「で、なぜにミニスがいるのか知りたいわけだが?」

 ここはギブミモ邸の応接間。
 屋敷の中で一番広いこの場所に、メンバーが集結していた。
 中心には、金髪の少女とマグナ、トリス。そしてアメル。
 冒頭のの問いの通り、ミニスという名の少女だ。

「私のことより、。アナタがここにいることが不思議よ」

 子供らしからぬ毅然とした表情で、ミニスはそんな一言を放った。
 鮮やかな金髪に、同色の瞳。
 彼女の家名以前に、その姿かたちが彼女の母親の血を色濃く受け継いだことを強くイメージさせる。
 その母親は、ユエル。そしてバルレルにとっては戦友という間柄。
 将来が不安になったりする今日この頃なのだが。
 家名はマーン。
 貴族の家柄で、一抹の恐怖を覚えるその家名。

『かみなりドカーン!!』

 ・・・そんな一言を思い出すだけで、背筋が戦慄が走ってしまう。
 それを知るユエルは苦笑し、バルレルは表情は出さないものの、額に珠のような汗を浮かべていた。
 願わくば、ミニスが彼女に似ませんように、と。

「とにかく、いろいろとあったんだよ」
「そ、そうそう! ユエルたちはユエルたちで、大変だったんだ・・・よ?」
「なぜに疑問系?」

 そんなミモザの一言と共に突き刺さる視線に、、ユエル、バルレルの3人は軽く肩をすくめたのだった。





    
サモンナイト 〜美しき未来へ〜

    第12話  ペンダント





「3人とも、ミニスと知り合いなのか?」

 マグナの問いに、はうなずいた。
 彼女と直接の面識があるのは、彼だけだったからだ。
 ユエルもバルレルも、むしろ子供がいることに驚きが隠せなかったりするわけだが。

「以前、ミニスがサイジェントに来たことがあったんだよ」

 『無色の派閥の乱』の舞台となった街の名。
 一連の事件に巻き込まれ、核心が見え始めようとしていたその寸前の出来事。
 街中で突然、ワイヴァーンが暴走するという事件があったのだ(小説・サモンナイト〜帰るべき場所へ〜 参照のこと)。
 が『マーン』という家名に驚いたのはこのときのことだったわけだが。

「なるほど、私たちが知らないのも無理はない、ということか」

 時間的にはミモザとギブソンに出会う前。
 アキュートと和解した直後のことだ(当サイト連載における、49話後)。

「つくづく、君は厄介ごとを連れてくる性質タチらしいな」
「あ、あれは別に俺のせいじゃないデスヨ?」

 ・・・シャレになってません。
 ため息をつくネスティに、

「主殿、オ気ヲタシカニ」

 レオルドはそんな一言を発していた。

「あぁ、ありがとうレオルド」
「イエ、ソレガ私ノ役目デスカラ」

 ・・・へんな会話だ。

「・・・コホン。それで俺たちからみんなに、頼みがあるんだ」

 そんなマグナの一言と共に、ミニスがこの場にいる理由が聞かされた。
 1人の女性に追われ、逃げているうちに大事なペンダントを落としてしまった、との事。
 緑色の石がついたそのペンダントは、

「もしかして、シルヴァーナか?」
「・・・うん」

 皆に聞こえないような小さな声でたずねれば、ミニスも小さくうなずいた。
 その表情は暗い。

 シルヴァーナとは、ミニス持っているサモナイト石に誓約がなされた召喚獣だ。
 正確には彼女が誓約したわけではなく、古くから敵対関係にあった貴族と戦って勝利した際の戦利品らしいのだが。
 サイジェントで暴走したのも彼なわけだが、その事件をきっかけにして毛嫌いしていたはずのシルヴァーナが彼女の大切な友達になったわけだ。

