
剣を受け止められたアズリアは笑みを浮かべると、帝国軍に攻撃の指示をする。
次第に、轟音や金属音が休むことなく響き始めた。
「行くぞっ!!」
は敵陣に向かって走り出す。何人か名前を呼ぶ声が聞こえるが、聞こえないフリをする。
周りから振り下ろされる刃物の数々をくぐりぬけ、周りが敵だらけとなった。
自分のことであるにもかかわらず、無理をするなぁと息を吐く。
「肥沃たる世界の大地よ・・・その力を、ここに!!」
そう叫び、刀身の光った刀を地面に突き立てた。
すると刀を中心として周囲に黄色い線で魔方陣が描かれ、淡い光を帯びる。
一瞬の地鳴りの後、魔方陣の光は強まり、刀との周りの地面から大質量の土が突き出るようにせりあがる。それは軍の大半を巻き込み、宙を舞った。
「悪いな。これも自分を受け入れてくれたこの島の仲間を守るためなんだ」
突き出す土が崩れ、元の状態へと戻っていく。刀を突き立てる以前の状態まで戻ると、そこに立っているのはのみとなる。
彼は突き刺さったままの刀を引き抜き、肩に乗せた。
「今だっ!」
戦力を削がれてしまった帝国軍にレックスが単身つっこむ。それに便乗して他の仲間も走り出した。
帝国軍の兵士たちは先ほどのの攻撃で動けなくなるものが多く、その数はすでに半数ほどになっている。
「どおりゃあぁぁぁ!!」
カイルが近くの敵を殴り倒す。
スカーレルは自分の周りにいる兵士をナイフで切りつけ、彼へ攻撃を加えようとしている兵士にソノラは銃弾をぶち込む。
「グオアアァァ!!」
ヤッファが爪を振りかぶり、振り下ろす。まともに受けた敵は血を流しながら倒れ伏す。
敵の召喚師による召喚術が発動し、召喚獣が宙に現れる。
大きな音をたてて、砂煙を巻き起こした。
「うわぁぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁ!!」
ナップとベルフラウがまともに召喚術を受け、ダメージを負う。
「いくよ、キユピー!」
「キュピピー!!」
アリーゼは2人のケガを治さんと慌てて駆け寄り、サモナイト石を取り出して詠唱を始めた。
「いっけェェェッ!!」
ウィルの召喚術が発動し、残りの敵を吹き飛ばした。
「はぁっ!!」
「く・・・」
アズリアはの刃を受け止め、舌打ちをする。刃同士がこすれ、赤い火花が虚空に散った。
「ぬうぅぅん!!」
「ちぃっ!」
ギャレオは繰り出されるカイルの拳を受け止め、腕力にものをいわせて押し返す。
カイルは無理矢理背後へ押し出され、たたらを踏んだ。
「行きますよ、レックス!!」
「はあああぁぁぁ!!」
アティが召喚術を使い、追い討ちをかけるようにレックスが剣を振るう。
息の合った連携攻撃で、2人に襲い掛かる兵士たちはことごとく地面に倒れていった。
「いい太刀筋をしているな・・・!!」
「!?・・・そりゃどうも」
とアズリアは同時に剣を振るい、ぶつかりあう。
キィン、と甲高い音が耳を貫いた。
「先ほどの力といい・・・、といったな。貴様・・・何者だ?」
「俺は・・・島に喚ばれた、はぐれ召喚獣だ!」
渾身の力をもってアズリアの剣を弾き飛ばし、切っ先を彼女の喉元へ移動させる。
「ぐ・・・」
彼女は向けられる刃を見、冷や汗を掻きつつ悔しげに舌打ちをした。
「君らの負けだ・・・撤退しろ」
「く・・・なぜ、勝てない・・・」
アズリアがつぶやいたこの時、ほとんどの帝国兵が戦闘不能になってしまっていた。
は反撃の意思がないと判断して、刀を納めた。
「戦う覚悟もできていない、甘い理想ばかり口にしているような相手にどうして・・・どうして、この私が勝てないのだ!?」
「覚悟がないってのは間違いみてえだぜ。隊長さんよ」
アズリアの嘆きにカイルが割って入る。
地面に拳を打ち付けて怒りに身体を振るわせるアズリアは、目を吊り上げたまま視線を上げた。
