悪魔たちを再び結界の内部へ封じ込め、一同はルウの家へと戻ってきた。 パーティの召喚師+αは、カイナたちの話を聞くために部屋を変える。 話の内容は召喚師でなければわからないことばかりだったから、適材適所というヤツだ。 この場にいるのは、主には召喚師陣。カイナとエルジン、エスガルドと旧知の仲であるカザミネ。そして、カザミネと同じ立場にいると、彼についてきたハサハとユエルだ。 「エルゴの・・・守護者?」 あなたたちが? と、ミニスが驚いたような声を上げた。 エルゴの守護者。 それは、世界の意思たるエルゴによって選ばれ、その加護を受けた者の総称。 ロレイラル、シルターン、メイトルパ、サプレス、そしてリィンバウム。それぞれの世界につき各1人存在している彼らは、世界の意思の代行者。 エルゴの代理人として、この世界が異世界の力で必要以上に混乱することのないように見張る者。 そして、いざとなれば災いの原因を取り除く役目を担う者。 「私たちは、あの森に封じられた悪魔の動向を調査するのが目的でした」 エルゴの守護者たるカイナとエルジン、そしてエスガルド。 悪魔の気配を追いかけているうちにたどり着いたのが、アルミネスの森の結界で。 「もっとも、そんなところで情けなくも悪魔に追われてる人もいるわけですが」 じろり、とカイナの視線が青年を射抜く。 青年はばつが悪げに苦笑する。 青年――もまた、彼女たちがここで現れるとは思いもしなかったのは事実。 どちらにせよ、しんどい思いをするのは間違いないわけだが。 「あはは・・・」 今はただ、笑うしかない。 カイナは小さく息つくと、興味をなくしたかのように視線を戻す。 その刹那につぶやかれた小さな言葉は・・・・・・ 「おにいちゃん・・・?」 「え、あ、いや・・・・・・なんでもないよ?」 聞かなかったことにしておこう。 「ちょっと前からなんだけど、あちこちの街で悪魔が関わったような事件が急に増えてさ」 例えば、召喚師の失踪。 例えば、はぐれ召喚獣の活発凶暴化。 そのすべてを調査しているうちに、行きついたのが『あの場所』だった。 「そんなにたくさんうろついてるの!?」 「数ソノモノハ不明ダガ、目撃サレルホド活発ニ悪魔ガ活動シテイルノガスデニ異常ナノダ」 行く街行く街で聞き込みすれば、見えてくる悪魔の姿。 はぐれた悪魔は、表立って動き回ることは極めて稀なケース。エスガルドの言うとおり、目撃されるほど動き回っているのは、確かに異常すぎた。 森に封じられていた悪魔もまた目の前のニンゲンたちへの怨恨を叫び、殺到した。 「いったい、なにが原因なのかしら?」 ミニスのそんな一言に、カイナは言う。 心当たりがないということでもない、と。 それは、今から季節を遡ること一巡り。 魔王召喚を企む組織が、大規模な儀式を行った。その儀式が原因で、サプレスの魔力が大量に流入するという事件があった。 しかし街ひとつを巻き込んだその事件は、十数人の男女の活躍により鎮圧。 エルゴの王が降臨した、とも噂されたがその真偽は定かではない。 「もしや、『無色の派閥の乱』か!?」 荒げられたネスティの一言に、カイナは小さくうなずいた。 蒼の派閥の召喚師である彼とトリス、そしてマグナは、その頃のことを思い返す。 派閥から盗み出された『魅魔の宝玉』。 奪還を命じられたのが、ギブソンとミモザだったことを。 「ぎぶそん殿タチハ、我ラト共ニ召喚サレタ大悪魔ト戦ッタノダ」 「へっ!?」 マグナが、素っ頓狂な声を上げる。 話に聞いていたものとは違っていた・・・いや、詳しく聞くことができなかったから。 派閥全体、口にすることを禁じていたから。 魅魔の宝玉を盗まれたという大失態をもみ消すために。 「信じられない・・・」 「ウソじゃないよ。ギブソンさんにミモザさん、それからそこのカザミネさんとお兄さん。みんな一緒に悪魔たちと戦った仲間なんだよね、お兄さん?」 話を振られたは、注目が集まる中でどことなく居心地悪げに、小さくうなずいた。 「それについては、言いたいことがたくさんあるんですが・・・さん?」 「・・・はい」 ずかずかずかと詰め寄るのはカイナだった。 エルジンもエスガルドも、内側に抱える思いは同じ。しかしそれを表に出さなかったのは、カイナが自分たちの分も合わせて代弁しようとしてくれているのがわかっていたから。 にっこにっこにっこにっこ笑顔で詰め寄る彼女の背後には、恐怖の象徴が浮かんでいた。 「あんな別れかたしておいて、なぜあのようなところで油売っていたんですか?」 「・・・や、油は売ってない。というか、必死になって逃げてたのですよ?」 