「まず、はっきりと言っておかなくちゃならねえことがある」
喚起の門でジルコーダを撃退したたちは、集いの泉で今回の出来事を話した。
メインはやはり異世界メイトルパから門をくぐってやってきた、魔獣ジルコーダについてだった。
「事態は、一刻の猶予もならねえってことだ」
「冗談にしては・・・タチが悪すぎるわね」
「なにが、起きてる?」
「喚起の門で、我らが遭遇した虫の化け物。それが、一晩で森を破壊した張本人だったのです」
カイルの問いにキュウマが返答した。
みんながみんな驚いた顔をした。
実際に遭遇した人間はその魔獣のことを知っているため、思い出したかのようにうつむく。
「ジルコーダ・・・メイトルパの言葉で『食い破る者』って意味だ。辺境に生息している虫の魔獣なんだがな。興奮状態になると、その鋭い牙で、周囲のものを噛み砕いて回る。手当たり次第にな。しかも、その興奮は仲間へと伝染して回るから、最悪よ」
「な!?そんな物騒な連中が、なんで唐突に出てくんのよ!?」
ヤッファの説明にソノラが声をあげる。
確かに、物騒ではある。
興奮状態のジルコーダは一度暴走すると手がつけられない。それは先ほどの戦闘で実証済みだった。
先の戦闘では数が比較的少なかったから何とかしのげたものの、さらにたくさんの興奮状態のジルコーダがいっぺんに襲ってきたら、もう手の打ちようがない。
「アラタニ・・・ヨバレタノダロウナ。カンキノ、モンノボウソウデ・・・」
「誓約の果たされていないはぐれ召喚獣として召喚されてしまったわけですか・・・」
ファルゼンの答えにヤードは複雑な表情をしてつぶやいた。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第14話 魔獣
「過去にも、こういったことはありました」
「俺もそのうちの一人ってわけか・・・」
のつぶやきにキュウマがうなずく。
喚起の門の暴走は今に始まったことではなく、昔から起こっていたらしく、止める術もなく強制的に召喚獣が喚びだされることがあり、護人たちはそのたびに門へ行っては事後処理を行っていたと、キュウマは続けて話した。
「しかし、今回ばかりは事態が深刻です」
「どうして?」
「とてつもない勢いで連中は増えるのさ。エサとなる植物がある限りな。そして、この島は連中にとって最高のエサ場だ・・・」
アティの問いにはヤッファが答える。
ヤッファの答えに護人以外の全員が驚きの表情をする。
ここは植物が豊富で、もし遭遇でもしたりすればいっせいに襲いかかられてしまうだろう。
「そんな奴らをほっといたら、島中が大変なことになるな」
「ええ、放っておけば、じきに島の自然は破壊されてしまうでしょう」
と同じ意見のアルディラがさらに話した。
「それを防ぐためにも、あなたたちみんなの力を貸してもらいたいの」
アルディラの依頼にカイル一家は快く承諾した。
この島に住むみんなのためにも、頑張らねばならない。
もちろんもそれに承諾した。
「ですが、相手は魔獣。人間である私たちがたちうちできるかどうか・・・」
「わかっています。そのために、我らから武器を提供いたします。受け取ってください」
キュウマの手に収まっていたのは、ナックルと杖。そして、ソノラが心待ちにしていた・・・銃だった。それを見た瞬間、彼女の目が輝いた。
「これって、銃!?」
「場合が場合だしね。それに・・・」
「オマエタチナラマチガイハ、ケシテオコスマイ・・・」
ファルゼンの答えにソノラはとびあがって喜んでいる。
「うんうんっ♪もぉ、バンバンに張り切っちゃうから!」
「・・・・・・」
はその言葉に背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
思わず後ずさりする。
「どうしたの??マスター?」
「いや・・・なんでも・・・」
ユエルに笑顔を作るが、ぎこちないものになってしまった。
何もなければいいが・・・
はそう祈らずにはいられず、思わず眼前で何も起こりませんように、と小さく十字を切った。
会議を終えて解散する。
は道具をそろえるために、メイメイの店へ足を運んだ。
「こんちはー」
「あらぁ〜、にユエルじゃないの〜♪どうしたの?」
相変わらずメイメイの顔は赤い。それにも関わらずユエルは笑顔で挨拶をしている。
