「え、えーっと・・・ユエルっていったか?」
「う、うんっ」

 青い耳と、尻尾を持つ少女はきょろきょろと周りを見回す。おそらく、自分を召喚した人間を探しているのだろう。
 仮にも今は戦闘中であるため、そのままにしておくわけにはいかない。だから、は彼女に声をかけたのだった。

「君を召喚したのはどうやら俺らしいんだが、今はちょっとたてこんでるんだ。悪いけど、君は・・・戦えるかい?」

 ユエルという少女は首を縦に振る。それを見て、は「よし」とつぶやきつつ彼女に向けて白い服の奴らをやっつけてほしい、と伝えた。

 彼女はの言うとおり、白い軍服を身に纏っている帝国軍へ目を向けた。





 目の前の敵を退けるため、は刀を構えなおしつつ移動を開始した。
 しかし、召喚術を行使した反動だろうか、自分の身体がいつもよりも重く感じていた。



 煙が晴れ、我に返った兵士たちを端から刀の峰で切りつけ、倒していく。
 斬りつけてきた兵士の剣は、刀を使って受け流していた。


 兵士たちがあらかた地面に伏した頃、怒りをあらわにしたビジュが声を荒げた。

「よくもッ!?よくも、よくもッ!!まとめてェ・・・ブチ殺して・・・ッ」
「てめえがなっ!!」

 両手に投具を握るビジュを、横の茂みからあらわれたカイルがその顔を殴りつけた。
 見回すとカイル一家とキュウマ、ヤッファがいた。

「これ以上の狼藉は絶対に許しません!!」

 キュウマは眉をつりあげて言い放った。


「総員、ビジュを援護!」

 アズリアは背後の兵士たちに向けて命令する声が響き渡った。
 不満げに声を上げるギャレオをいさめ、彼にビジュを自分の所へ連れて来い、という命令を下した。





     サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第12話  護衛獣





「ガウウゥゥゥ・・・ッ!」
「・・・ふぅッ!!」

 とユエルの周りをアズリアの命令によって動き出した兵士たちが取り囲んだ。
 もともと囲まれた状態だったため、四方八方から剣や槍が襲いかかってくる。

 お互いの背中を守りながら、次々と兵士たちを捌いていった。



「「「「す、すごい・・・・っ!!」」」」

 戦闘中だというのに、2人を見ていた4人の生徒たちが感嘆の声を上げる。

「4人とも!よそ見してちゃだめだ!!」
「「「「はいっ!!!」」」」

 レックスが喝を入れ、4人は戦闘に集中する。

「ユエル!まだいけるか!?」
「大丈夫!そっちはっ!?」
「・・・余裕ッ!!」

 お互いに声を掛け合う。
 ユエルは初対面にもかかわらず、自分を信用して戦っているようだと、は感じていた。

ッ、後ろ!!」

 ソノラが2人へ向けて召喚術を放とうとしている召喚師を見つけ、声をあげた。
 その声に反応するかのように、ユエルは召喚師に向けて突進を敢行した。

「・・・ッ!!」
「いで・・・ガッ!?」

 ユエルが召喚師の元へたどり着く前に、彼はサモナイト石をぽろりと落とし、血を流しつつ倒れこんだ。
 その後ろにはスカーレルがナイフにこびりついた血を払いながら、彼女を見てウインクをする。

