道中、皆がフォルテの出自についてを軽く追求していたところで、ぽつぽつと、雨が降り出した。 一行がレイムと出会い、別れてから数十分後のこと。トライドラを目指していた道中、時間を待たずに本降り。 ようやく見つけた軒下に逃げ込んで、ようやく雨水をしのぐことが出来ていた。 ・・・とはいえ、少しばかり長い時間雨に晒されていた。皆、例外なく髪はおろか服もずぶ濡れ。 「ぶぇーっくしょいっ・・・あんちきしょーめいっ!!」 身体はまさに、冷え切っていた。 バルレルのくしゃみに連鎖するかのように周りの人が同じように鼻をひくつかせる。 当然、もそれに漏れず、湧き上がる衝動に抗うことなく空気を吸い込んだ。 ・・・と、そんなときだった。 「・・・え?」 その鼻に、かすかなにおいを嗅ぎ取ったのは。 「ほら、男性陣は後ろ向きなさい!」 ケイナの声が耳に届く。女性陣が着替えるという話らしく、彼女を筆頭としあとモーリンとトリスが強引に背を向けさせていた。 鼻をむずがらせながらも背後へくるりと反転すると、その隣のバルレル。を挟んだ向かい側では、ニヤリと頬を緩ませたフォルテがいた。 ・・・何を考えているかなど、言うまでもないだろう。 さらにその隣で不貞腐れていたリューグを小突きながら、一緒にどうだ? なんて言って顰蹙を買っている。 「なんだよお前らぁ。それでも男か?」 「・・・るせーよ。てめぇと一緒にすんじゃねえ」 彼はある意味、本能に忠実というか煩悩にまみれているというか。どちらにせよ、関わらないに越したことはない。彼と目を合わせないように厚い雲で覆われた空を眺めていた。 見渡す限りの曇天。降りしきる雨は、まるで全解放した蛇口から吹き出る水流よりも勢いがあるように見えた。そして、かすかに聞こえる爆音。遠くのどこかで雷鳴が轟いているのだろう。視線の先で、瞬きの間に白く発光っている。 見ていなくても耳に入ってくるリューグの声だけで、彼がジト目をしていることはまず間違いないなとは1人、黄昏ていた。 「おら行くぜっ、見てろお前ら俺の生き様をォ!! それは男の浪漫! 背後に広がるパラダイスを前にして退くことができようか・・・・・・いや、できまい! 反語ォォォ!!」 「アンタはやっぱりね・・・!!」 「がもすっ!?」 ・・・おお。乾いた、聞いていてとても清々しい音が聞こえる。 「ふぇ・・・っ」 いかん、鼻のムズムズが止まらない。 は1人、寒気と共に身体を震わせ大きく息を吸い込むと。 「てやん―――んでぃぃっ!!!」 つばと鼻水と肺にたまった空気を、盛大に噴出した。 吐き出した衝撃でようやく楽になった鼻で新鮮な空気を吸い込み、同時に気付く。 先ほどからかすかに嗅ぎ取れていた、この匂い。 どこかで嗅いだことのある・・・いや、嗅いでばかりいたこの匂いは。 「まったく、ここ狭いわよね。扉開かないかなぁ・・・って、みんな! 開きそうだよ!」 ミニスの声に反応し、視線を投げる。 突然濃くなったその匂いに確信すら持ち、同時に同じ匂いに気付いたバルレルと視線を合わせて。 「ミニス、その扉を開けちゃダメだ!!」 と背後の状況も忘れて、勢いつけつつ振り向いた、その先では。 ・・・無論、読者の諸君もわかっていることだろう。 突然目に飛び込んできたのは、煩悩の塊であるフォルテですら憧れ、未だに成就していない願いの果て。世界すべての男どもが焦がれてやまない理想の世界――『羞恥』という名の楽園。 それは――― サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第28話 死者の棲む場所 結論から言おう。結局のところ、の呼びかけはタッチの差で間に合わなかった。彼女が振り向いたのは扉が開ききったあとのこと。同時に漏れ出したのは、あのにおいだった。 かつて嗅いだことのあるにおい。それは、彼自身が戦場・・・特に激しい戦闘の中漂ってきたものと寸分たがわぬものだった。 開かれた扉の先に佇む異形の影。餌を求めてその周りを飛び回る夥しい数の羽虫。壊れかけた建物に、そこらじゅうに散らばった刃をどす黒く染め上げた剣。