「ここに間違いないな」
「はい、イオス隊長。あの2名は、確かにこの中に隠れています」

 部下の報告を聞き、イオスという名の青年は目の前に佇む大きな建物を見上げる。
 レルムの村で逃がした双子を追いかけてここまでやってきたのだが、上官は言っていた。
 『白い刀の剣士に気をつけろ』と。
 その剣士が双子と一緒にこの建物に入ったことは報告されている。
 ここでぶつかり合えば、間違いなくその剣士とも見えることになるだろう。
 あの男がそこまで念を押す剣士とは、一体何者なのだろう。
 そんな好奇心を抱えて、イオスは玄関へと目を向けた。
 誰かが出てくる気配はない。

「ドウ仕掛ケル?」
「この中に対象がいるかをどうかを確認しないと、動くに動けないが・・・できるか?」

 報告は受けているが、自分の目で確認しないことには何があるかわからない。
 もしかしたら、今この中にいないのかもしれないのだから。
 そんな状態で仕掛ければ、国レベルの問題にまで発展しかねない。
 だからこそ、出方を窺っている状態のまま、動こうにも動けずにいた。
 話し掛けてきた機械兵士へと問いを返す。
 返ってきた答えは、「時が欲しい」と言うものだった。
 ふむ、と考えるような仕草の後、

「やってくれ。その間に、僕は陣形を整えておこう・・・」

 あっさりと承諾していた。





    
サモンナイト 〜美しき未来へ〜

    第03話  黒の騎士団





「あいつらが、貴方たちを襲った連中なの?」
「わかりません。とにかくあの時は、無我夢中だったから」

 3人が応接間へと降りてくると、すでにいまいるメンバーが全員集まって、話し合っていた。
 議題はもちろん、外にいる黒い騎士団のことだ。
 会議とはいっても、おぼろげにしか内容を知らないミモザ、ギブソンへ説明が主立っている。

「どちらにしても、友好的には到底見えないけどね」

 ケイナの呟きは、的を射ているだろう。
 外に展開している黒い騎士団はそのことごとくが、その手に武器を持っているのだから。
 少数の自分たちに対して、それこそ一気に叩き伏せてしまいそうな勢いだった。

「・・・遅いぞ」
「悪い」

 ネスティと一言だけ言葉を交わして、とバルレル、そしてレシィは会話に加わる。

、貴方はなにか知らない?」
「外にいる連中のことだろ? ・・・うーん、俺が会ったのはあの中で1人だけだったからな」

 が召喚されて、出会ったのはフルフェイスの兜を被った騎士が1人だけ。
 あとは皆死んでいるか気絶しているか、あるいはその場にいなかったか。
 だから、そんな彼に外の連中のことを聞かれれば、わからないというのも仕方ないと言えるだろう。

「しかし、まさか王都の中で仕掛けてくるとは思わなかったよ」

 王都の中は安全だ、という先入観に囚われていた。
 慢心だったな、とギブソンは付け加え、ため息をつく。

「すいません、僕たちのせいで・・・」
「不可抗力よ。気にしないで」
「そうそう。それを言うなら、悪いのは全部俺になるんだから」
「・・・は?」

 ロッカの謝罪に両手を振ったミモザは、言葉を続けたへと顔を向ける。
 たはは、と苦笑しながら頭を掻いて、

「つけてきてたのわかってて、あえて無視してたわけだし」
「・・・・・・」

 ちゃんと片付けてくればよかったな、なんていって笑うしかないを見て、一同は深いため息をついたのだった。

「・・・まぁ、すでに過ぎてしまったことを言っても仕方ない。敵はまだ私たちが気づいたとは思っていないのが、幸いだろうな」

 そこにつけ目がある、とギブソンは踵を返すと、歩き出した。

「どうするつもりだい?」
「簡単だよ、フォルテ。外に出て、ひとつ注意でもしてきてやるのさ。『人の屋敷の前で何をしてるんだ』とね」

 ギブソンはそう言うと、任せておきなさい、といわんばかりに笑って見せたのだった。

「じゃ、私はこれからアメルちゃんを連れてお散歩してこようかな」
「あ、ミモザ。俺も連れてってくれるか? 街の案内」
「いいわよぉ。って、貴方たしか方向オ・・・」
「だーっ!!!」

 はミモザの確信めいた発言に思い切り声を上げた。
 この年にもなって、地図と方位磁針がなければ街の中を歩けないなんて、とても恥ずかしくていえないから。
 知ってて言っているミモザの目は、面白いものみつけた、といわんばかりに光っていて、ある意味怖い。

「裏口からだぞ?」
「ふふん、心得てるわよ。ケイナさんもどう?」

 話を振られたケイナはちらりとフォルテを見ると、うなずいた。

「マグ兄、あたし裏口行くよ」
「ん、わかった。じゃあ俺はここに残ろう。ネスは?」
「僕か? 決まってる。ギブソン先輩に迷惑はかけられないからな」

 というわけで、トリスとバルレルは裏へ、マグナとレシィは表の連中を相手にすることになったのだが。
 レシィがすでにべそをかいていたのにはちょっとおどろきだ。

「俺も残るぜ。あいつらが村を襲った連中なら、ただじゃおかねえ!」
「よすんだリューグ。僕たちが出て行ったら、あいつらの思うつぼじゃないか?」
「いまさら関係ねぇだろ!」

