「このまま王都に立てこもっていられたままでは、面倒だったのでね」

 正直助かったよ、と。
 金髪に薄手の甲冑を纏った青年が、声も低くそんな言葉を口にした。
 湿原・・・水の上に浮かぶ地面の上で対峙しいていたのは、ピクニックに来た面々と。

「都合のいい御託を並べてんじゃねえ!!」
「所詮ハ素人ノ集団カ。コウナルコトハ予測デキタロウニ・・・」

 青年の指揮する黒い兵士たちだった。
 彼らはすでに臨戦態勢を取り、武器をその手に眼光も鋭く己が敵をにらみつけていた。
 青年の隣で銃口を向けていたゼルフィルドの言うとおり、予測しなかったわけではない。
 ネスティもリューグも、襲われることを懸念してピクニックを反対したのだ。
 しかし、狙われている当の本人も暢気に弁当を作っていたし、何よりミモザに逆らえば何があるかわかったものじゃない。
 わかっていながら、自身にできる最善をせんとこうして同行したのだが。

「そうね。まさにそのとおりよね」

 ケイナの一言で、けして暢気に構えていたわけではないことを悟っていた。

「ああ、こうでなくちゃ遠出してきた意味がねえ」

 互いに手詰まりだったのだ。
 こちらは動かなければ先に進めず、かといって動けば敵が襲ってくる。
 敵はこちらが動かなければ行動すらままならない。
 ・・・恐れることなどない。
 こちらから動いてエサをちらつかせれば、敵という名の獣がやってくるのを、待ち構えようという魂胆だったのだ。

 無論、その先にも考えがあった。
 対峙することでようやく、話ができる。
 彼らがアメルを狙う理由を聞き出すのだ。
 そこまで考えてミモザがピクニックを提案したのかはわからないが、出発前のはそこまで察して、思考を180度変えたのだ。

「・・・策にはめたつもりか? 小賢しい!」

 戦力的には圧倒的に負けている彼ら。
 優勢側についていれば、まず自殺行為だと思うのは間違いないだろう。
 訓練された兵士たちに、召喚師。白兵戦のエキスパートである機械兵士。
 負ける要素などどこにもないと、信じ込んでいた。
 そんなときだった。

「うわぁっ!?」

 青年の背後で、轟音が鳴り響く。
 飛び散る水しぶきと、意識を失って倒れこむ兵士たち。

「なにがあった!?」
「背後ヨリ熱源1。コレハ・・・」

 ゼルフィルドが答えを返そうとする前に。

「・・・無事だな」

 1人の青年が、2つの勢力の間に割り込んでいたのだ。
 ミモザが考えていたのは、エサをちらつかせることではなく、かといって話をすることではなくて。
 エサを蒔いて、群がる獣を罠に嵌めようとしていたのだ。





    
サモンナイト 〜美しき未来へ〜

    第15話  懸念





「てめェ! 今までどこほっつき歩いてやがった!?」

 憤慨するバルレルをなだめていたのはこともあろうに先日仲間入りを果たしたユエルだった。
 元々彼女も戦友だ。暴言を吐くのがその相手を信頼していたからだと言うことをわかっているからこそ、苦笑しつつも完全にたずなにとっていて。
 隣でそれを眺めていたレシィが、思わず拍手するほどだった。
 もちろん、相手がユエルだからこそ、だ。
 これがまだ主として短いトリスやレシィ本人だったら、取り付くしまもなかっただろう。

「ミモザがどこまで考えてピクニックしようとしていたのかは知らないけど、今の君たちの行動は、君たちの指揮官が望んだことなのか?」
「なっ・・・」

 青年――イオスはその一言に目を丸めた。
 まるで自分たちに与えられた命令の内容を知っているかのように話す彼を見て。
 ・・・与えられた命令は『監視』だった。
 聖女と、その周りを囲む人間たちの動きを『監視』することだった。
 対象がどのような行動をとっても、それを覆す理由など簡単なことで。

「ともあれ、先に攻撃されたのはコッチなんだろ?」

 は問いを仲間たちに投げかける。
 ルヴァイドと話していた時に、銃声が聞こえた。
 銃を武器として持っている仲間はいないことはすでにわかりきっている。
 だとすれば、先刻の銃声は敵が放ったものだということになる。

「・・・常に最善の行動をとるのが軍人だ。想定していた以上の成果をあげることに、どれほどの非がある!?」
「さぁ、俺は軍人じゃないから知らないな。さて・・・なら、はじめようか?」

 イオスを、そしてゼルフィルドをその両目に映して、軽く笑うと。

「『正当防衛』という名の、戦闘をさ」

 放たれた一言が、仲間たちを戦いへと駆り出していた。


 ●


「しかし、お前さんも大胆なことするなあ」
「ん?」

 戦闘中。
 次々と武器を手に襲い掛かる敵を、フォルテと背を合わせて退けていた。
 敵の数はそれほど多くなく、それでも一個小隊ほどの数はいて。
 訓練された彼らを苦戦することなく退けてしまうことから、またその強さが伺えた。

「敵の半分くらいを吹っ飛ばして登場して・・・はぁっ! 突然俺たちの前に現れたかと思えば、『正当防衛』なんて言葉並べてこっちから戦いを仕掛けるなんて・・・なッ!!」

 剣を振るいながら、フォルテは言う。
 は少しばかり離れたところで眠っていたから、突然現れたと表現したのだ。
 マグナとトリスがあれほど探していたのに見つからなかった彼が、だ。
 2人はどこか必死に彼を探していたから、さらにそれでも見つからなかったから、どこへ行っていたのかそれこそ気になるわけで。

「・・・っ! 少しばかり、離れたとこまで行ってたからな」

 静かな方が、寝やすいだろ?

