「こんちはー」
「あらぁ、いらっしゃ〜い♪」

 とある昼下がり。
 は1人メイメイの店に来ていた。



 目的は一つ。



 前に頼んでおいた刀のことである。
 のれんをくぐれば、相変わらず店内はお酒のにおいで充満していた。

「・・・で、刀あった?」
「売れ残りでよければ」

 メイメイは赤い顔でそう言ってにゃははと苦笑いをした。

「売れ残り・・・と、とりあえず見せてくれるか?」

 いいわよ〜♪ちょっと待っててね?
 にゃははと笑ってメイメイは奥へ入っていった。

 はきょろきょろと店内を見回す。

「お?これは・・・」

 目にとめたのは派手な装飾がされている机の上の石の数々。
 前にヤードにきいた、サモナイト石だった。

「召喚師はサモナイト石を媒介として、異世界から召喚獣を呼び出すのです」

 ヤードにはそう聞いていた。
 黒い石はロレイラル、赤い石はシルターン、紫の石はサプレス、緑の石はメイトルパ。そして無色の石は名もなき世界。
 魔力を注ぐことでそれぞれの世界への門を開く役割を持っているらしい。
 しかし、無色の石だけはしっかりとした確証がないのだそうだ。



「メイメイ!ここにあるサモナイト石、もらっていっていいか?」



 なぜそう頼んだのか。
 いざという時のための秘密兵器にするつもりなのである。
 彼に使えるのかはさだかではないのだが、持っていても損はない。

 奥から「いいわよぉ〜・・・」という声が聞こえたので、5つあるうちのいくつかの石をポケットに入れた。





   サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第11話  召喚





「こ、これよ〜・・・」
「お、お疲れさん・・・」

 メイメイは埃だらけになりつつ異様に疲れた顔をしていた。
 よほど大変なところに保管してあったらしい。

 受け取った刀は今持っているそれよりも数十センチ長いもので、その大きさからは想像できないほどその重さは軽い。
 抜いてみると、刀身が光に反射するほどよく磨かれていたものだった。

「なあ、これホントに売れ残りなのか?」
「ええ、そうよ。手に取ったみんながみんな、重い重いって言って突っ返してくるのよ」
「ええっ!?だって、こんなに軽いじゃないか」

 はそう言うと刀を片手に持ち、上下に持ち上げる。
 頭上でくるくると切っ先を旋回させると、鞘へ戻した。

「メイメイだって今まで片手で持ってたじゃんか?」
「それはぁ・・・企業秘密よん♪」
「さいですか・・・」

 メイメイは机の上にあったひょうたんを持ち、先端に口をつけた。
 中身はどうやら酒のようだ。

「・・・ま、いっか。それはぁ・・・ングッ・・・キミにあげるわ。どうせ売れないだろうしね」

 酒をあおったメイメイは顔を赤くしてそう言った。
 さらに手にもった酒をのどに流す。

「悪いな、助かるよ。実はあまり持ち合わせがなくてな」
「いいわよぉ・・・今度お酒をたぁ〜くさん持ってきてくれればいいからぁ♪」
「じゃあ、今度もってくるよ」
「またのご利用、お待ちしてまぁ〜す♪にゃはははっ!」



 は店を出て、大きく深呼吸した。もちろん、店内を充満していた酒のにおいを消すためだ。
 息を吸って、吐いてを繰り返していると、ミスミ様とゲンジさんが歩いているのが見え、声をかけた。

