「ここがシルターンのみなさんが暮らしている、鬼妖界の集落なのです」
「風雷の郷、っていうんだろ?」
「ガクランさん、何で知ってるですか?」
見渡せば畑や田んぼが並んでいる。
昔の日本の田舎の風景によく似ている。というか、日本そのものだとは感じていた。
「俺、この世界に呼ばれた時にここで目がさめたんだ」
キュウマが見つけて保護してくれたらしい、と続けた。
「私、一度学生の時にシルターン自治区には遊びにいったけど、雰囲気が違いますね。ずっと落ち着いてて素朴な感じ・・・」
ものめずらしそうに目の前に広がる風景を見渡した。
「俺の世界にもこの風景と似た場所があるんだ」
懐かしいなぁ・・・
なんて懐かしがっていれば、
「・・・そういえばのいた世界の話を聞いたことなかったね」
レックスがに顔を向けて言う。
「今はマルルゥに案内してもらってるからまた今度な」
はレックスにそう伝えた。
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第07話 島内探検 3
「この集落には、お姫さまさんってエライ人がいまして、その人を中心にしてみなさん、仲良く暮らしてるです。畑でお野菜を育てたり、森で狩りをしたり」
「あそこに見えるのは、水田だね」
レックスが指差す。そこには、水田が広がっていた。
「お米のゴハン、とってもおいしいです。たまにマルルゥもご馳走になるですよ」
マルルゥは白飯を思い浮かべているのか、うれしそうな表情で話す。
も水田を見てとても懐かしく感じていた。
「ここの護人さんはニンニンさんですね。さっき会ってますから、訪ねる必要はありませんですね」
ニンニンさん、とはどうやらキュウマのことらしい。
おそらくミスミのことだろうが、マルルゥは『お姫さまさん』と呼んでいたし、彼女は名前を覚えるのが苦手なのだろう、とは素直にそう思った。
「それじゃ、お姫さまさんの所に行くですよ」
マルルゥの後ろを歩いていくと、そこには昨日まで厄介になっていた屋敷。
マルルゥに続いて、3人はは屋敷の中へ入っていった。
「よく来てくれたな、客人よ。・・・ふむ、も受け入れられたようで何よりじゃ」
「ええ、助かりましたよ」
マルルゥの言う『お姫さまさん』とはやはり彼女のことのだった。
ミスミは頭を掻くを見てにっこりと笑った。
が隣を見る。レックスとアティは心なしか緊張しているように見えたのか、ぽんぽんとアティの肩を叩いて、
「レックス。アティ。あまり緊張しなくてもいいよ。ミスミ様はとってもいい方だから」
「の言うとおりじゃ。そう、かしこまるな」
「「は、はぁ・・・」」
緊張を解こうとが声をかければ、ミスミは2人をやんわりと見て、自己紹介をした。
「改めて、挨拶しよう。ミスミじゃ。この郷の衆をまとめておる」
「アティです」
「レックスです」
自己紹介をする2人をミスミは数秒眺めると、満足そうな顔をして
「うむ、よい響きじゃな。面構えに似合うておる」
そう口にした。
「「ありがとうございます」」
「ミスミ様が郷をまとめているんですか?キュウマじゃなくて」
彼女の話を聞いていてふと気が付いた疑問だった。
「不思議じゃろう? 護人でない、わらわが郷をまとめておるのは」
聞いていくることがわかっていたかのように彼女は話を続ける。
レックスとアティも同じ疑問を抱いていたのだろう、彼女の言葉に聞き入っていた。
「あやつは拒んだのじゃ。ずっと続いてきたわらわへの忠義を貫くためにな・・・」
「忠義、ですか?」
ミスミがうなずく。
「そのことについては、また日を改めて話そう。困った事があれば、いつでも訪ねてこい。わらわに出来る事ならば、力を貸すぞ」
「「ありがとうございます、ミスミ様」」
ミスミ様の申し出にレックスとアティがお礼を言った。
にとってもありがたい申し出だった。
彼はまだ、この世界に慣れたわけではないため、正直不安だったのだ。
風雷の郷を出た。
3人のまわりをちょろちょろとマルルゥが飛び回る。
