「はぁ〜ぃ♪ メイメイさんのお店へようこそっ」 「・・・・・・」 「?」 この三つの台詞。 上から酔いどれ占い師、リィンバウムのエルゴの守護者、その護衛獣の順番だったりする。 で、ここは占い師の拠点である店の中。 守護者の青年がいつか見た店の内装と酷似しているため、目の前の女性が昔世話になった人であることを確信していた。 ・・・で、青年と護衛獣の少女がなぜここにいるかというと。 「あらら。せっかくの再会なんだから、もちょっと嬉しそうにしてくれてもいいんじゃなぁい?」 「・・・この世界じゃ、出会い頭に人の首根っこ引っつかんで街中引っ張りまわしてさらし者にした挙句、有無を言わさず店に連れ込むことを『再会』というのか」 あまりにマイペース、というわけでもなく、以前と変わらぬぶっ飛びっぷりというか、なんというか。 赤く、中華風の内装に、棚や壁に飾られている装飾品。 さほど広くもない店内の中心に置かれているのは、一卓の机と背もたれのない丸椅子が二脚だけ。 「まぁまぁまぁまぁ♪ そんなちっちゃいことなんか気にしない気にしない♪」 「・・・小さいことかな・・・?」 にゃははと笑う女性の前で首をかしげる青年のシャツのすそを、護衛獣の少女はくいくいと引っ張る。 抱いた疑問を解消するために。 「ん、どした?」 「・・・・・・だれ?」 「にゃ、にゃははは! そっちのアナタとは初めまして、ね・・・まぁたカワイイ娘連れちゃって!」 島のみんなにチクっちゃうわよん? おもちゃを見つけた、と言わんばかりに笑いながら青年のわき腹をひじで突付く女性は少女に向き直り、 「そういうこと言うな・・・って、ハサハ、彼女はメイメイ。この店の主・・・だと思う」 「思う、じゃなくって主なの! それに、とは昔馴染みなのよ」 よろしくね? 女性――メイメイは半ば強引にハサハの手をとり軽く握ると、その手を振り回すでもなく、ハサハの頭をぽんぽんと撫でたのだった。 「あれ、以外に普通な挨拶」 「天下のメイメイさんだって、場くらいわきまえてるわよぉ」 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第08話 彼の往く未来 「それじゃ! 唐突におひさし記念ってことで貴方の運命、一発占ったげちゃおう♪」 提案は、唐突なものだった。 特に昔を懐かしむでもなく、積もるような話もなく、なんの脈絡もなく。 の返答を待たず、彼女は一つの道具を手に奥へと続く扉から姿を現した。 「今後の貴方の吉凶を占うわよん」 鼻歌を歌いながら、メイメイは一連の過程をこなしていく。 その手つきには迷いもなく、彼女が占い師だということを思い知らされる。 一時で手の動きは止まり、眉をしかめた。 「・・・なんだ、よくないのか?」 「いや、面白い運勢が出たわねぇ、なんて思ってね」 当たるも八卦当たらぬも八卦、という言葉がある。 占いの話になれば必ずといっていいほど聞いたメイメイの口癖。 それは暗に、「占いは話半分に聞いておけばいいよー」なんていいたいのだろうとは勝手に解釈していた。 もちろん、彼は占い自体をあまり信じていない。 確かに先の未来がある程度わかっていれば対処がしやすい。でも、それをは望まない。 人生は、何があるかわからないから面白い。 そんなことを以前言ったら、幼馴染に笑われた記憶がある。 「じじくさいですよ」なんていわれて。 ・・・思い出したら腹立ってきた。 「このあと、貴方は思わぬ出会いをするみたいねぇ」 手元を眺めて、メイメイは告げた。 「探し人の手がかりも見つかるみたい」 「へぇ・・・」 自分の探し人。 それは、この世界でもたった一人だけだった。 召喚されて、戦いに巻き込まれて、それでもこの街で手がかりが見つかるとは。 こんな結果が導かれることだけでも、自分は運がいいと思わねばならないだろう。 