「ミスミさま、ゲンジさん!」
「む・・・?」
「おお、ではないか。こんなところで何をしておるのじゃ?」
「ええ、ちょっと武器を新調しようと思いまして」

 長めの刀・・・っていうか木刀に使い慣れてるので、といって笑顔を作る。

「それより、今どこかへ行っていたんですか?」
「うむ。学校にな」
「学校・・・?」
「わらわがレックスとアティに頼んだのじゃ。この島の未来のためにな」

 隣のゲンジは鼻息を荒くして、

「あの若造たちにワシが教師とはなんたるかを叩き込んでやったわい!」

そう言って腕組みをした。
 スバルとパナシェもいっしょに授業を受けているらしい。
 そうだったんですか、とはうなずいた。

「じゃあ、せっかくだから俺も混ぜてもらおうかな。この世界のこと知っておきたいし」
「うむ!いい心がけじゃ。知識を深めることはいいことじゃぞ」

 教えられた学校へ行くために2人と別れた。





 集いの泉に差し掛かったところで、4人の人影。
 背丈から子供だと判断できた。

「おう!君たちこんなところでどうしたんだ?今学校やってるんじゃなかったか?」
「「「「・・・・・・」」」」

 学校でなにかあったのだろう。
 彼らのうつむきがちな態度がそれを物語っていた。

「・・・何かあったのか?」
「貴方には関係ありません」
「「「・・・・・・」」」

 ウィルが答えた。他の3人もどうやら同じ意見らしく、全員がを見ずに、そっぽを向いていた。

「そう邪険にしなさんなって。愚痴ぐらいなら聞いてやるからさ」

 話してみないか?
 はそう4人に告げた。







「・・・あいつらも同じだったんだ!!・・・今までとッ!!」

 少し間を置いて、ナップが叫んだ。

「あの人たちが私たちのことを見てくれないからっ!」
「私たち・・・信じてたのに・・・ッ!!」

 ナップに続いてベルフラウ・アリーゼの順で声をあげた。
 初めて会ったときの印象から、はアリーゼのことを『内気な子だ』と感じたものだが、今の彼女はとてもそうは見えない。大粒の涙を流してに訴えてきていた。

「あの人たちが他の子の面倒ばかり見ているから、僕たちは学校を出てきたんです」
「・・・なるほどな」

 ウィルが学校を抜け出してきた理由を聞いて、はうなずく。
 しばらくの沈黙の後、はゆっくりと口を開いた。

「・・・俺もさ、ここに召喚される前学校に通っていたんだ」
「え・・・・」

 の最初の一言に、4人はうつむいていた顔を上げる。

「俺のいた世界ではさ、最低でも9年、必ず学校へ行かなきゃいけなかったんだ。しかも、人数はここの比じゃないぞ。ここでは、君ら4人を含めてスバルとパナシェで6人だろ?俺のいたところでは最低でも30人はいたんだぞ。だからたまに先生にほっぽっとかれることもあったんだ」

 だからって、こうやって授業をほっぽりだしているのはホントは良くないことなんだ。
 そう言って4人を見れば、彼らは再び地面に視線を落とした。

「貴方は」
「ん?」
「貴方はそのとき、もっと自分のことを見てほしいとか、思ったりしなかったんですか!?」
「・・・あー、そうだな。そう思ったときもあったかもしれない」


 かもしれない、と言うの反応を見て、ウィルは怪訝な顔をするが、構わず話を続ける。


「あるかもしれないけど、なかったかもしれない。大体さ、さっきも言ったけど、生徒30人に先生1人じゃ、さすがに大変だと思わないか?」

 の問いかけに、ウィルは口をつぐんだ。
 いくら大人とはいえ、自分たちと同じ年頃の子供30人を相手にするのは、つらいものがあると思う。

「それを考えれば、多少対応がおざなりになるのも仕方ないと思う」
「じゃあ・・・」
「でもな、もともと周りにたくさん生徒たちがいたもんだから・・・仕方ないなって思っちゃったんだろうな、子供心に」
「「「「・・・・・・」」」」

 君らは俺に比べたらかなり恵まれていると思うよ?はそう口にした。
 これは紛れもない彼自身の本音だ。

「あの2人はみんなから好かれるタイプの癖に妙に鈍い感じみたいだからな。多分、もっと自分をさらけ出していかないとダメだと思う」

 がんばれ!
 は最後にそう伝えた。一応話せることは話したつもりだ。
 4人が表情を和らぐのを確認し微笑んだところで、背後で草を踏む音が聞こえた。





「お前たち、こんなところで何をしている」
「「「「「!!」」」」」

 反射的に振り向くと、そこにはみんながみんな同じような白い服を着た集団。
 前に戦った、刺青の男もいる。

「・・・あ、ああっ!・・・」
「て、帝国軍・・・」

 つぶやいたのはアリーゼとナップ。
 2人とも身体が小刻みに震えていた。もちろん、残りの2人も。
 その中で、は1人目の前の白い集団を眺めた。

「なるほど、君らが帝国軍か・・・」
「あぁっ!!て、てめェは、この前のッ!!隊長、こいつですよ、俺のジャマしやがったのはッ!!」
「武器をおろしてやれ。おびえていてはまともに話もできない。まぁ、お前は別のようだが」

