「……ということは、つまりこういうことになるのか」

 メガネをかけた召喚師の青年――ネスティは説明を聞いて要約を口にした。

 まず最初に、帝国領沖のとある島に召喚される。
 そこでの事件の終息後、1年の間をおいて見聞の旅へ。
 その道中で『邪竜事変』に巻き込まれ、バルレルと知り合った。
 事件が終わりを告げて旅を再開したところ、今度は時間を超えてサイジェントに召喚、『無色の派閥の乱』に参戦することに。
 1人の青年に乗り移った魔王を送り返すために自身を犠牲にしたことで、何処かへと消えてしまっていたところ、今回レルムの村での一件に巻き込まれた。

 これが、今目の前でバルレルに首元を掴まれてブンブンと前後にゆすられつづけて目を回している青年の経歴である。
 軽く自己紹介を済ませた後、青年――は自分の今までの経歴を簡単に説明していた。

「おおおおれににもく詳ししくは・・・って、いい加減離してくれよ」
「・・・ケッ!」

 バルレルはそんなを見つつ息を吐き捨てて、首元を解放する。
 乱れた襟を直しながら、

「詳しいところはよくわからないんだ。ただ、俺の行く先で厄介な事件が起こっていることを考えると、今回も何かあると思ったほうがいい」
「疫病神かよ、テメェは」
「・・・言わないでくれ、バルレル。立場ないから」

 ふん、と鼻を鳴らすバルレルにジト目を向けて、大きなため息を吐いたのだった。

「っていうか、もうなってるんじゃないか?」
『・・・・・・』

 一同は、そう告げるに返す言葉を失っていた。





    
サモンナイト 〜美しき未来へ〜

    第02話  彼の事情





「しかし、サプレスの魔王を送還できるほどの力を持っているとは思えないな」
「そうよね。見た感じだと、普通の男の子にしか見えないし」

 ネスティの疑わしげな視線を感じつつも、苦笑を返してみせる。
 同意していた巫女服を来た女性――ケイナに対しても、は同じように苦笑を返していた。
 時間を超えて召喚されるといった現象だって、派閥の召喚師であれば聞けば誰もが「ありえない」と口にするだろうから。
 そして、逆を言えば貴重な体験をしてきた存在として派閥そのものに狙われる可能性も大きい。
 しかし、今この場にいるメンバーにはそのことを本部に報告するような存在はほぼ皆無だった。

 まず、レルムの村から命からがら逃げてきたアメルとロッカ、リューグ。
 自由気ままな冒険者フォルテとケイナ。
 蒼の派閥の召喚師ではあるものの『無色の派閥の乱』の際に命令無視の罰として別任務中のミモザとギブソン。
 彼らは例え報告できる立場にあっても、きっとその事実を隠し通していただろう。
 なぜなら、彼とは戦友という立場なのだから。
 見聞の旅という名目の上で、事実上派閥を追放されてしまった駆け出し召喚師のマグナ、トリス兄妹とその護衛獣であるレシィとバルレルも、派閥に戻ることはほとんどないだろう。
 最後に、彼らの兄弟子であるネスティ。
 彼だけが唯一報告できる存在なのだが、なぜかギブソンを強く尊敬しているためギブソンが困るようなことはしないだろう。
 というか、彼自身マグナとトリスのお守り役。派閥に戻ることもそれほど多くない。

 とまぁ、こんな感じで蒼の派閥に『時間を超えた召喚獣』の存在を知らせることのできる人間がいないのだ。
 もっとも、誰かが告げ口したところで今の彼に叶う召喚師などいはしないわけだけど。

「うそだと思うかもしれないけど、本当なんだよ」

 苦笑しつつ、困ったなと言わんばかりに頭を掻く。
 そんな光景を、ネスティの隣に佇んでいた一体の召喚獣が何かを測定が終わったかのような電子音を鳴らしていた。

「主殿、測定完了シマシタ」
「ああ、どうだった?」
「心拍数オヨビ体温ノ上昇ガ見ラレマセン。嘘ハ言ッテイナイト思ワレマス」

 機界ロレイラルの機械兵士レオルド。
 ネスティが召喚師認定試験の際に召喚した、彼の護衛獣だった。
 黒いメタリックボディをベースとした、汎用の機械兵士である。
 淡々と報告を済ませるレオルドは未だに緑のアイセンサーを光らせていて、まだ何か調べていそうだ。

「で、これからテメェはどーすんだよ?」
「え? あぁ・・・」
さんは村を襲った黒騎士に顔を見られてしまっています。このまま1人にしてしまったら、きっと襲われてしまいますよ」
「彼に限って、普通の騎士たちに遅れをとることはないと思うけれど・・・」

 ロッカの意見に突っ込んだのはギブソンだった。
 の実力を知っているこの場では数少ない存在ではあるものの、声自体それほど大きくなかったからして、その言葉を聞いたメンバーはいなかった。

の行くところにトラブルあり・・・なんてね」
「冗談に聞こえないからやめてください」

 おちゃらけたミモザの一言に、は再び大きなため息をついたのだった。


 ・・・・・・


「なぁ、やっぱり似てるよな?」
「うん・・・」

 ギブミモ邸の一室。
 『彼』の経歴暴露が終わり、解散したところで、マグナとトリスは2人してベッドの上で向かい合い、唸っていた。
 おぼろげではあるが頭の片隅に残っている『おにいさん』の表情。
 それが、ついさっきロッカとリューグを連れてきた、という名の青年とだぶるのだ。
 自分たちを助けてくれて、そう言って笑いかけてくれた『おにいさん』と。

