集落を回り、一息ついた。
 一緒にいるソノラは先ほどのデート発言のせいかいまだに少し顔が赤い。

「おい、ソノラ・・・まだ怒ってんのか?」
「・・・別に」

 そう言っているもののその顔はいかにも

 怒っています

 という表情であるかのように頬を膨らましている。

「悪かったから、機嫌直せよ・・・今度の食事当番代わるからさ」
「・・・しょうがないなぁ・・・まぁ、悪い気はしなかったけど」

 ソノラはぶつぶつと最後に言いかけていたようだが、何かと尋ねたには頬を赤らめたまま「なんでもない」と答えて少し表情を和らげた。

 ふう・・・とため息をつくと、

「そんなに嫌だったか?俺とデート」
「!?ちっ、ちがうよ!その・・・あたし海賊だし、そういうことしたことなかったから・・・その・・・」

 ソノラはやはり顔が赤いままうつむいて自分の前で指先と指先をツンツンとつつく。
 そのときだった。

「マスター!!」

 声の方向を見るとユエルが全力疾走に近い速さでこちらに向かってきて、2人の前で急制動をかけて止まった。

 ユエルは膝に手をついてぜえぜえと肩で息をしている。
 ソノラも気づいてユエルに尋ねた。

「どうしたの?ユエル」
「く、クノンが・・・危ないってせんせーが言ってた・・・!」

「「!?」」





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第16話  宣戦布告





 とソノラはお互いの顔を見あわせ、うなずいて走り始めた。
 「ユエルまだ動けないよぉ〜」と情けない声を上げつつも、負けじとついてきていた。

「ユエル!!先生が向かったのはどこ!?」
「は、廃坑だよ!!」
「ジルコーダの巣があったところだな・・・」

 クノンが危ないというのはジルコーダの生き残りに襲われているかもと思ったからだろう。
 しかし、なんでクノンが廃坑なんかに行く必要があるんだろう・・・?
 そんな疑問が頭をよぎった。

、早く行くよ!先生たちが危ないんだから!」

 ソノラの声にはうなずき、走る速度を上げた。


     ドォ・・ン!!


「Gyeeee!?」
「「「「先生!!」」」」

 ジルコーダがベルフラウとウィルの召喚術により宙を舞う。

「大丈夫ですかっ!?」

 アリーゼの声が廃坑内に響く。

「ね?」
「あ・・・」

 アティは後からやってきた味方に向けて手を振った。
 あまりののんきさに、カイルはため息をつく。

「無事みたいだな・・・ったく、のんきなもんだぜ」

 ナップがカイルと同様に安心したようにため息を吐いた。

「さ、みんなのところへ合流だ!」

 レックスとアティは剣を抜き、クノンは槍を構えた。






     キィン!ギイン!!


 金属のぶつかる音が聞こえる。

「あ、もうやってるみたいだよ!」
「よし、急ぐぞ!!」
「うんっ!!」

 とソノラが遅れては廃坑の中へ入っていく。
 入ってすぐに、多くのジルコーダと、戦っているソノラを除くカイル一家、それに先生たちとクノンが視界に納まった。

「俺たちも加勢しよう!」

 その声にソノラが銃を構えねらいを定める。
 と2人よりもさらに遅れたユエルは戦場の中に飛び込んだ。

「「「、ユエル!!」」」
「悪い、遅くなった。俺たちも加勢するぞ!」
「いっくよー!!」

   ドンッ!、ドンッ!

 ソノラが声と共に銃を放つ。
 放たれた銃弾はジルコーダの身体に確実に命中していった。

 銃弾によるダメージを受け、動きの鈍ったジルコーダを接近戦チームがとどめを刺し、倒していった。

「盟約に応えよ・・・ブラックラック!!」

 ヤードの持つ紫色のサモナイト石が輝く。すると、全身に包帯を巻いた召喚獣が姿をあらわした。
 召喚獣は激しい雷撃を放つ。それはジルコーダたちを数体まとめて包み込み、轟音を放つ。
 召喚獣が消えると、そのジルコーダたちは黒焦げになって倒れていった。