 隊長と呼ばれた女軍人はそう言ってを見た。




「・・・大丈夫。君らは必ず俺が守るよ」
「「「「・・・・・・」」」」

 みんなが助けに来るまで。
 おびえている4人に向かって、はそうささやいた。



 メイメイに譲ってもらったばかりの刀を抜き、周りをにいる帝国兵を見る。数はざっと10人。あまりの人数差に舌打ちをする。
 実戦経験の少ない自分では勝ち目がないことは目に見えていた。


「この人数差で勝てると思ってんのかァ?」
「やめろ、ビジュ!」

 ビジュ、と言うらしい刺青の男を女隊長の隣に控えていた大柄の男が止める。

「副隊長殿は、そうおっしゃいますがねェ・・・」
「私たちは話を聞きに来ただけだ。余計なマネはするな」

 女隊長がそう命じた。ビジュを止めたのは副隊長のようだ。ビジュは納得いかなそうな顔をしつつ、彼女を軽くにらみつけた。




「まず、私はアズリア・レヴィノス。帝国軍は海戦隊所属、第6部隊隊長だ」
「同じく第6部隊の副隊長、ギャレオだ」

 女隊長と副隊長らしい大柄の男が自己紹介をした。
 名乗られたからにはこちらも名乗るべき。
 そう思ったは、刀を収めて名前だけの自己紹介をすることにした。

「俺は・・・ だ。君らは話を聞かせてほしいようだが、悪いけど俺から話すことは何もないよ」

 俺は召喚されたばかりでな、と説明づけると、2人は一瞬驚いたような顔をした。

「もっとも、彼みたいな人間がいる集団には、知ってても話すつもりはないけど」
「てめェ・・・痛い目を見ねェとわかんねェか?あァ・・・ッ!?」
「やめろと言っているのがわからないのか!?」

 の態度が気に食わなかったのか、再び前に出てきたビジュをギャレオが止めた。
 しかし、ビジュは引かない。

「そうおっしゃいますがねェ、副隊長殿ォ・・・しゃべらねェ以上は身体に聞くしか方法がないでしょうが?」
「いやだから、知らないんだって」

 もう1度そう告げる。
 そんなことはお構いなしに、ビジュは眉を吊り上げていた。

「いや、こやつらに聞く必要はない」
「隊長・・・」

 話を聞く必要はない、そう言ったアズリアは確信しているかように不敵に微笑み、

「お前が戦った相手。それがこやつの他にあの者たちであるのならば必ず、この子供たちを救いにやってくる。私が知っている、あの者たちならばな」

 そのときにあの者たちから話を聞けばいい・・・
 そうつぶやいた。







 待つこと数分。は抜刀できる態勢をを保ち、敵を威嚇していた。
 いっせいに攻撃を仕掛ければ自分たちなど一瞬で捕まえられてしまうことだろう。だが、それをしないのは余裕のあらわれだろう。
 こう着状態が続く中、森の奥から家庭教師である2人の姿が現れた。

「「ナップ!ベルフラウ!ウィル!アリーゼ!・・・!?」」

 2人は生徒たちの名前を呼んで安堵の表情を浮かべた後、を見ることで安堵が驚きに変わる。
 ビジュが2人を確認すると、指差す。アズリアは表情を変えずに彼らを見ていた。

「あいつらだッ、隊長!」
「やはり・・・貴様たちだったか・・・向こう見ずなのは学生の頃と、ちっとも変わらんな・・・アティ、レックス?」

 アズリアを見たレックスとアティは目を丸めた。まるでこの場に彼女がいないはずだったかのように。
 反応を見る限り、この3人は知り合いのようだ。

「そこの、と言う男にも言ったのだが、帝国軍海戦隊所属、第6部隊隊長、アズリア・レヴィノス。これが、今の私の肩書きだ。部下が世話になったそうだな・・・」
「それは・・・」
「わかっている。おおかた、こいつに非があったのだろうな」

