サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
『主、我が主よ・・・』
「誰だ・・・!」
見回すとそこは初めて召喚された時と同じ、暗闇の世界。
『我が名はロギア』
「ろ、ぎあ・・・」
トーンが高めの声が消えると、目の前が淡く光り、人の形をとりはじめた。
はその光景に少なからず驚いてはいたものの、リィンバウムは何でもありの世界だから、という勝手な解釈が成されていたためすぐに落ち着くことができた。
『我はロギア。主の使っている魔剣、ロギアだ』
「メイメイが言っていた奴だな・・・で、俺に何か用なのか・・・?」
の質問に彼、または彼女は表情こそわからないものの、真剣な口調で話し始めた。
『心して聞くのだ。主の魔力は他の者に比べると極端に少ない』
「少ない・・・つまり、召喚術がほとんどできない、と言うことだな」
『そう・・・我を使役するためには、魔力をほとんど持たないものでなければならなかったのだ』
「・・・・・・」
話によると、今のリィンバウムには魔力が0に近い者がいなくなってしまい、20年程前の一人の鬼を最後に、のような魔力が0に近い者を探していたというのが自称魔剣ロギアの言い分だった。
『その鬼は、仲間を守ろうと我を振るい、戦死した』
「・・・・・・」
ロギアは悲しそうな声を発した。
第15話 散歩
「で、俺に何をしてほしいんだ?」
ロギアは答えない。
「何か頼みたいことがあるから、俺をここに呼んだんだろ?」
『・・・世界』
「・・・?」
『世界を・・・救ってほしい』
この言葉を聞いて、ジルコーダを退治したあとの胸騒ぎはどうやら現実のものとなるのだろうとは半ばと確信した。
「世界とはリィンバウムのことだな?」
『・・・そのとおりだ』
はうつむいて頭を掻く。
この問いが、自分以外の人間に発されたのなら、おそらく全員がNOと返すことだろう。
しかし、の心はそのような人間たちとは違っていた。
答えはもう決まっている。
「まぁ、ここに俺がいることが運命であるのなら」
『・・・・・・』
「やらせてもらうよ」
乗りかけた船だしな、と付け加えた上ではロギアに微笑みかけた。
ロギアは安心したかのような雰囲気を醸し出しつつうなずくと、右手を差し出した。
『我の力は大自然の力。世界を救うための力だ』
「メイメイは使いすぎてはダメだといっていたが」
『正式に契約した者ならばその問題は不要』
ジルコーダたちに向かって使った力は未契約の力で、これは使用者の精神力を力に変える。
だが、契約した者ならそれは不要だという。リィンバウム全体が力を貸してくれるのだと、ロギアは言った。
『頼んだぞ・・・』
は差し出された右手を同じように右手で握り、握手を交わす。
ロギアは声と共に跡形もなく消え去り、声が響くと同時に目の前が眩い光を放った。
「マ・・。お・・・」
「う、ううん・・・」
「マースーターー!!」
「あ゛ぁ!!?」
ユエルがびくッと身体を震わせて行動を止めた。
むっくりと起き上がり、頭を掻くと今の状況を認識しては正気を取り戻す。
「悪い・・・俺寝起きは苦手でな・・・怒鳴ったりしてすまない」
「う、ううん・・・!大丈夫!」
ユエルはいつまでたっても起きてこない自分を起こしに来たと伝えて部屋を出て行った。
「あ、。やっと起きた。待ちくたびれちゃうトコだったよ〜」
「わるい、遅くなった。みんなは?」
朝食をとるために船を下りる。そこにいたのはソノラだけで、彼女は樽に座って足をぶらぶらとさせていた。ずいぶんと暇を持て余していたのだろうなという結果に至ったは、とりあえずごめんなさいと頭を下げた。
あたしが当番のときに盛大に寝坊しないでよね!と言いつつも、彼のために用意された食事を運ぼうとに背を向けた。
「で、ほかのみんなは?」
「アニキはユクレス村、スカーレルはラトリクス。ヤードは風雷の郷。先生たちは授業中・・・はい、ゴハン」
渡された皿を受け取り、一気にかっ込んだ。
