「ところでさっきから喚ばれた、とかしるたーんがどうとかって・・・一体何なんですか?」

 そうたずねたところで、キュウマの顔から笑顔が消え、まじめな表情を作った。
 ミスミは笑みをやんわりとしたものに変える。そして、隣のキュウマに視線を向けると、

「キュウマ、そんな顔をしておったら、がいらぬ心配するであろう」
「は・・・はあ・・・」

 キュウマは困ったように曖昧な表情を浮かべた。


「ゴホン・・・では、説明します。この世界と、この島について」



 は一刻も早く状況を理解しようと彼の言葉に耳を傾けるのだった。



     
サモンナイト 〜紡がれし未来へ〜

     第02話  状況説明



「おいら、パナシェたちと遊んでくる!!」
「道中、気をつけるのじゃぞ」

 ミスミの声に、わかってるよ!という声が外から返ってきた。
 軽快な足音が次第に遠ざかる。
 ごほん、とキュウマが咳払いをして話し始めた。



「それでは、まずはじめにこの世界の名前は『リィンバウム』といいます。聞き覚えはありますか?」
「・・・いや、ないな・・・」

 先ほどまで自分がいたであろう闇の中で『声』に聞いた単語ではあったが、その言葉自体の意味はよくわかっていなかったので、あえてないと口にする。
 その名前が自分が今いる世界であることをここで初めて知った。

 キュウマは「そうでしょうね」と言いたげな顔をしている。
 ミスミも似たような表情をしていた。

「あなたのいた世界に存在するかはわかりませんが、この世界には『召喚術』というものが存在しています。リィンバウムの周りには機界ロレイラル、鬼妖界シルターン、霊界サプレス、獣界メイトルパという4つの世界が囲んでいると伝わっており、召喚術はそれらの世界の召喚獣と誓約という名の契約を交わしてリィンバウムに呼び寄せるのです」
「なるほど、ということはさっきの『喚ばれた』ってことも含めて考えると、俺はその・・・召喚術?それでこの世界に呼び出されたってことになるわけか」

 キュウマが肯定の意を示す。

「普通は召喚主が近くにいるはずなのだが、この島は昔、無色の派閥という組織による召喚術の実験場であったのでな、誓約をせずに強引に喚びだすのじゃ。この島の住人はみなそのようにして喚ばれたものたちでの」

 誓約のなされていない召喚獣を『はぐれ』というのじゃ。
 ミスミがそのように付け加えた。

「じゃあ、俺は・・・」
「派閥によって作られた施設は今も機能しているのでな・・・そなたもそうして喚ばれてきたのだろうな」

 つまり自分がこの世界にとって『はぐれ』という存在であることが理解できた。
 ふむ・・・とつぶやいて腕を組む。

「なるほど、そこまではわかった。で、俺は帰れるのか?」

 無理だろうな、と思いつつたずねる。
 島の住人が今もいるということは彼らは元の世界に帰っていない。
 さらに自分が彼らと同じはぐれであることから自分も帰れない、ということから。

 問いの答えは彼の思ったとおりだった。

「残念ながら、殿。あなたは元の世界には戻ることはできません。召喚獣をもといた世界に戻すことができるのは、その召喚主のみなのです」
「そうか・・・」

 わかってはいたが、帰れないのは正直つらい。
 唯一の家族も向こうだし、親しい友人も同様。
 帰れないということは、彼らとは絶対に会えないということにつながっている。

「ま、まあそんなに気を落とすでない。とりあえず当面はこの屋敷に住むといい」

 落ち込んだ雰囲気を和ませるようにミスミが話しを振る。
 は微笑んでうなずいた。

「ああ、お世話になります。」
「他の集落の護人にもあなたのことは話してありますので、後で各集落を回ってくるといいでしょう」
「キュウマ。一人では迷ってしまうかもしれないではないか。そなたが案内しやれ」
「・・・御意」
「ありがとう。ミスミ様、キュウマ」

 は笑顔でそう返したのだった。








  「た、たいへんだー!!」







 突如少年の慌てた声が聞こえてくる。
 ミスミがあきれたように額に手を当て、ため息をつく。

「これ、スバル。慌てるでない。一体どうしたのじゃ」

 部屋に入ってきたのはスバルともう一人、二本足で歩く犬の子供だった。
 を見た瞬間、なにやらおびえたような目をしてスバルの後ろに隠れる。
 は驚きながらも彼にゆっくり近づき、肩にポンと手を置いた。

「俺は だ。君は?」
「僕・・・パナシェ」
「パナシェか・・・よろしくな!」

 笑顔を向けるとパナシェも笑顔で返してくれた。
 雰囲気がやわらかくなるが、スバルの声でさえぎられてしまった。


「そんなほんわかしてる場合じゃないんだよー!!」


 スバルの声が屋敷に響く。パナシェもも驚いてスバルを見た。

「それで、スバル様。一体何が起こったのです?」
「見たことないヒトたちがこの集落の近くに来てるんだよぉ!」

 キュウマの顔つきが緊張したものになる。表情からして歓迎するようには見えない。
 この島では、この世界では、人間がいることがよくないのだろうか?