そして、吐き気をもよおしてしまいそうなほどに濃くなったにおい。 異形の姿が積み重なった人間の死体だと気付くのに、時間は要らず。 「きゃあぁぁぁっ!?」 一番最初に目の当たりにしたミニスはただ、悲鳴を上げるしかなかったのだ。 「ちょっとミニス!? しっかりしなってば」 力が抜けるかのように腰を落とし、目尻には大粒の涙が溜まり、目の前に広がる凄惨な光景に恐怖し、身体が震える。 それを止めることすらも出来ず、慌てて自分に駆け寄ってきたモーリンに身体を預けてしまう。 怖くて、目も当てられなくて。あまりに現実離れした光景ではあるものの、濃密な臭気は鼻を鼻を刺し、今の状態が現実であることを如実に示していた。 「こりゃひでえ・・・」 そこは戦場だった、なんて一言ではおさまらないほどに生々しく強烈な光景だった。 恐怖に引きつった表情で転がる首、主の身体から分かたれた誰かの腕、足を失って倒れこみもがいていたであろう巨躯。そして、同士討ちでもしたかのようにお互いの胸元を細身の剣で一突きにされていた2人の兵士たち。その光景は、いくら戦場を知っているものであろうとも吐き気を抑えられないほどに酷いものだった。 「おにいちゃん、こわいよ・・・」 戦場での死線をくぐってきた経験のあるユエルはさておき、ミニスやハサハ、もともと臆病な性格であるレシィにその光景は酷なもので、こみ上げる吐き気を抑えるかのように口元を押さえていた。 ある意味、卒倒しないだけまだまだマシ、といったところだろうか。 「この者たちの傷から判断すると、お互いに殺しあったとしか思えないでござるな」 「ああ、間違いない・・・しかもよりにもよって街中で、だ」 辛うじて原型を留めていた女性の傷を見てつぶやくカザミネの隣で同様に膝をつき、神妙な面持ちのマグナが眉を吊り上げながらつぶやいた。 彼はなぜ、見るも無残な死体を見ても平気なのだろうか。妹であるトリスでさえ、顔色を悪くして口元を抑えている始末なのだ。その片割れである彼が平然としているのは、どことなくおかしいような気がした。・・・神経が図太いのか、あるいは度胸が葉巻くわえてふんぞり返っているのかもしれないだけかもしれないが。 「・・・どうなってるんだろう?」 もちろん彼は、死体を見慣れているわけじゃない。人の死を見たわけでもない。ただ恐怖が自分の限界を通り越して、脳みそが麻痺しているのだろう。 そんなことを考えながら、マグナは周囲を流し見た。 広がっているのは、今ここに蘇った地獄。そびえ立つ死体の山脈。 そして、その光景に息を呑み込む仲間たちの姿と、顔全体が原型を留めないほどに膨れ上がったがいて。そのあまりの場違いさに、思わず苦笑してしまった。 「それは拙者にも皆目・・・なんとも」 マグナのつぶやきに律儀に応えるカザミネ。どす黒く血で汚れた顔から辛うじて見て取れた、大きく見開かれた目をその手で閉じ、黙祷するかのように数秒ほど目を閉じた。 「面妖なことでござるな」 よっ、と言わんばかりにカザミネは立ち上がり、この生活臭の吹き飛んだ街を見回す。 この光景を見れば、いくら好奇心の塊のような人間でも尻尾に帆を立てて逃げ出すだろう。早々に退散した方がいいぜ、というフォルテの言葉に、誰もがうなずいた、そんなときだった。 「っ・・・誰だぁ!!」 突然、大声を出したのはユエルだった。今のこの状況だ。威嚇どころか殺気すら篭ってしまうのは仕方がないだろう。そんなおっそろしい声を聞かされた驚いたのは、少しばかり離れた場所でことの一部始終を見ていたであろう数個の樽だった。そのうちの一つからしゅた、と現れた人影は。 「ちょっちょっと、暴力沙汰は勘弁してくださいってー!!」 わたわたと両手を大振りしつつ自身の無実を証明せんと声を荒げ、殺気の篭った大声に萎縮して次第に語尾が小さくなっていた。 「私はただの雇われの身、雑用係のメイドですぅ・・・」 「パッフェルさんじゃないの!?」 と、ケイナの言うとおり。樽から飛び出してきたのは、いつも元気に街中を走り回っているはずのウエイトレスだった。 