ソノラは即興で組み立てた机のの向かいに腰掛けると、両肘を机についてそれを眺めていた。
「そんな食べ方すると、のどにつまるよ」
「問題ないよ。ユエルはもう食べたのか?」
「うんっ!」
大きく首を縦に振った。
「ごちそうさまっと。さて、どうすっかな?」
「あ、皿かして。洗うから」
「俺がやるから、いいよ。さんざん待たせたんだし」
はそういってソノラから皿を受け取り、洗った。
「ユエル遊びに行ってくる!」
「気をつけてな」
ユエルはわかったー!、と返事をしたかと思うと、あっという間に走り去ってしまった。
しばらくして皿洗いが終わると、両手についた水を払いつつ盛大に伸びをした。
「さて、せっかくだからその辺ぶらぶらするか・・・ってソノラはどこか行かないのか?」
「あたし船番だからさ」
「船の中に先生たちいるんだから、いいと思うけど・・・そうだ!せっかくだから、一緒に散歩に行かないか?」
ソノラはしばらく考えた後、「そうだね」とうなずいた。船番はなんとかなるらしい。
どこへ行こうかと考えている間に、ユクレス村に差し掛かる。
せっかくなので寄っていこういう結論に至り、村へ足を踏み入れた。
「あれ?あそこに人だかりができてる・・・」
ソノラが指差す方向に見えるのは人だかりだった。
「せっかくだから、行ってみるか」
人だかりの中心ではオウキーニが何かの作業をしつつ汗を拭っている。その周りにカイルとミスミと村の住人たちがいるといった状況だった。
「アニキー!!」
「? ソノラにじゃねえか、ちょっとこい!」
「「?」」
カイルに言われるまま人だかりの中心にたどり着くとそこには魚の煮物がずらっと並べてあり、できて間もないのか湯気をたてていた。
「これ、食ってみろよ」
「ほーっ、うまそうな煮物だな」
「じゃあ、いっただきまーす!!」
ソノラは先に煮物を口に入れた。
「おいしい〜」
「ほれほれ、も食うてみるがよい」
「どれどれ・・・」
はミスミに差し出されたさじを受け取って煮物を口に入れる。
は目を見開いて、
「うまいな〜!これ。だれがつくったんだ?」
「こいつだよ」
カイルはにんまりと笑ってオウキーニを指さした。
当の本人は頭を掻きつつ頬を赤らめている。
「ま、まいど・・・」
「「うそっ!?」」
とソノラの声が重なる。
「オウキーニが、もともと料理人だったってのは聞いていたけど・・・まさか、ここまですごいとは・・・」
ソノラは一度オウキーニのことを聞いていたらしいが、話半分に聞いていたらしくかなり驚いていた。
「確かにすごいよ、これは。店開けば繁盛間違いなしだな・・・」
「ウチのニイさんは食べ物の好き嫌いがひどうて、ひどうて。そやから、ウチが色々と工夫をして食べさせとるんですわ」
そういってオウキーニは苦笑いをした。
「ここまで完璧なシルターン料理を人間が作るとは、正直思わなんだぞ」
「もともと、ウチは自治区育ちやさかい。これしか、料理は知らんだけですわ」
てれてれとオウキーニは返事を返す。
はじーっと煮物を見つめると、
「この煮物、シルターン料理なんですか?」
「ああ、そのとおりじゃ」
はミスミの返事をそれを聞いてまじまじと煮物を見つめる。
その様子を見かねたカイルは、の肩を叩いた。
「どうしたんだよ?」
「ん?ああ、この煮物なんだけどな。これ、俺のいた世界の料理によく似てるんだよ」
「ほう、そなたの世界にもこのような料理があるのか?」
「ええ」
ミスミの質問に俺は首を縦に振った。
なんていう名前かとたずねれば、オウキーニは「肉じゃがですわ」と答えた。まさか異世界で見知った料理に出会えるとは思わず、遠い故郷を思い出していた。
「そういえば、ご老体が今度ゆっくり話がしたいと言っておったぞ」
「え・・・わかりました。近いうちに伺うことにします」
はミスミにそう答えると、ソノラと共にユクレス村を後にした。
お土産にともらった肉じゃがを頬張りながら歩いていると、ソノラはを覗き込むように腰を折り、尋ねた。
「のいた世界って、シルターンと似てるの?」
