「だから、ナウバの実が5本あるって考えてみて?」
「えっとォ・・・・・・ひい、ふう、み・・・」
「レックス先生ー。ここのところは?」
「ここはね・・・」


 は、まずこの世界の文字を教わることにした。
 普通に召喚されると、儀式の中で文字は読めるようになるらしいが、の場合は儀式をすっ飛ばして召喚されてしまったため、まったく読めなかったのだ。

 元の世界の文字なら読めるのにと肩を落とせば、

「マルルゥだって文字くらい書けるですよ〜」

 えっへん、と自慢げにマルルゥが言うものだから、意地でも覚えようと躍起になっていた。

 例えれば、この世界の文字は日本語と違ってミミズが集まったような字体をしている。
 は初めてこの文字を見たとき、これがかな文字なのか数字なのかまったく理解できなかった。

 そのため、覚えようとしてもなかなか覚えることができないのが現状だった。

 あまりの覚えの悪さにレックスと1対1で授業を受けるは、隣でスバルに笑われながらも必死に書き取りをしていた。
 アティはといえば、レックスがいないため他の子供たちを見て回る、という体制をとっていた。

 スバルとパナシェにはウィルとアリーゼがついている。ナップとベルフラウは黙々と自習をしている。
 ちなみにの護衛獣であるはずのユエルはまだ船で夢の中。





 からーん、からーん、と終わりの鐘がなり響く。

 んーっ、と腕を伸ばして首を回した。





     
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第13話  施設




「またな!」
「さようなら、先生」
「気をつけて帰ってね」

 スバルとパナシェが仲良く帰路につこうとして背を向けたが、スバルはすぐに踵を返し、に向けて口元に手を当てつつ、

「ガンバレヨ、兄ちゃん」
「・・・うるさいやい」

 ぴょんぴょんとはねて帰っていくスバルをじっとりとした視線で見つめつつ、再び目の前の文字の羅列に目を向けた。



「お疲れさま」

 文字の理解に苦しむの隣で、教師2人に向けて生徒を代表してナップが声をかけた。

「本当にね・・・」
「アルディラ!?」
「ちゃんと学校になっているみたいじゃない?」

 一部始終を見ていたのだろうか。
 アルディラはさくさくと地面を踏みしめながら2人に近づく。
 2人は苦笑いをしつつ、

「まあ、なんとかね・・・」

なんて答えていた。

「ところで、どうしてここに?」
「クノンから伝言を頼まれて来たのよ。レックスとにね。貴方たちが助けた、例の彼。ようやく、話ができるようになったわよ」
「本当かい!?」

 レックスはうれしそうな顔をしてをみるが、彼は文字の理解を深めようと頭を抱えている。

「・・・ん?どした、レックス」
「俺たちで助けた彼。目を覚ましたって」
「そうか・・・よかったよかった」

 レックスの声を聞き顔を上げると、は視線を目の前の3人に向け、うんうんというように首を縦に振る。そしてそのまま視線を元に戻してしまった。
 そんな彼に向けて、アティはレックスに向けて苦笑い。レックスも彼女と似たような笑みを浮かべた。


「アルディラ。どうかしたのかい?」
「その彼なんだけど・・・」


 いささか浮かない表情をしていたアルディラに気づき、レックスが彼女に尋ねるが、彼女は何か言おうとしていい止まると、

「一度ラトリクスまで来るように」

と伝えてそのまま戻っていってしまった。

「何があったんだろう?」
「レックス。私も行っていいですよね?」
「もちろんさ。も行くよね?」
「・・・・・・」
「「???」」

 2人が再度声をかければ、は顔を上げ、

「ん?ああ、悪い。リペアセンターへは2人で行ってきてくれ」

 俺はその間この4人に補習をしてもらうから。

 そう言っては生徒たち4人を指さした。

 の答えに2人は残念がっていたようだが、本来の仕事である生徒4人の授業をするために船に戻っていった。



 とりあえずキリのいいところで書き取りを止め、船に戻ると、調理場でスカーレルが顎に手を添えて、何かを考え込むようなしぐさをしていた。

「あ、!いいところに来てくれたじゃないの・・・って、ずいぶんお疲れみたいねえ」
「スカーレル・・・まぁ、それなりにな。で、どうしたんだ?」
「あっ、そうそう!ズバリ、今晩のオカズ、何が食べたい?」

