「あれ?じゃないか、どこいくんだい?」
「やあ、レックスか。ちょっと浜辺にな、昼寝でもしようかと思って」
外はすばらしくいい天気だからさ、とは釣り竿を持ったレックスを見た。
空は快晴。平和な昼下がりだった。
「君は釣りをしに行くみたいだね」
「うん。せっかくだから、いっしょに行こうか」
「じゃあ、そうするか・・・」
はレックスといっしょに浜辺へ向かうことにした。
意外とすぐに目的の浜辺にたどり着いた。
なんでもレックスとアティが初めに打ち上げられただとかで魚が意外と釣れるらしい。
何でも、海賊船に世話になりはじめたころから毎日釣りをしていたのだそうだ。
「・・・あれ?」
「・・・・・・」
レックスの視線の先に人影が見える。
彼はすぐにその人影にかけより、声をかけた。
「ちょっと、君!大丈夫かい!?しっかりするんだ!!」
「生きてるか?」
「うん、でも身体が冷え切ってる。すぐにリペアセンターへ連れて行かないと」
「う、あ・・・」
倒れていた人物がうめき声をあげる。
その人物はよく見ると小柄で、少年のような顔つきだった。
全身が海水でびしょ濡れだったため、身体中が冷え切っている。
「おい、レックス!早いとこその彼をつれていこう」
「ああ、そうだね!」
俺たちは水浸しの少年を担いで急いでラトリクスへ向かった。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第10話 緑茶
「細かな外傷は認められますが、生命活動に支障をきたすようなものではありません。極度の疲労で、衰弱しているのでしょう。今はこのまま、安静にしておくべきかと」
「見る限りかなりヤバそうだったんだけど、よかったよ。たいしたことなくて」
「良かった・・・ありがとう。クノンがいてくれて助かったよ」
「いえ、当然のことです」
クノンはいつものようにすました顔で言った。
「それにしても、こうも次々と、人間がこの島に流れつくとはね」
くるりと回転イスを回し、アルディラはとレックスに顔を向けた。
「確かに、今まで召喚獣しかいなかった島に急に集中して人間が来るとは・・・まあ、俺は喚ばれたんだけど」
「俺たちが乗っていた客船の大きさから考えると、これでも少ないほうだよ・・・」
レックスとアティは生徒たち4人とともに何でも軍学校のある街へ行くつもりだったらしい。
そのために船に乗っていたところをカイル一家に襲われたのだとはここで初めて知った。
アルディラはレックスの発言にうつむいて謝罪した。
「この患者の身柄は、私が責任をもっておあずかりします。病状が回復次第、お知らせしますので」
「ああ。よろしく頼む」
はクノンにそう告げてレックスと共にリペアセンターを出た。
「なあレックス。船にはもっと人がたくさん乗ってたのか?」
「うん。そういえば、帝国の軍人も乗っていたよ。ほら、この間戦った」
「あの刺青の男連中のことか?」
彼らの行った行為を思い出し、顔が引きつる。
「うん」
レックスの話を聞く限り、この島にいる帝国の軍人たちもどうやら同じ船に乗っていたようだ。
はなんとか平静を取り戻すと、レックスに顔を向けた。
「で、レックスはこれからどうする?」
「俺は砂浜に戻って釣りをやることにするよ」
眠気も失せちゃったから他のところに行く、と伝えてはレックスと別れた。
浜辺の方向へ消えていくレックスの背中を眺めつつ、
「さて、どうしよっか・・・?」
なんてつぶやいてみる。もちろん、誰かが答えてくれるわけでもなく。
結局その場で考え込むこと数分。
風雷の郷にいる『ご老体』という人に会っていないことを思い出し、はさっそくその人に会いに行くために鬼妖界の集落へ向かった。
「こんにちはー」
屋敷の扉を叩くと、出てきたのはミスミ様に仕えるやはり角の生えた女性だった。
「いらっしゃいませ。どのようなのご用件ですか?」
「あの、ミスミ様はこちらにいらっしゃいますか?」
「ええ。さあ、どうぞ」
失礼します、と言って屋敷の中へ足を踏み入れる。
女性に連れられてついたのは俺が目覚めた部屋。中からなにやら話し声が聞こえてきている。
「ミスミ様。お客様をお連れいたしました」
「こんにちは。ミスミ様」
「おお、ではないか。どうしたのじゃ?」
入った部屋にはミスミ様とキュウマ。それにもう1人着物を着た老人が座っていた。
「おお、おぬしは・・・」
「ああ、どうも初めまして。 といいます」
丁寧に老人に挨拶をすると、ミスミに向き直る。
「俺、『ご老体』さんに会いにきたんです。こっちきてからずっと、挨拶してなかったですし」