「悪くない運勢だけど、当たるも八卦当たらぬも八卦。ま、話半分に聞いときなさいな」 メイメイは、やはりと同じように考えていたらしい。 ・・・ ハサハが振り返り、小さく手を振る。 その姿がかわいくて、思わずぶんぶんと大きく手を振ってしまった。 もともと、はミモザに買い物を頼まれていたのだ。 方向音痴の彼にそれを頼むのは、彼女の策略といえなくもないのだろうけど、彼は見事にその策略にはまるのだ。 ・・・策略というほど、複雑なものではないけれど。 二つの背中が人ごみに消え振っていた手を下ろす。 そこには、いつもの酔いどれ占い師ではなく、この世界に住まう一住人であり、占い師としての本来の彼女の顔があった。 「再会、葛藤、ゆらぐ信念・・・」 それが、あの青年に視た先の運命だった。 島でも、ヴァンドールでも、サイジェントでも、ここでも。 彼には安息の二文字はないらしい。 「また・・・厄介なことになるわねぇ」 人間として存在している自分と、巨大な力を持つ召喚獣としての自分。 その『ほんとう』はどちらなのか。 今在る自分の気持ち・・・信念が、どこにあるのか。 人間であり召喚獣である彼は、近い未来に問われることになる。 さまざまな思いが絡み合い、混乱を招くだろう。 そのとき彼は、きっと自らここへ来る。 ならば私は、彼にできる最大限の助言をしよう。 それこそが彼に対して自分にできる、昔馴染みであることも含めた最高の礼儀だと思うから。 「いつでも、頼ってらっしゃいな」 すでに見えない背中を望み、メイメイは手の酒瓶をぐいとあおったのだった。 ・・・・・・ 「さて、メイメイに連れまわされて時間も押してるし、さっさと買い物終わらせないとな」 「・・・なにかうの?」 そんなハサハの問いに、は渡されたメモに目を走らせる。 ミミズを並べたような文字なのだが、彼からすればこのくらい読むのは朝飯前。 島での勉強が役に立っている、ということだ。 しかも、書かれているものを見て、絶句。 『ギブソンがケーキ食べてるの見てたら、なんか食べたくなっちゃったのよ。だから、テキトーに辛いもの買ってきてちょーだいっ☆』 ・・・をい。 思わずツッコミを入れたくなりそうだ。 文末に自身のデフォルトされた自画像が入っているのがなんともテキトーっぽさをかもし出している。 某お菓子メーカーのイメージキャラクターよろしく口の端から舌先を軽く出してウインクしているものだ。 彼女らしいといえば彼女らしいのだけれども。 顔全体を覆うように右手を顔と重ねて方を落とすと、大きく息を吐き出す。 彼はまだ、この街に来たばかり。 街の食糧事情やら地理を理解しているわけではない。 「・・・ハサハ、商店街までの道・・・覚えてる?」 「うん」 「俺が前だと迷うから、案内頼めるか?」 そんな申し出を、ハサハは二つ返事で引き受けてくれた。 表情に変化はないが、白い尻尾が左右にふりふり動いて、どうにも微笑ましい。 を引っ張るように半歩前を進むハサハ軽く見下ろしながら、前方へと向き直った。 ・・・そのときだった。 「うわっ!?」 「ひゃぁっ!?」 が前から視線を離していた隙に、人とぶつかってしまっていた。 「すっ、すいません!」 よそ見していたのは自分だから、と目の前でしりもちをついた女性に手を伸ばそうとして・・・止まった。 驚愕で目を見開く。 ・・・ここは、リィンバウムだ。 異世界だからこそ、そっくりさんだっているかもしれない。 ・・・でも。 似すぎていた。 「こちらこそ、ごめんなさい・・・」 差し出されたの手を取った女性は驚きで声も出ない彼を見上げていた。 艶のある黒髪をショートカットにし、整った顔立ち。「チャームポイントだ」と豪語していた左目元の泣きボクロ。 まるで生き返ったかのように。 