 彼は今晩の食事のおかずについて考えていたらしい。
 彼曰く、

「この島に来てから、アタシの作れる料理、みんな食べ尽くしちゃったのよねぇ〜」

だそうだ。



「オカズ・・・そうだなぁ・・・」

 少し考えた後、せっかくだから和食・・・米が食べたい。そう伝えた。

「オコメねぇ・・・」
「ほくほくに炊けた白米・・・うまいぞぉ〜〜〜」

 ああ、よだれが出てきそうだ・・・
 そんなこと考えてるの目の前で、スカーレルはしばらく考えていたが、

「ごめんねぇ。アタシ、オコメって食べたことなくてェ・・・」
「・・・」

 リィンバウムでは、白米を食す習慣がほとんどないらしく、パンが主流なのだという。
 ふむ、ともスカーレルと同様にして顎に手を添えると、

「じゃあ、米は俺が炊くから、スカーレルはそれに合いそうなオカズを作ってくれ」

 こう意見すると、スカーレルはパッと目を輝かせた。

「ホント!?助かるわぁ・・・ッてそうじゃなくて」

 スカーレルがツッコミをいれる。

「アタシが聞いてるのは、今晩のオ・カ・ズ!」
「じゃ、魚だな。塩焼きにしてご飯と一緒に食べると・・・うまいぞぉ〜〜〜」

 そう言ったに向けてスカーレルは、じゃあオコメよろしくね。と言うと釣りをするためか、釣り竿をもって歩いていった。



 先生2人が出かけて、俺は生徒たちに文字を教わることにした。4人に囲まれた中で、アリーゼが読み上げた文章をが書き上げるという形式をとることにし、とにかく書くこと数時間。おかげで何とか文章を書くことができる程度まで上達した。

「兄さん、すごい集中力ですね」
「兄様もやればできるじゃありませんの」
「・・・そうですね。兄様すごいです」
「今度はオレたちに稽古、つけてくれよ。兄ちゃん」

「・・・・・・」

 黙りこんだに向け、4人は首をかしげる。

「「「「兄さん(ちゃん)(様)??」」」」
「なんだよ・・・その兄さんとかってのは」
「え!?・・・いやその・・・」

 ナップが赤くなり、わたわたと腕を大げさに振る。

「この前、学校のことで私たちの愚痴を聞いてもらって」
「兄さんみたいだ、と思ったんです」
「・・・今まで、そうやって話しを聞いてくれる人っていなかったんです。だから・・・」

 4人はそれきり黙り込んでしまった。
 自身、兄と呼ばれるのが嫌なわけではない。
 兄弟が今までいなかったので、ちょっと恥ずかしい部分もあるかな、などと思いつつ、彼は笑みを作った。
「まあ、いいや。じゃ、これからろしくな」
「「「「はいっ!!」」」」

 4人が笑顔になる。
 じゃあ稽古でもするか、とは笑って立ち上がる。

 4人の少年少女たちと共に船の外へ出て行った。



「マスター!!」
「おぉ、ユエル。どうした?」
「センセーたちが来てくれって。呼びにきたのー!!」

 ナップの番だということでと自作の木刀で稽古をしていると、ユエルが駆けて来た。

「そうか、わかった。4人とも、先生が呼んでるらしいからいくか」

 はユエルを含む5人を連れてカイルの部屋でもある船長室へ向かった。



 話の内容は、何でも昨日まであった森が一部荒れてしまっていたらしい、というものだった。
 帝国軍のしわざっではないかと考えたもあったが、そうする必要が向こうにないと判断され、護人たちが警戒をするように、と言っていたらしい。
 各々警戒を強め、いつでも動けるようにする。という結論に至り、この場は解散となった。


