「や〜、今日もいい天気ですね〜」 活気ある商店街を、私は闊歩しています。 お気に入りのバスケットいっぱいに荷物を入れて、ずっしりとしたそれを抱えるように両手で持って。 中に入っているのはゼラム中の人々へ宛てた手紙の数々です。 そう。 今の私――パッフェルの仕事は、郵便屋さん。 もっとも、今がたまたま郵便屋さんなだけでこのあとケーキ屋でアルバイトも入っていまして。 昨日は今日と同じ郵便とケーキ屋、一昨日は郵便とレストランというように、郵便屋さんをメインに結構な数の仕事を掛け持ちしているんですよ。 すごいでしょ? ケーキ屋のアルバイトは待遇がすごくいいから、働けば働くほどお金が貯まるんですよ〜。 なんでそんなにお金が欲しいかと申しますと・・・ ――島に残っても、君の願いは叶わないよ。 ――幸せになってください。それが、私たちの願いです。 ――自由に、光の中で生きてみなよ。君ならきっと、幸せになれるからさ。 失意と、深い深い闇の中から私を救い上げてくれた人たちに伝えたいことがあるため、なのです。 そのために、彼らのいる島までの旅費を貯めているのですが・・・いかんせん国越えをしなければなりませんから、ちょっとやそっとじゃお金は貯まらないのですよ。 まったく、世知辛い世の中です。 「何か、いいことが起こりそうな気がしますねぇ」 吹き抜ける風を感じながら、人々でごった返す中をひたすら、ただひたすら目的地まで向かいます。 この風を、島のみなさんも感じていらっしゃるのでしょうか? 物思いに耽ってしまうと、必ず考えているのはあの場所での出来事なんです。 それほど、私の心に大事に大事にしまってあるのです。 絶対に忘れることがないように。 ・・・え? 何を伝えるのかって? ・・・簡単ですよ。今の私が、こうしてここにいることを、です♪ サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第05話 幸せですか? 「お疲れさん、明日も頼むぜ!」 「はいはい〜、それではお先に失礼しま〜すっ!」 また明日です〜。 私は郵便を配り終えたときには、お昼時。 このままこの後の仕事場であるケーキ屋さんへ直行してお昼を食すわけですが。 「・・・今日はちょっと回り道、してみましょうか」 少し終わりが早かったため、繁華街を通っていくことにしました。 郵便屋さんの建物が街外れにあるので、本来なら繁華街を通らずともケーキ屋さんへはたどり着けるんですけど・・・いやまぁ、なんとなくですよ。 空は青く澄んでいて、照りつける太陽の光も身体を撫でる優しい風も気持ちがいい。 「次のバイトの時間までまだ時間がありますねぇ・・・う〜ん・・・」 少しばかり考えたあと、ぽんと手を叩いて。 「そうだ、公園でお昼にしましょう!!」 お金の節約のために持ってきたお弁当を手に、公園へと向かいます。 そう、思い立ったが吉日と言わんばかりに。 暖かな日差しと柔らかな風を感じながら。 ・・・それが、よかったのでしょうか? いざ公園にたどり着いてみると。 「はぁ〜・・・」 1人の男性が、花壇の脇に腰掛けておりました。 年の頃は20代寸前といったところでしょうか。 隣には刀が立てかけてあって、その背中には哀愁が漂っている・・・ように見えます。 しかもよく聞くと・・・ 「なんでってこう、俺ってば気づけばこんなトコにいるんだろうなぁ・・・」 ・・・激しく自己嫌悪に陥っているようです。 「大体、最初裏口の目の前にいたじゃないかよ・・・」 「そうですねぇ。裏口が目の前にあって気づけばこんなところにいるなんてぇ」 「あー、わかってくれます? ありえないよなぁ〜・・・」 いつの間にやら、私は彼の隣に座っていました。 声が・・・いや、声だけじゃなく背格好も服装も使っている武器もいつか自分を救ってくれた青年にそっくりだったから・・・・・・・・・かもしれない。 「前からずっとこーなんだよな。今まで旅とか結構してきたけど、地図と方位磁針がないと絶っっっっ対に迷うんだよ」 「だったら、旅とかしなければいいのでは?」 「いや、そういうわけにもいかないんだよ。旅に出なかったら出なかったで近場へ出かける事だってあるだろうし、そうなれば結局迷うし・・・」 「それなら、地図を常時持っていればいいんじゃないですか〜?」 