「それじゃあ、次に行きますですよ〜♪」
そう言って飛んでいくマルルゥを3人は急ぎ足で追いかけた。
「ここはメイトルパの集落。ユクレス村ですよ。マルルゥも、ここに住んでるですよ〜」
えっへん、といわんばかりにマルルゥは胸を張った。
「ユクレスというのは、村はずれにあるおっきな木の事でお願い事を聞いてくれるんだって、シマシマさんが言ってたですよ」
さらにマルルゥが説明を入れる。
シマシマさん、とは他でもないヤッファのことだろう。
「ここの護人さんはシマシマさんなのです。さっき会っていますから、訪ねる必要はありませんね」
「そうですね」
「じゃあ、ユクレスの広場に連れて行ってあげますね」
そういったマルルゥは奥へ進んでいった。
「でかいな・・・」
「大きいね・・・」
「大きいですね〜」
これがユクレスの木ですよ、というマルルゥの説明をよそに、3人はユクレスの木の大きさに驚いていた。
そのときだった。
「マルルゥ!兄ちゃん!」
声の主はスバルだった。隣にパナシェもいる。
2人でこちらへ走ってきていた。
スバルは「おす!」と手を上げて挨拶をするが、パナシェは先生たちの姿を確認すると、「こ、こんにちは・・・」といってスバルの後ろへ隠れてしまった。
「ヤンチャさんとガクランさんはお知りあいだったのですか?」
「ああ」
「そいつらが母上の言っていたニンゲンか?」
スバルはそう言って先生2人を指差した。
「ヤンチャさん、ニンゲンなんて言い方、失礼ですよ〜?先生さんたちの名前は・・・えーっと、名前・・・・あや? あやや???」
「アティです」
「レックスだよ」
2人はスバルたちに自分の名前を教えた。
「そうでしたー!」
謎が解けたと言わんばかりにマルルゥは両手を合わせた。
「なんだい、変な名前!」
「ヤンチャさん!」
スバルがにひひと笑うとマルルゥがぷぅーっと頬を膨らませる。
彼はそんなことお構いなしに、自分の名前をマルルゥと先生2人に告げた。
「オイラの名前はスバル。いい加減、覚えとけよマルルゥ?」
「イジワルですよぉ・・・。マルルゥが、お名前覚えるの苦手って知ってて・・・」
先ほどのマルルゥはどこへいったのか。泣きそうな表情をしている。
やっぱり名前覚えるの苦手だったのか・・・・
自分の名前のことで追い討ちをかけるのもかわいそうだと思い、口に出すのをやめた。
「ワンワンさんはなにやってるですか?」
「ニンゲンは怖いから、近づきたくないってさ」
スバルの答えにパナシェは今よりさらに体をちぢこませる。
「・・・おやおや」
見かねて、は静かに彼に近づいた。
ぽん、と肩に手を置く。
「パナシェ、俺は覚えてるな?」
首を縦に振る。これは肯定の証。
「あの人たちは大丈夫。君のことをとって食おうとか思ってないから。俺もそうだが、友達になってほしいんだよ、な?」
「お兄さん・・・」
パナシェが潤んだ目で彼を見つめる。
は笑顔で大丈夫だから、と頭をなでると、スバルの影から出てきて2人を見上げた。
「君は亜人の子供なのかな?」
アティが笑顔で話し掛ける。
「う、うん・・・僕、パウナスです・・・」
「ぱ、ぱうなす?」
「確か・・・犬に近い種族だったはずだよ」
知らない単語に首をかしげるをみて、レックスがそう説明した。
だからワンワンさんですよー♪とマルルゥが笑って言っている。
「これからよろしくね?」
「う、うんっ!」
怖くないと判断したのか、パナシェは2人に笑顔を見せた。
「スバルくんもね」
「おうっ!」
アティがパナシェと、レックスがスバルと握手をした。
そのとき、マルルゥがの頭に乗り、ぶらんと目元に頭を下ろす。
「ガクランさんはワンワンさんともお知りあいだったのですね〜?」
「まあね」
は彼女の問いに少し笑って答えた。
2人と別れ、集落を出た。マルルゥが言うには、次は霊界の集落に行くらしい。
獣道に落ちている枯葉を踏みしめ、先へ進んだ。
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