「失礼しますわ!!」 日付が変わって、朝食も終わろうというモーリン家に、1人の来客が訪れた。 流れるような金の髪に身体のラインが浮き出るような露出度の高い服。しかし本来美しいはずであるその顔立ちは、子供が見ても理解できるほどに歪みきっている。 理由は簡単。彼女がここに来る理由は、たった一つだけのはずなのだから。 「チビジャリ! いることはわかってますわ・・・でていらっしゃいっ!!」 家主の許可もないままどかどかと道場内に踏み入ると、彼女は敷地内のすべてにいきわたるほど大きく声を張り上げた。 人数が多すぎるため、朝食は道場でとるという日々が続いている。もちろん今日も例外ではなく、突然の大声に一同は料理を口に含んだまま硬直していたり、フォークにほかほかの芋を突き刺したまま硬直していたり、コーヒーを喉に流し込んだまま硬直していたり。 なかでも特に、新しくパーティ入りを果たしたばかりのレナードの固まりっぷりは顕著で。コーヒーカップを左手に、ファナンで購入したというタバコを咥えていた彼は、あまりのぴかぴかぶりにタバコを足に落して軽い火傷を負っている始末だった。 「お〜、ふぁによあふぁっはあかあ。ほーひょっほひおひはへはあいおえ」 アメルが焼いたパンをほおばりながら、ミニスはしぶしぶという単語がしっくり来るくらいにゆっくりと立ち上がり彼女の前へと歩み出る。 「んくっ、ふう・・・で、なんの用? サモナイト石なら・・・」 「いいえ、今回はその件ではありませんわ」 「え?」 ワイヴァーンのサモナイト石が狙いではなかったのか? そんな疑問が一同の頭をよぎる。 過去にまだ1回だけだがまったく、これもある意味では我らがパーティの悩みの種とも言えるだろう。 ちなみに以前でのぶつかり合いの時の内容については皆にミニスから話してある。近い未来、今回と同じように彼女が無意味な因縁をつけてくるかも知れないからと、周知しておいたわけだ。 知らないのはファナンに来てから仲間になったモーリンとカザミネ、そしてレナードの3人だけ。 「・・・でよ、なんなんだあのぴかぴかねーちゃんは?」 「金の派閥のケルマさん。前にゼラムでちょっとした因縁をふっかけられてさ」 簡単に言えば、ミニスが落したというサモナイト石のペンダントを渡せというもの。 それができないことはちゃんと真実として伝えているはずなのに、彼女――ケルマは頑なに信じようとしないのだ。嘘を言っていると因縁づけて、渡せ渡せとけしかけているのだ。 「まあ、モーリンとカザミネとレナードさんは関係ないだろうから。傍観してるだけでいいと思うけど・・・はふぅ」 レナードに尋ねられたは、呆れたかのように小さくため息をつく。 「じゃあ、なんだってのよ?」 目的はサモナイト石ではないとケルマは言った。 過去のぶつかり合いではそれが目的だっただけに、さすがのミニスもなぜ彼女がこの場所へ現れたのかわからない。 そんな問いに、ケルマは自信たっぷりと言わんばかりに胸を張ると。 「報復ですわ」 そんな一言を返したのだった。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第33話 金ぴか当主様・再来 「たっ、たたたいふぇんでしゅっ!!」 急ぎすぎて正常な言葉を発することもできないまま、アメルは扉を勢いよく開けつつ声を荒げた。 道場にいるメンバーにはその場で、いないメンバーについては律儀にも部屋を回って。道場で食事も終わったメンバーから、思い思いに散っていっているわけで。彼女は突如発生した一大事を道場にいなかったメンバーに伝えるために、建物の中を走り回っていたわけだ。 最後の1人、とばかりに扉を勢いよく開けた先にいたのは何をするでもなくベッドに寝そべっていたマグナだった。 告げたのは、たった一言。 彼女がやってきた、と。 「そっか・・・」 しかし、彼から返ってきたのはあまりに淡白すぎる答えだった。 対照的に、彼の脇でなにをしたものかとおどおどしていたレシィは、 「えええええええええっ!?」 なんて、ひどく大げさに驚いていたのだが。