「たしかに、こいつらは争いごとに関しちゃあ甘過ぎる。覚悟なんてなっちゃいねえ。だがな、その代わりにこいつは別の覚悟を持ってるんだよ。どんなに苦しかろうと損をしようと、自分が正しいと思うことを貫いていく覚悟をな」
2人がカイルの名前を呼ぶ。
うつむくアズリアにカイルは笑みを浮かべて、
「認めてやるぜ。不器用なあんたのその生き方・・・」
「バカな・・・っ。そんなもので、納得ができるか・・・っ!」
アズリアは目の前に立つカイルに向かって切りかかろうと、剣を振り上げたそのときだった。
「うわぁっ!?」
轟音と共に、地面が揺れ動く。さらに強い風がと仲間たちに襲いかかる。
慌てて自分の顔を覆い隠した腕越しに前方を見やると、砲弾の着弾部は地面がえぐれ、黒煙を立ち上らせている。
「イヒヒヒヒヒッ!いくら手前ェが化け物じみてようがよォ?さすがに大砲を前にしちゃあ、手も足も出ねェだろうが!?」
突然現れたビジュに居合わせた人間たちは全員が戸惑っていた。
彼の予測もつかない行動に、いち早く我を取り戻したギャレオが食ってかかる。彼の存在がなかったことに気づいていたスカーレルは卑下た笑みをアズリアへ向けた。
「姿が見えないと思えば、そういうことだったワケね・・・」
「ち、違う・・・!?」
彼の言葉を否定しようとするが、ビジュが叫ぶことでそれが遮られた。
「ちったァ、感謝してくださいよ、隊長殿?俺様のおかげで、今貴女は、逃げることができるんですからねェ。イヒヒヒヒヒッ!」
ギャレオがアズリアに近づく。
「隊長、ここは・・・」
「く・・・っ。総員、退却だ!!」
「アズリア・・・っ!?」
「手前ェは、そっから動くんじゃねェッ!」
アティが動くとビジュが大砲をさらに3発、発砲した。着弾したと同時に地面をえぐり、煙を立ち上らせた。さらに彼は面白がって大砲を乱射し、周りに被害が及んでいる。
生徒たちや護人たちも飛び散る破片や爆風でダメージを受けていた。
「く・・・っ」
レックスが舌打ちした。
「イヒヒヒヒヒヒッ!壊れろ!壊れろッ!いひっ、ひゃはは!うひゃははは・・・」
思ったとおりだ、といわんばかりに笑みを浮かべ、彼女の名を呼ぶために声を上げた。
「ユエルーーッ!!」
「ガウウゥゥゥッ!!」
の声に応えるかのようにビジュの背後からユエルが飛び出す。
あらかじめ指示しておき、ユエルにビジュを探させていたのだった。ユエルの攻撃により大砲はひしゃげて、使い物にならなくなってしまった。
「手前ェッ!!」
「・・・」
ビジュはナイフを抜いてユエルに切りかかる。しかし、腕を振り上げた彼の前に、抜剣したレックスが立ちふさがった。
「は・・・ッ!?」
「・・・・・・ハァァアアアッ!!」
レックスは剣を振りかざし、威嚇するようにビジュの目の前で振り下ろす。剣は地面の寸前で止まり、振り下ろした衝撃でべしゃりと地面がへこんだ。
ビジュは彼から発される威圧感に腰を抜かし、背後へ倒れこむ。さらに、そのままズリズリと背後へと下がっていった。
「ひいぃぃ・・・っ!」
冷や汗を浮かべながら必死に手足を動かすビジュを強くにらみつけ、緑に輝く剣を再び振り上げる。
「ハアアァァァッ!!」
今度は思い切り剣を振り下ろす。先ほどと同様にしてその場に大きなクレーターが生成された。
ビジュは逃走が間に合わず、剣の衝撃で吹っ飛んでいった。
「どうしてなんだ・・・俺たちはただ、守りたいだけなのに・・・傷つけあいたくなんてないのに・・・誰にも、悲しい思いをして欲しくない・・・笑っていて欲しいだけなのに・・・っ」
「レックス・・・アティ・・・」
「それって・・・いけないことなの?本気で、そう考えたら。真剣に目指したらいけないことなの!?」
「「「「先生・・・」」」」
生徒たちが声をかける。
「どうして(なんだ)・・・っ」
2人の叫びが夕焼けの丘にこだましていた。
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