あれから、一晩経った。アメルの熱もなんとかおちついて、意識もはっきりしているから問題はないとモーリンは診断していたが、まだ不安定な身体でムリにでも起きようとするものだから、モーリンは彼女をベッドに縛り付けていた。 ・・・まぁ、縛るといってもロープとかで拘束するわけじゃなくて、叱咤と一緒に布団に押し込んだだけなのだが。 そんなわけで、彼女はまだ眠っている。風邪はひきはじめと治りがけに一番注意を置かねばならないのだから、モーリンの行動が彼女の身体を思ってのことだと理解してもらえるだろう。 「この旦那が召喚獣ねえ・・・どう見ても俺たちと変わらん気がするがね」 そして今。 アメルを除いた全員が、道場に顔を合わせている。話題は言うまでもなく、レナードのこと・・・つい昨日の出来事だった。 も朝、みんなと同じように起きだしてきて。道場で顔を合わせた瞬間にみんながびくりと身体を震わせている光景に首をかしげていた。 そんな中、話しかけてきたのはカザミネで。 「おぬしは覚えていないかもしれないが、色々なことあったでござるよ」 「はぁ・・・」 とにかく気にするなとのことだったので、気にしないことにしたのはついさっきのことだった。 「まったく同感だ。俺様としても、いまいち実感がないんでな」 相手は異世界の人間で、自分が召喚『獣』だと言われてもぴんとこないのは仕方のないこと。 今の今まで、自分は人間として生きてきたし、これからもずっとそのつもりだったから。 しかし、召喚されるというのはそういうことなのだ。実感も持てないまま、これは現実なのだと頭の中では認識してしまっているということや、リィンバウムの人間を見て自分と同じにしか見えないということも。 きっと『門』をくぐるときに、何らかの作用を受けたのだろうかと話を遠巻きに眺めていたは、深く息を吐き出して天井を見上げた。 頭の中にいるのは、マグナのこと。 朝方、昨日のことを聞いたあとでの彼の言葉をつい、跳ね返してしまったから。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第31話 アイ アム フロム ジャパン 「俺に、剣を教えて欲しいんだ!」 時間は朝までさかのぼる。 入ってきた早々に、マグナは頭を下げてきた。同室していたバルレルやユエル、ハサハも言葉を発することなく、下げっぱなしの彼の後頭部を見つめていた。 意外だったのか。それとも、頼る相手を間違っているんじゃないかとは思う。 出会ってから今までずっと、頭を下げてまで教わろうとするような剣など使っていないはずなのだから。 だから、 「・・・あー、マグナ。頭を下げる相手を間違ってるんじゃないか?」 まず、それを聞いてみる。 彼は下げっぱなしだった頭を上げると、まず『俺は強くなりたい』と口にした。 強さにも色々あるが、彼の求める強さは一言で言えば『力』だった。 「俺、昨日のを見て思ったんだ。の下で剣を修めれば、きっと強くなれるって!」 「・・・俺は、人に剣を教えられるほど強くないよ。そもそも、俺の剣はほとんど我流に近い。限界なんて、すぐそこだよ?」 「でもは昨日、たった一人で屍人の軍勢と戦ってた。しかも、傷もほとんどなく勝ったじゃないか!」 まくしたてるマグナ。その必死さに少しばかり肩を竦めて、真っ直ぐ見つめてくる彼を見やる。 輝きを称える黒い瞳に彼の切な願いはにじんでいたし、声色からも強くなりたいという思いは受け取れた。だからこそ、教えるのが自分ではきっと、役不足だろうと思う。 それに・・・気になることもある。 「なあ、マグナ・・・」 もしかしたら、その考えを確かめるにはいい機会なのかもしれないと、は思う。 自分が正しいとは言わないけど、本当にそれでいいのかと。彼の言葉の中に、それがあるかを尋ねよう。 「え?」 「君は・・・人を殺したことがあるか?」 きょとん。 マグナはそんな表情をしながらの顔を見つめる。 彼が言葉を返す前に、はさらに言葉を重ねる。 「人を殺して、奪ったものを全部・・・背負う覚悟があるか?」 身体を、信念を。願いを。