・・・結論から言おう。 とりあえず、ということで、ミニスはシルヴァーナのサモナイト石を一刻も早く探し出さなければならなくなった。 もちろん彼女自身もシルヴァーナに会いたいと思っているからそれは問題ないのだが、トリスの身を呈した説得のおかげでなんとか事は収まっていた。 さて、軽くその詳細について触れておこう。 まずミニスはファミィが従える黒いオーラに、恐れをなして逃げ出した。 もちろん、それを逃がすわけもなくその手に宿した『かみなり』を放とうとしたのだが、 「ファミィさん、落ち着いてくださいっ!!」 トリスが2人の間に割り込んで、ミニスに背を向けて両手を広げていた。 彼女の楯になるわけじゃない。ただそのかみなりの威力があまりに半端なさ過ぎて、それはミニスにとって間違いなく酷過ぎるお仕置きだと思ったから。 とりあえず・・・シャレになってないのです。 「そこをどいてくださいな、トリスちゃん?」 「いいえ、どきません!」 自分の身体がかみなりに打たれることすらもわかっていながら、トリスはニコニコ笑顔を崩さないファミィを見据えた。 どうすればいいかなど、最初からわかっていた。 もともと自分たちがミニスと出会った理由。一緒にサモナイト石を探してあげるというその約束は、未だに続いているのだから。 それに約束なんかなくたって、困っている人がいれば放っては置けない。 「ペンダントのことならあたしたちもミニスと一緒に探しますから・・・かっ、かみなりは勘弁してあげてください。お願いしますっ!」 そんな一言のおかげで、ミニスはかみなりの洗礼を受けずに済んでいたのだが。 「こんな優しい人たちと一緒に旅が出来て、よかったわね・・・ミニス」 「おかあさま・・・」 「かみなりはやめておきましょう。代わりに・・・」 そうつぶやきつつ、ファミィは視線をへと向ける・・・正確にはとユエルと、バルレルに。 その視線に3人は表情を引きつらせ、唯一きょとんとした表情のハサハがファミィとを見比べて小さく首を傾げていた。 彼女にはわかるわけがない。ファミィとは初対面で、とでさえ出会って間もないくらいなのだから。 手に宿っていたかみなりこそ消えているものの、黒いオーラは消えきっていない・・・むしろ濃くなっているように見えた。 それが3人を恐怖に陥れる。 矛先の向けられていないマグナやトリス、そして先ほど解放されたばかりのミニスは冷や汗を流しつつ苦笑する。 「そちらの方々に・・・少しお話を聞かせていただこうかしら?」 その言葉に、3人は一瞬にして顔色を青く変えたのだった。 願わくば、何事もありませんようによ切に願いながら。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第26話 かみなりどか〜ん!! マグナにレシィ、トリスとミニスは一足先に議長室を出て行った。なぜと尋ねるミニスに、「ここから先は『おともだち』の時間なのよ」と一蹴して、残りの3人と一緒に部屋を追い出してしまったのだ。 というわけで今議長室にいるのはファミィとと、ユエル。そしてバルレル。過去の戦友だけだ。 彼女のお仕置きにびくびくしていたたちだったが、やはり気になるのは部屋の奥・・・ファミィの机の隣に座している黒い塊、もとい黒いロボット。彼らもよく知る、仲間の1人だ。 あれから何年経ったかわからないが、それでもなお傷の目立たないその姿は以前と変わらず強い存在感を放っている。 しかし、肝心の『彼』の主の姿が見えない。 「さて・・・お話ししてもらいましょうか」 そんな彼らの考えなど気にもとめず、ファミィはにっこりと微笑んでみせた。 「今まで、なにをしていたのか・・・ね」 なんだかんだで十数年。もユエルも年を取ることもなくなぜ「あの時」の姿のままでここにいるのか。 サプレスに還したはずのバルレルが、なぜ彼らと行動を共にしているのか。 たった2つの事柄でも、話すことは多いだろう。もっとも、バルレルはただトリスに召喚されちゃっただけなのだけど。 サイジェントのことやサプレスからの魔力流出事件・・・いわゆる『無色の派閥の乱』の顛末や、今に至る過程と『黒い鎧』の人たちのこと。 「なるほど・・・もしかしたら、その影響でバルレルくんが改めて召喚されてしまったのかもしれませんわね」 「なんだと!? どーゆーことだよ!」 「過日の魔力流出事件・・・魔王を召喚し、送還する過程で、サプレスとのつながりが他の世界より強まってしまったから・・・駆け出しの召喚師さんの喚びかけに応じてしまったのかもしれないわ」 エルゴは確かに言っていた。「新たな結界を紡いだ」と。それがその通りで、本当に事故での召喚がなくなったとしても、リィンバウムを囲む四世界とのつながりが消えたわけではなく、召喚術によって出来た孔の復元をサモナイト石に注がれた魔力で補うように手法を変えたのだ。 本来、召喚に応じることのない悪魔の王である彼が召喚されてしまったのは、サプレスの魔力がリィンバウムに大量に流れ込むことでその孔が普通の召喚術で出来る孔を大きく越え、事件の終息から1年経った今でも閉じきっておらず、その孔と未熟な術式での召喚など色々な要素が重なることでまだまだ駆け出しの召喚師の術式でも彼を召喚することが出来たのだろうと、彼女は予想した。