「まぁ、そうなんだけど・・・俺、どうしても旅に出たくてなぁ」 コチラを見ることなく、答えを返してくれています。 その答えになんていうか大変だなぁとか思うわけですが・・・ ・・・旅好きなのか、迷い癖でもついているのでしょうか。 いや、旅好きなのに、迷い癖がついているんでしょうね。きっと。 なんていうか、えっらい難儀な人ですね・・・。 「最初は見聞を広げるだけのつもりだったんだけど、気づいたらなんか大きな戦いに巻き込まれるし、いきなり修羅場に召喚されるし・・・しかも二度も!」 「召喚って・・・貴方、召喚獣さんだったんですか・・・っ!?」 「へっ? あっ、あぁ・・・いやその・・・って、うわ」 ここで、初めて彼は私の顔を目にしたのです。 驚いたのは・・・こちらのほうでしたけど。 なにせ、その顔が昔私を救ってくれた彼と、瓜二つだったのだから。 「・・・なんかすいません。見ず知らずに貴女に変なことを話してしまって・・・っていうかいつの間に俺の隣に」 「・・・・・・う」 「男の癖にぐちぐちと自己嫌悪ばっかで・・・って、あの〜?」 「うあ・・・あ・・・」 開いた口が塞がらないというのは、このことを言うんでしょうね。 顔を見てわかったんです。直感とでもいいますか、過去の記憶が、目の前の彼をあのときの『彼』だと。 組織の駒として切り捨てられて、それでも組織に縋るしか生きる術を知らなかったあのときの私を、失意という名の泥沼からすくい上げてくれた彼だと。 そんな彼がなぜ老いることもなくここにいるのかとか、そんなことはどうでもよくなちゃいまして。 「あ・・・あぁ・・・っ!」 「もしも〜し、どうしましたか・・・ってぇ!?」 気が付いたら、彼に抱きついていたんです―――― 「ちょ、ちょっと・・・」 「覚えて、いませんか?」 「へ・・・?」 わからない、といった表情の彼を見て、私は溢れ出る涙をそのままにくすりと笑う。 じーっ、と彼は私の顔を見て、うんうんと唸っている。 以前とは180度変わってしまったから、わからないのかもしれない。 それでも、いいと思う。 「私は、貴方に救っていただいた者です」 今日という日は、なんという日なんだろう。 たまたま、すべてが偶然起きた出来事だったから。 仕事が早く終わって、何をしようと考えた結果公園に行こうと思い立って。 彼は迷い癖のせいで本来いるべき建物の裏口が目の前にありながら気づいたらこんな公園にいて。 まさか、願いの1つがこんなに早く叶うとは思いもしなかった。 「・・・ごめん、わからない。名前、教えてくれるか?」 彼がわからないということは、私が変わったという証拠。 だから私は嬉しくて。満面の笑みを浮かべて、こう告げた。 「パッフェル。私の名前は、パッフェルです」 私の名前を。 私の『今』の姿を。 ・・・ いやしかし、困った。 いきなり隣に人がいて、しかも顔を見た瞬間に自分に抱きついてくるなんて。 ・・・しかも泣いてるし。 名前がわかれば思い出すかもしれないと思い立ち彼女に尋ねてみれば、彼女の名前は『パッフェル』というらしい。 ・・・ どこかで聞いた名前だ。 どこだったか、この世界に来てからこっち、一日が濃すぎるから、その名前を聞いたのも随分昔な気がするが・・・ 「あぁっ!!」 思い出した。 そうだ、島で敵として出会った女性の本当の名前だ。 組織という籠の中でしか生きる術を知らず、生きることを人生で最初の選択肢とした。 籠を飛び出し、最初の一歩を踏もうとしていた、あの人だと。 「まさか・・・」 思わず指差してしまう。 あの時はすまし顔というよりは無表情に近かった彼女の顔には、笑顔が宿っていたから。 心から笑っているのだと、伝わってきたから。 「ヘイゼル?」 「・・・はいっ!」 ・・・驚いた。いや、本気で。 ・・・ 「なるほど。あの後、ここまで時間を跳んできたわけか」 「そうなんですよぉ。しかも若返っちゃったりして、嬉しいというか恥ずかしいというか・・・」 島の存亡をかけた最後の一戦に望む前に、は某酔いどれ店主に頼んだのだ。 『この人を、連れて行ってくれ』と。 戦う必要なんてない。だから、平和な場所で幸せになって欲しかった。 自由を許されない場所で、道具として生きてきたからこそ、自由という光の中を歩いて欲しかったのだ。 「しかし・・・」 「な、なんですか?」 