結局のところ。 「いい月だ・・・貴様らの死出の手向けには、勿体無いほどの美しさだ」 あっさりと見つかっていた。 もっとも、最初からそれを見越して行動していたのだから別に見つかったことに異を唱えるわけじゃないが。 しかし、それよりもおどろいたのは。 「ルヴァイド、イオス、ゼルフィルドまで・・・」 黒の旅団の将3人が、雁首そろえて待ち構えていたことだ。 自分たちの逃げ道が複数ある以上、戦力を均等に分ける必要性があったはず、なのだから。 「やはり、ここを通ると思っていた」 そう。彼らは最初から、自分たちがここを通ることを見越して他のルートに少数の兵士たちのみを残していたのだ。 なにを基準にそれを決めたのかはわからないが、彼らの大将たるルヴァイドには思うところがあったのだろう。 とはいえ、半分以上が根拠のない博打を彼は、がっちりと引き当ててしまったのだ。 そして、出発前にシエルが言っていた『黒い兵士たち』というのは、目の前の3人を除いた兵士たちだった、と言うことになる。 彼らの背後にはかなりの数の兵士たちが武器を構えている。 こんなことなら、最初から別の道を選んでおくのだったと、誰もが内心で呟いていた。 「少しばかり、厄介なことになりそうだな」 この布陣を抜けるには、少しばかり・・・いや、かなり骨が折れるだろう。 しかしそれでも、ここを押し通らねばならない。 それが自分たちのリーダーたる2人の決定なのだから。 「まずいぞ! 奴らはここで僕たちを足止めして、別動隊で完全に包囲する気だぞ!?」 さらに、3人のうちゼルフィルドがその場を離れていく様を眺めて、ネスティが声を上げる。 ゼルフィルドは、別の場所で待機している兵士たちを呼びに行ったのだ。 逃げるにしてももはや今更。草原を走り抜けるゼルフィルドの速度は人間の足なんかあっさり超えて、もはや見えなくなってしまっている。 今頃は待機場所にたどり着いて、別動隊を動かしてしまっているだろう。 「言ったはずだ。次に出会ったその時は、けして容赦はせぬと」 ならば、やることは1つだけだ。 ルヴァイドの声を聞きながら、は鞘に添えた親指を弾いて刀を抜く。 ちゃき、という鍔鳴りが一同の耳に届き、腹を括るしかないことを悟ってそれぞれの武器を取った。 もはや後戻りはできないのだ。だったら、自分たちにできることはたった1つだけ。 ただ前だけを見据えて、力の限り突き進むだけなのだ。 「みんな、行くぞ!」 『応っ!!』 マグナの声に、チーム一丸となって武器を構えた。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第19話 海辺の街へ 戦いは熾烈を極めた。 結論から言えば、余りに数が違いすぎたのだ。 こちらはたかだか10人程度。それに対し、敵は『旅団』を名乗っているもののもはや軍隊といっても過言ではないほどに兵士の数は多い。 それなりに訓練されているのだろうから、個々の能力もけして低いわけではないだろう。 最初から勝てる要素なんか微塵もなかったのだ。 それでもなお生き残れているのは、離れず固まった状態でただひたすら目標に向かって突き進んでいたからだ。 こっちへ行く、と方角を決め、武器を構えて草原を走り抜ける。敵兵の全てを相手にするわけではなく、ただ蹴散らして進むだけ。 向こうにとっては戦争でも、こちらにとってはただの小競り合いでしかないのだから。 そんな中で、は先頭を切って走っていた。 指示を受けたわけでもなく、ただ自分の真価を発揮できるのがこの場所だと理解していたから。 殺す気で繰り出される剣を刀で受け止め、左手に拳を作り叩き込む。 内に練り上げたエネルギーを纏っているからこそ、兵士たちはまるでハリウッドの映画よろしく吹き飛んでいく。 