「レックス、アティ」
「「?」」
「君らこれからどこか行くのか?」

 これから見せたいものがあるからキュウマさんのところへ、とレックスがいった。

「俺も行ってもいいか?」
「別に構わないと思いますけど・・・」


 2人の了解を得て、集いの泉へ向かった。




「待っていましたよ・・・殿!?どうしてここに・・・?」
「俺も知っておきたいんだ。この島のこと」

 俺はまだ、何も知らないからね。
 はそうつぶやくように口にすると、笑みを見せた。

「・・・・・・」

 キュウマはしばらく口元に手をあて、考えるようなしぐさをすると

「それでは、いっしょに」

ということでも同行することとなった。


「それで、見せたいものって、どこにあるんですか?」
「今すぐ、ここでお目にかかれるものではありませんよ。なぜなら・・・それは、この奥にある遺跡のことなのです」

 それを聞いたレックスがヤッファに止められている、と伝えると、キュウマは、

「確かに、あそこは護人以外の立ち入りを禁じられていますが、特に危険な場所ではありませんよ。貴方がたをおどかしただけなのでしょう」

そういって、ははは・・・と笑った。

「あの遺跡・・・あれは、かつてこの島に存在した召喚師たちが、実験のために作り上げた施設なのです」
「召喚術の実験場だったって時の話だな。ってことは、そのときの跡地がここか」
「いかにも。そしてその活動は、今も続いているのです」

 のつぶやきが聞こえたのか、キュウマは軽くうなずいた。

「「「!?」」」
「不思議に思いませんでしたか?我ら護人が召喚獣でありながら召喚術を行使できるという事実を・・・」

 キュウマが尋ねる。それに2人はポンと手を打った。
 彼の言い方から察するに護人たちはこの施設から召喚術に関する知識を手に入れたといったところだろう。

「全ては、施設から得た知識あってのことなのです。このことを知るのは、我ら、護人のみです。もし、心なき者が悪用したならば・・・再び、戦を招くだろう。そう判断して、ずっと隠し続けてきたのです」
「そんな秘密を、私たちに話しちゃってよかったんですか?」

 アティの質問にキュウマは首を横に振る。

「いいえ・・・貴方がたにお話ししたのは自分の独断です」
「「えっ!?」」

 キュウマの発言にレックス、アティが声をあげる。

「これは、自分なりに考えた末の結論です!貴方なら信用できると自分は断言できます。なぜなら、貴方はあれほどの力を持つ剣を持ちながら・・・それにおぼれぬだけの器量の持ち主であったからです!」

 キュウマの声は次第に大きくなっていく。

「それに、レックス殿、アティ殿。貴方はこの世界の知識をもっておられる。それを用いれば、我らには無理であったわざを、可能にできるやもしれません。島を出るための方法やその剣の出自について、貴方がたは知りたくはないのですか!?」


 この質問にレックスが口篭もっていると、キュウマが、

「貴方がたは、どことなく似ているのですよ。今は亡き、我が主君。リクト様に・・・」

と追い討ちをかける。

「キュウマ・・・」
「わかった・・・案内をお願いします。キュウマさん」

 レックスの答えを聞くとキュウマの顔がほころぶ。

「では、参りましょうか・・・」




 うっそうとした森の中を歩いていく。
 頭痛がし始めたかと思うと、目的地に近づくにつれて激しさを増しているような感覚を覚える。
 頭をおさえ、痛みに耐えながら歩きつづけると、急に目の前が開けて一つの建物が姿をあらわした。

 レックスが大丈夫かと声をかけてくれたがそれに大丈夫だ、と答え、目の前に広がる遺跡を見つめた。

「喚起の門です。この島にいる者たちはみな、この門をくぐり召喚されてきたのです」
「お、俺も・・・ここから来たんだな・・・」

 が痛みに耐えながらもそう、確認した。
 キュウマはうなずく。

「本来、召喚術は誓約の儀式を経て1体ずつ召喚獣を喚ぶものです」




 ―――新たなる核識となりうるものよ・・・




 だれだ・・・核識・・・?

 聞こえているわけではなかった。頭痛の続く頭の中に直接語りかけてくるように、響く。
 どこかで聞いたことのあるような声ではあったが、そんなことを考えているほどの余裕がには無かった。




「ですが、この島で行われていた実験のためには、それでは手間がかかりすぎる。そこで召喚師たちはこの門を作ったのです」

 キュウマの話は続く。の頭に響く声は、彼のみに聞こえるものなのだろうか。




 ―――門へ呼びかけよ・・・




 よびかける、だと・・・ッ?

