「おーい!」

 金ぴかの鎧たちを相手に奮闘する面々に声をかけた。
 マグナにトリス。バルレルとレシィ。そして、アメルにミニス。
 その場を動くことなく、襲い掛かってくる兵士たちと刃をかち合わせた彼らは、の声に気づくものの。

「ちょうどいい所に! 手伝って!」

 視線を向けることなく、トリスがそうのたまった。
 彼女は探検を手に、訓練された兵士を相手に互角の戦いをしている。
 ・・・いや、互角ではだめなのだ。
 実力がどっこいどっこいでは、頭数の劣る自分たちの分が悪い。
 あまりの数の違いが、それを如実に物語っていた。

「・・・なんだかよくわからないけど、了解だ」

 なぜ戦っているのかすらわからぬまま、は刀を鞘から引き抜く。
 その両隣をユエルとハサハが固めて、鋭い視線を兵士たちに、そしてその奥で指揮しているケルマへと向けた。
 こういった手合いは、指揮官を落とせば終わるのだから。

「2人とも、一気に行くぞ」

 そんなの一言に。

「うんっ」
「・・・っ(こくり)」

 ユエルもハサハも、うなずいて返して見せた。





    
サモンナイト 〜美しき未来へ〜

    第13話  愉快な人





「・・・貴方っ、何者ですの!?」
「あれの仲間だよ」

 くい、と顔をミニスたちへと向ける。
 それがいけなかったのか、たちがミニスの知り合いだとわかったからだろうか。

「わたくしはウォーデン家の当主であるケルマ・ウォーデン・・・正直にお話していただけないかしら」

 彼女を守るように剣を構えた兵士たちの間から、ケルマは一歩進み出た。
 彼らでは話にならないから、と。

「貴方・・・ワイヴァーンのサモナイト石を知りませんか?」

 そう告げた。
 彼はミニスの知り合いで、彼女よりも礼儀をわきまえている。
 きっと、包み隠さず話してくれるのではないか、と。
 そんなケルマの思惑は、見事に的中することになる。

 一方で、は彼女の家名に聞き覚えがあった。
 に関わっていたからこそ、その家名をよく覚えていた。
 さらに、その現当主ときたものだから、さらに驚く。
 まだ若い彼女が、一族のすべてを担っているのだから。
 だからこそ気になった。そんな彼女がなぜ、マグナやトリスたちと敵対しているのかを。

「なぜ、彼らと戦闘を?」
「質問に質問を返すのはいかがなものかと思いますが・・・まあいいでしょう。答えは簡単です」

 尋ねた途端、彼女は眉間にしわを寄せて青筋を浮かべた。
 なんでも、ウォーデン家の家法とも言えるワイヴァーンのサモナイト石を、ミニスが意図的に隠しているのだとか。

からも言ってやってよ! サモナイト石は持ってないって!」

 詠唱を唱えながら、ミニスはそんな一言を叫ぶ。
 は、マグナやトリスよりも彼女のことは知っているだろう。
 彼女が大事な友達をなくしたという事実を嘘として吹聴しないだろう、ということを。
 彼女たちが仲良くなる経緯を知っているからこそ、ない、なんて嘘をつくことはありえない。
 だからこそ、

「あのですね、ミニスは嘘をついていませんよ」
「・・・・・・」

 ます最初に、結論だけを口にした。
 彼女の探しているサモナイト石がシルヴァーナと誓約された石であることや、今、彼女がその石を持っていないことを。
 しかし、それを彼女が信じるわけもないわけで。

「貴方なら、あのチビジャリとわたくしの立場を知り、冷静な判断をしてくださると思っていましたのに・・・」

 あのサモナイト石は、マーン家とウォーデン家が戦って手に入れた戦利品なのだ。
 それに、以前も同じような形で彼女の家の1人の男が無様な姿を晒していた。
 サモナイト石はミニスの側を離れようとしなかったし、彼女が出てきたところで今更、な感じはするのだけど。

