草木を掻き分け、は煙の立っている場所へ走る。
枝や葉などで動きにくいが、なんとか前へ進んでいる感じ。手のひらや皮膚が剥き出しになっている腕には、無数の切り傷が出来ていた。
やがて、開けた場所に出る。そこには同じ服をを着た男達が無差別に逃げようとする生き物達へ向かって剣や槍を向けていた。
その中の一人、緑髪で顔に刺青を入れた男が目に入った。
服装が微妙に違うが、質は同じものだ。どうやら奴が男達を指揮しているらしい。
「ひゃははは!!死ね!死ねえ!」
その声に同調するかのように他の男達がいっせいに生き物達を斬りつける。中には、それによって絶命してしまったものもいるようだ。
仲間を殺されまいと必死に抵抗しているヤッファの姿も見える。
しかし、その姿はひどいもので体の所々に傷がつき、血がにじんでいた。
彼はたまらず男達を怒鳴った。
「おまえら!!何してんだ!!」
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜
第04話 制裁
「ああ?」
の声に男達がいっせいにこちらを向く。
刺青の男が彼をにらみつけた。
「何だぁ?てめぇは」
「お前は・・・」
「俺の質問に答えろ・・・お前ら今何してた・・・」
刺青の男とヤッファの声を無視してもう一度、は男に向けて問いを発した。
やがて男は唇の端を吊り上げると、
「決まってんだろォ?化け物退治だよ。化け物退治」
「化け物退治・・・?」
「そうだよ。何だ、テメェは化け物に味方する気かよ!?」
刺青の男が問うがは答えない。
ヤッファも刃を受け止めながら彼の答えを待っているようにも見える。
・・・答えによってはおまえも殺す。
こちらをにらむ目がそう告げていた。
「おまえらには悪いが俺は化け物の味方だ。 どっちかといえば今の状況ではおまえら人間のほうがよっぽど悪魔に見える。それに俺も喚ばれた存在だし、助けてもらった恩もある・・・だからヤッファ。俺を殺気のこもった目でにらむのは勘弁な」
の答えにヤッファは笑みをこぼす。
しかし、目の前の男達は表情をあらわに激昂した。
「「・・・・」」
レックスとアティだ。海賊達もいる。
キュウマもいっしょで悲しげにこちらを見ていた。
「というわけだ。もし、君らがあいつらに味方する、って言うのなら・・・容赦なく叩き潰す」
刀を鞘から少し抜きつつは不敵な笑みを浮かべ彼らにそう告げる。
「んだよ・・・後ろのテメェらも化け物に加勢するつもりかぁ?」
刺青の男の問いに彼らはどう答えるのだろう。その言葉を静かに待っていた。
すると、不意に2人の家庭教師が口を開いた。
「「俺(私)達はに賛成だ(です)」」
「君に叩き潰されちゃ、たまらないからね」
レックスがこちらを向きウインクをする。
は思わず安堵の息を吐いた。
「私達は、あなたたちが許せない!」
アティがそう叫び、腰の剣を抜いた。
「ちっ、おまえら!構うこたぁねえ!あいつらまとめて叩き潰せェ!!」
刺青の男が命令する。男達がそれに応じて突進してくる。
「ヤッファ!ここは下がるんだ!その傷じゃもう戦えないだろう!?」
「チッ・・・すまねェ」
ヤッファにそう叫ぶと、彼はそれに応じて後方へ下がっていった。
自分でも危険だと感じていたのだろう。
戦闘がはじまった。家庭教師の2人に海賊達もそれぞれ応戦している。
の前に刺青の男を含め、4人の男が突っ込んでくる。そのうちの一人は後ろで何やらブツブツつぶやいていた。
手のひらの石が光を帯びた。
「っ!!!」
カイルが名前を叫ぶ。それと同時に彼は深く腰をかがめ、腰の刀に手をかけた。
