どういうことだ、と思う。
 とにかく刀を振るいながら、自分と同じように刀を振り回す少年を見る。

 黒い。

 振るわれる刀身の残像はただ、黒い軌跡を描く。
 襲い掛かるサプレスの召喚獣たちを還しながら、マグナの表情には歓喜が宿る。
 湧き上がる力、溢れる闘志。
 それがどのような方向性に向かっているとはいえど、彼の望みは叶ったといえるだろう。

、あれって」
「ああ、わかってる」

 ユエルの問いにの目は険しいまま、眉間にしわを寄せる。
 感じるのは力の奔流。強いつよい力だ。
 ……あれは、違う。
 立ち上る力はまさに膨大。自身の持つ刀など軽く凌駕しているように見える。
 形こそ似ているものの、内包しているそれはしかし、まったくの別物。

「・・・ったく!」

 人は間違いを犯すもの。
 間違いから学び、正しい道へと立ち戻る。
 しかし、間違ったまま進んでしまう場合も少なからずある。
 だからこそ、誰かがそれを正さねばならない。

 所詮はただの自己満足だ。
 自分のエゴを振りかざして、そのエゴを他人に押し付けようとしているだけ。
 でも。

「・・・だめ」

 彼女は体質か、負に対する感情や力に敏感に反応する。
 出会ってさほども経っていないでも、ハサハの声で確信できるほどに高い信憑性を誇っているのだ。

「マグナおにいちゃん・・・その色に染まっちゃ、ダメだよぉっ」

 彼に従う黒いソレは、よくないモノであると。
 だから。

「・・・絶風、力を貸してくれ」

 携えた純白の刀は、そんな声に応えるように強く咆哮を上げた。





    
サモンナイト 〜美しき未来へ〜

    第37話  約束ひとつ





 少女との勝負は守りを失った彼女を気絶させることで片がついた。
 そしてその大半は、マグナの活躍によるものだった。つい先日とは目に見えて違うほどに飛躍した戦闘能力に、誰もが驚きを隠せなかった。
 それはもちろん、妹であるトリスでさえも。

「マグ兄すごいよ! いつの間にあんなに動けるようになったのよぉ!?」
「い、いや・・・そんな大したことは」
「謙遜謙遜。でもトリスの言うとおり、いつの間にそんなに強くなったのね・・・うふふ、もうフォルテもお払い箱かしら?」
「・・・うるせ。いーじゃねえか、戦力はあるにこしたこたねーだろ」
「でもさ。それだけの強さがあれば、この先の戦いでも大活躍じゃないのかい?」
「そんなことないって。皆がいたから俺は、自分の後ろを気にせず戦えたわけだし」

 だからこそ、彼は皆から賞賛された。
 その力はこれから、パーティの大きな助けになると。

 もちろん、それを面白くないと思う者もいる。
 例えばリューグだ。
 結果的にアメルを守ることに繋がっているものの、しかしそれは彼にとっては不服この上ないものだった。
 彼女を守るということは、自分だけに与えられた特権のようなものだと思っていたから。
 それがなくなってしまえば後は、復讐にすべてを捧げることになってしまう。

 それでいいのかもしれない。そうするべきなのかもしれない。
 でも、彼自身がアメルを守ると・・・守りたいという強い思いを懐いていたから。

「・・・ちっ」

 小さな舌打ちが漏れ出たのだった。

 そして、バルレル。
 彼は賞賛しているわけではなく、彼が振るっていた武具に興味を持った。
 ほとばしる力の奔流は、本来悪魔たちが好むものだったから。

 感情ではない。
 だが、感じている魔力は確かに彼の身体の内側に活力を与えていた。
 そして、面白いのは。

「クククッ、いー感じにオちてんなァ・・・やっぱ、最高だわオマエ」

 目の前で笑っているニンゲンの心の内側だった。
 ゆっくり、しかし確実にと悪魔好みになっていくその感情は、彼にとっては『利』のない甘美だった。

「ま、テメェはアイツがなっちまう前になんとかしちまうんだろ?」

 笑みの消えないまま目元を覆って、木に寄りかかったのだった。

 最後に。

「・・・・・・」

 賞賛の真っ只中にいるマグナを遠巻きに眺めているだ。
 フォルテの言うとおり、戦力はあるにこしたことはないし、何より戦いでより有利になる。
 黒の旅団を相手にしたって、今までよりももっと、戦いの流れを引き寄せることができるだろう。
 でも。

「おにいちゃん」
「・・・っ、あー、どしたハサハ?」
「おかお、こわいよ?」
「・・・・・・」

 どこか納得いかない。
 黒い刀身を持つ絶風。それを多い尽くす更なる黒。
 迸る黒の奔流。
 そして、それを振るうマグナの鋭利過ぎる心。
 そのすべてが、彼がマグナに期待していることの180度逆方向に進んでいることに、少なからず失望していた。

「ごめんごめん。怖かったな」
「ハサハがさっきからね、ずっとどうしようって迷ってたんだよ?」

 ユエルの一言に、自分が考えていたことをひとまず反省。
 彼女たちには一切、関係のない話なのだ。そんな内容の考えをめぐらせて、勝手に怖がらせるのは良くない。
 というか、必要以上に心配してくれる2人だ。
 必要のないことで心配させてしまうのは、精神衛生上よろしくない。