 ・・・閑話休題。

 なんでも、その女性を撒くために狭い道を選んで逃げていたからか、鎖がちぎれてしまったらしい。
 それこそ彼女にも否があるかのような話だが、追われていた理由があまりに漠然としていたためか何も言えずにいたわけで。

「ユエルもハサハも知らないか?」
「・・・(ふるふる)」
「ユエルも知らないよ」

 ただたずねるしかなかった。
 もちろん、2人の答えはNO。そろって首を横に振っていた。

 目尻には涙が溜まっている。
 大事な友達だ。心配するのも当然といえば当然だ。

「まぁ、街ん中歩くときにそれとなく探してみてやるよ」
「そうね。私たちも手伝うわ」

 そんなフォルテとケイナの一言に、ミニスはお礼の言葉と共に頭を下げたのだった。


 ●


 一方、ゼラムの裏路地で、1人の男が緑の石を拾っていた。
 金の鎖につけられたその石は、ワイヴァーンが誓約されたサモナイト石。
 ミニスが探しているもの、そのものだった。
 召喚師風のローブに杖。
 どうすればこんな形に留めておけるのかすらわからない髪型。
 その表情には、笑みが宿っていた。

「・・・ワイヴァーンか。ユエルを探しに来て、こんなものを見つけるとはな」

 ・・・私は運がいい。

 一度、手の平の石を軽く握ると、男はその石をポケットに突っ込んだのだった。


 ●


「ついに追い詰めましたわよ、チビジャリ!」

 ペンダントを探して歩いていたトリスとマグナ、アメル。そしてミニス。
 レシィとバルレルも一緒になって、自分たちを見下ろす1人の女性を眺めていた。
 滑らかな金の髪に、身体のラインが浮き出ていて妖艶さすら感じ取れる薄手のローブ。
 そして、発されている金ぴかオーラ。

 彼女の名はケルマ・ウォーデン。
 金の派閥に所属し、ミニスの実家であるマーン家と長く対立しているウォーデン家の当主という立場の女性だった。
 そして、彼女の周囲を囲うように金ぴかの鎧を纏った兵士たちが十数人。
 戦う気マンマン、といったところだろうか。

「なにをエラソーにカッコつけてるのよ? 自意識過剰じゃないの、この年増女っ!!」
「年増って言うな!!」

 ・・・相当気にしているらしい。
 バルレルがどことなく楽しげに笑いながら、そんなことを口走っている。
 あおらないでよ、とトリスはジト目を向けた。
 っていうか、彼女をからかうミニスの楽しそうな笑みが、彼女の母を連想させる。
 ・・・背筋が凍りつきそうだ。

「あのう、すいませんがあたしたち、まだ用事がありますので・・・」

 失礼させていただきたいんですけど、と続けようとしたアメルの言葉をさえぎるように、

「ええ、別に構いませんわよ」

 ケルマはそんな答えを返してきた。

「ただし、出すものはきちんと出してもらいますけど」

 条件付きで。

「さあ、チビジャリ! ペンダントをお返しなさいっ!!」

 彼女いわく、ペンダント――ワイヴァーンを召喚するサモナイト石は、元々彼女のウォーデン家のものらしい。
 ならばなにか知っているのだろうが、今この場に彼はいない。
 そんな状況にマグナはため息を吐き出し、

「あの、今ミニスはペンダントを持っていないんですけど」
「だまそうとしても無駄ですわ。そこのチビジャリが持っていることはわかっているのですから」

 ・・・聞く耳持たない。というか、自分が正しいと信じてやまない様子。

「今更だけどさ。ウォーデン家のケルマって確か・・・」

 トリスが気づいた。
 金の派閥の中でも名門と呼ばれる召喚師の家系だということを。
 以前、そのような話を聞いた記憶を呼び起こしたのだが、

(う〜ん、は見えないよねぇ・・・)

