銃弾が撃ち出された。 マズルフラッシュと同時に対象に届くその威力は、大の大人すら容易く吹き飛ばす。 目標はもちろん、鍵である少女を守るように立ちふさがった1人の青年で。 事を荒立てないためにと腕、そして足を狙った・・・はずだった。 「んっ!!」 鈍い金属音と共に腕に響く強い衝撃。 腕と足を狙ったはずの銃弾は、彼の足元で糸のような白い煙を上げていた。 その光景に、敵だけでなく味方であるケイナやロッカですら目を見開く。 速すぎて見えないはずの銃弾を、彼はたって1本の刀ですべて叩き落したのだから。 「んー・・・ちょっとつらいかな」 その場で刀を一振りして、呟く。 後ろで武器を構えていたトリスやロッカ、ケイナとアメルの目には、刀の周囲に白いもやのようなものがかかっているように見えた。 「ハサハ」 背を向けたまま、顔だけを軽く向ける。 呼ばれたハサハはその表情だけでなにかを察したのか、胸元の宝珠をぎゅっと抱きしめていた。 「・・・(こくこく)」 「よし、それじゃいくか」 戦闘中であるにも関わらず、青年――は刀を鞘へ納め、腰を低く落としたのだった。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第04話 示された力 静寂。 その場は水を打ったかのような静けさに包まれていた。 それだけで見ると、とても戦闘中であるようには見えなくて。 「いっくわよぉ〜、ペンタ君ボームっ!!」 1人術の詠唱をしていたミモザの召喚術が、ものの見事に炸裂していた。 爆音と共に、数人の兵士たちが爆風を浴びて吹っ飛んでいく。 さらに、発生した煙を利用してバルレルが肉薄する。 武器がなきゃ困るから、と主に買ってもらった槍を駆使して、運良く爆発から逃れた兵士を沈めていく。 そして。 「剣・・・具現化」 ハサハの呟きと共に、一振りの刀が空にゆっくりと顕現。 その刃がゼルフィルドをターゲットとして襲い掛かった。 しかし、全身を鋼で包まれているゼルフィルドにはまったく効果がなく、身体に当たっただけで砕けて霧散していく。 その刀は敵の注意を向けるためだけの布石に過ぎなかった。 顔を霧散した刀へ向けていた間に、システムに警告音が鳴り響く。 目の前に。 「ゴメンな」 が腰をかがめたまま一言呟き、一閃した。 目標は両腕の関節部分。 ここを断ち切ってしまえば、たちまちの内に腕は使い物にならなくなるだろうから。 所詮は推測にすぎないのだが、こと『壊す』だけならば彼の右に出るものはいない。 腕ごと断ち切らないように加減しながら、刀を振るった。 その後間髪いれずに足を振り上げ、ゼルフィルドのボディに蹴りをぶち込む。 あっという間で、しかも鮮やかだった。 「あいっかわらず甘ちゃんだな、」 腕ごと斬っちまえばいいのに、と兵士をあらかた倒していたバルレルは呆れたように口にする。 「いいだろ、俺の性分なんだから・・・それよりハサハ、助かった!」 「・・・♪」 ハサハに向けて軽く手を振ると、彼女は嬉しそうに笑ったのだった。 「さて、と」 は駆動音を耳にしながら、立ち上がったゼルフィルドへと目を向けた。 両の腕はダラリと垂れ下がり、とても戦える状態とは言えないもの。 連れてきた兵士たちもミモザの召喚術とバルレルの攻撃で瞬く間に全滅され、撤退する以外に方法はなくて。 「撤退しろ、ゼルフィルド。勝ち目がないことくらい、わかってるだろ?」 「確カニ・・・任務ノ完遂ナラズ。対象ノ確保ハ不可能・・・」 本来ならとっ捕まえて、敵の構成やアメルを狙う目的などを聞き出すべきなのだろうが、相手は機械兵士。 自爆でもされたらむしろ自分たちがヤバい。 その辺で倒れている兵士たちだって、きっと詳しい事情は知らないだろう。 だからこそ、は告げた。 撤退しろ、と。 「帰って、君たちを率いている将に伝えておくんだ・・・『勝ち目のない勝負なんかするな。くるなら全力でかかってこい』ってな」 ハッタリではなく、確信だった。 