皆が気になったのは他でもない。どうして彼女がここにいるのか、ということだけだった。 同じことを尋ねてきたウエイトレス――パッフェルにこっちのセリフだと聞き返すと、はすべてを理解したかのように苦笑した。 彼女はただ、つい先日この街で新しい仕事を始めたばかりだったのだ。理由はもちろん、給料の払いがよかったから。老後のために、と一心不乱に働いている彼女にとってはステキなお話だったのだ。 しかしいざ働いてみたら最後、前触れもなく始まったのは殺し合いだった。1人の兵士が往来を行く主婦を貫いたことが引き金となって。 結局、詳しいことはわからずじまいだったという。 「とにかく、急いでここを離れた方がよさそうね」 「さあ、パッフェルさんも一緒に」 「いーえ!!」 トリスの一言に呼応するかのようにアメルがパッフェルに向かって口にした言葉。それが自分を助けるためのものだとわかっているにもかかわらず、彼女はそれをその豊かな胸を張って否定した。 自分はここで、少なからず汗水たらして働いた。だったら、それに見合う報酬はあったっていいはずだというのが、彼女の主張。 命だけでも助かっただけでも儲けたと思え、というリューグの意見にすら耳を貸さず、 「ただ働きなんて冗談じゃありません! ええ、ありませんとも!!」 ぱぱっと行って、金庫からいただいてきますっ!! そんな突拍子もないことを口にして、まるで風のような速さで砦の奥へ行こうと脱兎のごとく走り出した。 あっという間に豆粒くらいの大きさにまで小さくなってしまったが・・・ 「がんばれよ〜う」 「あっりがとうございま〜すっ!!」 の間の抜けたような声と、元気に手を振るユエルの姿に微笑んで、ようやく街の奥へと姿を消した。 「あ、パッフェルさん待って!!」 「マグナ、トリス! お前たちも勝手に離れるな!!」 トリスとマグナは彼女を心配するあまり、一行から離れて彼女を追いかけていってしまう。そんな2人を制止しようとネスティが声をかけるが、それをあっさり無視してパッフェルの消えた街中へ消えてしまっていた。やれやれ、とため息を吐き出しつつ彼らを追いかけるネスティに同情しつつ、どうしたものかと今後の行動を考えている。 しかし、その思案は数分後にその必要をなくしてしまうことになる。 「あのオンナ、度胸があるんだかバカなんだか・・・?」 そんなバルレルの声に、とユエルは顔を合わせて苦笑したのだった。 ● 「パッフェルさ〜ん!」 「いたら返事してくれよ!!」 マグナとトリスは、砦のずいぶんと奥まで入り込んでいた。 人気などあるわけがない。それどころか乾ききったどす黒い血液が所狭しとへばりつき、降りしきる雨水と混ざり合って真っ黒な斑点を作っていく。 元は人であったモノが、狭い街道を覆い尽くすかのように敷き詰められていた。そんな光景に2人は顔をしかめるが、今はそんなことを考えてもいられない。戦場を知らない一般人であるはずのパッフェルが、この砦のどこかにいるはずなのだから。 「マグナ、トリス!」 「ま、待ってくださいよご主人様ぁ〜・・・」 「ネス! レシィ!」 ようやく追いついたネスティは息を切らしながら、無茶をするんじゃないと2人に言い聞かせる。ただでさえ危険な状況で、彼らは皆の元から離れたのだ。しかもたった2人で。そんな状況で複数の敵に襲われでもしたら、それこそ一巻の終わりなのだ。 だからこそ、万が一のための戦力としてネスティとレシィが合流したのだ。ちなみにトリスの護衛獣であるバルレルは、「メンドくせぇ」の一言で追いかけてきてすらいなかったりする。 護衛獣としては信じられない行動だが、それがどことなく彼らしくてとても咎める気にはなれなかった。 ・・・それで主に万一のことがあったら事なのだが。 ともあれ、さらにネスティが追い討ちをかける。いつまでも子供じゃないんだとか、もう少し考えて行動しろとか、君たちはバカか!? とか。 たしかに、2人で危地へ飛び込むのはよくなかったとマグナ、トリスは思う。しかし、それ以前に彼らはその危地にたった1人で飛び込んでいったパッフェルが心配だったのだ。 