 そんなことを考えつつ、苦笑した。

「ということは、ミニスってもしかして・・・」
「ご、ごめんなさい!」

 トリスが言い切る前に、ミニスは謝罪の言葉を口にしていた。
 もともとは彼女も、だますつもりはなかったのだ。ただ、言い出せなかっただけ。
 一緒に探してくれることが嬉しくて。

 ミニスやケルマの属する金の派閥は、利益のために召喚術を用いる組織。
 トリスやマグナ、ネスティの属している蒼の派閥は、世界の真理を追求するために召喚術を用いる組織。
 この2つの組織はあまり仲がよくない。
 だからこそ、ミニスは2人に謝ったわけだが。

「別に俺たちは、ミニスが金の派閥の召喚師だからっていう理由で付き合い方を変える気はないよ」
「そうそう。気にしないでいいから」

 マグナもトリスも、そう口にしつつ笑ってみせた。
 派閥がどうだ、ということ以前に、ミニスは2人の友達なのだから。

「ワイヴァーンを召喚するサモナイト石のペンダント・・・」

 あれはもともと自分たちの家の宝。
 ミニスに渡った経過はどうあれ、あるべき場所にあるのが本懐というもの。
 どのような手段を用いようとも、この手に取り戻す。
 それが、今の自分に課された使命なのだから。

「力づくでも、この手に取り戻させていただきますっ!!!」



 ・・・



「おにいちゃん、おみせはこっちだよ」

 ハサハを先頭に、は買い物に出てきていた。
 屋敷でヒマを持て余していたところを、またしてもミモザにつかまったのだ。
 何を買ってくるかといえば、の手に握られた紙に所狭しと書かれている。
 簡単に言えば、日常品の類だ。
 自分で行け、と言いたいところだったのだが、彼女もギブソンも任務で忙しいらしく買い物に行く暇すら余りないとの事。
 ギブソンにまで頼まれてしまっては、断るのも忍びないということで、ハサハとユエルを伴って買い物に出てきていたのだ。
 ハサハに案内されながら。

「いや〜、ハサハがいてよかったね。?」
「まったくだ。ハサハ様々だな」

 なんて言いつつ笑いあうユエルと
 長く離れていても、その間に何があっても、接し方を変えるつもりが2人にはないのだ。
 そんな光景をハサハは羨ましげに眺めつつ、

 ――いつか、ハサハもあんなふうになれるかな・・・なりたいな。

 そんなささやかな思いを抱いていた。

 ・・・

 で。
 ハサハの案内のおかげでつつがなく買い物を終えた3人は、両手に袋を提げて帰路についていたのだが。

「ねぇ、。あそこにいるの、バルレルたちじゃない?」

 ユエルが指差した先。
 中央に召喚師の銅像が立っている広い公園で、知った顔が金ぴか兵士たちと交戦していた。
 しかもその頭数の違いから、勝ち目が薄いことは明白。
 ただでさえ戦闘経験の浅い彼らでは、訓練された兵士たちに間違いなく負けるだろう。

「・・・手、貸してくるか」
「にもつ・・・あるよ?」

 そんなことを言いつつ歩き出したところで、いきなり出鼻を挫かれていた。
 ハサハの言うとおり、両手がリストのものでふさがっているため、武器を取れない。
 ・・・ていうか、ユエルとハサハにはあまり持たせていないからか、おそらく戦えないのは自分だけ。
 戦い方にもよるのだが、彼にそんな器用さなど求める者はいないわけで。
 はわたわたと周囲を見回して、

「・・・よし、あのベンチに置いておこう。現場からも近いし、盗むヤツなんかいないだろ」

 くい、と顎でベンチを指し示した。

「さて。なんで戦ってるのかはわからないけど・・・急ぐか」

 3人はお互いにうなずいて、駆け出した。





第12話でした。
ミニス登場&初ケルマ戦ですね。
この戦闘の後、湿原ピクニックイベントで、夜逃げですね。
ちょっと小説の内容を書きすぎたような感じもしますが、とりあえずこのままです。

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