STOPの意を示すため、両手を前に。 冷や汗ダラダラかきながら。 「なぜ逃げる必要があるのです?」 感じていたのはいつかと同じ感覚だった。 そう・・・あれはつい先日の話だ。 聖王都ゼラムのとある住宅街の、とある邸宅の玄関でのたった数分の出来事だった。 あのときのメガネの悪魔の顔は・・・忘れたくても忘れられない。 「だって」 「仮にもエルゴの守護者である貴方が、あの程度の悪魔を相手に逃げる必要があったと?」 「・・・」 反論したかったが、させてくれる雰囲気ではなかった。 笑顔で威圧するカイナの有無を言わさぬ雰囲気に、彼は完全に敗北していた。・・・いや、敗北以前に、 「が、エルゴの守護者?」 今明かされた新事実だが、その彼がエルゴの守護者とはいえ女性に詰め寄られてビクついているためか。 そんなたいそうな存在にはまったく見えず。 そのせいか、本来は驚くべき状況のはずが。 「あ、あの程度っていうけどあーた・・・」 「言い訳は見苦しいですよ?」 「・・・」 ならどーすりゃいいのよ、と尋ね返したいところではあるが、カイナのまとうオーラがソレを許さない。 まさに蛇ににらまれた蛙といったところだろうか。 怒るのはさておき、その後どうすればいいのか。 ソレがさっぱり見えてこない。 「・・・ま、あとで痛い目見ることだね。お兄さん?」 しかし、エルジンの一声が、カイナのオーラを掻き消した。 親友の思いをふいにした報いとして、思い切り殴り飛ばす。 『約束』を果たすのがカイナでもエルジンでも、言うまでもなくエスガルドでもダメなのだ。 が別れを告げ、消えた直後の間に交わした、もはや会うことも叶わぬ異界の友との大事な『約束』は。 「きっと、今までの中でも一番・・・痛いと思うよ?」 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第40話 ケイナとカイナと 結局、アメルの言う祖母の存在は確認できずじまい。いるべき場所には悪魔たちを封じた結界が張ってあったことから、祖母の捜索は断念することとなる。 それも、アメル自身の口からの言葉で。 ―――もう十分です・・・。 紡がれたたった一言に、頼れる存在がいなかった辛さと、自分のしてしまった所業への後悔と・・・大好きな人から嘘をつかれた哀しさが入り混じっているようだった。 そんな彼らが次に目指すのは三砦都市トライドラ。聖王国の楯、と称される騎士の街だ。 もっとも、実際の目的地はその手前。 ローウェン砦の守備隊長を務めているというフォルテの知り合いである騎士を尋ねて、行動する手はずとなっていた。 逆に、カイナとエルジン、エスガルドの3人は己のやるべきことのために、ここで別れることになる。 皆さんに最後の挨拶をして、おいとましましょうか。 そんなカイナの一言はしかし、数分後にはあっけなく崩壊を起こすことになる。 「ねえさまっ!!」 カイナは嬉しそうに、ケイナに抱きついて泣きじゃくっていた。 さっきまでの黒い恐怖とは程遠い、純粋な嬉しさを表現した表情で、再び出会えた姉との再会を喜んでいた。 その逆に、ケイナは何がなんだかわからず、困惑。 無理もない。彼女は、フォルテに助けられた時点で過去の記憶を失っていたのだから。 そして、今日。 手がかりがまったくといっていいほどなかったケイナの過去を知る存在が現れた。 「まさか、彼女がケイナの妹だったとは・・・」 「そういえば、名前とか着物とか、そっくりでしたものね」 妹のカイナだ。 アメルの言うとおり、名前はそろって韻を踏んでいるし、着ている服も造形や作りがよく似ている。 気付かなかったわけ? とミニスに問われたとカザミネは、 「いや、拙者もまさかお2人が血縁であるとは・・・」 「せ、世間は意外と狭いんだなぁ」 まったく気付いてなかった。 カイナはシルターン出身。無色の派閥の乱の時に出会うまでは、雪がしんしんと降り注ぐ山奥でたった1人で暮らしていた。 だからこそ、再会の喜びもひとしおといったところだった。 「・・・とりあえず、一通り説明はしておいたぜ」 そんな一言とともに、げんなりとしたフォルテと当事者のケイナ、カイナの3人が隣の部屋から姿を現した。 助けたときのケイナの状況や、記憶が失われているまま、戻る気配がまったくないことを事細かに話して聞かせたわけだが。 「「・・・・・・」」 「おうおう、なんともいえねェ、やァな空気になっちまってるようだなァ」 バルレルの言うとおり、2人の間に気まずい雰囲気が流れてしまっていた。 「ふ、2人とも、元気出して!」 