 さらに、声が響き渡る。には、すでにキュウマの声すら耳に入ってはいなかった。




「彼らの召喚術の知識、その全てをこの門へと封じこめることで、自動的に召喚と誓約を実行するカラクリ。それが、この門です。あらゆる世界への道をつなぐことができると聞き及びます」
「そうまでして、なぜたくさんの召喚獣をこの島に集めようとしたんだろう?」

 レックスが質問をする。
 それの答えとして、キュウマはこの島を召喚獣の楽園と作るためだと言った。

「でも、それはかなわぬ夢でした。彼らの願いもむなしく、この島は召喚術の実験場へと成り下がり・・・その挙げ句に、召喚師たちは互いに争って、自滅した」

「・・・グッ」

 頭を抑える。しかし、声が鳴り止むことはなかった。

「喚起の門も中枢を破壊され、制御を受けつけなくなってしまいました。今では、無秩序に得体の知れない存在を喚び出す、危険なものになってしまった。護人とは、そもそもそうした未知の敵からこの島を守るために生まれたのです」
「ううう・・・」
・・・?どうしました?」

 俺の様子に、何かを察知したのかアティが声をかけるが、答えることができない。

「う、うああぁぁぁっ!?」

 レックスが強制的に剣を抜いた姿になる。キュウマはそうなることがわかっていたかのように笑みをうかべた。

「ぐ、あああぁぁぁっ!!!」


   ブウゥゥ・・・ン


 の叫びと共に門が反応する。


っ!?」
「呑まれるなッ!!」

 何者かが叫ぶ。
 それは幻獣界の護人である、ヤッファだった。
 レックスはその声に正気を取り戻し、元に戻った。

「どういうつもりだい?キュウマのニイちゃん。なんで、こいつらをここに連れてきた!?」

 ヤッファは叫ぶようにキュウマに尋ねる。
 しかし、キュウマはその声に押されることもなく、答えた。

「必要だったからです。彼の力で、遺跡を復活させるために」
「わかってんのか、おい?勝手に遺跡に触れるのは、オレらの間でも絶対に許されねえ掟だぜ?過去の過ちを繰り返すつもりか!?」 
「全部、覚悟の上だと言ったなら?」

 キュウマの答えにヤッファは全身の毛を逆立たせる。
 人を殺せそうな勢いでキュウマをにらみつける。全身から殺気を振りまいているようだ。

「・・・ブッ殺す!!」

 ヤッファはそう叫ぶと戦闘態勢に入った。

「ちょ・・っ、ヤッファさん!?」
「いいでしょう・・・ですが、こちらもおめおめと殺されるわけにはいきません!」

 アティの呼びかけも聞かずにキュウマも刀を抜く。

「グルアァァァァッ!!」
「破ッ!!」


 金属音が森に響き渡る。
 2人が激突する寸前では頭痛から開放され、2人の間に割って入り、キュウマの刀に自分の刀をあわせ、ヤッファの腕を何とか掴んで止めることに成功した。
 一歩間違えば、が大ケガを負っていたことだろう。

・・・!?」
「何すんだ!!そこをどけ!!」
「いいや、どかないな」
殿!?」












「ううぅ・・・っ」
「大丈夫ですか?レックス」
「何とか・・・」

 レックスは目を覚まし、きょろきょろと周りを見回す。だが、3人が武器を合わせているのを見て戸惑っていた。



「いいから、どけっていってんのがわかんねェのかッ!!?」
「仲間同士で殺し合いなんてバカな真似、しないって言うならどいてやる」

 叫ぶヤッファをひと睨みし、言葉を放つ。

・・・」
「おう、レックス。大丈夫か?」
「俺のことより、自分のこと心配しなよ、!」

 レックスの声には苦笑いを見せて大丈夫だよ、と一言。

「今は、周りの連中を何とかしなきゃだからな」


 の発言に驚いて回りを見回すとそこには複数の召喚獣。
 どれも形状は同じで、大きな昆虫のような姿をしていた。







「Gyshaaaaaaaaaaaaaッ!!」

 虫が声をあげる。その声にヤッファとキュウマもここで初めて驚いた顔をして周りを見回した。

「ジルコーダだと!?そうか・・・森を荒らした原因はこいつらか!?」
「とりあえず、話は後だ。こいつらを何とかしないとな」

 殺気を抑えたヤッファは、ジルコーダと呼ばれた召喚獣に視線を向ける。
 キュウマも同様にして、刀を召喚獣たちに向けた。

「・・・来ます!」
「Gyshaaaッ!!」


 ジルコーダと呼ばれた召喚獣たちは雄叫びが戦闘開始の合図となり、
 虫たちは彼らに襲い掛かった。


 は刀を抜いたまま、2人の護人の間から出ると、迎撃態勢に入った。






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