酒を飲んでいたのだろう、とすぐに察しがついたが、彼女の酒好きは矯正のしようがないことを瞬時に悟り、はため息をついて用件のみ伝えた。
「これからちょっと虫退治に行くんだ。そのための準備だよ」
「じゃ、ゆっくり見ていってちょうだいねェ〜♪」
店内を見て、状態異常を治す薬草をいくつか買った。
「まいどあり〜。あ、そうそう」
「ん、何?」
「こないだ譲った刀。どうやら貴方を主と認めたようだけど、その力をあまり使わないほうがいいわよ」
メイメイが珍しくまじめな顔で忠告した。
「この刀、何かマズいものなのか?」
「うーん。なんていうかぁ、特別なのよ。それ」
「特別?」
「こないだ来たときは言わなかったけど・・・その刀はね。使い手の精神力を使ってさまざまな自然現象を引き出すことのできる魔剣なのよ」
「・・・・・・は?」
「つまり、使い手であるキミの精神力を使うことで不思議な現象を起こせる刀なのよ」
この刀にそのような力があったのか、などと思いつつは改めて刀を見下ろす。鞘に納まったそれは店の明かりに反射して光った。
「だからこそ、使いすぎれば精神力がなくなってキミは倒れてしまう」
「「・・・・・・」」
メイメイはへらりと笑ってヘタしたら死んじゃうかもねェ〜、なんて発言をする。
「だ、ダメーッ!!マスター。その剣のチカラ、使っちゃダメだよ!!」
「お、おい・・・ユエル・・・」
ユエルの剣幕に押されて後ずさりする。
どうやらメイメイの死んじゃう発言に反応したのだろう。
「ユエル・・・マスターが死んじゃうの・・・ヤダ・・・」
ユエルは泣きそうな表情になっている。
メイメイは、いい護衛獣にめぐり合えたものねェ〜、と感心している。
ユエルの肩に手をおく。
「大丈夫だって。そんな力使わなくても戦えるからさ。知ってるだろ?使うのは、ホントに必要なときだけだから」
ユエルはうん、とうなずく。
「俺ももちろん死んだりしないし、な」
「うん!!」
の言葉を聞いたとたんにユエルは元の笑顔に戻った。
「なあ、先生よ。もう一度だけ、確認しとくんだが・・・帝国軍の奴らの動きはこの際、考えなくてもいいんだな?」
準備が整い、集いの泉に集まる。
帝国軍の行動が気になっていたヤッファが尋ねた。
「ああ、向こうの狙いは俺の持っている剣。目的がはっきりしている以上、それ以外の対象に攻撃を仕掛けたりはしないと思う」
彼女は、昔からそういう性格ですから、とアティが続けた。
「わかった・・・これで懸念はひとつ消えたわけだが・・・もうひとつだけ出発の前に片づけておくことがあるようだ」
ヤッファは部屋の入り口を見つめる。
「隠れてないで出てこい、マルルゥ!?」
「「「マルルゥ!?」」」
ヤッファの一声で部屋の入り口の影から出てきたマルルゥはらしくもなくしょげた表情をしており、今にも泣きそうな雰囲気だった。
彼女の登場に驚いて声をあげる。
「留守を守るって約束はどうした?」
「そ、それは・・・っ」
ヤッファの質問にマルルゥは口篭もる。
彼女の行動にヤッファはため息をつくと、
「心配すんじゃねえさ。ぱぱっと言って片づけてくるからよ」
と説得する。
同じように彼女へ向けて笑顔を見せた。
「シマシマさん・・・みなさん・・・」
「心配しないでも大丈夫だぞ、マルルゥ?みんなが一緒だからな。力を合わせれば、何だって乗り越えられる」
「ガクランさん・・・」
「宴会の準備でもして待ってろって、な?」
ヤッファの提案にマルルゥは気をつけてくださいですよ!といって飛んでいった。
「さあ、みんな行こうか」
レックスの声にうなずき、ジルコーダの巣へと足を向けた。
森の中をしばらく歩くと、炭鉱のようなトンネルの入り口が見えてくる。ジルコーダの巣はどうやらそのトンネルの奥にあるらしく、護人4人を先頭に中へ侵入した。
「兄さん」
「ん?」
尋ねてきたのはウィルだった。その後ろにはナップ、ベルフラウ、アリーゼの3人がいる。
「兄さんは・・・そのジルコーダっていう召喚獣と戦ったんですよね?」
「ああ、そうだな」
「その・・・怖くなかったんですか?」
ウィルは戦うことに関しておびえているらしい。
「残りの3人ともそうなのか?」
「お、オレは・・・別に・・・」
「私はその、たいしたことありませんわ」
「わたしは・・・ちょっと・・・怖いです」
ナップとベルフラウは恥ずかしさからか顔を少し赤くしており、アリーゼにいたっては泣きそうな顔をしている。