 アズリアはそう言ってビジュをにらみつける。ビジュは居たたまれなくなったのだろう。小さく舌打ちをした。

「だが、元軍人である貴様が、海賊に荷担していた事実までは見過ごせん!おとなしく、投降しろ、悪いようにはしない」

 アズリアの提案にレックスとアティは首を横に振り、

「それは、できません。アズリア・・・」
「俺たちは、間違ったことはしてないから・・・」

といって提案を拒否した。



「そうか・・・ならば・・・」



 アズリアは剣を抜く。



「私の手で捕らえるのみだ!!」

 彼女がそう叫ぶと、いっせいにまわりの兵士たちが武器を取った。



「きゃあっ!?」
「っ!?」


 悲鳴に驚きつつ振り向けば、いつのまにか背後に回っていたらしいビジュが、アリーゼを羽交い絞めにしていた。

「こっちにゃあ、人質がいるんだぜェ!!」
「「「「「ッ!?」」」」」

 迂闊。
 一番近くにいたはずなのに、ビジュの行動に気づかなかっと。
 はくやしそうな表情をして、ぎり、と歯を立てた。





「・・・こういう時こそ、利用しなくちゃねェ?」

 ビジュはうれしそうに唇を片方に吊り上げた。





「俺はそいつらと、そこの野郎に借りがあんだよ。この手でぶちのめさなくちゃ気がすまねェぜ!!さあ、武器を捨てろ!」
「「「・・・ッ!!」」」




 カランっ、という音が聞こえる。
 2人がそれぞれの武器を手放したらしい。

 も、同じように譲ってもらったばかりの刀を地面に投げた。



「なんで!?なんで、この人の言うことなんか聞くんですかっ!?」
「黙ってろッ!」

 ビジュが叫ぶアリーゼに拳を入れる。
 叫んでいた声を止め、うめく。


  「「「アリーゼ!!」」」


 残りの子供たちは泣きそうな表情をしている。
 も何もできない自分が許せなくて、拳を強く握った。

「やめなさい!あなたが恨んでるのは私たちだけでしょ!?」
「イヒヒヒ・・・ッ、言われなくてもそのつもりだッ!」

 ビジュはサモナイト石を構える。
 魔力が注がれ、光を帯びる。

「死ねェ!!」


 彼の召喚術が、2人に炸裂した。


「うああああ!!!」
「んあぁぁっ!?」

 2人は召喚術をまともに受けて後ろへ吹き飛び、背中から地面に落ちた。





   俺は・・・見ているだけしかできないのか・・・?



 の頭をそんな言葉がよぎる。
 彼は肉親が冷たくなっていくのをただ見ているしかなかった、あのときの映像が蘇る。



   あのときのことを、もう1度繰り返すのか?



 望んでもいないのに浮かんでくる疑問の言葉。



   否。もう、あんなことはゴメンだ・・・








「「どうして・・・っ!?」」

 ナップとウィルが声をそろえて叫ぶように問う。
 2人はヨロヨロと立ち上がり笑顔を作った。

「だって、私たち、君たちと約束・・・したよね?
「「え・・・」」
「絶対に、俺たちが君たちのことは守ってみせるって・・・」

 アティに続いて答えたレックスは、弱々しく微笑んだ。






「んじゃ、その約束を律儀に守って・・・死ねええェェッ!!」

 ビジュの持つサモナイト石に、再び光が灯る。

「・・・させるか!!」
「「「「先生ぇッ!!」」」」

 はそう叫ぶとサモナイト石を取り出す。色など、確認しているヒマはない。
 生徒たちも2人の先生を助けまいと声をあげる。

「何でもいいから、あいつを止めてくれぇ!!!」
「ピピピピィーッ!!」
「ビビビィーッ!!」
「ミャミャーッ!!」
「キュピピーッ!!」

 手のひらに持ってから確認した緑色のサモナイト石が光を帯びる。
 生徒たちの護衛獣たちは彼らに呼応するかのように声をあげた。

「だめだッ・・・やめるんだ、!!」
「暴発してしまいます!!」

 レックスとアティが叫んだと同時に5人の召喚術が発動した。


「・・・っ!?」

 轟音が耳を貫く。




「ひぎゃァっ!?」
「召喚術だと!?」

 ビジュが悲鳴をあげ、吹き飛ぶ。ギャレオは不意をつかれたように目を丸くした。
 その隙に生徒たちは先生たちに駆け寄った。もちろん、アリーゼもビジュの腕を振り解き、同じように2人のところへ向かっていく。









  「あれぇ?ここはどこ??ユエル、なんでこんなところにいるの??」









 砂煙が次第に晴れていく。
 そこには青い尻尾を生やした少女が座っていた――――











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