「やはり、あのチビジャリを問い詰めなければならないようですわね」
「だから、ミニスは持ってないって」
「もはや話す必要はありません!」

 の言葉を遮って、ケルマは自分の側の兵士たちに命を下した。
 この男を始末してしまえ、と。
 彼女を囲んでいた兵士は6人。単純にたちの2倍の人数がいたのだが。

「はぁ・・・」

 大きなため息をつくと、仕方ないといわんばかりに刀を振り構えた。
 ユエルもその手に爪を装備し、ハサハは宝珠を強く抱きしめる。
 鋼の剣を手に、明確な殺意もなく兵士たちは襲い掛かってくる。
 ・・・彼らはただ、自分の仕事をしているだけなのだ。
 だからこそ、彼らに罪はない。
 でも。

「・・・ユエル」
「まっかせて!」

 ユエルは大きく息を吸い込んで。

「ガアアァァァァァ!!!」

 大声を上げた。
 裂ぱくの気合をこめて、自分たちを倒す者だという明確な意思を兵士たちにぶつけ竦ませる。
 それが、彼女に使える唯一のスキルだった。
 声に驚き身を竦ませた彼らを前に、はハサハに指示を与えて地面を蹴りだす。
 ハサハは宝珠を頭上に掲げて、

「ちからを、かして・・・」

 召喚術を発動した。
 具現したのは、巫女服を纏った仮面の少女だった。
 周囲に青い焔を浮かばせて、その少女は笑って自らの敵を指差す。
 ふわふわと浮かぶ焔が敵に飛来し、

「ぐが・・・っ!?」

 携えていた剣を弾き吹き飛ばした。
 そこへ追い討ちをかけるように、が兵士の背後へ音もなく現れる。
 硬い甲冑を纏っているからこそ、守りの薄い足元を狙う。
 身をかがめて、見惚れんばかりの足払い。
 抵抗するまもなく兵士たちは地面に頭部を打ち付けて、昏倒する。
 鋭い目を変えることなくケルマを見据えて、刀の切っ先を地面に擦らせた。
 軽い装飾の施された床を斬りつけ粉塵立たせながら、

「・・・」

 赤黒い瞳だけを動かして、

「ユエル、ハサハ!!」

 そんな叫び声と同時に、再びその身を戦場へ躍らせた。
 同時にユエルも駆け出しと合流すると、互いに背中を向けて駆け出す。
 刀を具現させて残りの兵士たちの注意を引くハサハに続いて、は武器を吹き飛ばし、ユエルはその豪腕をもって剣を叩き折る。
 あれだけ圧倒的だった頭数が、ケルマを含めた数人だけとなるのに時間はかからなかった。

「――っ!!」

 その目は怒りがあった。
 いきなり現れたと思えば選りすぐられた精鋭たちをあっという間に打ち倒し、自分の前に立っている青年に対しての。
 刀を納めて仲間たちと合流すると、

「・・・よし、帰るぞ」
「へ?」

 いきなりそんなことをのたまっていた。
 仲間が危険だったから手を貸したのだが、その理由を聞いてみれば、なんとまぁくだらないことかと。
 はそう考えたのである。
 もちろん、彼の決定にユエルもハサハも反対するつもりはない。
 申し訳なさそうに苦笑しながら、彼の後に続いていた。
 余りの頭数の差が許せなくて、は彼らに手を貸しただけなのだ。
 今のうちに少しでも実戦経験を積んでおかないと、この先戦っていくことができなくなるから。
 ようするに、彼なりに配慮したのだ。

「ま、あとは頑張れ。ほどほどにな」

 ぽかんと大口開ける一同の中、ひらひらと手を振って買い物の荷物を取りに戻る。
 しかし。

「あれ・・・?」

 その歩みが止まった。
 眼前のベンチを凝視して、その身体を小刻みに震わせる。
 冷や汗がだらだらと零れ落ちて、地面に斑点を作り出した。
 彼が見ている先には、彼らが頼まれた荷物が置いてあったはずだったのだ。
 それが今。