「なるほど。みんな怖いんだな」
「「なっ!!」」
ナップとベルフラウが反論しようとするが、図星だったのか肩をすくめた。
「大丈夫。そんなにおびえることはないさ。むしろ、怖いことを恥ずかしがる必要もないんだ」
「「「「えっ?」」」」
は笑顔を作る。
「なんせ、俺だってアレと戦ったときは怖かったもの。それに、君たちは強いよ。この間の帝国軍との戦いでもしっかり前を見て戦っていたのをしっかりと見てるし」
「「「「・・・・・・」」」」
生徒たちは納得いかないらしい。
は困った顔をして、さらに言葉を口にした。
「君たちは自分の力を信じて戦えばいいんだよ。周りには大勢仲間がいるんだから」
はそう言って周りを見回すと、生徒たちも同じように見回した。
そこには彼の護衛獣であるユエルをはじめ、護人やカイル一家。先生2人もいる。
「君たちが危なくなっても必ず仲間が助けてくれる。君たちは、もっと仲間に頼ることを覚えるべきだよ」
「もっと私たちを信用してくださいね、4人とも」
の後にアティが続いて話した。レックスも笑顔を向けている。
「「「「はいッ!!」」」」
「よし!いい返事だ」4人は安心したのか、笑顔で返事をした。
「これが・・・ジルコーダの巣・・・」
レックスのつぶやきに思わず息を呑む。
視線の先にはそこには大量の蟻・・・もといジルコーダが動き回っている。
ぎちぎちという妙な鳴き声も聞こえ、ユエルがきもちわるい〜、と肩を震わせ、全身の毛を逆立てている。
「気色悪いわねぇ・・・」
「あれだけの数に一度に襲いかかられたら、手のつけようがありませんよ」
ヤードの言葉にヤッファが作戦を説明する。
ねらいは巣の最深部にいる女王ジルコーダ。そいつを叩けば連中は増えなくなるらしい。
彼が指差したさきに、ひときわ大きなジルコーダが一体。女王ジルコーダだ、とヤッファは言った。
「でも、他の虫だって黙っちゃいないだろ?」
ナップの意見にアルディラが二手に分かれて陽動作戦を行う、と説明した。
「女王を倒す役目は俺が引き受ける」
「「「「先生!?」」」」
「わかってんの?もし陽動が失敗したら一番、危険なのよ!?」
ソノラが声をあげる。敵に見つかるのではないかと言う勢いだ。
「だからこそ、俺が行くべきだと思うんだ。いざとなったら『碧の賢帝』の力を使うことができるから・・・」
レックスのつぶやきにアルディラとファルゼン、それにアティが前へ進み出た。
「つきあうわよ?」
「ソウダナ・・・」
「私も行きます。弟ばかりに迷惑をかけられませんから」
「アルディラ・・・ファルゼン・・・アティ・・・」
レックス、弟だったのか・・・
いまさらながらに知った事実を頭の片隅に追いやり、は目の前の敵を見据えた。
「俺とユエルもな。微力ながらサポートするよ」
「・・・」
「イヤだとは言わせないからな」
ユエルもやる気満々な顔をしている。
はそう言うとレックスの返答を待たずに刀を抜いた。
「あとのこと、頼むな」
はキュウマとヤッファにそう伝える。
「一命に代えても!」
「へいへい、せいぜい気張らせてもらうかね。しっかりやってこいよ」
「ああ!」
ヤッファは残りのメンバーを連れて陽動を行おうと進み出た。
「おらおらぁっ!!侵入者様のお通りだぜ、しっかりついてきな!!」
声を上げてジルコーダたちの注意を引き、巣の奥へと引き連れていった。
「それじゃ・・・みんな、行こう!!」
陽動されて少なくなったジルコーダの巣へ足を踏み込んだ。
それに気づいたジルコーダたちは女王を守るまいとすぐに襲ってきた。
「くそ、敵が多すぎる・・・ッ!!」
陽動作戦だと気づいたジルコーダたちを相手に一行は苦戦を強いられた。
ヤッファを中心とした陽動部隊も半数以上のジルコーダたちを連れて行ってくれたにも関わらず、数はいっこうに減る気配を見せず、疲れだけが蓄積していく。
「レックス!!弱音なんか吐いてないでしっかりしなさい!!」
アティの喝が飛ぶ。しかしアティのほうもつらそうだ。
「行くわよ・・・おいで!!」
アルディラが黒いサモナイト石を頭上に掲げる。
すると、煙と共に手足の生えたドリルが現れ、ジルコーダを吹き飛ばす。
しかし、すぐに代わりがやってきた。
アルディラは敵の多さに思わず唇を噛みしめた。
「・・・・ッ!!」
ファルゼンも大剣を持って敵を一刀両断している。