「はあっ!」
「やあ!!」

 とユエルは背中合わせに連携をとり、敵を確実に減らしていった。









「みんなが助けに来ることに、確信があったのですか?」
「なんとなく、ですけどね」
「でもさ、俺たちは自分の仲間を信じていたから。絶対に、助けにきてくれるってね」

 クノンの質問にアティが苦笑いをする。そして、レックスが続いてウインクをした。

「やはり、貴方がたの行動は滅茶苦茶すぎます。ですが・・・」

 クノンはそこまで言うとかすかに笑って、

「そういうのは・・・私も、キライではないかもしれません・・・」

 そう言って皆に礼を言いながら廃坑を出て行った。

 レックスもアティも看護人形(フラーゼン)のクノンが笑っていたことに目を丸くし、その後嬉しそうに笑みを見せた。



「なあ、レックス。クノンは何で廃坑にいたんだ?」
「ああ、アルディラの薬を作るための材料集めだって」
「薬?アルディラは病気でも患ってるのか?」
「融機人(ベイガー)はこの世界の病原体に対する抗体がないから、ここで生きていくために薬を飲まないといけないんだって」

 の質問にレックスは笑って答えてくれた。
 アルディラも大変そうだな・・・とは素直にそう感じた。




 廃坑を後にし、船へと戻った。先生たちは用事があるとかで、今ここにはいない。
 食事当番であるソノラを手伝い、先生たちをのぞいた全員で食事の時間となった。

「しかし、先生たちおそいな・・・」
「そういえば今日は朝から変だったよ、先生たち」

 カイルがふと、声を漏らす。
 それに同意するようにソノラが口をはさんだ。
 なんか暗い顔してたよー、とユエルもうなずいた。

「そうですね・・・何かあったのでしょうか?」
「探しに行こうよ!」
「そうだな・・・そうするか!」

 ソノラの提案にうなずき、全員で先生たちを探しに出ることになった。











「綺麗事を抜かすなッ!」
「レックスっ!?」

 アズリアが剣を振るう。空を切る音がしたかと思えば、レックスの持つ剣にずしりと重みがのしかかった。彼は繰り出された剣を自分の剣で受け止めたのだ。歯を食いしばって、その重みに耐えていた。








「おい!あれは・・・」

 カイルが指さすとそこにはアズリアとレックス、アティが対峙していた。アズリアとレックスに至っては、すでに刃を交えている始末。その光景にスカーレルは、その整った顔をゆがめ、つぶやいた。

「ちょっとヤバいわねぇ・・・」
「ヤードの予感が的中したみたいだな」
「そうですね・・・」

 が苦笑いをしながらつぶやくと、ヤードは眉間にしわを寄せて答えた。

「早いトコ助けに行こうよ!」

 ソノラの声にせかされる。
 全員でその場に足を踏み入れた。


「生きることは、戦いだ。誰かを打ち負かして、勝ったものだけが、望みを叶えられるのだ。それを否定するならば貴様に、生きていく資格などありはしない」

 アズリアが声をあげる。

「私が、この手でその幕を引いてやる!」

 交えていた剣が離れ、アズリアの剣が再度レックスを捉える。


     パァン!!


 振り下ろされた瞬間、銃声が森に響き渡った。
 銃弾は3人から近い木に着弾し痕跡を残す。

「!?」
「ソノラ・・・?」
「それに、みんな・・・」

 アズリアの手がソノラの銃によって止まった。
 彼らを見たアズリアはその人数差に小さく舌打ちをする。
 糸のように細く白い煙が未だ出ている銃口を、アズリアに向けると、

「先生から離れなさい!でないと、今度は本気で当てるから!」

 ソノラは声を上げた。
 なぜ、と言わんばかりの表情を見せる2人の先生にの周りに、全員が終結すると、

「あんたの様子が変だって、そいつがうるさくてよ・・・やけに帰りも遅いんで心配になって、探しにやって来たのさ」
「その様子じゃ、大正解だったみたいね」
「せんせー、大丈夫!?」

 カイルの説明に付け加えるようにスカーレルが言った。ユエルも心配そうに2人を見ていた。
 アズリアはふんっ、と息を吐くと、

「海賊どもが・・・つくづく、邪魔ばかりしてくれるものだ」

皮肉のように声を上げた。これにソノラは頭に血を上らせ、

「いきがってんじゃないわよ!!たった一人ぼっちであたしら全員を相手にするつもり!?」
「今の銃声を聞き逃すほど、私の部下は愚かではないぞ」
「!?」

 アズリアの発した言葉にソノラはしまったと眉間にしわを寄せる。

「それまでの間なら、私の力だけでも充分に貴様らを押さえられる」

 宣言したアズリアはサモナイト石を手に持ち、魔力を注ぎはじめた。
 紫色の石が光を帯びる。

「やめるんだ!アズリア!?」

 レックスとアティが対峙する2組の間に割って入ると、攻撃をやめるよう促す。
 なぜ止めるんだ、言わんばかりの表情をカイルが見せると、

「私たちは引き上げるから!!」

 アティは声を張り上げて言った。

「落ち着いてください、カイルさん。彼女の判断は正しい。ここで戦えば、人数に劣る我々が、圧倒的に不利です」
「周りの森に隠れて包囲されて不意打ちされたら・・・」
「あっという間にアタシたちはオシマイってことよ」