その光景を見て隣にいたフォルテが目を丸めていたが、むしろしんがりを務めていたリューグの驚きが顕著だった。 「死ねぇっ!」 「はぁっ!!」 2人の兵士がへと斬りかかる。 しかし彼は慌てることなくユエルに目を向けると、彼女は小さくうなずいて。 「ガアァァァッ!!!」 『!?』 大声と共に発される威圧感に竦み、動けなくなっていた。 彼女はフォルテと挟んだの隣で装備した鉄爪を振るっていて、兵士を1人無力化したところでとアイコンタクトを取ったのだ。 さらにその大声は周囲の兵士を巻き込んで、静止している間にが峰を返した刀を叩き込む。 見惚れんばかりのコンビネーション。 自分のことで精一杯だったリューグやマグナは、その光景を目にして一抹の羨望すら覚えていた。 「ちょっ、マグ兄! ぼーっとしてちゃダメだってば!」 「わっ、ゴメン!」 「リューグ、お前もだぜ!」 「うっ、うるせェ!」 トリスとフォルテに諫められて2人は再び武器を振るい始めた。 しかし、そんな快進撃も次第に衰えを見せ始める。頭数の差が決定的過ぎたのだ。 いつまでたっても途切れることのない敵の群れ。味方は皆、体力が無限にあるわけではない。 長く走りながら武器を振るい、疲れないわけがない。 しかし、止まることなどできない。止まれば最後、囲まれてあっという間に袋叩きに遭うだけだ。 「はぁ、はっ、はぁ………………あうっ!」 それでも戦いを経験して浅い、しかもつい先日までしがないただの村娘だったアメルは長時間の疾走に耐えられないはずもなく、足をもつれさせて転倒する。 「アメル、大丈夫? 立てるかしら?」 「は、はいっ……大丈夫ですっ!」 土汚れを軽く払いながら、アメルは目尻に涙を溜めながらも立ち上がる。 ひたすら、ただひたすらに逃げること。それこそが、今の彼女にできるすべてなのだから。 「おい、! てめェちんたらと何やってる!?」 「何って・・・こっちだって必死なんだって。何にせよ、数が多すぎるんだ」 「あわわわわわ・・・!?」 言い寄るバルレルに答えを返しながら、その数に歯噛みする。 いくら個人の戦闘能力が高くても、圧倒的な数で攻め立てられれば歯噛みするのも当然というもの。 一度に相手をできる数など、圧倒的な頭数の前にはたかが知れているのだから。 「・・・レオルド。敵の状況は?」 「数、オヨソ二百。他所デ待機シテイタ兵タチモスデニ合流シ、ソノ数ハ増大シツツアリマス」 「二百ゥ!?」 ミニスが声を上げた。 召喚術を撃ち尽くした彼女にとって、その数はまさに自分たちの敗北を意味していたからだ。 しかも、敵の中には未だ3人の将たちがいるのだ。 状況は言わずもがな。自分たちにとって最悪のシナリオを進みつつあった。 「くっそ・・・っ!」 マグナの舌打つ声が耳に届く。 そんな時だった。 「な、なんだ・・・?」 自分たちを覆いつくす、黒い霧。 敵の、そして味方の視界を奪う霧。 ネスティの呟きと同時に視界に映った3人は、自分たちの状況を冷静に判断していた。 これが目くらましの、彼らを守るための霧だと。 「おのれ、このような霧・・・!」 「ゼルフィルド、お前はどうだ?」 「我ガせんさーデモ、敵ヲ補足デキナイヨウダ」 ゼルフィルドのそんな答えに、ルヴァイドは忌々しげに歯噛みした。 同時に、止めていた足を動かした。 「ルヴァイドさま!」 兵たちは目くらましで役に立たず、科学の塊であるゼルフィルドでも敵の補足ができない。 ならば、自分の感覚を信じて進むのみ。 「逃がすわけには行かぬぞ!」 敵は、すぐに見つけることができた。 困惑する兵たちを押しのけて、ひたすら進んだ先で足を止めていたのだ。 彼らも自分たち同様、突然の霧の出現に驚き、戸惑っているのだろう。 しかし。 “さあ、今のうちにお逃げなさい” 1つの声が、まるで頭に響いてくるかのように一同の耳に届いていた。 ひたすら逃げの一手を取るこの集団は、お互いの身体が、顔が。そして進むべき先が、霧に覆われているにもかかわらず鮮明に見えていたのだ。 “目くらましの霧が、あなたたちを守っているうちに、急いで・・・” 「みんな、こっちだ!」 この霧が何であるのかが判明すると同時に、1つの声が聞こえていた。 声の方へと振り向けば、そこには見知った1人の召喚師の姿。 動きづらそうなローブに身を包み、杖を掲げて召喚術を炸裂させる。 轟音と共に煙が立ち昇るが、それすらも黒く染まり、自分たちの敵の目を欺いている。 「先輩たち!?」 声の主はギブソン。召喚術を炸裂させたのは、メガネの似合う召喚師ミモザだった。 「あら、まさか本気でバレてなかったと思ってるわけ?」 「君たちの考えそうなことぐらいお見通しだ。まったく、水臭い後輩どもめ!」 「すいません・・・」 まるでたしなめるような言動。 しかしその目は、彼らの背中を押そうとしているものだった。 自分たちは別任務の身。しかし、可愛い後輩たちが困っていれば、助けないわけには行かない。 後輩思いの、いい先輩たちだと思う。 「じゃあ、この霧はミモザさんたちが?」 「ええそうよ。ちょっと知り合いに頼んで、ね」 こんなことができる知り合いなど、遠巻きから見ていたからすればたった1人しかいない。 サイジェントで薬屋を営んでいるはずの彼が、なぜ? そんな疑問の視線を投げかけるも、返ってきたのは苦笑だけだった。 「とにかく、いつまでもここにいられないぞ。急いでこの包囲網を抜け出さないと」 が声をかける。 自分たちを包んでいるこの霧だって、いつまでも出現しているわけがないのだ。 風が吹けば、時間が経てば消え去る。 霧とは、そういうものだから。 しかし、事はそううまく運ばないもので。 「そうはさせんぞ!」 「ルヴァイドっ!?」 霧の置くから、フルフェイスの仮面を被った黒騎士が姿を表していた。 さらにその背後からこの暗がりでも目立つ金髪と、赤い光。 その光には目を見開いて、単身2人の前へと躍り出ていた。 「っ!?」 誰かが声を上げると同時に。 「っ!!!」 銃声と、金属音が響き渡った。 赤い光は機械兵士が目標を定める際に用いるセンサーの光。 これまでにいくらかの機械兵士と面識があったからこそ、その銃口が自分たちを狙っているのだと理解できたのだ。 「ふぅ〜っ!」 銃弾を弾いたことでしびれる右手を押さえつけながら、大きく息を吐き出す。 こちらとしても勘に等しい行為ではあった。うっすらと見える銃口から到達場所を予測してそこへ割り込んだのだ。 ひとつ間違えば自身か仲間が致命傷を負うところだった。 だからこそ、上手く銃弾を弾くことができたことに安堵した。 「ウソでしょ!? ただの霧じゃないのよ、これって・・・」 「他の者は惑わせても、この俺にまやかしなど通じぬわ」 霧が晴れていく。 完全に晴れてしまえば、こちらに勝ち目は無くなってしまう。 だからこそ、はギブソンとトリスに近づき、ささやく。 自分が道を作るから、その間に逃げろと。 「・・・まさか」 「まさかって・・・?」 呟くギブソンの声を尻目に、『世界』へと干渉する。 先の戦いで得た力を、ここで使う。使わねば、いつ使うというのだろう。 魔力が迸り、風になって周囲を取り巻く。 この手に宿る確かな力を、今。 「絶風――」 ルヴァイドはその風を一身に受けながらも、ルヴァイドはアメルに手を伸ばす。 「デグレアの勝利のため、絶対に聖女をこの手で捕らえてみせる!」 守ろうと立ちはだかる全てを押しのけて、彼女の二の腕を鷲掴むと一気に抱き寄せ、背後へと後退していく。 しかし。 「ルヴァイドおぉっ!!」 