しかしアルディラの時と同様に、真っ二つになったその後ろから更なる敵が姿をあらわす。
「本当にキリがないな・・・」
「何とかならないの!?」
ユエルも疲れてきている。
は刀を納めて抜刀の構えを取り、声をかけた。
「レックス、アティ」
「「?」」
「・・・俺が道を作るからお前達は一気に女王のところへ」
「「!?」」
「俺らの目的は女王ジルコーダなんだ。だからそこまでの道を作る」
周りで聞いている他のものも戦闘中だというのに目を丸くしてこちらをみている。
「でも・・・」
「俺たちのことはいいから。いくぞ!!」
はそう叫び声を上げると一気に抜刀した。
すると、発生した風圧で目の前のジルコーダたちが横へ吹き飛ぶ。
「マスター・・・まさかっ!!」
「呆けてないで早くいけ!!レックス、アティ!!」
ユエルの声をよそには叫んだ。
「「ありがとう!!」」
2人はそう叫ぶと女王へ向かって走っていく。
アルディラたちもそれに続いた。
「よし、俺たちも行くぞ」
「マスター・・・」
「悪い。でも・・・あそこで使っていないと、俺たちみんなであの世行きだっただろ?」
「・・・・・・」
ユエルが不安な目で彼を見る。
ぽんぽんと彼女の頭を叩くと、
「平気だって。何度も使うわけじゃないからさ。ユエル、行くぞ」
はそういってユエルの頭をなでた。
「うん・・・ッ!」
ユエルは涙の出そうな目をごしごしと拭い、横へと散っていったジルコーダを見つめた。
とユエルは女王ジルコーダを囲む周りの連中を端から倒していった。
レックスたちは無事に女王の前までたどり着けたらしく、女王がかすかではあるものの傷ついているのがの視界に入ってきた。
「Gye、Ga・・・ッ、Ga・・・・・・」
ジルコーダたちが倒れていく。
キュウマたちも陽動したジルコーダたちを倒して戻ってきた。
「なんとか、始末がつきましたね?」
「ああ・・・」
「「「「先生?」」」」
暗い顔になっている先生2人を生徒たちが見上げた。
「私たちとこの虫たちは一緒に暮らせはしない。わかってるけど・・・なんか、イヤですよね。こういうのは・・・」
アティのつぶやきにみんながみんな表情を崩してうなずいた。
「・・・ふう」
はそんな彼らをよそに息を吐いた。
この刀の力は予想以上に強力なものらしい。
いつもより疲れがたまっているようだった。
「マスター、大丈夫?」
「ああ、平気だよ。とりあえず、な」
「よかった・・・」
ユエルは安堵したような笑顔を見せた。
「しかし、のあのときの技、すごかったわね」
アルディラの声にみんなが聞き入る。
その場にいなかった人たちにそのときの状況を話している。
どうやったのかと聞かれたが、無駄に期待させるのも良くないだろうと考え、あいまいに答えることでその場をおさめた。
「さあ、みんな。帰ろう!!」
レックスの一言で炭鉱を後にした。
「みなさーん!」
森を抜けて平原に出れば、マルルゥがいち早く飛んできた。
「マルルゥ、お迎えにきてくれたの?」
アティの問いにマルルゥは明かりが見えたので呼びに来た、と答えた。
どうやらヤッファの言葉を間に受けて本当に鍋の準備をしていたらしく、その小さな胸を張る。
「えっへん!ばっちり、準備はできてますですよ。さあさあ、みんなで楽しくお鍋を囲むですよー♪」
「こっ、コラっ!耳を引っ張るなっ!?」
マルルゥはヤッファの耳を引っ張って連れて行ってしまった。
「・・・だってさ」
「鍋か・・・かーッ、いいねェ!」
「アタシ、もぉお腹ぺっこぺこだわよ」
ソノラの声にカイルとスカーレルが喜んで鍋の方へ走っていった。
レックスとアティも生徒たちもそれに加わる。
「ーっ!ユエルーっ!」
「早くこないと全部食っちまうぞー!?」
ソノラとカイルが口に食べ物を入れたまま叫ぶ。
「・・・ユエル。行くか」
「うんッ!!」
2人も鍋を囲んだ。
「・・・・・・」
そんな中、キュウマは無言でその場を去っていった。
「あれ?キュウマはどうした?」
「何か用事でもあったんじゃないの?」
一言言ってくれればよかったのにねぇ・・・とソノラは言っている。
胸騒ぎがする。
何かが起こっている。
この島に異変が起こっている。
胸騒ぎがそう告げていた。
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