「……ピクニック?」 応接間にてコーヒーを飲んでいたは、そんなミモザの一言にきょとんとしていた。 満面の笑みを浮かべるミモザと、その背後には苦笑するマグナとトリス。 そして、いかにも不満たらたらなリューグとネスティ。 ・・・まぁ、無理もないだろう。 今、自分たちは狙われている立場にあるから。 聖王都の中にいるからこそまだ小競り合いだけで済んでいる。 王都の外に出るということは、つまるところ『狙ってくれ』と言っているようなものなのだ。 要は、そんな状況でピクニックに行こうなどというミモザの意図が理解できないわけだ。 「あのさミモザ。いくらなんでもそれは早計すぎやしないか?」 「なんで?」 「なんでって・・・」 はぁ、とため息。 「俺たちって、一応追われてる立場なんだろ?」 そんな一言に、リューグとネスティは大きく何度もうなずいていた。 2人がピクニックに同行することになった経緯は、実は簡単。 ネスティは先輩権限を思いっきり押し付けられ、リューグはアメルの存在を出せば一撃だった。 しかし、は違う。 ミモザが先輩という立場ではないし、アメルの家族ではない。 それ以前に出会ってからまだそれほど時間は経っていない。 ある意味では、2人はの抵抗に賭けていたといっても過言ではないだろう。 「ここにいるから安全であって、一歩外に出たら何が起こるか・・・」 しかし、彼の言い聞かせるような言葉がとまった。 にへらと笑う彼女の目を、まるで考えを見透かしているかのような視線でじっと見つめて。 何を思ったのか、おもむろに立ち上がって。 「ユエル、ハサハ。ピクニック行くぞ」 「わ、ホント!?」 「・・・(こくり)」 屋敷のどこかにいる護衛獣2人に声をかけていた。 いきなりの心変わりに、リューグもネスティも目を丸めていたのだが、がそれを気にすることはなかった。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第14話 ピクニック 目的地は、ゼラムから少し歩いたところにあるという『フロト湿原』。 珍しい植物が生えているとかで、ミモザが勝手に決めて行動していた。 彼女の行動力にはというものだが。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・たはは」 その道中、は2対の視線に晒されて、苦笑していた。 誰か、とは言うまでもなくリューグとネスティである。 ゼラムの中だから、という理由で安全だとは限らない、というフォルテやケイナ、親睦を深められると気合いを入れてお弁当を作っていたアメル。 そして、楽しいこと好きなミニス。 彼らは最初からピクニック行きたい派だった。 行かない方がいい派は、この2人だけ。 最初は渋っていただったが、急に行動を変えたことに、不審感を抱いていたわけだ。 ちなみに、マグナとトリスはミモザに逆らうことすらできず、巻き込まれていた。 「裏切り者め」 そんな皮肉すら混じったネスティの視線を向けられて、苦笑していたのは言うまでもないだろう。 「そ、そんなに怖い顔するなって」 「てめぇ、なにたくらんでやがる?」 「たくらむだなんて、そんな」 「じゃあ聞き方を変えよう。ミモザ先輩と共謀して何をしようとしているんだ?」 もちろんそんな問われ方をしたって、ミモザの真意はわからない。 は読心術なんか心得ているわけでもないし、特に話し合ったわけでもないのだから。 しかし、彼らはそうは思っていないらしい。 ・・・というか、ネスティはすでにミモザとが共謀してなにかをしているものだと決め付けているのがいい証拠だ。 「あのね、ネスティ。俺は別に何も知らないし、何もたくらんでなんかいない」 「しかし・・・ッ!」 言いよどむネスティ。 