「スカーレル・・・サンキュ、助かった」
「いいのよ。気にしない、でっ!!」

 後ろから斬りかかってきた帝国兵をかわして彼の左手側から外へ、横なぎにナイフを振った。ナイフの刃は剣を空振った帝国兵の胸元を捕らえ、斜めに切り傷を作った。



「後悔しなァ・・・!!」
「・・・はあッ!!!」

 刀を振る。ビジュが放った投具は刃にはじかれてポトリと地面に落ちた。
 ユエルは無防備になったビジュの懐へ入り込み爪を振るった。

「ぐあァァァ!?」

 ビジュはユエル攻撃をまともに受け、宙に投げ出される。
 数秒間の間空中を舞い、地面に叩きつけられた。







 敵兵をあらかた片付けたころ、レックスはギャレオと対峙していた。


「ぬうぅぅん!!」
「くそっ・・・っ」

 ギャレオはレックスの剣を右腕のガントレットで受け止めた。もちろん片手では受けきれないので、左腕を手首に回して支えを作っている。
 彼は、自慢の腕力にものをいわせて、剣をはじき返した。
 レックスは、はじかれた剣から伝わる痺れを感じつつ、歯を食いしばった。


「仕方ない・・・!!」

 目をつぶり、意識を手に集中する。

 次第にかれの身体が碧に覆われはじめた。





          見つけた・・・

      新たなる核識となりうる存在・・・





「・・・!?」

 不気味な声が頭に響く。
 突然、ひどい頭痛がを襲った。


「はあぁぁぁっ!!」
「ぐうっ!?」


 レックスが右手に輝く剣を振るい、ギャレオを吹き飛ばす。
 彼の腕に輝く碧の剣を視界に入れ、戦況を見守っていたアズリアは唇をかみしめた。

「その剣・・・まさか、貴様が!?どこまでも私の邪魔をするというのか、貴様は・・・っ!」
「聞いて、アズリア!そうじゃないの!!」
「二度と、気安く私の名を呼ぶな!!帝国軍人の威信にかけて、その剣は必ず取り返してみせる!!」

 アティの声を耳にしつつ、それを無視して、アズリアは兵士たちに命令し、森の奥へ消えていった。




「うああぁぁぁ!!」
「おいっ、ッ!!しっかりしろ!!」

 は、あまりに強い頭痛に、両手を頭に当てぶんぶんと頭を振る。



ーーーーッ!!」


 抱きかかえたカイルが声を張り上げている。
 は頭痛をこらえきれずに意識を失った。












「うぅ・・・」
「あっ!大丈夫?」

 目がさめたが最初に見たのは、自分が召喚した少女。ユエルだった。
 見回せば、そこは木でできた部屋。彼は瞬時に海賊船内の一室だと認識し、目の前にいる少女へ視線を落とした。

「ごめんな・・・後で説明するって約束だったのに、倒れちまって・・・」
「ううん、キミが目を覚まさないとユエル、元の世界に帰れないし。でも、よかった」

 よかった、と言い笑みを自分に向けるユエルに何が良かったんだと尋ねれば、

「近くにいたヤードって人が言ってた。ユエルはキミに護衛獣として召喚されたみたいだ、って。それで、ユエルの召喚主がやさしそうな人でよかった、っておもったの♪」

 そうか・・・。そういってはユエルの頭を撫でる。
 本人は一瞬目を丸くしていたが、すぐに満面の笑顔になった。



 後でヤードに詳しく聞けば、なんでもユエルはメイトルパの亜人で、オルフルという戦闘種族らしい。
 さらに、使った召喚術は『誓約の儀式』というものなのだそうで、未誓約のサモナイト石を用いて行う、召喚術の基礎のようなものなのだという。つまり、自分は彼女と無意識に誓約を交わしてしまったということのようだ。
 ちなみに自己紹介はが寝ているうちにしておいたらしく、護人たちも承諾してくれたようだ。