マグナは天井を見つめたまま動かず、気の抜けるような声を返してきただけ。 そんな彼に疑問を持ったのが、言うまでもなく一大事を伝えに来たアメルだった。隣の部屋のトリスはバルレルと共に驚愕の表情と共に飛ぶように部屋を出て行ったというのに。なぜかこの部屋の、ベッドに寝そべっている彼の周りだけ、時間の流れから取り残されているかのようで。 「・・・あの、マグナさん?」 「!?」 再度声をかけると、なにかに気付いたかのように跳ね起きて視線を部屋の出入り口へ向けた。 「あ、アメル・・・どうしたんだ?」 「え? あ、えっと・・・その」 再び同じ事を伝えると、彼は血相を変えて飛び出していった。 その後姿を置いてけぼりをくらったアメルとレシィは顔を見合わせて。 「最近のマグナさん、様子がおかしくない?」 「・・・そうなんです。なんだか、すごく悩んでるみたいなんですよね」 そんな言葉を交わしていた。 それは、本当にごくごく最近の話。ぼーっと窓の外を眺めていたり、先ほどのようにベッドに寝そべって天井を見つめっぱなしだったり。心ここに在らず、といった言葉がそのままあてはまるような様子で、ひどいときはレシィがいくら声をかけても返事すら返ってこないことだってあるほど。 「やっぱり僕なんかじゃ、ご主人様の役に立てないんでしょうか?」 レシィの目に涙が浮かぶ。 ただ彼は歯痒かった。悔しかった。自分の無力を嘆いていた。 主人が思い悩んでいるのに。何もできない自分に。それなのに彼の力にすらなれなくて。 「僕はどうすれば、ご主人様の力になれるんでしょうか・・・っ」 「レシィくん・・・」 溢れる涙は止められず、悔しさからか小さな拳に力がこもる。 アメルはそんな彼の手をゆっくりと包み込んで、彼と同じ目線になるよう腰を落とした。 「アメルさん、僕」 「うん。きみが今持ってる思いが、これからもずっと残っているのなら・・・」 言い聞かせるように、諭すように。泣いている子供をあやすように。 「そう在ろうと努力していれば・・・その願いはきっと叶うよ」 レシィの涙をゆっくりと、その細い指で拭ったのだった。 「愚弟だったとはいえどギブンは、紛れもなくウォーデン家の末子」 一年前、サイジェントで起きたとある事件。 ミニスと共にいたシルヴァーナという名前のワイヴァーンが暴走し街を暴れまわったことから、街への被害もそれなりに大きいもの。当事者のミニスだけでなく、その場に居合わせたもその光景はまだ鮮明に覚えていた。 たった一つのサモナイト石・・・たった一体の召喚獣を巡って起こった戦い。すべてが終わった今でも、サイジェントに置かれている金の派閥・・・ミニスの親戚を初めとした召喚師たちにとってはとても大きな事件として記録されていることだろう。 「姉として、長女として。そして、ウォーデンの当主として・・・弟を負かした貴女に報復を挑むのは、至極当然のことですわ!」 ギブンというのはケルマの言うとおり彼女の弟。ミニスの持つシルヴァーナを手に入れるためにサイジェントを訪れた金の派閥の召喚師。手練の傭兵を雇い、自らも召喚術『ミラーへイズ』を駆使してフラットに敵対してきたわけだが、お互いを認めて解かり合った1人と1体の力で見事撃退することができたわけだ。 それで今回、その報復という形で長女兼ウォーデン家当主であるケルマが出張ってきたということなのだが。 「わたくしが勝利した暁には、ワイヴァーンのペンダントもいただきますわよ!」 「だから、シルヴァーナは今いないって何回言えばわかるのよぉ」 結局は、そこに行き着くわけだ。悲しいかな、人の欲望はどこまで行っても自分本位なわけだ。 「へー。よおミニス。お前そんなナリしてやるもんだなあ」 「ばかっ、感心するようなことじゃないで・・・しょ!」 「ふべらっ!?」 横から茶々を入れてケイナに裏拳を見舞われるフォルテはさておいて、ミニスとケルマの会話は徐々にヒートアップしていく。まずは現在から過去へとさかのぼり、事の元凶である男を追及から。 彼がいたから、彼がシルヴァーナを求めたからミニスはシルヴァーナと友達になれたのかもしれない。ある意味ではあの事件はミニスにとっては自身の転機とも言えたのかもしれない。