「すっかり世話になっちまったな。あんがとよ」 「元気でね、モーリン」 「ああ、そっちこそ身体にゃ気をつけんだよ」 感謝の意を込めて硬い握手を交わす、フォルテとケイナにモーリンは笑顔を見せた。 一週間も滞在していなかったのに、それだけ1日1日が濃厚なものだったのだろう。振りまいている笑顔の中に一抹の寂しさが宿っているのは、誰もが見ても明白だった。 しかし、それを誰も指摘しない。一時だけだったとはいえ、別れを惜しんでくれている彼女に誰がそれを言えようか。 「モーリンさん・・・」 彼女以上に別れを惜しむアメルにモーリンは言う。 全部片付いたら、また遊びにおいで、と。 寂しいのにその寂しさを顔に出さない彼女の態度は、頼れるお姉さん、といった感じだろうか。 そんな彼女の態度に、アメルは笑顔を見せたのだった。 しかし。 『!?』 現実は、彼らの別れをすんなりとは受け入れてくれないのだ。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第23話 海賊へのお仕置き戦争勃発 「今のは何!?」 「砲撃音だ・・・海の方から!」 の一言に、それがいったい何を示しているのかなど言葉にしなくても理解できるだろう。 ・・・そう。攻撃されているのだ。このファナンが。 「まさか・・・追っ手!?」 「いや、その可能性は低いだろう。以前の戦闘で奴らは大砲を持ち出してきていない。国の間でのいざこざを起こしたくない証拠だ」 『黒の旅団』の所属はデグレア。今まで大胆な軍事行動をせず、旅団規模で動いてきていたのは、聖王都といざこざを起こしたくないからだ。 それをこんな形で水の泡にしてしまっては元も子もない。そんな愚かな行動を、彼らがするわけがない。 「・・・海賊の奴らだ!!」 「あっ、モーリン!?」 ユエルの声を聞かず、モーリンは一目散に街へと消えた。 街が攻撃されているのだから、用心棒的な存在である彼女が動かないわけがない・・・それ以前に、この街を守りたいと願っている彼女が、今この状況で動かないわけがないのだ。 「さっきから聞こえる砲撃音は、下町から聞こえてる。連中の狙いは下町だな」 「冷静に言ってんじゃねえ! さっさと行くぜ!!」 の一言につっこんだのはリューグだった。眉間にしわを寄せて、モーリンに続いて駆け出した。 実際、今まで世話になったこともあるし、海賊たちと一悶着あったのは事実だ。 今まで。一週間にも満たない数日のことだったが、なにもせず立ち去ってしまうのは人としてどうかと思うわけで。 「行こうみんな! モーリンに世話になった分の恩返しだ!!」 マグナの一言を引き金に、一行は海へと向かったのだった。 ● 「うわぁっ!?」 道中、一行に襲い掛かってきたのは無数の砲弾だった。 下町の家々を燃やし、破壊し蹂躙する黒い雨。それはなんの罪もない人々にすら降り注ぐ。金の鎧に身を包んだ兵士たちに誘導されているものの、危険なことには変わりはない。 実際。 「!? ・・・っ」 「! どこ行くんだお前!?」 フォルテの声を無視しては走りながらも刀を引き抜いた。 今いる場所は比較的広い通り。たくさんの人が流れる場所。 当然――― 「みんな、あれ!!」 『!?』 ミニスが指差した先。そして、その流れの先にいる一組の親子。 「間に合えェェ――!!」 ―――逃げ遅れる人間だって、いる。 砲弾は容赦なく親子へと襲い掛かる。でも間に合うかどうかは紙一重だろう。実際、もそれを感じていた。 だからこそ、間に合わなければ少なくとも2つの命が失われるのだ。 そんなこと・・・許すわけにはいかない。 「・・・っ!」 ――――俺の目が開いているうちは・・・ 両足に気を流す。強化された足は地面を大きく踏み出す・・・コンクリートの地面をめり込ませるほど大きく。 加速する。どん、という轟音と共に、彼のスピードが飛躍的に上がっていく。 親子の前までに到るには、それほどの時間はかからなかった。 「・・・っ」 間に合ったことに安堵する暇もなく、は刀へと意識を向けた。 迫ってくるのは、鉄の砲弾。それを本来、刀なんていう細い武器で斬ることなど出来ない。しかし時間的に、人間2人を担いで離脱する暇も残っていない。 だったら、立ち向かうしかないのだ。 この砲弾を・・・斬る。 「あああああっ!!」 ――――何があっても・・・ 砲弾はすでに目の前。 右肩を黒光りするそれに向けて、練り上げた己のエネルギーを放つ。 両脚、腰、腕。ひねりを加え力を込める。 がぢ・・・ 渾身の力を込めて放った切っ先が、鋼鉄に触れる。 