「・・・ない」

 ――現場からも近いし、盗むヤツなんかいないだろ。

 そんな自分の言葉が蘇ってくる。
 このような人通りの悪いところで、盗みを働くようなものでもない荷物を盗む輩が、なんといたのだ。

「うあああど、どうしよう! どうしよう!」

 そして、それを見て慌てない人間などいないはずだ。
 もちろんも例外ではなくて。

「まさかホントに盗まれるとは思わなかった!」
、おちついておちついてよ!」
「お、おにいちゃん・・・」

 をなだめようとする2人の少女。
 彼女たちの努力もむなしく、しかしひとしきり慌てた彼は、声を上げることをやめて、肩を震わせた。
 必死に呼びかけて聞かなかった彼が、よくもまぁ止まったものだと思うわけで。

「ふふ・・・ふふふふふ・・・」

 しかし、彼はあきらめていなかった。
 自分たちが荷物から離れてからの時間は短い。
 3人で探せば、すぐに見つかるはずだから、と自分にいい聞かせて。

「この俺を相手に盗みを働くなんて・・・上等じゃないか」

 くくく、と笑い声。
 盗まれたならば、取り返す。
 やられたならばやり返す、という言葉とある意味で同義だ。

「見つけたらヒドイコトシテヤル・・・」

 そんな物騒な一言を残して、3人はそれぞれ別の方向に姿を消した。
 もちろん、内面で怒るの指示に従って。
 あの形相だ。何があっても犯人を見つけ出すんだろうな、とか一同が思っていた矢先。

「・・・やる気が失せましたわ」

 そんなケルマの一言が聞こえていた。
 しかし、それも確かに、と思う。
 いきなり現れたかと思えば兵士たちの大半を戦闘不能にまで追い込んで、何事もなかったかのように戦場を抜けてみれば荷物を盗まれて怒ってみせる。
 その光景を見て、ケルマを含めた一同は見事にやる気を削がれてしまったわけだ。

「アイツ、たまにアホなんだよな」
「たまにって・・・」

 呟いたバルレルにツッコミを入れたトリスは苦笑する。
 彼と古い知り合いだからこそ、そんなことが言えるのだろう。
 まだまだ付き合いの浅い自分に比べたら、そんなことを考えてしまうのも当然かもしれないね。
 なんて、心のうちで呟いてみたのだった。

「ゆ、愉快な方なんですね。さんって」
「アメル、それフォローになってないと思うよ俺」

 取り繕うように言ったアメルに、マグナは小さくため息をついたのだった。



 結局、ケルマはこの日、このまま退散してしまったことは言うまでもない。

「チビジャリ、次こそはワイヴァーンのサモナイト石を、この手に勝ち取って見せますわ!」

 そんな言葉を残して。


 ちなみに、ミニスのことと今回の一件については、マグナとトリス、そしてアメルの口から説明された。
 彼女が金の派閥の召喚師であることや、探しているペンダントがワイヴァーンを召喚するものだということ。
 そして、それを横から奪おうとしているのが、ケルマ・ウォーデンという貴族だということを。

 マグナとトリスは、派閥から帰ってきたネスティに散々怒られていたのだが、誠意をもって話し合った結果。

「・・・起こってしまったことは、仕方ない。今さら僕が口を出したところで、過ぎたことは変わらないんだ」

 好きにすればいいさ。

 不満そうにそう口にしたことで、事なきを得ていた。


 は未だに買い物から帰ってきていないのだとか。
 ・・・哀れな泥棒さんが、あわよくば無事でありますように。




オチが死ぬほど変でごめんなさい。
たまにはこういった回もなければ、やはり寂しいと思うんですよね。
ずっとシリアスばかりじゃ、読んでて疲れますし。
もっとも、この回のお話がギャグかって聞かれれば、そうでないとは思いますが(汗。

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