こうして会えただけでも十分よかったじゃない、とトリスが慰めの言葉をかけて、2人はぎこちなくも笑顔を見せてくれた。 元気な顔を見れただけでも良かったです、と。 「かいな殿・・・貴女ハココニ残ッタホウガイイ」 しかし、エスガルドは彼女に一言言って聞かせる。 姉であるケイナは今、記憶喪失の真っ最中。記憶を戻す手段の1つとして、過去を知る存在が 他にも幾通りかの手段はあるが、それらもすべて、記憶が戻る確率は低い。 でも、もしかしたらひょんなことから思い出すかもしれないのだから。 それ以前に。 「せっかくお姉さんに会えたんだもん。このままお別れなんてダメだよ!」 僕とエスガルドで、ちゃんと調査は進めておくから。 s 久方ぶりに再会した肉親同士。 話すだけ話してはいサヨナラは、どこか悲しくて。 エルジンはたまらず、そんな言葉を口にした。 「俺からも頼むわ」 そして、フォルテも。 「妹のあんたが側にいてくれりゃあ、こいつもど忘れしたことを思い出せると思うんだ」 エルジンとは違う、しかしこれは必要なことなのだと、頭を下げた。 ● 「シャムロック、ってのがダチの名前だ。まあ・・・いわゆる同門の剣を習った仲だがな。今は出世して、砦の守備隊長をしてんだよ」 ローウェン砦への道中、フォルテは尋ね人の正体を明かした。 砦といえば、最前線でお国を守る聖王都ゼラムの守りの要。そんな場所の守備隊長・・・言うなれば、楯そのもの。 そんな出世頭と同門であるとさも当然とばかりに言い切るフォルテはつまり、彼もまたそれほどご大層な存在であるということか。 「おお、そーだ! 聖女の噂もそいつから聞いて知ったんだぜ、アメル?」 「え、そうなんですか?」 「あー、火種がここにもってわけかよ・・・」 レルムの村で自警団を組織していた一員としては、やはり複雑なのだろう。 聖女情報の源を聞いたリューグは、過去の激務を思い返し、大きくため息。聖女の噂はきっと、尾びれ背びれがくっついて世界中に広がっていたに違いない。 「どこの世界でも、ゴシップは怖いってことかねえ、まったく」 ふいーっ。 まったくもって、レナード先生のおっしゃるとおり。 噂とは伝言ゲームだ。 話半分でまかせ半分、と信憑性に保障はないものの、それが真実であるとひとたび広まってしまえば、モアや止める手立てはない。あることないことが全部伝わった結果があの人だかりとトラブルの連続。 ・・・まったく、迷惑な話だ。 ちょっとカタブツだが、信用できるやつだってのは保障するぜ。 少しばかり胸を張って、フォルテはそんなことを口にした。 それほどに買っているのだろう。シャムロックという人物を。 そんな中、我らが主人公であるくんは。 「う〜ん・・・」 どことなく煮え切らない表情のまま、最後尾をとぼとぼと歩いていた。 カイナから受けた黒いプレッシャーを、いまだに引きずっているというわけではない。 自分が『エルゴの守護者』であることを黙っていたことが、後ろめたかったわけでもない。 ただ、気になっていた。 虫の知らせ、というやつだろうか。 行く先々で発生するトラブル。色々な理由で起こる戦い。 それらは、まるで自分たちの行く先でただ待っているかのようで。 「おにいちゃん?」 もちろん、その原因の1つになるのだろう・・・アメルの存在。 彼女は言うまでもなく自他共に認める被害者だから対処のしようもないのだが、トラブルはまるで狙いすましたように起こるか、すでに起こっている。 それで結局、巻き込まれる。 ・・・ああ。 「そういえば、原因はもう1つあるか」 確証があるわけじゃないが、今までの経験を考えると、はずせないわけでもないだろう。 「なんか・・・複雑だぁ」 自分の、『よく巻き込まれる』体質。 イヤな星の下に産まれてしまったことを少しだけ呪ってみる。 「・・・おにいちゃんっ!」 「うぇっ!?」 だからこそ、気付くことができなかった。 ハサハの声に、みんなの様子に。そして、目の前の剣戟音に。 突然聞こえた甲高い音に目を見開き、うつむいていた顔を上げる。 その先に広がっていたのは、黒。 山のように高くそびえる石造りの建物のふもとに密集している、黒の人波。 剣音は途切れることなく一同の耳を貫き、さらに侵食するのは断末魔の声や、耳障りな何かを切る音。 それらが何であるかなど、察するまでもなく理解できた。 答えは・・・ 「砦が、攻撃されてるじゃないのさ!?」 聖王都を守る楯が、崩れ落ちる光景だった。 |
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