「ああ・・・」 やっと。 やっと、ここまで辿り付いた。 いやいやとにかく長かった。 「ははは・・・」 天国のお母さん。 なんか、数年分くらいの体力を使い切った気がするよ・・・ まさか接客業がここまで過酷だったとは思わなかったよ。 主な仕事はウエイター。 「似合わない」などと軽く恥らいつつ、オレンジのエプロンつけて右往左往していたのだが、主に女性客から注文が殺到。 しかも指名してくるもんだから、それこそてんてこ舞いだ。 っていうか、指名ってどーなんだろう? なんて放心しながら、はパッフェルに連れられて大きな屋敷へとやってきた。 両手には大きなバスケットを抱えて。中は見てるだけで胃がキリキリ痛みそうなくらい大量のケーキだったりする。 なんで、ここの家主は超がつくほどの甘党なんだとか。 ・・・・・・信じらんねえ。 背中に哀愁を漂わせながらうなだれているとは反対に、パッフェルは満面の笑顔をそのままにぴょんこぴょんこ跳ねつつ屋敷の扉をノックする。 「ごめんくださぁ〜い!」 しかし。 「・・・誰も出てこないな」 「どうしたんでしょうかねぇ」 もう一度呼びかけてみる・・・・・・・・・・・・・返事ナシ。 思い切って扉の取っ手に手をかけると、ギィ、と音を立てて開いたのだった。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第06話 どっちにつくんだ? ギブミモ邸の客室。 応接間という広い場所があるというのに、この部屋で輪になっているのにはそこはかとない理由がある。 それは追々書き綴るとして、今現在、彼らは先ほどまで戦った黒い軍隊のことについて話をしていた。 完全に統率され、『軍』としての能力を最大に生かした、標的を絶対に逃がさない布陣。 表口も裏口も完全に封鎖されていたのだが、それでもなんとかアメルを守りきることが出来ていた。 相手は訓練を積んでいる兵士ばかりだったというのに、だ。 そして、その軍隊の頭目と思われる2人。 槍使いのイオスと、機械兵士ゼルフィルド。 後者はとハサハのコンビネーションであっという間に撃退できたけど、前者である槍使いイオスの強さも侮れないものがあった。 「やっぱり、くんの存在が大きかったわね・・・」 そう口にしたのは彼の強さを目の当たりにしたケイナだったりする。 それこそまさにゼルフィルドがあまり強く見えなかった理由だった。 逆に言えば、の戦闘力が反則的に高いのだ。 「イオスも強かったよ。俺、こう見えて剣の腕には結構自信があったんだけど」 そう口にしたのはマグナだった。 彼は召喚術があまり得意でなかったためか、派閥でも数少ない剣の使い手を相手に訓練していたのだ。 反対にトリスは腕力よりも召喚術。知識の飲み込みは人より早いくらいだったのだが。 周囲の目すらも気に止めず訓練を続けてきたマグナでも、イオスの巧みな槍術に翻弄されつづけた。 実戦経験が薄い、という部分で不利だった、という理由もあるのだろうけど。 「あの黒騎士だけでもうんざりだってのにな」 フォルテの言だ。 彼は冒険者で、数々のはぐれ召喚獣や盗賊を相手に大立ち回りしていたのだが、燃え盛るあの村で見た『黒騎士』は、その彼の力をはるかに上回る実力があると、本能的に理解していた。 「待たせたな、みんな」 「騎士団の人たちには、強盗に襲われたってことにしといたからね」 話のキリのいいところで、ゼラムの騎士団と話をしていたギブソンとミモザが戻ってきていた。 先ほどの騒動の顛末を説明していたところだったのだ。 すまなそうに目を伏せるネスティを見ていると、なんだか申し訳なくなってきそうだ。 「敵の正体がわかるまでは迂闊に動くのは危険すぎる。しばらくはここを拠点にして、相手の出方を探るべきだな」 ギブソンは、彼らにとって嬉しい提案をしてくれた。 実際、拠点となれる場所がなかったのは事実だ。 蒼の派閥にはおそらくもう入れないだろうし、レルムの村も焼け落ちている。 だからこそ、ギブソンの提案はまさに渡りに船、というわけだ。 「でも、それだと先輩たちに迷惑が・・・」 「もう、トリス。いつまでも同じこと言わないの!」 眉を垂らすトリスに向けて、ミモザはあっけらかんに言い放った。 先輩命令よ、と。 横暴なのだが内容が内容だけに、逆らう理由も見つからない。 「ま、俺たちはそれでいいとしてだ。問題は・・・」 あの3人だな。 フォルテはそう言うと、その3人がいるだろう応接間の方角へと顔を向けた。 そう。彼らが狭い客室で輪になっている理由。 それは、レルムの村に住んでいた3人・・・今回一番の被害者である彼らのうちの2人が、思い切り口論しあっていたからだった。 「ちょっと、様子を見てこようか。行こう、トリス」 「あ、うん」 「ま、ままま待ってくださいご主人様!」 「・・・けっ」 率先して様子を見に行くため部屋を出て行く双子兄妹と、その護衛獣。 彼らは主についていくべく、部屋から出て行った。 特にバルレルは不本意そうな顔をしていたが。 「・・・でだ」 「そうね」 取り残されたメンバーのうち、ギブソンとミモザはそれぞれの部屋をぐるりと見回す。 「・・・おにいちゃんが、いないの」 しかし、彼らが言う前にハサハがそんなことを口にしていた。 2人が言いたいことそのままだったため、顔を見合わせて苦笑する。 