のことがなくても、今回のピクニックは彼にとっては不本意なのだから、声を荒げてしまうのも仕方ないというものだが。 「よく考えてみなよ。ネスティ、リューグも」 自分たち・・・特にアメルが狙われていれば、どこにいたって同じ。 安全でないことに変わりはない。 2人はただ、前向きに行動するか保身に走るかを天秤にかけて、後者を選んだだけのことなのだ。 しかし、ミモザは違った。 前向き・・・かどうかはさておいて、戦いになることを承知で街から外へ出た。 同じ天秤にかけたうち、前者を取ったのだ。 だから。 「・・・きっと、なにか考えあっての行動だと思うよ。今回は」 は、彼女の提案に賛成したのだ。 「なに、いざとなったら全力でアメルを守る。そのための俺たちだ」 「そーそー。の言うとおりだぜ、お2人さん?」 しかめっ面はやめようぜ? そんな彼の一言と屈託もなく笑うフォルテを見て、2人は納得いかなそう表情で押し黙ってしまっていた。 それもそのはず。 ・・・ 「ふーん、それでケイナさん・・・ずっとあの人と一緒に旅してたんだ?」 「なんだか素敵ですよね、そういう巡り合わせ」 「素敵なもんですか。おかげでずうっと苦労しっぱなしで」 「とか言っちゃって、しっかり寄り添ってる辺りが・・・ムフフ」 「み、ミモザさんっ!?」 「あれれ、あやしいなぁ」 「と、トリスまでっ!!」 ・・・ 女性陣が、楽しげに話していたのだから。 知らないうちに、オレらはゆとりってものをなくしてたのかもしれねーな。 そんなフォルテの一言が、2人には堪えたようだった。 ● 「さ、到着したわよ」 そこは、まさに緑と青の世界だった。 草は青々と茂り、水面が風にたゆたう。 その間に取り付けられた木道が、枝葉のように分かれている。 すべてを探索するだけでも、かなりの時間を要しそうだ。 「このフロト湿原はね、見習い時代からの私のお気に入りの場所なのよ」 ここでしか見ることのできない動植物が多くて、観察するのが楽しかったとミモザは言う。 昔を懐かしむように。 正式な召喚師となって任務に出て行くことが多くなり、この場所にもあまり来なくなったのだろう。 「あっちにいる動物って、あたし初めて見るかも!」 「えっ、どこどこ!?」 「あっち・・・って」 トリスが指差す前に、ミモザは未だ見ぬ動物を探し草の中に身を投じていた。 あとはよろしく、の一言を残して。 結局、その後は各自自由行動となった。 時間的にはちょうど昼時で、アメルがこしらえたお弁当をみんなで食べてから。 彼女の作る料理にはイモがふんだんに使われていて、それでいて味にバリエーションがあって飽きが来ない。 それほどに、彼女の料理がいかに手が込んでいるかが見て取れる。 もちろん、美味しくいただきました。 「さて、と」 「ユエルたち、そこら辺ぐるぐる回ってくるね!」 「、2人を借りるからねーっ!」 「おーう」 ユエルはハサハと、仲良くなったミニスを連れて、木道を走っていった。 残ったはというと、手持ち無沙汰でやることもないので、まったり休ませてもらうことにする。 ふわふわする草の上に寝転んで、大きくあくび。 地面と草の間に水が入り込んでいるからふわふわするんだとフォルテが言っていたが、冒険者にとっては雑学は必須要項なのだとか。 そんな最高の環境に、天からは太陽が優しい日差しを与えてくれる。 「う〜ん、まさに至福」 自分たちが狙われているんだ、ということを忘れて、寝入ってしまっていた。 ● 「なぁ、バルレル。を知らないか?」 「あァ?」 マグナは1人、の姿を探していた。 ・・・否、1人ではなくトリスと共に、だ。 正確にはトリスと分担して、を探していたのだ。 彼と付き合いがあったバルレルに話を聞こうかと、こうして尋ねていたのだが。 「・・・知らねェよ。ま、アイツのことだからどこかで寝てンだろーけどな」 「レオルドも知らないか?」 