しかしケルマにとっては自分より二回りほども小さい小娘のことなどよりも、その小娘に我が家名にどろを塗られたことのほうが大事なのだ。 プライド高く、常に優雅たらんとする彼女の決意とも言えるだろう。家名を継ぐこと意味を重く、誰よりも重くその身に背負って。 「マーン家の小娘に負かされた愚弟の恥・・・当主として見過ごすわけにはいきませんっ!」 彼女は今、『当主』であろうとしていた。 その思いこそ立派だと思うものの、その傍らで未だにシルヴァーナのペンダントを狙っている彼女の欲深さ・・・かどうかも定かじゃないが、とにかくちゃっかりしているというか。 「ちなみにケルマ。あたし、前に言ったと思うけどファミィさんとは話したの?」 「ええ、無論ですわ。ここに貴女方がいることは、あの女から聞いたのですから」 そんな答えにミニスは頬を膨らました。 いつものほほんとしているせいかまったくもって、なにを考えているのかわからない。 頬を膨らまして愚痴っているミニスを眼前に、は小さく苦笑した。 「どうでもいいけどさ。近所迷惑だからあんま、騒がないでやっとくれ・・・」 しかし、報復やらいろいろなにかとぐちゃぐちゃしている部分について、関係のない人間はとにかくもって迷惑な話である。まったく、というには無理があるのかもしれないが、彼らはただ「サモナイト石が落ちてるかもしれないから注意して見ておいてくれ」と頼まれただけに過ぎないのだから。 もちろんそれはやハサハ、ユエルも同じ。一度彼女たちの抗争に巻き込まれはしたものの。もう巻き込まれたくないからと口を出さない。ケルマがどれだけシルヴァーナのサモナイト石を求めていても、当のミニスですらそれそのものを持っていない状況。ただでさえ不毛なことに首を突っ込むことになるのは彼らでなくとも御免こうむりたい。 「ですから、今回の件は保護者公認ですわよ・・・一対一でわたくしと勝負をなさいっ! ミニス・マーン!!」 ● 「・・・で?」 なぜ、俺はこんなところにいるのだろう? なんて、思わず首を傾げたくなってしまうのも仕方がないだろう。 ここはクローネ洞窟。ファナンの街を出て海辺に歩くと見つけることのできる、断崖絶壁の真ん中にぽっかり空いている洞窟。下部には海の水が浸食して天井を映し出し、その天井からは天然の鍾乳石が乱立していて、落ちてきたらと思うと背筋が凍りつきそうになる。 実際、これからここは小さな戦場になるのだ。たった2人の召喚師を中心に。 戦火は間違いなく広がるし、大規模な召喚術・・・地盤がもろいため中クラスのものを間違っても使ってしまえば最後、この洞窟はおそらく崩れ落ちる。 天井を見上げたは、そんな確信を得て大きくため息。 「で? と聞かれても返答に困るでござるな。皆忙しく、ヒマなのはマグナどのとレシィ、トリスどのとバルレル。そして殿、そなたと拙者だったというだけのことでござる」 「それだけいるならさ。別に俺いなくてもいいっしょ。ほら、ハサハとユエルもいないし」 「その2人を置いてきたのは他ならぬそなたであろうに」 そう。カザミネの言うとおり、「が行くなら一緒に行く」とごねた2人をなだめて置いてきたのは彼自身だった。 できるならこの場に来たくなかったというのが本心ではあるが、ハサハとユエルは別に無理してくる必要もない。そう判断したのが第一の理由。そして、もし万が一が起こったときになにかと心配だったというのがある。もし洞窟が崩れでもしたとき、当事者の2人を助けるのは他でもない立会人の誰かなのだから。 トリスとマグナ、そしてバルレルとレシィの4人はおそらく自分たちが安全な場所まで戻ることで精一杯。そうすると必然的に残る立会人は立った2人。 ・・・要は、数合わせに連れてこられたようなものだった。 「はぁ・・・頼むから、大きい召喚術は使わないでくれよ。2人とも・・・」 そんなの願いもむなしく、2人の争いは苛烈を極めることになる。 まったく、この2人の因縁はいつまで続くのやら。 |
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