とりあえず、結論から言うと。 「いやじゃあ〜〜〜〜っ!!」 瞬く間にいろんなことが終わっていた。 召喚された召喚獣たちはあっさりと送還され、子分たちはこちらもあっさり無力化され、ジャキーニはこれまたあっさりと陸へと引き摺り下ろされた。 そして今、彼は顔をくしゃくしゃにして泣き喚いていた。 金ぴかの鎧を纏った兵士たちに身柄を拘束されているため、海賊たちは皆、身動きが取れない。 ジャキーニ一家、一貫の終わりである。 「これだからワシは陸にあがるのはイヤなんじゃあ〜〜〜!!」 ジャキーニの悲痛な叫び声が、ファナン中に響き轟いていた。 「・・・ったく」 それらすべてを為し得た一人の青年は、喚くジャキーニにため息をつく。 目の前に浮かぶ巨大な海賊船。その船一艘を作るためにどれだけの人手と、どれだけの資源が使われているのかをよく知っていたからである。 なにせこの船、作るためにも人手として借り出されたのだから。 「なぁ、ジャキーニ・・・」 「な、なんじゃい!?」 冷ややかな笑顔。その笑顔から感じる不安感にジャキーニはなにかを確信したかのように目を丸める。 もっとも、それは相手がだからこそ。彼がその苦労を知っているからこそ、 「この船・・・」 ある意味、権利が在るのだろう。 共にこの船を作った仲間たちだって、このような使われ方はされたくないだろうから。 黒く光る大砲だって、高くそびえるマストだって。そんな使われ方は不本意だろうから。 「壊していいよな?」 「なっ!?」 刀を構える。ジャキーニの表情に驚愕が浮かぶ。船を壊されるということは、彼の海賊生命が終わりを迎えるといっても過言ではないのだから。 と初めとした船を作ったメンバーだって、彼らが街を襲うために船を使ったと知られればそれはもう悲しむだろう。 確かに、この船はすでに彼らのもの。しかしそれ以前に、はある意味でこの船の『生みの親』ともいえるのだ。 親が子供に手をかけるというのは、人としてのモラルに関わる問題かもしれない。 でも、自分の知らないところで自分の子供が犯罪に加担してしまうくらいなら―― 「い・い・よ・な?」 「ひぃっ!?」 さわやかな笑顔。その笑顔が、さらに恐怖を駆り立てる。 つい先刻のように。 「あらあら、そんなことしてはなりませんわよ?」 びくんっ! しかし、現実はままならないもの。 背後から聞こえた優しげな声に、は身体を凍りつかせていた。 ミニスを見れば、案の定トリスとマグナの背後に隠れて小動物よろしく小刻みに震えている。 ユエルも、そしてこともあろうにバルレルも。ユエルはさておき、普段から態度の大きいバルレルがレオルドの影に隠れているのはとってもシュールだ。 ・・・それがなぜか? そんなことは答えずともいずれわかることなので、後々にお伝えすることにしよう。 ぎ、ぎ、ぎ。 首筋に錆びたスプリングでも入っているかのように音を立てて、ゆっくりと首を回す。 声の主が誰かなどと、問うことはない。聞かずともわかっていることなのだから。 冷や汗が流れる。 それは母。それは戦友。 それは召喚師。それは・・・ 「これから、その方にはあとでわたくしがきつーいお仕置きをするのですからv」 リィンバウムにおける、聞けば誰もが震え上がるような金髪の悪魔だった。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第24話 恐怖の母、見参 金の派閥の議長、ファミィ・マーン。 ミニスの母親にしてとユエル、そしてバルレルとは旧知の間柄。 物腰も柔らかく見惚れんばかりの笑顔を振りまく彼女は、若干17歳で派閥の議長に就任。霊界の召喚術を使いこなす一流の召喚師である。 その力の一端が、霊界サプレスの将であるガルマザリアと大の仲良しであることが挙げられる。 召喚術とは、リィンバウムと隣り合う四世界から強制的に喚び出し、誓約という枷で縛り使役する術。召喚獣たちからすれば迷惑極まりない術だが、彼女たちの場合はそういった本来のセオリーが当てはまっていないのだ。 ガルマザリアが好きで、彼女に協力している。それが、ガルマザリア本体の持ちうる力を最大限に引き出しているのだ。 「連れて行ってくださいな。あとからわたくしも参ります」 「はっ!」 金ぴかの鎧軍団はジャキーニ一家を引き連れて、街の中へ。 そのうちの一人がファミィに歩み寄り、 「議長殿、ご指示通り下町の火災は最小限に食い止めました」 そう告げた。 その事実に目を丸めたのはモーリンだった。彼女は今まで、事の原因を掃討せず今更のこのことやってきた腰抜けたちだと思っていた。 しかし、それは間違い。すでに海賊たちと交戦している存在がいたからこそ、彼女たち金の派閥の人間は街の安全を最優先に出来たのだから。 「ご苦労様です。でしたら引き続いて、壊れた建物の再建費算出してくださいな」 そんな一言に敬礼し、兵士は去っていった。 「・・・さて」 びくぅぅぅっ! 改めてファミィが一行に向き直る。綺麗な笑顔を浮かべたまま、一同をゆっくりと見回すと。 「あら? あらあらあら。あらららら?」 笑顔が突然、困った顔になっていく。 整った眉をハの字に動かし、頬に手を当てて首を傾げる。 「ど、どうかしましたか?」 「変ですわねえ。派閥にいる子の顔はきちんと覚えておいたつもりなのに・・・」 やだわ物忘れなんて・・・歳なのかしら。 