と、バルレルの横に鎮座するレオルドに声をかけてみたのだが。 「・・・・・・」 答えが返ってくることはなかった。 しかも、その場で動かず微動だにせず、機能が停止しちゃってるんじゃないかとも思える。 実際には、レオルドは機能停止しているわけではない。 きちんと稼動しているが、その稼動しているセクションを最小限に抑えているだけなのだ。 「・・・彼は光をエネルギーにしているんだ」 「ネス」 レオルドに尋ねて答えが返ってこなかったことに右往左往していたのを見かねてか、ネスティがそんな説明を施していた。 彼いわく、一定以上の光をエネルギーとして体内に溜め込み、それを消費して稼動しているのだとか。 燃費はいいらしく、一度光を取り込めば長い時間動けるらしいのだが。 「そっか・・・じゃあ、仕方ないか」 「を探しているのか?」 「そう・・・ちょっと聞きたいことがあってさ」 いい機会だと思ったのだ。 十数年ほど前の話。路頭に迷っていた自分たちを助けて、今の自分たちを形作っている一言をくれた人。 確証があるわけではないのだが、トリスと話をしてみれば、彼女もそうではないかとにらんでいて。 考えに確信をもたらすために、彼の話を聞きたいと。 今までのことを聞いておきたいと思って行動していたのだが、肝心の彼が見つからない。 と、いうわけだ。 「ならさっき、向こうの方に歩いていったのを見たぞ」 「ネス、それホント!?」 「あ、あぁ・・・」 その迫力に押されて、ネスティはただうなずいた。 同時に、これが彼らにとってそれほど大事なんだということが理解できる。 ・・・自分にはできないことだったから。 兄弟子として、ただ彼らの世話してやるだけ。 話をして、わからないことを教えたりして。 ただ、今でもわからないことがある。 それは、彼らの在り方。 マグナは元々、召喚術が得意とは言えなかった。 もちろん、使えないわけじゃない。基礎を固めて、護衛獣を喚び出して、先日正式な召喚師にもなった。 そんな彼は得意でないから、という理由であっさり召喚術という力を切り捨てて、かたくなに剣を振るってきた。 そして、それは今も続いている。 トリスは逆に、肉弾戦よりも召喚術に特化していた。 だからこそ必死に勉強して、比較的高位の召喚術を行使できるようになっていた。 ・・・それが、派閥内で妬みになって彼女に襲い掛かったことも多々あったのだが。 彼らはそれでも、遊ぶときは遊んでいたし、なにより彼らに接することを拒んでいた自分の心を解放してくれた。 あれがなければきっと、今も彼らとは話すらできなかったかもしれない。 「ありがとう、ネス!」 笑顔で自分がマグナが離れていく。 いつか、在り方を望む理由が聞けたらと切に願った。 ● 「・・・隠れてないで、出てきなよ」 ふいに、はそんな一言を口にしていた。 彼の背後の背の高い草の中。 そこに、1人の騎士がいることを、彼が気づかないわけがなかったのだ。 彼が今いるこの場所を選んだ理由は、実はそこにあった。 その騎士は、彼も知っている人間だったから。 ・・・もっとも、一度出会っただけで、フルフェイスの兜を被っているから顔も、そして名前もわからないが。 「・・・いつから気づいていた?」 「ずっと前から。ここに来たときから、な」 さも当然のように言ってのける。 その一言を聞いてか、騎士はその草むらから出てきていた。 上半身を起こして、はその騎士を視界に収める。 漆黒の甲冑に兜。腰に無骨な大剣。 背丈はの顔1つ大きく、その腕の太さはそのまま腕力の強さを物語っていた。 「また、会ったな」 「ああ・・・」 立ち上がり、相対する。 殺気どころか戦意もない。 彼はこの場所で戦う気がまったくないことは、この場所に寝そべったときからわかっていた。 そうでなければ、無防備に刀を手放して寝入ったりはしない。 「その兜、取ったらどうだ? 