しかめっ面で、そのことを口にしようと口を開いた、そんなとき。 「ホールドアップ!!」 『!?』 低く太い声が、5人の耳を貫いた。 振り向いた視線の先にたたずんでいたのは、白いワイシャツに紺色のネクタイに同色のスーツ。その上から使い古されたコートを羽織った男性だった。 茶色のツンツン頭に凛とした精悍な顔つき。熟年を思わせる咥えタバコの先からは細い白煙が、降りしきる雨の中で消えることなく立ち上っていた。 「よーし、両手を上げてその場から動くなよ。少しでも変な動きを見せたら、こいつでズドンといくからな」 そして、突きつけられた左手に握られているのは、小型の拳銃だった。誤射せぬようにとつけられているセーフティははずされ、銃口はまっすぐ向けられている。 「お前さんたちに聞きてえことがある」 しかし両手を上げさせられたまま、特に拘束をするでもなく。男性はゆっくりと5人を見回して、目を閉じた。 考えているのはたった1つのことだけ。自分が殺すか殺されるか、目の前の男女が敵であるかを見極める。 今この場では、相手がか弱い女子供であろうと油断できない状況なのだから。 「・・・なんですか?」 「質問はひとつだけだ。シンプルにいくぜ」 敵か味方か。それは、この状況ではたった一言だけで済む。しかし、事の一部始終を知っているからこそ、尋ねなければならない。 「お前さんたちは生きてんのかい?」 ● 「・・・おにいちゃん」 「ん?」 にしがみついたままだったハサハがようやく、ここに来て声を発した。もともと寡黙な彼女だから、このような状況で声をかけるなんて珍しいな、とか思いつつ、返答する。 そんな声に安堵してか、握ったシャツの裾にきゅ、と力を込める。 いつも見せる不安げな表情に拍車をかけたかのような冷や汗を流し、しかし視線はまっすぐ前へ・・・折り重なった死体の山へと向かっていた。 ぴくん。 宙に投げ出された血みどろの手が小さく動くが、誰も気付かない。気付いているのは、ただ視線を向けていたハサハだけ。 感じた恐怖感と、感覚の敏感な彼女にしかわからないような空気の微弱な変化を、ぴんと立ったその長い耳が強く感じ取っていた。 顔面蒼白、身体はひっきりなしに震え続けている。 そんな彼女の様子を見て、いまのこの状況が自分たちにとって命の危険が生じることを理解した。もともと、人の感情や場の雰囲気に敏感なハサハ。召喚するされた関係とはいえ、何より彼女は自分の家族だ。 家族の言い分を、信じないワケがない。 「みんな・・・っ!」 ・・・いつもそうなのだ。 危険だと判断して、仲間たちにそれを告げようとして、皆が自分の言葉に耳を傾けようとするが・・・結局、間に合わない。 今回も同じだった。いったん退避しよう、と仲間たちに呼びかけようとして声を出してみるものの、それを口にする前に事態が急変する。しかも、自分と仲間たちにとって、最悪の方向に。 「あああぁぁぁぁ・・・っ!」 聞こえてくる唸り声。 「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 身体の芯から震え上がるような咆哮。 そして。 『ガアアアアァァァァァァ・・・ッ!!』 「あ、あれは・・・」 それに呼応するようにゆっくりと起き上がり、それぞれの手には武器を持ち、高々と雄叫びを上げた。 ・・・本来、彼らは生きてはいないはずだった。 しかし彼らは立ち上がり、歩き、咆哮する。色のない身体を血で染め上げてなお、まるで生きているかのように。死んでいるはずなのに、まるで生きているかのように振舞う者。 致死の傷を受けているにもかかわらず、平然と動いてのける者。 四肢が切り落とされているにもかかわらず、それでも立ち上がり、牙を向く者。 人はそれを・・・ 「・・・イヤだ」 生の亡者と。 「ヤダよ」 生ける屍と。 「た、たすけて・・・」 リビングデッドと。 「ひ・・・」 ゾンビと、人はそう呼ぶ。 雄叫びを上げながらゆっくりと近づいてくる彼らを見て、気持ち悪がって後ずさらないわけがない。