ハサハは胸元に抱えた宝珠をぎゅっと抱きしめて、表情を曇らせていた。 「・・・そういえば」 「てっきりいるもんだとばっか思っていたんだがなぁ・・・」 口々にそんな言葉を口にするものの、改めて部屋を流し見ると確かにの姿がない。 「戦いが終わった時にはいたと思うんだけどねぇ・・・」 ミモザは誰にともなく呟くと、ぱっと思い出したように笑う。 安心させるようにハサハの肩をぽんぽんと叩くと、「大丈夫よ」と彼女に告げた。 その笑顔に、どこか含みがあったのは気のせいだと思いたい。 ・・・ 一方、マグナとトリスは3人の様子を身に来てみれば、案の定だった。 怒りの表情を顔に表しロッカを睨みつけるリューグと、自分の意志は絶対に曲げないと言わんばかりに真っ直ぐ視線を弟に突き刺すロッカ。 2人のにらみ合いを心配そうに、それでいて悲しそうな目で見つめていたアメルの姿がそこにはあって。 「ちょっとちょっと、2人とも落ち着いてよっ!」 「そうだよ。問題なのは、君たちがどうしたいかだろ!?」 つい、止めに入っていた。 「僕たちがどうしたいか、ですか?」 「はっ、そんなもん聞くまでもねえだろ」 マグナの一言に淡々と答えを返したのは、リューグだった。 攻撃的な性格であり村のことを人一倍想っていた彼は、村を焼け野原にした黒騎士たちが許せない。 だから、相手がどんなヤツらであろうとも、構わずまとめてぶっ殺す。 それが彼の意見だった。 しかし、ロッカはそれをよしとしない。 敵は強い。今まで相手にしてきたならず者たちとは次元が違うと、彼は戦火の中、肌で感じていたのだ。 だからこそ、時を待とうと考えた。 無駄な犠牲を出さず、争いを起こすことをよしとはしない。 まったく、兄弟そろって真逆の意見をぶつけ合っていた。 だからこそ、彼は言う。自分たちの力では黒騎士たちには敵わない、行けばたちまち殺されると。 それが事実なだけに、リューグはいても立ってもいられず、 「言うな・・・ッ!!」 ロッカを殴りつけたのだった。 ・・・ 「し、しつれいしま」 「言うな・・・ッ!!」 「!?」 身体を半分中に入れつつ、パッフェルは家中に響き渡った声に驚き動きを止めていた。 声と同時に、乾いた音も・・・何かを殴りつけたような音も聞こえる。 はパッフェルの肩に手を置くと、軽く笑って見せた。 「君は仕事に戻ろう。あれは彼らが解決すべきことだから。っていうか、俺今、ここに居候させてもらってるんだよ」 「え、そうだったんですか」 この一件に、彼女は関わる必要がないと思うから。 バスケットは明日にでも取りに来て、と告げると、彼女は軽くうつむきつつも了承してくれた。 彼女の背中を見送りながら、全部で4つのバスケットを抱えて中に入ると、声のした方角へと足を進める。 「何度だって言ってやるさ! 僕たちじゃあいつらに勝てっこない! それがわからないのかリューグ!?」 「それじゃどうしろって言うんだよ・・・死ぬ目に遭わされて、村をメチャクチャにされて」 リューグはぐっと歯を噛み締めると、 「アンタは悔しくないのかよ、ええッ!? 泣き寝入りしろって言うのかよ!!」 はその怒声を聞きながら、入り口の前で足を止めていた。 成り行きでここにいる自分に、あの場所へ行く資格はないと思ったから。 っていうか、彼らが解決するべきことだと思ったから。 中にはマグナとトリス。護衛獣のバルレルとレシィのほかに、目の端に涙を溜め込んだアメルと、いかにも「怒ってます」といわんばかりに表情をゆがめているリューグ。そして、頬に痣を作っているロッカの計7人。 話の内容は、会話自体から理解できていた。 自分たちが今後どうするか、ということだ。 村を焼かれ、死ぬ目にすら遭わされた自分たちが、これからどうするか。どうするべきか。 「それで争わずにすむのなら、そうするべきだ」 2人の意見は、真っ向から反発しあっていた。 どうすればここまで180度真逆の性格になれるのだろうか。 これ以上無駄な犠牲を出すことはない、と言い放つロッカの言葉にリューグは大きくため息を吐くと、マグナとトリスへ向き直った。 何を言っても無駄だと思ったのだろう。 「マグナに、トリスだったな」 そんな言葉に、2人はうなずく。 「ご覧の通り、俺とこの野郎の意見はまっぷたつさ・・・で」 アンタたちはどっちにつくんだ? と、リューグは問うた。 たまたまこの場にいたから、意見を求められたのかもしれない。 いなければいなかったで、他の誰かに尋ねたりするかもしれない。 あるいは、結果も出ずに膠着してしまう可能性だってあった。 しかしこの問いは、自分たちに答えられるものではないと、特にマグナは考えていた。 なぜなら、これは彼らの問題であって自分たちの問題ではないから。 確かに、自分たちは聖女の奇跡をその目にするためにレルムの村を訪れた。 それなのに村は全焼、村人は全滅。 悲しい出来事の後だからこそ、周りが見えなくなっているのだろう。 だから、マグナは一歩前に出ると。 「とりあえず、2人ともバカじゃないのか?」 笑顔でそうのたまっていた。 「ククク・・・ッ、ハハハハハハッ!! いいぜニンゲン、お前サイコーだっ!」 ぽかんとマグナを見ている一同と、愉快そうに高笑いしているバルレルが見えた。 |
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