 とスカーレルの言葉にとりあえず納得したカイルは拳を収めた。

「・・・よかろう」

 アズリアも光を失ったサモナイト石を懐へしまいこむと、ふう、と息を吐きつつ笑みを浮かべた。
 その笑みは、彼らを嘲るような、見下すようなもので。

「単なる行きがかりで決着をつけるのでは興ざめだからな。今は、見逃してやろう。改めて、決着をつける時まではな・・・」

 彼女はそう言うと去っていった。さすがに見下すように言われてはさすがの海賊一家も黙ってはいられない。
 いらだつ気持ちを押さえ込んで、船に戻った。





「びっくりしました。まさか、あんな形で彼女と出会うなんて」
「びっくりしました。で、すむような問題じゃないってば!」

 船に戻ったアティの第一声にソノラがつっこむ。

「そうよ。一歩間違っていたらどうなっていたことか」

 スカーレルもソノラと同意見らしく、指をさして2人を注意している。

「さっきはあそこであの女隊長が退いてくれたからよかったものの」

 はそこで言葉をくぎると息を吐いて、戦っていたらやばかったもんな、と続けた。

「補給や援軍が望めないこの状況で、遭遇戦で兵を消耗させるのは得策じゃない。彼女は頭がいいんです。だから、それくらい計算済みですよ・・・」
「なんだか、まるであの人を信頼しているような言い方ですわね?」

 ベルフラウの発言にアティは苦笑いをしてこれは信頼じゃなくて確信って感じですね、と言葉を返して彼女とのことを軽く話した。


「しかし、先生よ。だからといって、引くわけにはいかねえぜ。俺たちはヤードと約束をしてるんだ。二本の剣を取り返してみせるってな」
「剣の力のすさまじさは実際に使っている貴方が、一番わかっているはずでしょう。軍事目的に利用されることは、絶対に避けるべきなのです」

 カイルの言葉はもっともだ。
 約束は守るものだとも思う。

 カイルとヤードの言葉にレックス、アティの両名は口をつぐむ。やはり、親しかった友人とは戦いたくないというのが本音だった。

「センセの気持ちはよぉく、わかるけどね。剣を渡すことは無理よ。だとしたら・・・向こうとの戦いも避けられないワケよ」

 スカーレルも追い討ちをかけるように言うと、2人は悲しげにうつむく。

「「・・・・・・・」」

 沈黙が部屋を包み込む。
 数分後それを破ったのはソノラだった。

「ちょっと、みんな!これじゃあ、まるで先生が悪いみたいじゃないのよ!?」
「そうだよ!」
「そうですわ!」
「その通りだね」
「そうですっ!」

 生徒4人も声をあげる。

 カイルが違うのだと声を出すが、それを聞かずにソノラはさらに声を荒げた。

「前から思ってたけどさ。そもそも、あの剣ってなんなのよ!?ヤードだって、知ってることの全部を話したわけじゃないんでしょう?」

 ソノラの発言にヤードは口篭もる。

「いいんだ、ソノラ。俺は、気にしたりしてないから・・・」
「また、そうやって笑ってごまかして!」

 レックスは話を途中で遮られてあ然とする。
 この場にいる全員が彼女を見つめた。

「得体の知れないものが自分の中にあるんだよ。どうなっちゃうかもわかんないんだよ。不安じゃあ・・・っ、ないはずっ、ないじゃないのよぉ・・・っ」

 彼女はそれだけ言うと涙を流した。

「ソノラ・・・」

 レックスもアティもうつむく。

「悪かったわ、ソノラ。でも、貴方が泣くことなんてないの・・・ほら、部屋に戻って落ち着きましょう」

 スカーレルがソノラをつれて船長室から出て行った。
 しばらく沈黙が流れる。

「悪いけど俺も部屋に戻るから」

 行くぞ、と言ってユエルを呼ぶ。

「「・・・」」
「まだちょっとしか一緒にいないけど、少なくとも俺が見てきた中ではソノラの言う通り、君たちは君たちらしくないことばかりをしてる」
「・・・・・・」

 はみんなの視線を尻目に扉を開ける。

「自分が自分をどうしたいのか、考えてみなよ」

 そう放って船長室を出た。





「海って、妙に落ち着いてますよね」
「そうだね。さっきもまるで前に同じことを体験してきたかのような口ぶりで話すし」

アティの発言にレックスが同意する。

「ま。それは、本人しかわからねえってことだな」
「そうですね」

 カイルはそう言ってこの場は解散、という形をとった。
 まだ、いくぶん納得できない気持ちでいっぱいではあるものの、これ以上は何を話しても無駄なのだと彼は悟っていた。