もっとも、本来ならその孔は結界を修復したところで閉じるはずだったのだが。 「つまり・・・ど、どういうことだよ?」 「ただ、貴方はトリスちゃんとの誓約がなくならない限りサプレスに還ることはできない・・・つまり、いつもどおりですわね」 「けっきょくそれかよ・・・」 そんなファミィの言葉にバルレルはがっくりと肩を落とし、ため息をついたのだった。 「話題は変わるけど・・・」 と、はファミィの話が終わったところで言葉どおり話題を変えた。 マグナとレシィやトリス、ミニスがいたときから気になっていた、黒いロボットのこと。視線はさっきから微動だにしない彼にばかり向かっていて・・・とにかく気になって仕方がなかったのだ。 アイセンサーが灯っているのを見る限り、機能停止はしていないのだろうが・・・まったく動きを見せないのがなんだか不気味だ。 はそのロボットを指差し、 「あそこでなにやってんですか・・・」 ぽかぽかと日当たりのいい大きな窓を背後に、彼は主の不在を享受している。主至上主義の彼がなぜ、その主と離れているのか。 信じられないという思いと、抱いた疑問。お仕置きの恐怖と共に感じていたそれは、この場で尋ねなければもう聞けないだろうなとか思いつつ。 「クルセルドは」 その疑問を口にした。 ファミィはああ、と表情を変えるとクルセルドという名のロボット・・・もとい、ロレイラルの機械兵士へと顔を向けた。 「彼はつい先日まで、私の仕事を手伝っていただいていたのです」 それは間違いなく、書類整理や海賊討伐の類ではないだろう。彼の主である少女・・・否、女性の実力を考えても、そんな半ば雑用みたいな仕事に彼に助力を頼むわけがない。 『仕事』とはもっと・・・荒っぽいものであるはずだ。 そう・・・たとえば、召喚師を伴い訓練された騎士団とか。 「ユエルたちがここにいるのに・・・まったくしゃべってくれないのは?」 そんなユエルの問いに、あー、とばつが悪そうな声と困ったような表情をしたファミィは苦笑し、 「すねているんですの」 そうのたまった。 『はァ?』 そろって首を傾げる。 「あの子に無理を言って手伝ってもらってしまったから・・・彼にとっては引き離されたも同然ですもの。無理ないですわね」 つまり、彼の主が嫌がっているのところを強引に助力願ったことで、別の仕事で出かけている彼の主と引き離されてしまい、彼はすねて口もきかないのだという。 妙なところで人間らしい機械兵士な彼だが、まさかここまで無口徹底しているとは。実際、自分たちが来てからもずっと動きを見せず無言を通している。もちろん、それは今も。 「あの子が帰ってくるのはまだ先の話だから・・・わたくしもちょっと肩身が狭くて」 ふう、と彼女は疲れたような息をついたのだった。 しかしそれもすぐに消え、次に彼女の顔を見たときには顔に満面の笑みが浮かんでいた。 まるで子供のような・・・楽しみを見つけたと言わんばかりの無邪気な笑み。 その笑みを見て・・・背筋が凍りついた。 「さて、それでは・・・貴方たちにもご褒美をあげようかしら?」 「ひ・・・」 ユエルの顔に戦慄が走る。 バルレルの顔を冷や汗がたれ、顔が引きつる。 そして、の身体が凍りつく。 それはなにものでもない、恐怖そのもの。 さきほどのミニスの時はトリスがかばったからいいものの、今回はかばう存在なんているわけもない。 つまり・・・ 「ふぁ、ふぁみぃさん? そのひだりてのばちばちはなんですか?」 「なにって・・・そんなの決まってますわよ、さん?」 数歩後ずさる。負けてたまるかと刀に手をかけるが、金属であるとすぐに理解して手を離す。 この刀の製作者から、その精製法を直接聞いたわけじゃない。そして、魔剣鍛冶師がどのような武器を作るか、それも知らない。 島の象徴である蒼い剣もサイジェントで彼らが使っていた剣も、金属製なのだと信じて疑わなかったが。実は、サモナイト石が原材料としていたりする。 それを知る由もなく、抗っても無駄なのだと顔を引きつらせた。 「や、やだあー! やだよーっ!!」 「あらあらこまったわねえ・・・ユエルちゃん、動いちゃ・・・ダメよ?」 「ひぃぃぃっ!?」 ファミィは黒いオーラを纏わせて、爆ぜる光の両手を掲げる。 しかしなぜ、せっかく再会したのにこのような仕打ちをするのだろうか? ユエルもバルレルも、そしても身に降りかかる災いを思いつつもそんなことを考える。滝のような冷や汗を流しながら。 「わたくしたちを心配させたので・・・おしおきです!!」 ファミィとクルセルド。そして、彼の召喚主。 彼女たちがこの数年、特にとユエルについてはずっと行方知れずで連絡もなし。 どれだけ心配かけてしまったかなど、言うまでもないだろう。 「カミナリどか〜ん!!」 放たれたカミナリは、どれだけの電圧を有しているだろう。 目の前で輝く稲妻は、どれだけ受ければ死ぬんだろう。 そのかみなりを今、浴びようとしている時にそんな疑問を浮かべながら・・・ 『ぎゃあああああああっ!?!?!?』 |
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