兵士たちの中にはこの世界でも畏怖の対象とされている召喚師も見受けられたが、派閥の正式な召喚師であるミモザやギブソン、過去の大戦を潜り抜けてきたバルレルや自分の存在が、ただの小競り合いになんか負けないと、確信していた。 『無色の派閥の乱』の当事者であり強力な召喚師は、召喚術が使えるただの兵士とは格が違うのだ。 量より質。 少数だった自分たちが勝利できたのは、そこに原因があった。 「・・・・・・」 とバルレルは、言われた通り去っていく兵士たちの姿をそのままに、仲間の元へと戻っていった。 「どうやら、無事に切り抜けられたようね」 「たりめーだろ。あんな連中に遅れを取るほど、ヤワじゃねェんだよ」 「まぁ、早々にゼルフィルドを無力化できたのがよかったかな」 そんなことを呟きながら、シャツの裾につかんだハサハを撫でる。 少々乱雑ではあるものの、彼女は気持ちよさそうに目を細めていた。 「でも・・・これならうなずけるわね」 「なにが?」 「貴方が、魔王を送還できるほどの力を持ってるっていう話よ」 ケイナの言葉に肩をすくめる。 いきなり「自分はサプレスの魔王を送還できるほどの力を持っています」なんて言ったところで、誰も信じたりはしないだろうから。 それは無論、彼女だけの話ではなく、あの場にいた全員に当てはまることで。 「そうですね。僕たちなんてただ立ってただけで終わっちゃいましたし」 そんなロッカの言葉に軽く頬を赤らめると、 「や、やめてくれ。恥ずかしいから」 「お、珍しいな。てめェ照れてんのかよ?」 「うるさいよバルレル」 じと、と自分を見つめる視線も気にすることなく、バルレルはケケケと笑ったのだった。 「ねえ、」 「ん?」 邸内に戻る寸前、はトリスに呼び止められていた。 振り返ってみると表情には戸惑いが浮かんでいる。 真剣な話をしたいのだろう、と考え、バルレルとハサハを邸内に押し込んで裏口の扉を閉めた。 「・・・ありがと」 「いいって。で、話って?」 それは、ただの推測に過ぎなかった。 兄と向かい合って話をしたときには他人の空似、ということで結論づけたのだけど。 やっぱり、わだかまりは残っていた。 だから、確かめたかった。 彼が自分と兄の道しるべとなってくれた、『おにいさん』であるかどうかを。 「うん。あのね・・・」 ずっと昔。もう十年以上も前の話だ。 小さかったからおぼろげにしか覚えていないし、顔に至ってはまったく空白になっている。 わかっているのは、『おにいさん』が今の自分たちと同じくらいの年頃だということだけ。 「ずっと昔の話なんだけど・・・っ」 いいかけて、止めた。 聞いてどうするんだ? 彼が『おにいさん』だとわかったら、なにをしたいんだろう? そんな疑問が頭をよぎった。 今まで、彼の一言だけが2人の生きる原動力だった。 会いたい。会って、きちんとお礼が言いたい。 その願いに偽りはない。 でも、それを告げるのは“今”じゃないのではないか? 自分に問い掛ける。 「トリス?」 「は・・・っ!?」 自分を呼ぶ声に、我に返る。 目の前で首をかしげるの姿があって、どうしようかと思考する。 結局。 「ご、ゴメン。なんでもないっ・・・なんでもないから!」 「へ? あ、あぁ・・・・・・って、早ッ!」 が言葉を返す前に、トリスは扉を開けて中へすっ飛んで走り去ってしまった。 まだ、確信するには早すぎる。 まだ、再会するには早すぎるから。 でも。 「・・・えへへ」 なぜか嬉しくて・・・嬉しくてたまらなくて。 「ははっ」 笑顔にならずにはいられなかった。 一方、置いてけぼりを食らったはというと。 「ま、迷った・・・」 なぜか繁華街にいたりする。 ギブミモ邸の裏口前にいたはずなのに。 扉を開けて、中に入ればいいだけなのに。 ・・・・・・ 方向音痴、恐るべし。 |
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