いち早く動き出したリューグが戦斧を振りかざしていた。 狙いは捕らわれたアメルとルヴァイドのちょうど間。ルヴァイドの腕を斬り落とさんと狙いを定める。 「もうこれ以上、テメエらにゃ何も奪わせねえ! ひとつとして、奪わせはしねえぇっ!!」 裂帛の気合と共に、戦斧を振り下ろす。 突然の出来事に対応する間もなく、ルヴァイドはアメルを突き飛ばして剣を構える。 反撃はできず、ただ受け止めるために水平に構え、襲い掛かった衝撃にうなり声を上げた。 受け止められた戦斧を引き、追い討とうと続いて下手に構え、振り上げる。 切っ先がフルフェイスの仮面を捉え、弾き飛ばしていた。 「なんだと・・・っ!?」 驚愕の表情を貼り付けて、ルヴァイドは声を荒げる。 アメルを抱えて斧を構えるリューグをにらみつけて、今にも斬りかかっていこうと剣を振り上げたのだが。 「――第一解放・・・!!」 金色に輝く魔法陣が浮かびあがり、2人の間を遮るようにせりあがった。 光の元は地面に刀の切っ先を突き刺した。 その姿に驚きの表情を見せているユエルやハサハを尻目に、 「走れぇっ!!」 1つの方角を指差し、声を荒げた。 状況を認識している時間も余裕もなく、その声にしたがって仲間たちが大地の壁の影を走り抜ける。 ギブソンやミモザにも撤退を促して、切っ先を引き抜いた。 崩れていく壁、消えていく魔法陣。 自分も逃げようと踵を返すと。 「ハサハ、ユエル。何で一緒に行かなかったんだ!」 ハサハとユエルがたたずんでいた。 宝珠を抱えなおして、鉄爪をしまいなおして。 2人はの問いに当然とばかりに胸を張り、 「そんなの、当たり前だよ」 「・・・(こくり)」 なんてのたまっていた。 彼女たちはの仲間で、家族。 守り守れないで、何が家族だろうかと。のためではなく自分たちのために、彼女たちは自らの意思でこの場に残ったのだ。 3人でいるために。 はそんな彼女たちを見て苦笑すると、呆れたように頭を掻く。 「まったく、俺は幸せ者だな・・・さ、行くよ」 「うんっ」 「・・・っ(こくり)」 仲間たちが走りぬけたそれと同じ方角へ、駆け出した。 「!」 背にかかる声。 それはかつての仲間の声だった。 崩れつつある土くれの雨の中、その2対の視線がにぶつかっている。 表情には笑みを称え、 「後輩たちを頼むわよ!」 杖を掲げながら、そう声を張り上げていた。 そんな声にうなずいて、再び走り出す。 「・・・さ、私たちも戻りましょっか」 「ああ、そのほうがよさそうだ」 ● ひとしきり走って。 轟音も兵士たちの声も聞こえなくなった。 満月で周囲は明るく、人影は皆無。 完全に逃げおおせることができたと理解するには充分だった。 「しかし、先輩たちのおかげで助かったな」 「あぁ、まったくだ」 ネスティとフォルテがそんな会話を交わす。 「あとは、のおかげよね」 「なんだかよくわからないままだったけど、確かに」 ミニスとケイナもそれに便乗し、張り詰めていた空気と共に大きく息を吐き出した。 しかしながら、問題がそこにはあった。 先導したのはだ。目的地も彼は知っているはずだ。 それなのに、聞こえる潮騒。 森へ向かうはずが、まったく反対方向へ来てしまったのだ。 「そういや、前に聞いたことがあるぜ」 「なによ、バルレル。突然・・・?」 「るせ。アイツは・・・・・・」 『アイツは?』 一同の視線がバルレルへ向かい、彼は彼で周囲を流し見て、小さくため息を吐き出す。 「極度の方向音痴らしいぜ」 『・・・』 たどり着いたのは海辺の街。 あとから合流するだろう青年の秘密を知り、同時に大きくため息をついた。 ――前途多難だ、と。 |
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