そして、命を。 人を『殺す』とは、そういうことだ。残された遺族たちからは恨まれ憎まれ、罪人として後を生きていく覚悟かあるか? 彼が師事しようとしているでさえ、人を殺したことなど片手で数えるほど。しかも、そうせざるを得なかったことがほとんどだ。 「それは・・・」 今までにが見てきた、マグナの戦いぶり。実に堂々としたものがあった反面、人を斬るという行為に少しも迷いが存在しなかった。ただ真っ直ぐ自分の望むがごとく剣を振るい、人を斬ってきた。 果たしてそれが、本当に彼にとっての最善なのか。 これからも剣を取って戦うというのなら・・・誰かを師事してその腕を磨くというのなら、その覚悟の程を聞かねばきっと、誰も彼の言葉を受け入れないから。 剣は人の命など容易く奪い取れる凶器。そして、修める剣術はその剣を振るうための術・・・人を殺すための力。 1人の人間のすべてを奪う覚悟をしていないで剣を振るっているというのなら、 「その覚悟がないというなら・・・君に剣を持つ資格はない」 「!?」 「相手が敵でも、君が今まで斬ったのはみんな人間だ。1つの命だよ」 は今でも、人を斬ることは怖い。 あの肉を斬り裂く瞬間の生々しい感触。あたりに漂う、鼻に付くような血生臭い臭い。斬られた人間の、生にすがる断末魔の叫び声。今までその機会そのものを幾度となく体験してきたが、しかし討たれまいと剣を振るってきた。 「奪ったものは全部、残らず背負って進むんだ。それが、奪った者の負うべき責任だ」 仕方ない、なんて言葉はただの言い訳。 斬ってしまって・・・その感触を覚えてしまってからでは、すべてが遅いのだから。 「俺、は・・・」 「みんながたった1つしか持ち得ないものすべてを奪う・・・それがどういうことか・・・よく考えてみてくれ」 はマグナに、そんな言葉を投げかける。 これがわかってもらえなければ、自分の剣を教えたところで最後にはきっと堕ちる。 命の重さも知らず、ただ破壊と殺戮を繰り返す凶悪な戦闘者となってしまうだろうから。そうなる前に、考える時間が彼には必要なのだと。 「いずれ、その答えがわかるときがきっと来る。その時になったら……」 マグナの横をすり抜けて、扉の取っ手に手をかける。 「稽古の相手くらいなら、いくらでもするよ」 彼ならきっと、この一連の事件の中で答えを導き出すことができる。 ただ、懐いた信念がゆがんでしまっただけなのだろう。 戦うその姿から感じられる『強くなりたい』という願いがひしひしと伝わってきていた。その長く懐いてきた願いが、その年月の長さからか捻れて掠れて、ところどころが欠けてしまった。 でも、欠けてしまったなら直せばいい。完全に壊れてしまったわけではないのだからまだ、修復はできるはず。 体験して、考えて。そうして得られたものは、きっと彼の『強さ』となる。彼が願った『力』となるから。 閑話休題。 「そういえば、カザミネさんもシルターンから召喚されてきたのよね」 「いかにも。戦の助っ人として召喚されたのでござるが・・・その戦いで召喚師殿が亡くなられ、還る方法がなくなってしまったのでござる」 戦闘や事故。そして病気。そんな理由で主が死んでしまった場合、召喚されていた召喚獣たちはみな、死んだ人間によって課された誓約によって送還されないまま、リィンバウムでの生活を余儀なくなれる。 それは、典型的なはぐれ召喚獣の誕生の仕方だった。助っ人として召喚したにも関わらず戦いには向かない召喚獣のように、主によって捨てられた場合も同じ。しかしこの場合は、高い確率で凶暴化して人々を襲うようになる。 つまりレナードもカザミネ同様、主を失った時点ではぐれ召喚獣となってしまったことになる。 「おいおい待てよ。召喚師が死んじまうと、還れなくなっちまうのか?」 「そういうことになる。召喚された者を元の世界に戻せるのは、それを召喚した術者に限られるからな」 「なんてこったい!?」 ネスティの言葉にレナードはジーザス、とつぶやきつつ頭を抱える。 彼を召喚した召喚師は、先の砦で殺し合いに巻き込まれて死んでしまった。