 刀を振るって兵士の剣を弾き飛ばし、は答えた。
 水に浮いて柔らかな地面を蹴り、力強く踏み込んで無防備なその胴へ拳をぶち込む。
 淡い光を纏った右手が残像を残しながら腹部に吸い込まれ、その身体を宙へ舞わせた。

「相変わらずのバカ力だな、オイ」

 彼の力を知ってなお、皮肉を言ったのはバルレルだった。
 その背後ではトリスがその手にサモナイト石をもって、魔力を注いで。

「いっけェ――ッ!!」

 黒い布を巻いたサプレスの召喚獣を喚び出した。
 召喚術を得手としたトリスにできる、最高の攻撃術だ。
 閃光と共に敵を巻き込み、打ち抜いた。

「マグ兄!」
「おっし・・・!!」

 舞い上がった煙の中から飛び出したのはマグナだった。
 両刃の剣を振り構えて、糸のような煙を纏わせて、その鍛え上げた脚力をもって敵を肉薄する。
 這うようにその距離を一気に詰めて、気合の大きな篭った声と共に踏み込み、下段から一気に斬り上げた。
 もちろん、兵士たちもその攻撃をもらうわけにはいかない。
 召喚術によるダメージを残したまま、剣の軌道を遮るように武器を構える。
 激突した瞬間には火花が飛び散って。

「おりゃああぁぁっ!!!」

 力任せに剣を振り切って、フルフェイスの兜をかぶった兵士を弾き飛ばした。
 しかしそれに満足せずに兵士を目で追いかけて、踏み込んだ右足を軸に剣に振り回されているかのように身体を捻り、強引に方向転換。
 柄を両手で握り締めると、上段から思い切り剣を振り下ろした。
 甲冑は綺麗に裂けて、身体に直接裂傷が走る。
 両足の力が抜け、崩れ落ちた。

「やるじゃねえか、マグナ!」
「へへっ・・・よし、どんどん行くぞ!」

 フォルテの賞賛の声に嬉しそうな表情を見せると、戦場へとその身を躍らせた。

「・・・・・・」
「おにいちゃん?」

 そんな光景を見ていたは1人、マグナの後姿を追いかけていた。
 迷いなく振り下ろされる無骨な剣。
 舞い散る鮮血。
 他の皆は気にすら留めていない、『敵だから当然』とも思えるからだろう。
 むしろ、仲間を助けて感謝されて、嬉しいと感じて笑っている。
 当然のように思えて仕方がなかった。
 ・・・しかし。

「おにいちゃん!」
「!?」
「ボーッとしちゃダメだよ!」

 そんな彼の行為が、どこかおかしいと。
 戦闘中であるにも関わらず、頭のどこかで考え始めていた。
 初めて戦場に立って・・・いや、初めて人を斬ることで感じる恐怖感を、彼はまったく感じていなかったのだから。
 今までがむしゃらに戦ってきたにとって、その存在は明らかに異質だった。

 戦って、人を斬って・・・殺して。
 の場合は、そうしなければならないからと割り切って、その感情を押し殺していた。
 だからこそ、未だに戦うこと・・・力をもって争うことをを好きにはなれない。
 ・・・好きになってしまってはいけないのかもしれない。
 でもきっと、マグナは戦うことを好ましく思っているのだろうな、と。
 内心で、そんなことを考えていた。

!」
「!?」

 ユエルの、そしてハサハの声が意識を呼び戻せば、目の前には金髪の青年――イオスがいた。
 構え、冗談から突き下ろすようにその手の槍を振るう。
 その切っ先を視界に捉えて、瞠目した。
 突き出された槍の穂先を、目で追いきれていないことに。

「ちっ!」

 全身の筋肉を総動員して、身体全体の神経を研ぎ澄ませて、槍の先を見極め躱す。

 今は戦闘中。
 目の前の敵に集中しなければ、こちらの命を刈り取られてしまう。
 ・・・考え事は後回しだ。
 
 浮かび上がるその気持ちをすべて頭の片隅に追いやって、とにかくコトの収束を第一に考えることにした。
 視神経を研ぎ澄ませ、槍の軌道を見極めて。

「っ!!」

 刃を支える柄を狙って、刀を振るった。

「なっ!?」

 突き出された槍の先は見事に切断され、宙を舞っていた。
 そして。

「さて、と。お前さんには聞きたいことがあるからなあ。悪いが、拘束させてもらうぜ?」

 気絶し山積みにされた兵士たちを背に、フォルテはイオスを羽交い絞めにすることで、ようやく戦闘は終了した。
 しかし、には勝利を喜ぶ気すら起こらず、ただ無表情のまま、目を閉じたのだった。





はい。
なんか、話が変な方向へ進みつつあります。
ってか、今現在想定している今後の展開が、なんかドロドロしそうな感じで
いやはやなんとも・・・(汗。

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