「かあさん・・・?」 記憶の中の母の顔そのものだった。 がまだ小さな頃。 大好きだった、母親の顔。 まさに、瓜二つ。 「あのぉ・・・?」 「えっ、あ・・・ごめん」 声をかけられて我に返ると、取り繕うように添えられた手を握り、引っ張る。 かけられた力の助けを借りて、女性は立ち上がった。 背丈はの顔一つ分小さく、『あのとき』のように見上げることもない。 じっと自分の顔を見つめるにどう対応していいのかわからないのか、目を合わせることすら気にしておろおろとふためいている。 「おにいちゃん?」 「いや・・・似てるだけ似てるだけ・・・って、あああなんでもないなんでもない!」 女性から視線をはずし、慌てふためく。 ハサハは終始首をかしげていたが、母に似たこの女性は、勢いよく首と手を振りまくるを見て、くすくすと笑みをこぼしていた。 落としていたバスケットを拾い上げ、中身の無事を確認するとへと向き直った。 「ぶつかってしまい、ごめんなさいでした」 女性はお辞儀を一つすると、に向けてにっこりと微笑む。 そのきれいな笑顔がさらに記憶の中の母と重なる。 夢か現か幻か。・・・その答えはもちろん否。目の前にいる女性は間違いなく自分の母親ではない。 微笑に押されながらもはそう自分に言い聞かせ、謝り返す。 元はといえば、人通りの多い場所でよそ見をしていた自分が悪いのだから。 「私、シエルっていいます。そこのケーキ屋さんで働いてるんですよ」 言葉どおり、彼女の服装は普通のそれとは違っていた。 スブルーを基調とした長袖のベストに同色のミニスカート。 そして、レースのひらひらがあしらわれた白いエプロン。 パッフェルが着ていた服とよく似たもので、彼女が指差したケーキ屋がパッフェルの言っていた店の名前そのまま。 彼女の同業者なんだということは、すぐに理解できた。 「配達が遅れてたんでちょっと急いでたんですよ。ぶつかったときにバスケットを落としちゃったんで、中身が無事でホッと一息です」 「・・・それに関しては本当に申し訳ない・・・中身が無事でよかったよ」 「い、いいえぇ。中身は無事だったわけですから、気にしなくてもいーですよぉ」 彼女の持っていたバスケットを流し見て、苦笑する。 謝られたことに驚くように空いた右手でぶんぶんと慌てたように手を振り乱した。 「俺は。こっちはハサハ。あそこの屋敷で厄介になってる」 言いながら、高台にある屋敷を指差した。 彼女も「ほぇ〜・・・」なんて呆けつつその先へ視線を走らせている。 見ての通り、彼女は召喚師ではない。 だから、高級住宅街になんぞ配達以外では近づいたこともないのだろう。 「まぁ、居候の身だからそんなに目ぇ輝かされても困るんだけど」 「あああっ、すいません! ・・・ってそうだ、私は今急いでるんでしたよ!」 思い出したかのようにシエルは声を上げる。 彼女は急いでいたのだ。ただでさえ人不足で配達が滞っているのに、こんなところで油売っている。 それがよろしくないと気づくことに、さほど時間はかからなかった。 「そっ、そそそそれじゃあ・・・! 私行きますね。それじゃまたどこかで!!」 「・・・てつだ」 うわわわ急がなきゃぁ―――っ!! 手伝おうか、と申し出ようとしたのだが、彼女はに背を向けるとあっという間に飛んでいってしまった。 人ごみを器用に避けながら。 いなくなってから改めて考えると、すごい身体能力だと思う。 今回の場合は、その身体能力が功を奏しているわけだけど。 「・・・忙しないな」 無理もないと思うけど。 「いそがないと・・・かいもの・・・」 「おおっとと!? そうだった、急ごう!」 ハサハ、案内頼む! ・・・こっちも忙しないやん。 |
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