「・・・・・・」 長い夜が終わりを告げる。は1人、自身の同じ名の蒼い世界を眺め砂浜に座り込んでいた。 疲れたわけじゃない。眠れなかったわけじゃない。しかし、眠たくなかったわけじゃない。 あくまで敵の追撃を警戒して、いつでも彼らを守れるように。ある意味では、彼なりの配慮と言えるだろう。 彼と行動を共にしてきた2人の少女はすでに夢の中。・・・否、もうあと少しばかりで夢から覚める頃合。 聞こえるはさざ波。視界に納めるは突き刺すような眩い閃光。温かな光。 そして。 「・・・行き倒れにしちゃあ、ずいぶんと大所帯だねえ」 そんな静かなひと時も、終わりを告げた。 ゆっくりと声の主へと向かい合い、纏っている雰囲気に一抹の懐かしさを感じつつ。 「あー、事情は聞かないでくれると助かるな」 「そうかい。どうやらワケありみたいだね・・・んで、助けは必要かい?」 金髪の女性へとうなずき返す。 モーリンというその女性は、なんの屈託もなく白い歯を見せて笑う。 その笑顔から、女性らしからぬさっぱりとした性格の持ち主だと直感できた。 「それじゃ、起こすとしますかね」 「ありがとう。悪いな、トレーニングの邪魔して」 そんなの一言に彼女は再び微笑みかける。 浜に寝かせていた刀を手に取り、腰に差す。モーリンはただ、その光景を見つめていた。 太陽の光に重なり映えるシルエット。それは腰の鞘から刃を引き出し、光沢放つ鋼鉄を振るい、再び戻す。 一連の流れを持ったその動作は、格闘技を嗜む彼女の目にはまるで、舞を舞っているように見えた。 「・・・お見事」 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第20話 温厚な彼女は 重複してしまうが、彼女の名はモーリン。目と鼻の先に見える街――ファナンの住人である。 格闘技を嗜む彼女は今日、朝も早く日課の訓練のために街を出てきたところだった。 そこへ遭遇したのがと、行き倒れ軍団。 「生きてるってことだけはから聞いていたけどね。まったく、朝っぱらから余計な心配かけないでくれよ」 「す、すいません・・・」 モーリンによって起こされたマグナ。彼はモーリンの一言に肩をすくめた。 実際、酷いものだったのだ。男女、年齢、種族問わず身体中が砂まみれで、昨夜の戦闘によって斬り裂かれた服はぼろぼろ。 どこからどー見ても、「行き倒れです」と言っているようにしか見えない有様だったのだから。 ・・・あるいは「私たち、行き場がないんです」といったところだろうか。 しかし、モーリンは。 「しっかし、酷い格好だねえ。まるで夜盗かなにかに襲われでもしたみたいじゃないのさ」 意外どころかかなりの勢いで勘が鋭い人間だった。 「ハサハ、ユエル。朝だぞ。そろそろ起きろって」 「・・・むぅ」 「やぁだぁ、まだ寝たいよー」 その一方で、はハサハとユエルを起こそうと身体をゆする。 ゆっくりとまぶたを開いたハサハはを視界に納めるとしばらく静止し、転がっていた宝珠を抱えて、 「おはよぉ、おにいちゃん」 へにゃりと笑って見せた。 そして、ユエルはうっすらと目を開けて状況を確認すると、むしろ自分の睡眠を優先させた。 まるで駄々っ子のように軽く声を上げてごろごろと転がりまわる。砂まみれの身体をさらに砂にまみれさせていた。 「みんなもう起きてるんだから、ほら」 「むー・・・」 しかし、の一言に渋々と従うあたりがなんとも微笑ましいものだった。 ● 「あんたたち、よけりゃあたいの家で休んでいかないかい?」 そんなモーリンの一言に、一応チームのリーダーであるマグナとトリスは間髪いれずに答えを返した。 お言葉に甘えて、と。 そして。 「君たちはバカか!?」 反論の声を上げたネスティだった。 名前の交換をしたからといっても、モーリンは今しがた出会ったばかりの真っ赤な他人。そんな人間にほいほいとついていってどうするのだ、と。 彼の言っていることは正論だった。 あんな騒動の後だからこそ、余計に警戒しなければならないというもの。追われている身なのだという自分たちの立場をわきまえていないかのような発言だったのだから。 しかし。 