「おお、そうじゃったか。なら丁度良いな」
「そうですね」
どういうことですか?と尋ねると彼女はいっしょにいる老人を見て
「ご老体。彼がそなたの言っていた者じゃ」
「うむ・・・」
返事をした老人は腕組みをしての表情を伺っていた。
「へ?ってことはこの人が・・・」
「そうです。殿のいう『ご老体』とは、ゲンジ殿のことですよ」
「そうだったんですか。挨拶が送れて申し訳ないです」
そして先ほどは失礼しました。
は深く頭を下げると、太い笑い声が上がった。
「はっはっは。いいんじゃよ、こうしてちゃんと来たのじゃからな」
改めて老人に挨拶すると、彼は笑顔で応対してくれた。
名前はゲンジさん。なんでも日本で教師をしていたらしい。
「しかし、ワシはともかく、お前さんは若くしてこの世界へ喚ばれて・・・やはり元の世界へ帰りたいじゃろ?」
「そうですね・・・帰る方法はもちろん探すつもりですが、まったく手がかりがないのでどうしたもんかと思って・・・」
ははは、と苦笑いを浮かべると、の両肩を叩いて、
「帰りを待っている者がいるというのはとても大切なことじゃ。お前さんも大変だと思うが、頑張るのじゃぞ」
ゲンジはそう励ました。
「・・・はい」
はそれに笑顔で返事をした。
「せっかくじゃ。そなたも一緒に茶でも飲まぬか?」
ミスミ様の一言に同意しては緑茶を口に含んだ。
久しぶりに飲む緑茶はとてもおいしかった。
「!」
「おう、アティ。それにカイルたちも。レックスまで・・・どした、そんなに慌てて」
風雷の郷を出たは声のほうへ振り向いた。
すると、そこには家庭教師2人にカイル一家が勢ぞろいしている。
「フレイズを助けに行くんだそうよ」
「迷子のタケシーを助けるんだって」
の問いに答えたのはスカーレルとソノラだった。
理由を聞けばサプレスの雷精霊タケシーが他の召喚獣に住処をおわれて、逃げていく際にそのうちの一体が仲間とはぐれ、フレイズがタケシーの住処を襲った召喚獣を退治にいったらしい。
急ごう、と彼らを促した。
「くっ!?まずい・・・こう、数任せに攻めてこられては・・・」
フレイズはたくさんの召喚獣たちに囲まれ、悪態をついていた。
アティに心配無用、といったはずがこの結果である。
「・・・っ!」
背後の召喚獣が攻撃しかけてくる。
フレイズは思わず目を閉じた。
「ギィシャアァッ!!」
「・・・ッ!?」
召喚獣の悲鳴が聞こえたことに驚いて目を開けば、目の前には刀を携えたの姿があった。
「・・・大丈夫か?」
「ええ、助かりましたよ。・・・ってそうではなくて、なんでここが・・・」
当然のように尋ねるフレイズに苦笑しつつ、は背後へ視線を向けた。
「へへへ、お手伝いしに来ちゃいました」
「大丈夫かい?」
「アティ、レックス・・・みなさん・・・」
「じゃあ、始めますよ!!」
アティの声で戦闘がはじまった。
は襲い掛かってくるキノコ・・・もとい召喚獣たちを倒していく。
刀はもちろん抜いているが、すべて峰うち。
スカーレル、ソノラはそれぞれナイフ、投具を手に応戦し、カイルにいたっては「どぉりゃあぁー!」という掛け声と共に思いっきり殴り飛ばしている。
家庭教師2人は武器攻撃に召喚術をおりまぜて戦っていた。
「すみません・・・偉そうな口を叩いておきながら・・・」
戦闘が終わり、フレイズはまずアティとレックスに礼を言う。
「いいんですよ。私たちは、みんな同じ島で暮らす仲間なんですから。困ったときは、助け合うのが当然ですもの。フレイズさんがその子を、助けようとしたように・・・ね?」
アティはそういって笑顔をみせた。
「困ったときはお互い様、だな」
「そうよ。アタシたちは仲間、なんですからね?」
に続いてスカーレルはそう言うと、右目をつぶってウインクした。
フレイズは少しうつむいてから、顔をあげると、
「そう、ですね・・・」
笑みを浮かべた。
「でも、この子たち住みかを荒らされてどうするんだろう?」
「ご安心ください。責任をもって、私が狭間の領域に迎え入れますから。同じ島で暮らしている仲間・・・ですからね」
フレイズがそういうとタケシー(名前はレックスに聞いた)らしい召喚獣がゲレゲレ言っている。
どうやら喜んでいるようだ。それを見て、アティは安堵の表情をした。
「さて!一件落着したところで、船に戻るとするか!」
「「おぉー!!」」
「・・・疲れた」
カイルの声で船へ戻るろうと足を踏み出した。
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