勢いよく抜刀し、そのまま横に薙ぐ。刺青の男を含む3人の人間が胸の部分に血をにじませ、吹っ飛んでいった。
しかし、後ろでつぶやいていた男が彼のほうへ杖を掲げる。
すると杖の先が光り、目の前に異形な姿をした鬼が、空中に現れた。
手には大きな剣を携えている。どうやらあの男が召喚師という人種らしい。
「あれは、鬼神将ガイエン!あんな召喚獣を使役していたなんて・・・」
ヤードが解説しているとガイエンと呼ばれた鬼がに向かって剣を振り上げ、一気に振り下ろした。
「くそっ!!」
彼が叫ぶと同時に、金属音が鳴り響いた。
は刀の峰の部分と柄に手をあて、剣を止めていた。
刀に少しヒビが入っている。
「っつ、あぶな・・・」
「ガイエンの剣を受けきるなんて・・・」
ヤードが驚嘆していると、を攻撃している召喚獣は光に包まれ消えていった。
彼は笑みを浮かべ、召喚師の杖を破壊し、首の後ろに手刀を入れる。
召喚師はあっけなく気絶した。
あたりを静寂が包む。
「お前はもうこれで戦えないな・・・」
倒れた召喚師に彼はそう口にした。
他の人間は冷や汗を流して彼を見ている。もちろん、味方もしかりだ。
「俺は怒っているんだ。命を粗末にした奴に対して、な」
「すごい・・・」
誰かはわからないがそうつぶやいているのが聞こえた。
刺青の男がヨロヨロしながら立ち上がり、叫んだ。
「おい!何やってんだよ!早くこいつらを叩き潰せ!!」
その言葉が中断されていた戦闘を再開させた。
再び剣と剣がぶつかる音が聞こえはじめた。
戦闘は終盤に差し掛かり、こちらが優位にたった。家庭教師も海賊達も敵の攻撃を確実に捌き、しとめていく。もちろん、殺してはいない。
「これは制裁だ。生き物の命を粗末にした報いを受けろ!」
「ぐっ・・・」
「あなたたちの負けです。退いてください」
が残りの男達に刀を向け言うと、アティが次いで刺青の男に声をかける。
男は一瞬、悔しそうな顔をした。
「くそっ、総員、撤退する!」
仲間に命令し、気絶した仲間を背負って森の中へ消えていった。
緊張感を解き、息を吐く。
「刀、ダメにしちゃったな・・・」
刀を見ると、ちょっとでも衝撃を与えればポッキリ折れてしまいそうなほどに、大きなヒビが入っている。
鞘に刀を納め近くを見回すと、レックスとアティは疲れた表情をしていた。
「「2人とも(先生達)、どうしたの?」」
とソノラが同時に尋ねると、
「ごめん。少し疲れたみたいなんだ・・・」
レックスが弱々しい声で答えた。
「確かに、見届けました。貴方たちの言葉が、その場限りの嘘ではなかった事を」
「キュウマさん・・・」
キュウマは向き直り、穏やかな声で言った。
「自分は、貴方たちを信じます」
「「「「それじゃあ・・・」」」」
海賊達が声をそろえて言う。
「島の仲間として、貴方たちを迎えましょう」
キュウマの宣言に全員が声をあげて喜んだ。
もちろん、もだが。
「殿」
「ん?」
声をかけてきたのはキュウマだった。
だが無表情ではなく、穏やかな笑顔だった。
「貴方はとりあえずミスミ様の屋敷に戻られてはどうでしょう?」
「ああ、刀のことも謝らないと・・・それじゃ」
はみなに手を上げると、森へ入ろうと足を動かして、止める。
「・・・」
「・・・殿?」
彼の行動の意図がわからず、キュウマは困った表情を見せつつ、名前を呼ぶ。
はゆっくりと振り返ると、
「・・・キュウマ。悪いけど、風雷の郷まで案内してくれる?ここどこだかわかんなくて」
全員がどっと笑い声を上げた。
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