実際、相手は話もしたことがない人たちばかりで、しかもゾンビ。 話しの通じる相手でもない。 あまりの数に突撃する気にすらなれず、しかし仲間とはぐれていて、彼らを置いていけるわけにはいかない。・・・つまり、逃げようと背を向けるわけにもいかないのだ。 「ひいぃぃ・・・」 「、なにがあったの!?」 「あの、さん・・・どうしたんですか?」 「ちょ、ちょっと・・・大丈夫なの!?」 雨の中、のただならぬ様子に気付いたのはユエルだった。彼女の声に反応して視線を向けたのがアメルとミニスだった。 頑丈な作りの壁を背に、迫るゾンビたちから守ろうと武器を取る。そんな中、は腰を抜かしてしりもちをついていた。表情には普段見られないような怯えの色が見て取れる。ただならぬ彼の表情・・・それは、明らかに異常だった。 必死に安否を尋ねてくる3人の声すら聞こえていないかのように、は単独で仲間の塊から這い出てしまう。 仰向けのまま両手両脚を地面に立てて、かさかさかさ、という効果音が聞こえてきそうなほどに器用に後退していく・・・それが実は、前進しているとも知らず。 「! そっちに行ったらダメだよ!」 モーリンの声。しかし、時はすでに遅かった。 どん、という軽い衝撃がの背を襲う。ぎしぎしぎしと音を立てるかのようにゆっくりと首を回す。 そこには、ヤンキー座りをしつつ自分を見ていたゾンビの姿があって。 「ぐるるるる・・・」 「!”#$♪%&¥っ!?!?!?」 は声にならない声をあげ、そして同時に。 きゅーん・・・・・・・・・ぱぁんっ!! どこぞの種のように何かが、はじけたような音がした。 「!」 ゾンビたちが剣を振り下ろす。しかし、肉を切り裂くどころか掠った形跡もなく、の姿も見当たらない。 そんな状況にゾンビたちは首をかしげ、まあいいかといわんばかりに再び侵攻を開始する。敵は目の前。どうしたものかと眉間にしわ寄せる一行だったが。 『ガアアァァァ!?!?』 耳を貫く爆音と飛び込んできた光景に、自らの目を疑うことになる。 軽く前かがみの状態で抜き放った白刃はゆらめく焔を纏い、うつむいているためその表情は窺えない。ただ確実だったのは、突然どこからか現れた彼がすでに戦闘準備はおろかすでに十数体のゾンビが消滅している。 うつむき、影となった両目はほのかな赤を宿し、ぎらりと光ると同時に引き締まっていた口が左右に割れ、つりあがり、そして。 「クケケェ――――ッ!!」 甲高い咆哮を上げた。 過去の戦友であるバルレルはおろか、彼との付き合いが一番長いユエルですら知りえなかった彼の新たな内面。 それは、昔も今もこれからもずっと封印しておくべきものだった。そうしなければ、彼は敵どころか味方すら巻き込んでの大事件を必然的に引き起こす。 名もなき世界にいる彼の親友たちしか知らない、その内面とは―――。 「ぞ〜〜〜〜ん〜〜〜〜び〜〜〜〜・・・・・・・・・シャァッ!!」 ぎらりと眼光が揺れた。 「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!!!!」 物騒な単語を連呼しながら、ゾンビたちを一瞬にして駆逐、殲滅していく。 ―――キレると手がつけられない上に普段の彼からは想像も出来ないような物騒な言葉と共に理不尽すぎる暴力を振るうのだ。 その矛先が味方に向かないだけまだマシといったもの。そして、その引き金は。 「コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ! コワセ!!!!!」 どかーん!!!! 『ガグアアァァ!?』 まるで花火のようにぽんぽんと吹き飛んでいく、あのゾンビたちなのだ。 触れれば斬れてしまいそうな剣風すらも巻き起こし、ぼとぼとと落ちていくゾンビたちを眺めて、再び口の端を吊り上げると、 「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャ―――!!!」 一同、戦慄。 |
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