腕にのしかかる衝撃に耐え切れず軋みを、悲鳴を上げた。 でも、こちとら伊達に修羅場を越えてきたわけじゃない。 この程度の砲弾・・・わけもない。 ――――死なせやしない!! 「応えろォ―――!!」 ず・・・ 硬いはずの鋼鉄に切れ込みが走る。 白い刀身の彼の相棒は、彼の声に応え咆哮を上げる。 そして。 ぱ・・・ん―――!! 砲弾が切り口からずれ、と親子に激突することなく背後へ転がり、爆音と共に破裂した。 「なっ!?」 「嘘・・・ぉ」 フォルテとミニス。 2人は目の前で起こった現実に驚きの声を上げる。 もちろん、それは他の皆も同じこと。 皆が皆、目を丸めていた・・・ユエルとバルレルを除いて。 「わははははははっ!? 変わってねえなァ、アイツはぁっ!!」 「そーでしょそーでしょ?」 「ああ、相変わらず極端すぎるほどのお人よしだな。だはははははは!!」 2人はそんな会話を交わしたのだった。 「間に、合った・・・?」 確かな感触と、背後からの息遣い。 それが彼を安堵させる。 背後の親子が生きている。砲弾の餌食にならず、ここにいる。 掴み取った確かな事実に、彼は大きく息を吐き出した。 「あ、あの・・・」 親子・・・母親の声。 その声は恐怖に彩られながらもそれはへ向けられたものではなく、むしろ感謝の意が込められていた。 砲弾すら斬り飛ばした彼だ。一抹の恐れくらい抱いてもいいものなのだが。 「ここは危険だ。はやく避難してください」 「でも・・・」 今は、悠長に構えている場合ではない。 その事実を、 「おにいちゃん!!」 ハサハの声で再認識した。 そうだった。今は、立ち止まって話をしている暇などないのだから。 今はただ、こんなことをしている知り合いに、お仕置きという名の鉄槌を下さねばならないのだから。 遠くに見える趣味の悪い海賊旗。今にもあのフレーズが聞こえそうだ。 『へい、船長!!』 刀を納め、親子に背を向ける。 「急ごうか」 「、もしかして・・・怒ってる?」 トリスの問いに答えることなく、その顔を事の原因である海へと向けた。 「トリス。はね、ちょっと怒っちゃってるんだよ。あの・・・」 ユエルの眺めた先。そこにいるであろう、海賊を思って。 「あそこにいるバカな奴らに」 「ユエルちゃん・・・」 敵意でない、むしろ哀れみすらはらんだその一言が、トリスには理解できなかった。 でもそれは仕方ないこと。この一件の原因である人間が誰なのか、とユエル以外にはわからないのだから。 「だからたぶん・・・トリスたちは何もしないでいいと思うよ」 がぜーんぶやっちゃうから、ね。 ユエルは呆けているトリスに向けて、苦笑を返したのだった。 ・・・ ・・ ・ 「燃えちょる燃えちょる。がーっはっはっはっは! いい気分じゃのう!!」 もっと撃ちまくれいっ!! 海賊をナメたらどうなるか、徹底的に教えてやれ、と。 銀沙の浜に横付けした海賊船の甲板。海賊帽をかぶり、左目を眼帯で覆った壮年の男性が、嬉しそうに笑っていた。 彼はジャキーニ。数十人と存在する海賊一家を束ねる船長である。 「やめろおっ!」 いち早く浜へ飛び出してきたのはモーリンだった。 一直線に海賊船へと走ってくる彼女は、街を守ろうと必死になっている。 それが彼女の仕事だからじゃない。彼女が、このファナンという街を愛しているからこそ、今のような行動に出ているのだ。 「なんじゃ貴様は!?」 「うるさいっ、そんなのはどうでもいいんだよ!」 モーリンはジャキーニの問いを一蹴して、声を張り上げる。これ以上攻撃するのはやめろ、と。 「ふん、ワシは昨日のお返しをしているだけなんじゃ!」 「望むところだよ! そいつの変わりに、あたいが相手してやる!!」 さあ、下りてきな!! そんなモーリンを、まるでバカにしたかのようにジャキーニは笑う。 もちろん、そんな彼に激昂するのはモーリンだ。 「何笑ってんのさ!? さっさと下りてきなよ!」 「がははは! 誰がじかにお前と戦うと言ったかのう?」 「!?」 モーリンの表情に驚愕が浮かぶ。 不敵な笑みと共に手のひらを掲げたのはジャキーニだった。その手に乗っているのは、緑色の石。 召喚術を行使するための、媒介となる石。 彼は、召喚術を行使しようとしているのだ。 「さあ、出るんじゃあっ! 化け物どもおぉっ!!」 光は石と同様の緑色。出てきたのは、メイトルパの召喚獣たちだった。 その目はすべてモーリンに向けられており、敵意すら見て取れる。彼らは誓約に縛られ、ジャキーニの言いなりとなっているのだ。 モーリンの表情が歪む。