「そうだな・・・似てるといえば似てるけど、似てないといえば似てないな。俺のいた世界では、科学が発達してたし、自然もそこそこあるし、霊的な話もたくさんあるし」
俺は今どうなっているのかもわからない故郷の町を思い出すように遠くを見る。
「カガクって?」
「ラトリクスみたいな機械技術って言ったほうがわかりやすいかな」
その後ものいた世界のことについての話をした。
「ということは・・・のいた世界は、4つの世界をひっくるめた感じなんだね?」
「まあ・・・そんなトコだ」
あらかた話をすると、風雷の郷が見えてきた。
「素晴らしいですよ!!これは!?」
「「え、えーっと???」」
郷へ入ろうとしたところで、ヤードの興奮したような声が聞こえた。
「今のヤードだよな?」
「うん・・・」
とソノラは声の方向へ向かった。
声の源は、ゲンジさんの庵。ヤードとゲンジさんが2人で湯のみを片手にお茶を飲んでいる。
レックスとアティはそばでおどおどと挙動不審になっている。
「ちょっとヤード、なにやってんの?」
「ああ、ソノラさんにくん。見てのとおり、お茶を飲んでいるんですよ」
「あ・・・そう・・・」
ソノラは満面の笑みを浮かべたヤードに後ずさりをした。
そういえば、ヤードは無類のお茶好きだったんだ・・・と遠い目をした。
「お茶、か・・・ゲンジさん、俺もいただいていいですか?」
はゲンジさんから湯飲みを拝借してお茶をすする。
やけどをしないようにと息を吹きかけてお茶を口に入れた。
「あ〜、おいしいですね、このお茶」
「ほお。おぬし、この味がわかるか?」
「いや、冗談抜きでうまいですよ。俺の家って和風で飲み物って言ったらいつもお茶だったんです。このお茶は家のお茶なんかよりもうまいですよ!」
まぁ、家のはスーパーで買ったようなものなんですけどね。
は付け加えるようにそう言って、再度お茶を口に入れた。
ソノラを含めた3人はぽかんとしている。
「しかし、これが貴方の手作りだとは驚きです」
「これゲンジさんが作ったんですか!?」
「いい苗を、鬼姫から分けてもらえたからな。加えて、ここの土と水は申し分がない。だから、ワシごときの工夫でも、これだけの味が出せるんじゃ」
ゲンジさんの説明にやっぱりスーパーのとは違うなぁ、などと思いつつ湯気の立つお茶をすすった。
「いえいえ、これは並の努力で作れるものではありませんよ。各地のあらゆるお茶を飲み比べてきた、私の舌はごまかせません」
ヤードが言うには今まで飲んできたお茶の中でも素晴らしいものだと言って胸を張った。
ゲンジさんは豪快に笑うと、彼とにお茶を勧めた。
「ええ、是非!」
「とっても飲みたいですけど、俺は他のところにも行こうと思っているので、またの機会に」
ヤードはうれしそうに返事をするがは当り障りのない程度に断った。もちろん、今は散歩中だったからである。1人でならいいのだが、今は1人で行動しているわけでないのだから。
すっくと立ち上がり、ゲンジに礼を言うと、3人の所へ向かった。
「じゃ、行くか」
「いいの?いっしょにいなくて」
ソノラの質問に笑って答えた。
「ソノラを誘ったのは俺だからさ、待たせちゃ悪いだろ?」
「ところで、2人は何をしてたんだい?」
レックスの質問にソノラが答えようとした。
「それは―――」
「デートだよ、デート」
突如割り込んできたの答えにソノラは赤面すると、あわあわと両腕を振り出した。
「でっ、ででででデートォ!?」
「なんだよ、ソノラ。俺なんか変なこといったか?」
悪気もないと言うように発されるの問いにソノラはさらに赤くなって声を荒げた。
「散歩でしょ!?散歩!!・・・まったく・・・」
「それじゃ、私たちはお邪魔ですかねえ・・・」
ソノラの話を聞こうともせずにアティが口元に手を当ててむふふと笑う。
「ぶーぶー!!!」
ソノラ以外のメンバーは森の中で声をあげて笑った。
「だから散歩なんだってばぁーーー!!!!」
ソノラの叫びが森に響き渡った。
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