「人間がいちゃだめなのですか?」
「いや、そうではない。先刻も言ったが、この島にははぐれ召喚獣しかおらぬのでな。不審なものに敏感なだけだ」
「不審・・・俺は違うですか?」

 自分を指差しつつ尋ねれば、

「そなたは喚び出されていることがわかっているからの」

 そんな答えが返ってきた。

 なるほど、というようにポンと手を打つ。
 出所のわからないニンゲンがいることが、この島にとってよくないことなのだろう。

「ミスミ様、自分がいきますので。」
「頼んだぞ、キュウマ」

 キュウマとミスミ様が一言だけ言葉を交わし、キュウマはシュッ、という音と共に部屋から消えてしまった。
 ミスミ様が言うにはキュウマは忍者らしい。

「さて、よ。わらわも人間たちのところへ行くが、そなたはここで待っているのじゃ。」
「いや、俺も連れて行ってください。」
「戦えるのか?」
「一応剣術を使えます。少なくとも自分の身だけは守れるつもりです。足手まといにはなりません!」

 ミスミ様は少し考え、にむかってついてこい、とだけ言った。





 は一振りの刀を渡され、ミスミと共にその人間たちのところへ向かうのだった。











「あなた方の力量では彼らには勝てません。下がっていてください。」

 キュウマの一声でそれまで戦っていた妖怪たちはすごすごと下がっていく。

「どうやらあんたが親玉らしいな」

 ガタイのいい金髪の兄さんが笑みを浮かべながら話す。




 とミスミはキュウマと侵入者であろう人間たちとの会話を近くの茂みに隠れて聞いていた。

「あの、ミスミ様?これはいわゆる盗み聞きというやつでは・・・」
「細かいことは気にするでない」
「はぁ・・・」

 二人の間でこんな会話があったり。







 島に入ってきた人間たちは数人。
 キュウマはじっと彼らを見回したした後、自己紹介をはじめる。

「我が名はキュウマ。鬼妖界シルターンが集落、風雷の郷を守護するもの」
「あの・・・」
「何の目的があってここへ来たのかは知りませんが、早々に立ち去っていただきたい。」

 赤髪長髪で白い帽子をかぶった女性の言葉を遮り、キュウマはさらに彼らに告げる。

「護人・・・?」
「護人とは島の秩序を守る四者」

 簡単に護人についての説明は受けていたが、どうやら護人はキュウマのほかに三人いるようだ。

「よくわかんないけど、先に手を出したのはそっちじゃない!」
「無断で境界へ踏み込んできたあなた方が悪いのです!」

 カウボーイハットをかぶった金髪の女の子が声をあげるが、キュウマはそれに臆することなく怒鳴りつける。そのままあきれたような表情を見せ、

「島の者なら、言わずともわかることでしょう・・・」

そうつぶやいた。
 以前からこの島に住んでいる者であれば、島のルールは知らないはずがない。
 のように今しがた島に召喚されたのであれば話しは別だが、キュウマは彼らを島の住人だと思っているようだった。




「島の者、ならばな?」

 ミスミはもうそろそろ頃合だ、といわんばかりに立ち上がり、キュウマの後ろへ移動した。
 も慌てて立ち上がり、彼女の横に移動する。

「み、ミスミ様・・・!それに、殿まで!?」
「・・・悪い。俺も行きたいって頼んだんだよ」

 キュウマも相手側もそろってぽかんとこちらを見つめている。

「キュウマよ、よく見るがよい。あの者たちはと同じ人間じゃ」
「人間!?・・・ならばなおのこと・・・」

 姿かたちが似ているのになぜ人間だと気づかない・・・キュウマよ。
 心の中でそうつっこんでみる・・・もちろん、意味はない。

「やめよと言っておるのがわからぬというのか!?」

 人間という言葉を聞いて、眉を吊り上げるキュウマにミスミが声を荒げた。
 普段から温厚な人が一度怒るとものすごい怖いというが、そのとおりだとは思った。

と同じくはぐれて間もないのじゃろう。島の掟を知らぬのも仕方あるまい」
「はっ・・・」

 キュウマはミスミ様に頭を下げ、引き下がった。
 すると、細身で銀髪の男性が前へ出てくる。

「失礼ですが、あなた方は・・・」
「わらわはミスミじゃ。郷のものからは鬼姫、と呼ばれておる。こっちは・・・」
 。君らと同じ人間だよ。」
「この島に他の人間がいるの!?」

 がミスミの言葉に続いて自己紹介をすると、カウボーイハットの女の子が期待したようにたずねた。

「いや、この島の人間はそなたらととご老体のみじゃ」

 ミスミ様の答えを聞くとその子はがっくりというように肩を落とす。

「ともかく、話しは後じゃ。ここは一つ、他の護人たちの意見も聞くべきであろう。・・・のう?キュウマよ」
「・・・御意」

 ミスミ様の提案にキュウマはこちらへ背を向け、

「こちらへ・・・。貴方がたを、他の護人たちと引き合わせます」

 そう告げ、歩き出す。
 とミスミ様もそれに続いた。



 最初はキュウマに案内してもらうはずが、思わぬ形で他の集落の護人たちと顔を合わせることになってしまったらしい。






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