暑いだろ」 「・・・」 そんな一言に数瞬考えたのか、沈黙の後におもむろに兜の左右に手を当てると、兜を取った。 同時に見て取れたのが、赤い髪。 島にいる教師たちとはまた違う、深みのある長い髪。 そして、同時に見せる精悍な顔つきは、自身が騎士であることを如実に物語っていた。 「兜の下は、そんな顔してたのか」 燃え盛るレルムの村では、炎が強すぎてシルエットしか見えなかったし、なにより兜は被ったままだった。 だからこそは軽く笑みを浮かべて、そんな一言を口にした。 「・・・なぜ」 「ん?」 何度目かの沈黙。 それを破ったのは、騎士だった。 「なぜ、お前はたった1人でこのような場所にいる?」 それは、ある意味では愚問だった。 は元々、進んで戦おうとは思っていない。 巻き込まれ、戦わざるを得ない状況だったから、今まで戦ってきたのだ。 出身だって争いのない平和な世界なのだから。 だからこそ、彼は。 「話が・・・したかった。なんで、レルムの村を壊滅に追い込んだのかを含めて、な」 炎の中で、別れ間際にはそう言った。 次に会った時にはなんでこんなことをしたのか、聞かせてもらうから、と。 またどこかで会おう、と。 だからこそ、この場所で。 「まぁ、簡単に話せないことはわかってるし・・・いずれわかると思うから、別に今は話さなくてもいい」 が巻き込まれているこの事件。 彼自身、かなりの大きさにまで拡大するだろうと予測は立てていた。 実際、今までだってそうだったのだから。 最初は島の存続に関わる事件に、次には都市そのものを舞台とした事件。 そして、世界の意思すらも巻き込んだ戦い。 それらすべてに関わってきた、ある意味で不運な人間だから。 疫病神だといわれても大差ない状況だったから今回もそうなってしまうだろうと、シナリオを悪い方向へと考えてしまう。 「だから、せめて」 いつまでも、『その他大勢』を指すような呼び名は嫌だから。 「名前、教えてくれ」 ただ、それだけは尋ねておきたかった。 それは単なる自己満足。 敵対する立場にいるはずなのに。実際は、敵対なんかしたくない。 人と人とのぶつかり合いがどれほど無意味であるかを、彼はよく知っているのだから。 「俺は・・・ だ」 「・・・俺は」 少しの沈黙の後、騎士が口を開いた瞬間。 「「・・・っ!!」」 銃声が響き渡った。 その方向へ向き直れば、仲間たちと黒い集団が交戦している光景が広がっていて。 今までの雰囲気がなりを潜めて、重たい空気が2人を支配していた。 「イオス・・・何を勝手なことをしているのだ・・・!」 騎士の怒りすら孕んだ呟きが聞こえる。 今のこの状況、彼にとっては不本意だったものらしい。 ギリリと歯噛み、その光景を凝視していた。 「・・・この状況は、そっちにとっては不本意なのか?」 「信じられぬかもしれないが・・・その通りだ」 刀の有無を確認して、一歩を踏み出した。 今のこの状況が不本意だというのならば・・・止めるのが筋というものだから。 その背中を見て、騎士は数瞬、目を閉じる。 「ルヴァイド」 「?」 聞こえた声に、は振り向く。 その視線の先には真剣な眼差しを彼に向ける騎士の姿がある。 「俺の名だ・・・この場において、部下の非礼を詫びる」 そう口にして、ルヴァイドと名乗った騎士は目を伏せた。 そんな彼を見て苦笑すると。 「・・・いいさ。それじゃ、戦場で会おう・・・ルヴァイド」 「ああ。次の戦場では・・・全力で、勝ちにいくぞ」 その言葉で、確信した。 目の前の騎士は、ゼルフィルドの・・・ひいては黒の騎士団の、指揮官なのだと。 かけられた言葉を背に受けて、は走り始めた。 目の前で行われている行為を、止めに行くために。 |
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