「まぁまぁネスティ。少し落ち着けって」 モーリンは親切心から自宅に招待してくれているのだ。 フォルテがネスティを抑えていた。彼は彼なりに、モーリンの人となりをうかがい知ったのだろう。 その目に、表情に決して、嘘偽りの色が浮かんではいないのだと。 「さ、ついといで!!」 言われるがままされるがまま。 一行はモーリンを先頭に、ファナンの門をくぐったのだった。 ● 歩くこと十数分。 中世風の建物が流れ流れて背後へ消え、見えてきたのは純朴な家だった。 木を削って作られた門に、洋風ではあるもののどこか素朴な趣のある邸宅。中でも一際大きな建物が、彼女が師範代を務めているという道場である。 建物の周囲は緑にあふれて、庭の池では、たくさんの来客者たちが来たにもかかわらず小鳥たちが水浴びをしている。・・・なんとも神経の図太い小鳥たちだ。 「ケッ、想像以上にしけたトコだなぁ」 そんなバルレルの一言にトリスが顔をしかめたが、それを意にも介さず口笛吹き吹きずかずかと門をくぐっていく。 この建物に長く住んでいるモーリンは彼の一言に動じることもなく、かんらかんらと笑って見せた。 ・・・この街の住人は、神経が座っているのだろうか。 と、そんな疑問なんかも浮かんだりしたのだが。 「ほら、入っといでよ!」 男どもは適当に入ってくつろいでなよ。 バルレルを眺めて苦笑しながら、モーリンはそう一行に告げたのだった。 男性陣はひとまず待機。その一方で、女性陣はまず砂まみれの身体を洗い流すところから。 それぞれが思い思いに散っていく中。 「・・・・・・」 フォルテは1人、抜き足差し足忍び足。 どこへ行くやら道場の扉に手をかけた。 「フォル・・・」 「しーッ、静かにしろって。見つかっちまうだろ」 の一言に、フォルテは首だけを回して人差し指を口元へ当てた。 汚れた身体で背中には剣まで背負って、誰にも見つからないように、彼はいったいどこへ行くのやら。 ・・・ 察しのいい読者の諸君はお分かりだろう。 今のこの状況で、彼が何をしでかそうとしているのかを。 「念のため聞いておくぜ。てめえ・・・何しようとしてやがる?」 リューグの問い。 怒気すら含んだ声色を気に留めず、フォルテは扉にかけていた手を離し仁王立ちしてリューグと対峙する。 満面の笑みを宿して、 「決まってんだろ。のぞきだよ、NO・ZO・KI☆」 そうのたまった。 わかっていたとばかりにリューグは手に持っていた戦斧を大きく振り上げる。 彼も男だ。女性に興味があるのは致し方ないことかもしれない。しかし彼の性格が、『のぞき』という行為を絶対に許さない。 裂帛の気合と共に躊躇なく振り下ろされる巨大な戦斧。 「のわぁっ!?」 それは、惜しくもフォルテの真横を通過して、門と同様に木造の床へ深々と突き刺さっていた。 刃の切れ味が功を奏したか、周囲にヒビすら入っていない。見て取れるのは彼の腕力とリィンバウムの重力によって、切り口から亀裂が少々入った位。 鮮やかな一撃。見舞われたフォルテは無論、たまったものではない。 「おっ、お前・・・殺す気かよ?」 「ハッ、てめぇがおかしなことしようとするからだ」 「なんだよ。・・・さては、お前さん・・・ぷぷ、ウブな奴」 「なっ!?」 一言二言しゃべったかと思えば、再びリューグの逆鱗に正面から突っ込んだフォルテ。 顔を真っ赤にして再び振り上げられた戦斧を受け止めるため、腰の大剣を抜き放つ。 そこから先、彼らに言葉は要らなかった。 「・・・・・・」 幾重にも重ねられる攻防戦。互いに技を競い、見せ、魅せている。 主には激昂したリューグが一方的にフォルテに情け容赦のない攻撃を仕掛けているが、フォルテはそれをニヤけ顔で受け流していた。 リューグは、からかわれている。 周囲で見守る男衆の、誰もがそう思ったに違いない。 「なぁネスティ、レオルド?」 「・・・なんだ?」 「・・・・・・」 ドタバタ騒ぎを眺めながら、は隣に腰掛けている2人へ声をかけてみる。 先ほどから不機嫌丸出しのネスティと、無言でその隣に待機しているレオルド。見たところ、2人の間には会話がほとんどない様子。 実際、レオルドはの声に返事すらよこさなかった。 ・・・ちょっと寂しいなと思うである。 「あれ、直すの俺たちじゃないよな?」 問いかけてみる。 彼が指差したのは、リューグとフォルテが攻防戦を繰り広げているちょうど真下の床。亀裂や底抜け、床板の破砕など、挙げてみればきりがないというものだ。 初めて足を踏み入れたときは、毎朝欠かさぬ雑巾がけの賜物だったのだろうが、今となってはそれも無残な姿へと変貌している。 どすん、どすんという衝撃音や破砕音の中、 「あー、さっぱりした♪ ここの水、すっごく冷たくて気持ちいいよ? マグ兄も・・・って」 「言うなトリス・・・」 目を丸めたトリスの一言に滝のような涙を流すマグナだった。 ・・・ さて、肝心のモーリンの反応だが。 「・・・・・・」 言うまでもなく、見るも無残な姿になってしまった道場を目の当たりにして、目をまんまるく見開いていた。 いくらサバサバした性格の彼女でも、さすがにこの状況では怒らざるを得ないだろう。・・・と誰もが思っていたのだが。 「あっはっは、気にすることないよ。どーせ生徒はあたい1人だし」 なんと、笑って許してしまっていた。 どこまで温厚なんだ、と誰もが思っていたのだが。 「でもまぁ、とりあえずあんたたち・・・ちゃんと責任とって一晩でここ全部完全になおしてもらうよ。いいね?」 実際、彼女はメチャクチャ怒っていた。 笑顔をぴくりとも動かさないまま、強烈な威圧感を放っている。・・・黒いオーラじゃないことだけがまさに幸いだった。 道場を無残な状態にしたのはリューグとフォルテ。しかし、 「止めようともしなかったあんたたちも同罪だよ! ほら、キリキリ働く!」 連帯責任を取らされていた。 「な、なんで僕まで・・・」 「主殿、オ身体ノ状態ハイカガデスカ?」 「ああ、ありがとうレオルド。大丈夫だ」 木材を肩に抱えて外と中を行き来するネスティとレオルド。そしてバルレル。 「ケッ、なんでこの俺様がこんなことしなきゃならねェんだ!」 「まぁまぁ、バルレル。運が悪かったと思ってあきらめろって」 「・・・原因の一端はてめェじゃねェかよ」 くってかかるバルレルを飄々といなし躱している。・・・なんとも現金である。 原因のもう片方は無言で床に釘を打ち込んでいる。口に数本の釘をくわえ、右手に金槌を持って働く姿は、まさに大工そのものだった。 「何したかは知らないけど、自業自得よね」 じと、とフォルテを見つめるケイナ。 「どーせフォルテが何かしようとしたんだとは思うけどね」 「そうよね。きっと、のぞきでもしようとしたのよ」 ケイナを見て苦笑しながらも同意するトリスとミニス。 酷い扱いである。まだ未遂だというのに。面と向かって変態、と呼ばれないのが唯一の救いだろうか。 「・・・・・・」 アメルは無言で男性陣を見つめている。ほんのり顔が赤く染まっているところが、なんとも可愛らしいが。 「・・・とんだ災難だな」 「はなにもしてないのにね」 「・・・(こくり)」 そして、はユエルとハサハ、そしてマグナと資材の調達に来ていた。 必要な木材を切り出して運搬係―――フォルテとべそをかきながら手伝っているレシィ、そしてリューグの3人に渡す仕事を担っているのだ。 柄に手をかけ、一閃。 すぱん、という快音と共に木が一本、倒れた。 「ところで2人とも、水浴びは気持ちよかったか?」 「・・・(こくり)」 「うんっ」 2人はの問いにはにかみ、うなずいた。 正直な話、は2人がうらやましくて仕方なかったのだ。さっきからずっと自然の多いこの場所で木を相手に格闘し、死ぬほど蚊(と思われる虫)に刺されまくって痒いこと痒いこと。 すでにかなりの量の木を斬ったが、未だに終わりの合図がないのは正直変だとも思うわけだが。 なんか最近、貧乏くじ引きまくりのような気がするのは、気のせいだろうか? ちなみに、結果として道場の床を完璧に修繕するまでに丸1日かかり、たち男性陣が体の汚れを落とせたのはモーリンの家にたどり着いてからかなりの時間がたっていたことだけ、伝えておこう。 |
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