「ふぅ・・・」

 船長室を出たは深いため息をつく。
 ユエルは不安そうな目で見ているのがわかると、彼女の頭に手を乗せた。

「大丈夫。あの2人は強い。きっと答えを見出せるよ」

 そういってユエルの頭を撫でた。











「レックス殿、アティ殿はおられるか!?」

 朝、低く太い声が響く。
 何事かと外に出てみればそこには前に帝国軍で見た大柄な男が立っていた。

 船の住人全員が彼のところへと向かっていく。
 メインであるレックスとアティの両名がそろったところで、彼の話は始まった。

「我が名は帝国軍海戦隊所属、第6部隊の一員。ギャレオ・・・隊長殿の命令に従い、ここに宣戦布告の名代として参上した!」
「宣戦布告・・・ね」

 はふう、と息を吐く。

「つまり、アンタたちはアタシらごとき海賊を相手に、戦争なんてしちゃうわけね?」
「侮辱は許さんぞ!」
「よせよ、スカーレル。とりあえず、こいつの口上は聞いてやろうぜ」
「はいはい・・・」

 スカーレルがカイルに止められると、彼は両手をひらひらとふって了解の合図とした。こわばった表情を改めて、ギャレオと名乗る男咳払いを1つ。

「・・・ゴホン。我が部隊は、後方にてすでに臨戦態勢にある。しかし・・・賊といえど、弱者に対する一方的な攻撃は帝国の威信を損なうと隊長殿は、お考えだ」
「・・・・・・」

 弱者、という言葉に反応するものがいた。
 主にはカイル一家。も反応する者の一人だった。
 笑みを浮かべるものもいる。

「よって、同時に降伏勧告を行う!降伏の意志あらば着服した剣を持参して本陣にまで来られよ。返答の意志なきと判断されし時はやむを得ず攻撃を開始する。・・・以上っ!!たしかに伝えたぞ!」

 話すことだけを話してギャレオは森の中へ消えていった。
 カイルがくっくっ、含み笑いをしている。

「弱者、ときたか」
「「カイル(さん)・・・」」

 レックス、アティがカイルを呼ぶ。
 カイルは笑みを消して鋭い目を2人に向けた。

「ムダよ。ああまで言われちゃあさすがに、アタシらも引っ込みつかないわ」
「ごめん、先生・・・あたしたち、やっぱね。海賊なのよ・・・」

 スカーレルもソノラもカイルと同様、自分たち海賊のメンツに泥を塗られ、多少なり怒りの表情をあらわにする。

「そうだな。あそこまでいわれちゃあ、逃げるわけにはいかないよな?」
まで・・・」

 上等だ・・・と言っては刀を持ち直して、ニヤッと笑う。

「おい、先生よ・・・まさか、止める気じゃねえだろうな?」

 カイルの問いにアティが笑う。

「はい、止めちゃいます」

 何かが吹っ切れたみたいな、清々しい顔をしていた。それは隣のレックスも同様で。

 カイルは人をも射殺してしまうような鋭い目をして、2人をにらみつけた。
 しかし、それに押されないようにと笑みを顔に貼り付けて、淡々と話した。

「今のは、俺たちに対しての宣戦布告だよ」
「!?」
「我慢して欲しい。なんて無理なことは言わない。だけど、その前に・・・少しでいいから。俺たちに、彼女と話す時間をくれないか」

 そういって2人はカイルを見つめた。
 たしかに、布告の対象はレックスとアティの2人であることはギャレオが声高らかに伝えている。

 2人のまなざしを一身に浴びたカイルは、大きくため息を吐くと、

「・・・わかった。ただし、これっきりだ。もし、話をしてもあんたたちの望んだ結果が出ない時は・・・覚悟を、決めろや」

 変わらず目つきを変えずに言い放った。
 先生たちはわかってるよ、と笑って返事をする。





 帝国軍の待つ丘へと向かった。





戦争を・・・するために。






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