つまり、彼も元いた世界に還ることはできないということになる。 「なあ、お前さんたちも召喚師なんだろう? なんとかならねえか?」 「なんとかしたいけど、きっと・・・」 尋ねられたトリスの表情は浮かない。無理だと口にすることに抵抗があるのだろう。 実際、そんな言葉をかけられてしまったら彼もきっと、絶望してしまうかもしれないから。なんて彼女なりの配慮だったが、 「強引に術を上から重ねたら、それこそ何が起こるかわからない。ヘタをしたら、貴方の存在自体消えてしまいかねないんだ」 「なんだよそりゃ・・・ヘビーすぎだぜ・・・」 どうしたもんかな、とタバコをくわえて息を吐き出すレナードに、バルレルはケケケと笑って、 「まぁ、とっととあきらめるこったな。そうすりゃ、気も楽になるってもんだ」 なんて、そんな心にもない言葉をかけていた。 しかし、レナードは彼の言葉を真に受けることなく・・・というか、彼自身図太い神経の持ち主なのだろう。 こんな非日常な世界に飛ばされてなお、 「サンクス、ボーイ。だがな、俺様は意外とあきらめが悪いんでね」 そう簡単にギブアップはしねえのさ、と。 まるでバルレルを挑発するかのようにニヤニヤと笑っていた。そんなレナードに、バルレルは興を削がれたか小さく舌打ち。レナードが逆に、バルレルを見て楽しげに笑っていた。 まったく、強い人だ。 「そもそも、それ以前にどこの世界から来たのかが問題だ」 送還するにしてもまず、知らなければいけないのは彼が元いた世界だ。 「尻尾や角がないから、メイトルパの亜人ではないわよね」 「サプレスとも違うわよね。悪魔や天使って雰囲気じゃないし・・・」 「見た目はあたいたちと変わらないね。ってことは、カザミネと同じ世界じゃないかい?」 「しかし、レナード殿の使っているような短筒は、シルターンにはないでござるぞ」 「ロレイラルの銃器に似ているが・・・」 「でも、あの世界にあたしたちみたいな人間はいないでしょ?」 と、残念なことに各世界の召喚獣たちはおろか、召喚師でさえまったくわからない状態だった。 実際、聞いているレナードも会話の内容がまったくわからず、頭上にはてなマークを乱舞させている。そもそも考えることがあまり得意ではないのだろう。すぐに諦めたかのようにタバコの煙を吐き出して、考えることを放棄してしまっていた。 彼のいた世界はロレイラルでも、メイトルパでもサプレスでもシルターンでもない。しっているのは・・・ずっと遠巻きから見ているだけでだんまりを決め込んでいただけ。 「まぁレナードさん、そんなに気を落とさずに。聞いたところによると、ロスの人なんですよね?」 「ん、ああ・・・お前さんは確か、だったな。確かに、俺様はステイツのロス出身だが・・・って!?」 レナードは目を丸めた。 なにせ、自分と同じ境遇の人間が、こんなに近くにいたのだから。 「ロスって、ロサンゼルスのことですよね? 同郷人は実は結構いたりしますから。いずれ探して会って、情報を集めるとかできると思うし」 「マジか!?」 「もちろん、大マジです。だって俺、日本・・・ジャパン出身だし」 アイ アム フロム ジャパーン。 なんて、ジェスチャーも交えて言ってみるが、そんな中でも彼なりに気を利かせて国名だけを日本語から英語へ言い換える。もっとも、最初から会話は成立していたのだから、あまり意味はないかもしれないが。 「へえ、お前さんはジャパンの出身かよ!」 「前にアメリカ人とも会ったことありますよ」 「ヒュー♪ 希望がでてきたじゃねえか!」 ばんばんばんとの背中を叩いて笑ってみせるレナード。 彼はある意味、自分と同じで運がいいといえたかもしれない。もし、事件があったときに自分以外誰もいなかったらきっと、レナードでなくとも発狂してしまうだろう。 あたり一面、死体の絨毯。バイオ○ザードよろしくゾンビたちが襲い掛かってくるし。 もまた、レナードと同じように召喚された存在だったから。もし、仲間に拾われてなかったらと思ったら・・・身震いが止まらない。 と、そんなことを考えていたら。 「よっしゃ、。