召喚師の脅威はよく知るところ。しかもこの量だ。彼女の表情が歪むのも仕方ないというもの。 しかし。 「ジャキ〜〜〜〜ニ〜〜〜〜!!」 彼女の表情は次の瞬間、驚愕が浮かぶことになる。 「な、なんじゃあ!?」 どどどどど・・・! それは、砂煙を上げ、怒りの表情をあらわにしただった。 背後に仲間たちを置いてけぼりにして、モーリンの隣で足を止める。 息切れしている彼の表情には、敵意とか殺意でなく、純粋な怒りが宿っていた。 「き、きききき貴様はぁ!?」 「船長、あいつです! あの野郎が俺たちを・・・」 「なっ、なんじゃとぉ!?」 ジャキーニの声が震えた。 召喚獣が襲いかかろうと威嚇するが、むしろ逆に威嚇し返して萎縮させる。 同時ににらみ付けられたその眼光に、 「ひ、ひぃぃっ!?」 逆にジャキーニが威嚇されていた。 「よう、ジャキーニ。久しぶりだな。再会できて嬉しいよ」 「き、貴様・・・なぜここにおるんじゃ?」 それは、むしろもっともな問いだった。『あの事件』から10年以上経っている今この時間、年も取らずに『あのとき』のままのが目の前にいるのだから。 「いったい、こんなところで何してるんだ?」 は微笑む。笑っているようで笑っていないその表情は、むしろ恐怖を倍増させる。 ジャキーニはそんな彼の問いに答えることが出来ず、流れ落ちる冷や汗。 「まったく・・・なんのためにあの2人が頭下げたと思ってるんだよ?」 「ぐ・・・」 「その船・・・彼らが何を考えて作ったと思ってるんだよ?」 「うぐぐ・・・」 「少なくとも、こんなことのためじゃないこと・・・わかってるよな?」 「ぐぬぬぬぬ・・・」 の一言一言がすべて的を射ていて、返す言葉もないジャキーニ。 周りの子分たちは、自身の頭たる船長がここまですくみ上がるほどの相手なのかと、ジャキーニとを見比べる。 ・・・とても、船長を言い負かすような相手には見えないなぁ。 そんなことを考えてみたり。 「おいお前! 船長になんて口ききやがるんだ!」 「よ、よせお前ぇ!」 ジャキーニの静止の声も聞かず、子分の1人はまくし立てる。 「てめぇ、何様のつもりだ!?」 そんな一言に、沈黙。両目はまっすぐ子分に向いているものの、その子分は臆すことなくにらみつける。 「・・・・・・」 ・・・きっと、この言葉が引き金になったのだと、後にモーリンは言う。 海賊船ではなく、海賊そのものを恐怖のどん底に突き落とすほどの行為を彼がしてしまうことの。 誰かを殺すような行為ではない。ただ、手のかかる子供にするような行為だ。 それが年齢と共にグレードアップしているだけの話。 それを・・・ 「お仕置き、してやる」 人は、『お仕置き』という。 そんな自分のおかれた状況に・・・ 「どいつもこいつも・・・ナメやがってからに」 ジャキーニは、ついに。 「戦争じゃあっ!! 野郎どもぉ!!」 『おおおおぉぉぉっ!!』 開き直った。 「かまやせん! 大砲でファナン中を火の海にしちまえいっ!!」 「へい、船長!!」 子分の1人が、大砲を撃ち出そうと導火線に火を灯す。 「やべえ、あいつ・・・目が座ってやがるぞ」 「これ以上撃たせたら、街がめちゃくちゃになっちゃうよぉ!?」 船に乗り込んで、大砲を止めるのはもはや不可能。 「撃てーっ!!」 「や、やめろおぉっ!!」 ジャキーニの命令とモーリンの声が重なり、大砲が撃ち出された。 モーリンの表情が歪む。 しかし。 「・・・・・・」 その先には、1人のサムライが佇んでいた。 目を閉じ構えも取らず、ただその刻を待ち続けているよう。 砲弾が近づく。本来なら軽く彼の頭上を飛び越えて、ファナンの街へと飛び込んでいくはずだったのだが。 「・・・っ!」 サムライは、跳躍した。ただまっすぐ上に。 空中で刀に手をかけ、待っていたかのようにその目を見開くと。 「キエエエィィィッ!!!」 ずばんっ!! 砲弾を真っ二つに叩き斬っていた。 「な!?」 「う、嘘でしょう!?」 それに驚いたのはネスティとケイナだった。 先ほどのの一撃も同様だが、鋼鉄の砲弾を斬り落としたのだから驚くのも無理はない。 鋼鉄を斬るという非現実を、今日この日だけで2度も目の当たりにしたのだから。 すたん、と静かに着地したサムライは、ゆっくりとその頭を上げると。 「我が名はシルターンが剣客、カザミネ! 義によって・・・助太刀いたす!!」 威風堂々、大きな声を張り上げて見せたのだった。 |
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