 話を終えたヤードは、

「しかし、詠唱もなしで儀式をやってしまうとは・・・」

などといって、考え込んでしまっていた。








「ところでさ、急に倒れるなんて・・・どこか具合でもわるかったの?」

 唐突にソノラが聞いてきた。
 が倒れた後、帝国軍は撤退し、レックスとアティは生徒たちとも和解したらしいことも、ここで初めて知った。




「声」
「「「「「??」」」」」
「声を、聞いたんだ。ほら、レックスが緑色の剣、シャルトス・・・だったか?あれを出したとき」

 そのときの状況を覚えてる限り詳しく説明した。
 頭の中に声が響いたこと、強い頭痛に襲われたこと。

 彼の説明に、召喚師であるヤードは思考をめぐらす。

「何か、わかるか?」
「いえ、そのような現象はきいたこともないですよ」

 文献にもそう言った現象は出ていないでしょうね。
 と付け加えたところで、カイルがニカッと白い歯を見せて笑った。

「ま、とりあえず目を覚ましたんだからいいじゃねえか」
「この島にいればきっと何かわかるわよ」


 カイルとスカーレルがを励ましてくれた。
 ほかのメンバーも、自分に笑みを向けていることがわかっていたため、


「ありがとう」


 はみんなに向かって深々と頭を下げた。








「気持ちいいなぁ・・・」
「そうだねっ!」
 
 夜、とユエルでは夜風にあたりに浜辺に来ていた。
 お互いのことを話しておくためだ。





「「「「あの・・・」」」」

「ん?」

 首をひねって視線を向けると、4人の子供たちが並んで立っていた。

「ああ、君たちか。良かったな、先生たちと和解できて」
「「「「・・・・・・」」」」

 互いのことをあらかた話し終わったところだったので、ユエルとの話を切り上げて4人に微笑んだ。


「「?」」
「その・・・さ」

 首をかしげていると、ナップが口を開いた。

「ありがとな。その・・・オレたちの愚痴とか・・・聞いてくれて」
「ああ、いいさそんなの。俺が君らと会ったのはたまたまだよ。もしあそこで俺が君らと会ってなくたって、きっと先生たちとちゃんと話し合えたさ」
「でも・・・励ましてくれたのは・・・事実ですから・・・」

 アリーゼが笑みを浮かべて言った。
 はニッと笑って、

「そういえば、明日から俺も学校行くから、よろしくな」
「「「「ええっ!?」」」」

 学校へ行く発言に4人は驚いていた。
 失敬な・・・などと思っていれば、いち早く我に返ったウィルが声を上げた。

「あっ、貴方は・・・その、学校にいっていたのでしょう!?何を今更・・・」
「この世界のことを知るために、な。今はいろいろ大変だけど、落ち着いたらさ、この世界を旅してみようと思うんだ」


 彼らには学校へ行くことに対する理由として、そのように伝えておいた。
 もちろんそれも1つの目的ではあるわけだが、この世界に初めて来たときのあの『声』との約束もある。

 後者には彼らに伝えはしなかったが、がこの世界に存在する目的としてはこちらが優先される。約束は守ることを前提としてするものだと、彼は思っているから。
 だからもとの世界に戻るのは、『声』の主が安心してこの世界を見ていられる時がくるまで後回しにするつもりだった。


「俺はさ。この世界について・・・なにも知らないんだ。このリィンバウムに住まう人間たちや、召喚獣・・・国や歴史、文化についても」

 だから旅をするためにも、元の世界に還るにも、知識は必要だと思うんだよ。
 はそう言葉を締めくくった。









「ユエル。君は、仲間の所に戻りたくはないのかい?」
「え?」


「早めに休んでおいたほうがいい」

と言ってみんなしてはもといた部屋に押し込まれたので、とりあえず事故まがいとはいえ、喚びだしてしまったユエルに声をかけた。
 彼女は不思議そうにを見、返事を返す。
 互いに自分たちのことを説明したとはいえ、やはり彼女には彼女の生活があったはずだ。

「ほら、半強制的に喚びだしちゃったワケだし、人間なんかといるより、仲間といたほうがいいんじゃないか?」
「たしかに、みんなに会えないのはさびしいけど・・・大丈夫だよ!!」

 ユエルは、に向けてにっこりと笑って見せた。

「俺の護衛獣でいいんだな・・・?」
「うんっ!よろしくね、マスター!」




 そんなこんなで、メイトルパの住人・ユエルが仲間に加わった。





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