せっかくの出会いだ、今夜は飲み明かそうぜ!」 いきなり、肩を組まれた。 彼としては同郷人に出会えて、心から嬉しかったのだろう。そして同時に理解できたのは、反応を見るにおそらく同郷人と会えたのは初めてなのだという事実。 「わははは! 今日はいい日だなおいっ!」 ・・・ 結局、話は結構簡単に片付いた。 レナードはしばらく、自分たちと一緒に行動するということに。この世界の常識をあまり知らないレナードが、この世界に馴染むまで。危険が伴う旅ではあるが、1人でその辺をほっつき歩くよりはよっぽどいいと、彼はからからと笑ってみせていた。 それで、今。皆が寝静まった夜中に2人、道場の庭で酒盛り。 出会いの記念に、という名目だったが、要はレナード自身が同じ世界出身の人と出会えて嬉しくて仕方がないだけなのだろう。 昼間に街で購入してきた一升瓶の酒をコップに注ぎ合って、かちんと乾杯。 まずはぐいっといっぱいを飲み干した。 「やー、俺様はツイてるな。こんな状況で、お前さんみたいな同じ境遇の人間と会えるなんてなぁ」 「まーそうですね。召喚されて1人、とかだったら悲惨だし」 そんな光景を想像して、思わず身震い。 「お前さんはたしか、ジャパン出身だったな?」 「ええ」 「ジャパンといえば、あれだろ?」 スシ、ゲイシャ、フジヤーマ!! ・・・どことなく、時代の違いを感じてしまった。 「お前さんは、召喚されてどのくらいなんだ?」 と、2杯目を飲み干してからレナードから一言。 彼はまだ、召喚されて間もない。だからこそ、少なくとも自分よりも前に召喚されたに聞きたいことが山ほどあるのだろう。召喚されてからどんなことを体験してきたのかとか、仲間のこととか。 彼も不安なのだ。右も左もわからないこの世界で、たった仲間もいないまま1人放り出されたばかりだったから。 「え〜と」 レナードの問いに指折り、数えてみる。 体感時間として話すなら、まだ2年程度。しかし、過ごしてきた日々はそれに匹敵するほど・・・いや、それ以上に濃い日々だった。 話して、悩んで、戦って。正直な話、苦しい日が多かったような気も、改めてする。 「2年くらい・・・ですかね。まぁ、リィンバウムの常識も元の世界とはあんまり変わりないですし」 ものの名前も、食べ物も。そして、言葉も。 日本語と英語が区別されないのも、召喚術の影響なんだろうなとか考えながら。 「俺もそうだったから、すぐ慣れます」 「へぇ、そりゃ助かったってもんさ。問題は・・・タバコだな」 「タバコ?」 「ああ。タバコは、俺様にとっては三度のメシくらい大事なもんだったからな」 いいか? と尋ねつつ、がうなずいたのを確認しつつ懐から小さな箱を取り出し、一本のタバコに火をつけた。ライターでなくマッチでっ、っていうのが、この時間帯にまたオツなものだと思う。 ふー、と煙を吐き出し、口にくわえる。 「お前さんも大変だな。まだ若ぇってのに、こんなところに飛ばされてよ」 「まぁ、最初は夢か幻かって思ってたけど、やっぱり受け入れざるを得なくて・・・」 いろんな人と出会って、戦って。楽しい思いも悲しい思いも、たくさんしてきた。それだけ、過ごしてきた日々は現実味を帯びすぎていた。だからこそ、目の前のそれらを現実と受け入れざるを得なかった。 そんな日々が始まって、思えばもう2年になる。 過去を思い返して、思わず物思いにふけってしまっていた。 「色々と、やるべきこととかやりたいことがあったから」 それは、今も同じ。やるべきことがある。そしてそれをしたいと自分自身が心から思うことがある。 それを成し遂げるためにも今は、戦っていかねばならないのだ。もっとも、まだ今回の事件は始まったばかり。しばらくはいろんなところで苦労しそうだけど。 ・・・なんて、その苦労を思い出しつつ遠い目をしていると。 「・・・お前さんも、苦労してるみてえだなあ」 どこか察してくれたかのように、レナードはそんな言葉を口にしたのだった。 ・・・と、昔の苦労を察しているその途中で。 「あ、そういえば」 ふと、とあることを思い出した。 以前であった、1人の大事な仲間のことを。 