その顔で何を言うこの女。 ハリのある肌。美しい顔立ち。艶のある蜂蜜色の髪。とても物忘れするような年頃には見えない。 そんな彼女の物言いにつっこみもせずに、ネスティはずいと歩み出る。 軽く一礼すると、 「物忘れではないですよ。僕たちは、蒼の派閥の人間なのですから・・・金の派閥の議長、ファミィ・マーン様」 そう告げた。 ファミィが覚えていたのは金の派閥の召喚師たち。自分たちが蒼の派閥の人間なら、わからなくても当然だった。 「あらそうでしたの。それならわからなくても仕方ありませんわね」 もっとも、それは蒼の派閥の人間だけに該当するもの。 話の矛先がこちらに向けば、もミニスも。ユエルもバルレルも、今恐れていることが現実になる。 逃げたいが、もはや逃げ場がない。しかもに至っては、海賊相手に大立ち回り。逃げたところでつかまってしまうのは目に見えていた。 「ともあれ、がんばった貴方たちには、ご褒美をあげないと・・・明日にでも改めて、派閥の本部にご招待しますわね」 トリス、マグナ。そしてネスティたちを前にして、そう告げる。 今回の一件を解決したのは、100パーセントだったから、彼女の行動がわざとだというのは明らかだった。 「そのときはぜひ・・・」 視線がミニスへ。その後ユエル、バルレル、そしてへ。 なんの邪気もない柔らかな視線であるにもかかわらず、どこか感じるものすごい恐怖感。彼女が彼女たる所以とでもいうのだろうか。 「貴方がたの後ろに隠れている、私の娘と、私のお友達も連れてきてくださいね」 「・・・は?」 『!?!?!?』 目をぐるぐると回しながらびくんと身体を震わせたのは、例のごとくミニスを筆頭とする4人だった。 「バルレルくんと、ユエルちゃん。そして・・・さんは、わたくしのお友達ですのよ」 補足しつつ、もはや逃げることができないのだと確信しつつもびくつきながらレオルドの影から出る。 ファミィは一瞬嬉しそうに笑みを浮かべながらも、小さく一礼して去っていった。 これからジャキーニたちに襲い掛かるお仕置きの時を思い浮かべつつ、やりすぎだったかな、とは思う。どーせやられるのなら、自分がやる必要はなかったのではないかと。 「見つかっちゃったね、ミニスちゃん・・・」 「うぅ・・・」 ミニスは目に涙を溜めながらうつむく。 「君たちはまさか、ファミィ議長とも知り合いとは・・・」 時折君が恐ろしく見えるよ。 いろんな意味で。 先ほどの海賊たちとの一戦や、トリスとマグナは知っているがカザミネと知り合いだったり。ある意味ではものすごく顔が広い。 その顔の広さが今回、災いした。 「だいたいバルレル、あんたなんであの人と知り合いなのよ?」 「う、うるせェよニンゲン!」 バルレルももはや、逃げようがないのだ。冷や汗をたらたら流し、明日降りかかるであろう厄災に恐れおののく。 彼らからすれば・・・いや、この場にいる誰でも、相手が悪すぎるのだ。 たとえそれが狂嵐の魔公子であろうとも、リィンバウムのエルゴの守護者であろうとも。 「や、やだやだやだ! かみなりどかーんはイヤだよー! ・・・、一緒逃げよう!」 「ユエル・・・あきらめろ」 「や、やっぱり・・・?」 流れる冷や汗は止まらない。明日が恐ろしくて仕方ない。 ・・・でも。 「見つかっちゃったからな。おとなしく出頭しよう」 「うううっ、なんか処刑前の夜みたいな気分だよー」 変なたとえ方をするのは、それだけ恐怖を感じている証拠だ。 彼女の言う『おしおき』は、一般の人のそれを軽く凌駕しているのだ。彼女の放つ『かみなりどかーん!』はおしおきの領域を一跨ぎで飛び越えて強烈。 とても子供にするようなこととは思えない。 そんな母親を持つミニスはある意味、大物であるといえるかもしれない。 「言うなって。俺だって・・・」 怖いんだ、とは、さすがに言えなかった。 ● 「それじゃ、2人とも一緒に来てくれるのか!?」 日が明けて。 マグナが嬉しそうにまくし立てた。 モーリンとカザミネ。この2人が自分たちの旅について来てくれるのだ。これほど心強いことはない。 モーリンは海賊たちを倒してくれたお礼。カザミネは武者修行のため、ルヴァイドの実力が見たいと言っていた。もっとも、カザミネの場合は別の理由がありそうだが。 相手は一国の軍隊だとネスティが告げても、まったく引く気はないらしい。 「まったく、物好きな連中ばかりだな。この世界は」 そんなことを口にして、ネスティは苦笑したのだった。 「おい、言っとくが足手まといになるんじゃねえぞ」 「おや、誰に向かって口きいてんだろうね?」 「ちょっとちょっと・・・」 モーリンは実際、海賊相手に戦っていない。話しかけたリューグもそれは同様だが、彼は彼で黒の旅団相手に戦ったこともある。その力を基準にしているのだろう。 彼女は格闘技をしているとはいえそのレベルはたかが知れていると。リューグなりに解釈したのだ。 カザミネの力は先の居合いで理解が出来ているのだろう。だったら、話の矛先は残りであるモーリンへ向かう。 「・・・おぼえとけよ、今の言葉」 リューグの一言が、どこか敵意を帯びているような気がした。 |
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