 彼は彼なりに、村のことを思っている。
 それはひしひしと伝わってくるのだが、はどこか気に入らなかった。
 力でねじ伏せようという、その考え方が。
 もっとも、今は口論している暇はないので黙っているのだが。
 隣でバルレルがキシシと笑っているのを見て、口出しする気が失せた、というのも黙っていた理由だったりする。
 というわけで、ロッカが裏口組に加入することになった。

「連中が動き出したぞ」

 窓から外を盗み見て、ギブソンは告げた。
 武器を構えていざ突入準備完了、といったところなのか、1人の金髪青年を中心に動き出す。

「裏にも、いくらかいるみたいだな」
「ええ、そうね」

 の呟きに、ミモザが答える。
 もはや逃げ場がない。
 裏口組は戦って強行突破するしか、方法がなくなっていた。




 ・・・・・・




「この屋敷の者か?」
「そのとおりだが。なんの用事かな?」

 外に出たギブソンは、騎士団の先頭に佇むイオスの問いに答えていた。
 否、問いというのは些か間違いだろう。
 わかっているんだよ、といわんばかりに、イオスは告げた。

「貴方がかくまっている者たちを引き渡してもらいたい」

 かくまっている者。
 つまりロッカとリューグ、そしてアメルの3人だ。
 もっとも、かくまっている以上、素直に引き渡すつもりなど毛頭ないわけだが。
 その意を告げると、青年は兵士たちに行動開始の合図を口にした。
 引き渡さないなら力ずくで、ということか。
 リューグの中で村を襲った連中だと確信し、怒りがこみ上げる。
 命令を下した瞬間、彼は1人邸内から飛び出した。

「させるかよぉっ!!」

 さらに出てくる数人の若者たち。
 その中に、イオスの聞いていた『剣士』の姿はない。
 皆武器に両刃剣や斧を使っていて、刀を使っている人間などいないようで。
 残念だと思う半面で、これで任務に集中できるという安心感を抱いていた。

「対象の確保が最優先だ!」




 ・・・・・・




 王都へと続く広い道へと出たところで、表のざわめきが大きくなったことを確認した。
 そのざわめきが、戦闘が始まったと如実に告げているのだ。

「大丈夫でしょうか」
「心配しないで。ああ見えて、相棒は強いんだから」

 心配そうなアメルを元気付けるように、ミモザは言う。
 相手は訓練を積んでいる兵士たちだ。たかだか一村民が敵う相手ではないから。
 それこそ心配もひとしおだが、こちらにはギブソン、ネスティら召喚師がついている。
 大規模な戦闘だって、召喚師がいるだけで戦況はガラリと変わるのだから。

「さあ、急いでここから離れましょう!」

 ロッカが急かす。
 一刻も早く離れなければ、せっかく表で仲間がふんばってくれている意味がないから。
 しかし。

「いや、もう遅いな」

 の一言で、一行の足は止まっていた。
 彼の視線の先に、黒い集団が集まっていたのだから。
 そして、中心にいたのは。

「対象ヲ補足。コレヨリ確保ニ入ル」

 黒のボディに包まれた、汎用型の機械兵士だった。
 無言で刀を抜き放つ。

「どきなさい!」

 ケイナの弓が激突するが、強固な鎧に守られて傷一つない。
 放たれた矢は弾かれて、彼の足元へぽとりと落ちたのだった。
 はケイナの肩に手を置いて、振り向いた彼女に笑ってみせる。

くん?」
「あれは機械兵士。普通の矢じゃ太刀打ちは無理」

 俺に任せて、とは口にした。
 手には刀一振りのみで、それだけではとても敵いそうにはないというのに、彼は任せてと笑う。

「ケイナさん、貴女はロッカくんと一緒に『人間の』兵士たちをお願い。私も援護するから・・・!」
「わかってるよ・・・任せとけ」

 ミモザはてきぱきと味方の配置を決め、サモナイト石へと魔力を注ぎ始めた。
 こちらは少数だからこそ、迅速かつ最適な配置で戦闘に挑まなければならないから。
 アメルを囲むようにミモザとロッカ、ハサハ。そしてケイナが立ち、は1人飛び出したような配置でこの場を突破する。
 が機械兵士の元へたどり着くために、ケイナとミモザで援護するのだ。
 そして、ロッカは取りこぼした兵士の掃討に当たる。
 1人1人の特性を生かした、まさに最適な陣形ともいえるだろう。
 それももとより、の実力を知っているからこその陣形なのだが。

「我ガ名ハぜるふぃるど・・・我ガ将ノ命ニヨリ、ソノ少女ヲ確保スル!」

 ゼルフィルドと名乗った機械兵士は、右腕アームに装着された銃口を陣の先頭に位置するへと向けたのだった。





第03話でした。
イオス&ゼルフィルド初登場です。
展開はまぁ、ゲームどおりということですね。プレイされた方ならわかるかと。
そして、マグトリが妙に聞き分けいいですね(苦笑)。



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