「そっか。ゴメンなハサハ、怖い思いさせて」
「(ふるふるふるふる)」

 感情や力に敏感に反応するハサハだからこそ、安心させるために笑いかけて頭を撫でる。
 くすぐったそうに目を閉じている彼女を可愛いなと思いながら、笑みを浮かべた。

「あーっ! ハサハずるい! ユエルもユエルも〜っ!」
「はいはい。ユエルにはいつも心配かけてるよな」
「うわなんかハサハのついでみたいな言い方!」
「そんなわけないだろ。2人にはいつもすごく感謝してるよ」

 いつも心配かけている自分を気にかけてくれることに。
 険しい表情をしていた自分の考えを気にして、話しかけてくれることに。
 いつもいつも、感謝は絶えない。

 でも――。

「もしまた俺があんな顔してたらさ、声かけてくれよ」
「うん」

 ハサハはのそんな言葉に頬をほのかに赤く染めて、にこりと笑ってみせる。
 護衛獣として役に立てたことが嬉しいのか、それともなにか別に思うところがあるのか。
 とにかく、彼女たちに悲しい顔をさせないようにしたいなあ、なんて考えてもみる。

!」

 マグナが嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。
 腰に刀を携えて、仲間たちが思い思いに散った森の一角で。
 ルウと名乗った少女が目覚めない限り先へは進めないからと、それぞれが戦闘の疲れを癒すなどの行動をしている中でのことだ。

「やあマグナ。・・・嬉しそうだな」
「うんっ。も見ただろ? 俺、強くなったんだよ!」
「ああ、そう見たいだな」

 ――今回ばかりは、その心配を承知で向き合う必要がある。

「だから・・・」
「わかってるからみなまでいうなって。・・・いいよ、相手する」
「ホントか!?」

 きゃっほい、と嬉しそうにガッツポーズをとるマグナ。
 そんな彼を見たあとで、両隣に並んで座ったハサハとユエルを見る。
 2人は真っ直ぐ、自分を見ていた。
 心配を絵に描いたような表情を見せながら。

「・・・悪い。今回は、ちょっと見逃してくれるか?」
「「・・・・・・」」

 2人は納得いっていないというような表情で、小さくうなずいて見せたのだった。

 以前した稽古の約束。
 問いかけに未だ答えていない彼とはまだ、『稽古』はする必要を感じていない。
 あくまでこれは、ただ問いかける。
 今のマグナは確かに強い。
 だからこそ、単純に腕力で勝つのは難しい。難しいからこそ、戦いの中でも同じ風に問いかけると決めた。
 いつか、その答えを彼の口から聞くことができることを願って。

 だから、今は。

「マグナ、とりあえず帰ってからにしよう。今は・・・な」
「うん、わかった!」

 目の前の少女が起きるまで、ひたすら待ち続けよう―――。


 ●


「うーん・・・」

 少女が目を覚ます。
 ゆっくりと身体を起こし、目をしぱたかせると。

「あ、気がついた」

 目の前に、ミニスの顔が。

「・・・わ、わああっ!?」
「そ、そんなに驚くことないじゃないのよぉ・・・」

 ルウの表情が驚きに染まり、両手と両脚を器用に動かして背後へ後退する。
 彼女は未だ、自分たちを悪魔の手先だと思っているのだから、仕方ないといえばそこまでなのだが。
 もう少し、落ち着いて欲しいものだ。
 大体、戦いになったきっかけだって、彼女の思い込みによるものだ。
 突然の来客を根底から悪魔と決め付けて、一方的に攻撃を仕掛けてきた。
 話をするヒマもないままに、だ。

「ちょっと、落ち着いて」
「あたいたちは別に、あんたに危害を加えるつもりはないんだよ」

 ケイナとモーリンで優しく、説得を試みるが。

「そ、そんなこと言って・・・っ、油断させてからルウにとりつく気でしょう? そうなんでしょう!?」

 やっぱり、取り付くしまもなかった。
 まだ、目の前の来客たちを、人間に変化した悪魔だと思い込んで敵意の視線を送っている。
 こんな辺鄙な場所に1人で住んでいるのだから、神経質になっていても仕方ないとは思うのだが。

「とりつくのなら、君が気絶していた間の方が簡単だったはずだ。・・・君もサプレスの召喚師なら、それくらいは知っているだろう?」
「それは、たしかにそうだけど・・・」

 とにかく、ネスティにこの場が委ねられた。
 理論的に話を組み立てる彼は、聞いていて非常に賢い人間なんだろうなとは思う。
 派閥でよく勉強した成果は、こんなところでも役に立っているのだ。
 勉学とは、どこで役に立つかわからないものだ。
 ・・・もっとも、はもはやここ2年ほどは学習机に座った記憶がないのだが。

「とにかく、事情を説明させてくれないかな?」

 トリスがネスティに続く。
 自分たちがここに来た理由を話せばきっと、わかってくれると思うから。
 ネスティの言葉で今、彼女の中の悪魔理論にひびが入っているはずなのだ。だから、ここで事情を説明すればきっと、わかってもらえると思うから。

「ね?」

 トリスは自分にできる精一杯の笑顔を、ルウに見せたのだった。





超ダークマグナの誕生です。
近いうちに、ちょっとした小競り合いを予定しています。
もっとも、その前に前作のあの人たちを登場させることに
なりますけどね。

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