親がロサンゼルスで刑事をやっているという、1人の少年の話を。 「前に、ロサンゼルス出身だって言う人に会ったことがあるんです」 「っ!?」 が話したところで、タバコを吸っていたレナードの表情に驚きが宿っていた。前に自分と完全に同じ境遇の人間がいたという事実にか、あるいはその先・・・その人間が今、どうしているのかが気になっているのか。 あれは、体感時間では3ヶ月ほど前の話だろうか。 格闘術を主体に戦う青年と出会ったのは。記憶喪失の少女を連れて旅をしていた青年と、戦ったのは。 始まりは、賞金に目がくらんで参加した闘技大会。 成り行きで一緒に行動して、一緒に戦って。そんな彼はしかし、今はどうしているのかすらわからない。 「それって、なんつー名前なんだ?」 「ファミリーネームは、そういえば聞かなかったけど、ファーストネームはアッシュです」 「アッシュ、か・・・」 レナードはタバコを持っていた携帯灰皿に入れて、夜空を見上げる。 まるでタイミングを測ったかのように、冷たい風がやんわりと吹き付けた。 見上げたままのレナードの横顔はどこか、昔を懐かしむかのようなどこか寂しげな、そしてどこか諦めたかのような笑みだった。 「10年くれえ前だったかな・・・」 くい、と3杯目の酒をあおる。酒を入れなければ話せないような内容なのか、空になったコップにさらに酒を注ぐ。注いではあおり、注いではあおり。も同じように、無色透明の酒を胃に流し込んだ。 「息子がよ、突然いなくなっちまってな」 「・・・え」 アルコールで真っ赤になった顔で、レナードは話を続ける。 それは、彼が出会った過去の出来事だった。思い出したくなくて、悲しくて。強くのしかかる寂寥感。話続ける彼の背中は、諦めと共に哀愁に満ちていた。 「警察にも連絡したし、住んでた街の連中総出で探したさ」 でも、見つからなかった。 この10年間、ずっと。いくら探しても、いくら呼びかけても、彼の息子は一向に現れなかった。 テレビで取り上げられた。『現代に起こった神隠し』だと、人々は言った。 2年経って、街の連中が諦めた。 5年経って、警察が捜索を中止した。 8年経って、妻が諦めた。 しかし彼は、諦めなかった。たった1人の息子だったから、諦め切れなかった。 そして。 「10年だ。1人で10年、探し続けたさ。んで、なんの因果かこんな所に来ちまった」 こんな場所があるのなら。 こんな世界があったことに、もっと早く気付けていれば。 「諦めずに、すんだのによう・・・っ」 の言葉で、確信してしまった。 この世界に今までずっと捜し求めてきた息子がいると。10年探して見つからなかったから、と半ば諦めかけていた矢先に、『召喚』されてしまったのだ。 きっと息子も、同じように『召喚』されたのだと。 ・・・ 「すまねえな、1人で語っちまって・・・ったく、らしくもねえ」 「いえ・・・大変だったんですね」 はまだ成人すらしていない。召喚されてからこっち、濃すぎる日々が続いていたから、人並みに恋愛だってしたこともない。それ以前に、そんな気分にすらなれていない。 自身のことだけで精一杯な自分はまだまだ子供なのだと、思い知らされた。 でも今はまだ、それでいいとも思う。 今の自分にはやるべきこと、やりたいことが、あまりにも大きすぎたから。 「この一件が終わったら、この世界の帝国って所にある『ヴァンドール』って街を、訪れてみてください」 そこは、かつての闘技の街。 今は、人々と召喚獣とが暮らす共生の街。 の仲間が、2人で力をあわせて作り上げた街。 人々だけでなく、多くの召喚獣たちが行き交う街。 行方知れずの『彼』の情報もきっと、掴むことができるはず。 「きっと、いろんな情報が手に入ると思います」 「そうか・・・サンクスな、」 ・・・ もっとも、『あの』事件から少なくとも10年以上の時間が経った。 今の彼に「今いくつ?」と聞いたら、吃驚するような数字が帰ってくるに違いはないのだが。 |
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