まさか、ここまで変わるとは思わなかった。 傷ついた彼女を助けたのは自分で、責任を取ると豪語したのも自分だ。 だからこそ、その本人がここでこうして笑っていることが、嬉しくて仕方ない。 っていうか、本当に本人かと疑いたくもなってしまうわけで。 「本当に、ヘイゼルなんだよな?」 思わず聞いてしまっていた。 「当たり前ですよぉ。っていうか、今はパッフェルって呼んでください・・・『ヘイゼル』は、組織での名前ですから」 そう。 今の彼女は、組織の暗殺者じゃない。 自由に光の中を生きてきた、鉄腕アルバイターなのだから。 そう口にすると、は笑って。 「そっか。そうだったな、パッフェル」 彼女の名前を、言い直した。 「とりあえず。再会のお祝いも兼ねて、お昼ごはんをご一緒しませんか?」 お弁当があるんです、とパッフェルは手のバスケットの蓋をぱかとあける。 そこには、綺麗に並べられたサンドイッチが入ったケースが1つだけ、入っていた。 ケース自体はそれほど大きいものではなく、大人1人が食べてお腹いっぱいな程度の量。 それを2人で食べれば間違いなく途中で空腹に苛まれてしまうだろう。 「・・・いいのか?」 「もちろんですよ!」 「仕事中、お腹すくぞ?」 「大丈夫ですって! 一食くらい抜いたところで、人間死にはいたしません!」 拳にぐっと力を込めて、パッフェルは豪語した。 確かに、人間は一食や二食抜いたところで死ぬことはない。 その分、エネルギーを消費しないために動くことをしなくなるから、本末転倒な気もするが。 「私が、食べてもらいたいんです。貴方に心を救ってもらったから、今ここにいられるわけですし。そのお礼も兼ねて、ですよ」 「・・・そか。じゃあ、もらおうかな」 手のひら大に切り分けられたサンドイッチを1つ手にすると、口に運ぶ。 しゃり、という野菜を噛み砕く音が聞こえる。 彼は自分がかじった部分を見つめて、 「・・・うまいな」 「それはよかったです♪」 ・・・ そんなこんなで、2人で並んで軽すぎるほどの昼食を摂った後。 お互いの近況やら世間話やらをしていたのだが。 「うあぁっ!!」 「うぉっ!?」 はいきなり大声を上げて立ち上がったパッフェルを見て、驚きの声を上げていた。 「たっ、たたた大変ですさん! 話してるのがあまりに楽しくって、この後お仕事あるの忘れてましたぁ!!」 「・・・で、間に合うのか?」 その言葉を聞いた途端、彼女は肩を落とし、 「うるるる〜〜〜〜・・・」 滝のような涙を流していた。 なんていうか、コミカルに。 「・・・間に合わないんだな」 そんな彼女の様子を見つつため息をつく。 パッフェルはがばぁっ、とに抱きつくと、今度は。 「お願いします! 後生ですから、仕事手伝ってください!!」 「おいおい、俺は接客なんかしたことないぞ」 「大丈夫ですから! さんなら出来ますから!」 店の手伝いを懇願しだしていた。 両腕をしっかと掴んで、涙で目を潤ませながらパッフェルはの身体を前後にゆする。 ひどく必死に頼み込んでいたからか、その光景が常軌を逸していたというかなんというか。 店長にこっぴどく叱られるのを回避したからといった理由が見え隠れしているような気がする。 かといって、せっかく自分を頼ってくれているのにそれをふいにしてしまうのは彼の性格的にダメな気がしたから。 「・・・わかった」 「うわっ、ほんとですか!? 助かります〜!!」 了承してしまった。 「そうと決まれば、早速逝きますよ!」 「おい、変換間違ってるぞ!」 「気にしない、気にしない♪」 「気にしろって!」 パッフェルはの首根っこを掴んで、一目散に走り始めていた。 もちろん、空いた手にはバスケットと、の刀を持って。 どこからこんな力が出てるんだろう、と思うくらいに、まるで風のようなスピードで走るパッフェルを見ると、彼女は本当に楽しそうに笑っていた。 「パッフェル」 「なんですか〜?」 「・・・今、幸せか?」 その問いに一度目を丸めると、次には満面の笑顔を浮かべて。 「はいっ!!」 そんな答えを返してくる。 みんな。どうやら俺は、責任をちゃんと果たしていたみたいだよ。 遠く離れた第二の故郷へ向けて、はそんなメッセージを飛ばした。 |
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