『強くなれ』

 この言葉は、今のマグナとトリスの原動力になっていたから。
 だから『成り上がり』と罵られても、自分たちが派閥内で疎んじられていても耐え抜くことができたから。
 おぼろげな記憶の中にある『おにいさん』の表情をだぶる彼の表情。
 彼自身が言っていた、時間を超えて召喚された、という言葉。
 そして、跳んできたその時間のつじつまが、あってしまったこと。
 それらすべてが、をあの時の『おにいさん』だと決定付けていた。

「でもさ。あの時はあたしたちまだちっちゃかったじゃない。それにあの後・・・」
「そう、だったな」

 路上で見つけた赤い石。
 それを手にしたことで発動した召喚術。
 召喚に応じた一体の龍が街を破壊していく様を目の当たりにして。
 あの中を無事でいられるわけがないと、思っていたから。

「きっと、ただの他人の空似だよ」
「・・・だな」

 結局、胸の内にわだかまりを残したままとなっていた。



 彼らは知らない。
 あの時、その青年は龍によって破壊されるはずだった街を、丁度出ていたことを。




 ・・・・・・




「いやしかし、こんなところに君がいるとは驚きだよ、バルレル」
「うっせ。仕方ねェだろ」

 せっかく還れたのに、これじゃ意味ねェよ。

 そんな言葉を口にして、懐から酒瓶を2本取り出した。
 誓約に縛られた小さい身体の一体どこに酒瓶を隠しているのか、気になるところだ。
 まるで、ドラ○もんの四○元ポ○ットのごとく。
 そんな疑問を抱いていたをそっちのけで、バルレルは酒瓶の蓋を開ける。

「おら」

 そして、2本の内の1本をに投げ渡していた。
 約束してただろ、ということだろう。
 照れ隠しに瓶ごとあおっているのが、妙に彼らしい。

 今、とバルレル、ハサハとレシィはギブミモ邸のテラスにいた。
 小高い坂の上にあることもあって、ゼラムの街を一望できる。
 晴れた日にお茶を飲んだり、おしゃべりをしたりするにはとてもいい場所だ。
 ・・・そんな場所で、酒瓶を2人であおっているのがなんだかシュールだったりするわけだけど。

「他人本位で究極のお人よしっていうバルレルくんの好きな人って、さんのことだったんですね〜」
「・・・は?」
「ブフゥっ・・・!?!?」

 が訪れるほんの少し前。
 酒を飲みながら、主であるトリスから逃げ回っていたときのこと。
 ここなら見つからないだろ、と屋根の上に登ってきたのはよかったのだが、目の前にいるレシィに見つかって、そんな話をしたのだ。
 元々、トリスが大事にとっておいたケーキをバルレルが食べてしまったことが発端なわけだけど。
 そのときに、レシィは勝手にそう解釈していたのだ。

「おい、羊テメェ・・・」
「ヒィっ!?」
「・・・っ・・・」

 慌てての背中に隠れるレシィ。
 の隣にちょこんと座っていたハサハも、バルレルの放った怒りの念を感じてにしがみついていた。

「お、おい2人とも・・・」

 を挟んでバルレルとレシィは対峙する。
 バルレルは怒りの形相で、レシィは恐怖のせいでベソかきながら。
 バルレルが右に回ればレシィは左へにげる。
 左へ回れば右へにげる。
 ・・・埒があかない。

「〜〜〜〜〜っ!」
「ヒイィィィィッ!?!?」

 すでに般若だ。

「おいバルレル。そのくらいにしとけって。俺とハサハが困るから」
「・・・ケッ」
さあぁぁぁん・・・」

 助かりましたぁぁ、と泣きべそかいて飛びつく。
 そんな彼をあやしながら、はバルレルへと視線を向けた。

「俺だって好きだぞ、バルレルのこと」
「エェェッ!?」
「んなぁっ!?」

 驚いたのは主にレシィとバルレルだった。
 もちろん、に他意はない。
 2人との考えていることに、違いがあった。
 それは。

「て、てめ・・・」
「もちろん仲間として、な」
「な・・・」

 怒りで真っ赤になっていたバルレルは硬直していた。
 仲間として、頼れる戦友として。
 つまり、友人として好きだと彼は言っているのだ。

「おにいちゃん・・・ハサハは・・・?」
「ハサハももちろん好きだぞ」
「・・・♪」

 もう一度言おう。
 もちろん彼に他意はないのだ、と。

「・・・・・・」

 バルレルは、怒鳴る気すら失せていた。


 ・・・・・・


「さて」

 は酒瓶をそのままに、ゆっくりと立ち上がった。
 顔を向けるは、ギブミモ邸から街へと続く一本道。
 一瞬表情を険しくすると、その表情を和らげて、


「さ、みんなも立った立った。お客様だよ」


 角の向こうから、黒い鎧の集団が現れていた。












「・・・あ、そうだ。バルレル」
「あァ?」

 はテラスを出る前に一度立ち止まって、最後尾を歩くバルレルへと顔を向ける。
 その表情には嬉しそうな笑みが浮かんでいて。

「ぱっと見だけどあのトリスって娘な、俺と同類だよ。性格が」
「・・・・・・」
「君の身体を弄んだのは、人間だ。そんな理由で人間である彼女を嫌う前に、彼女の人となりを見極めてみたらどうだ?」

 は知っていた。
 バルレルの主が誰で、その主がどんな人間なのか。
 バルレルが人間そのものを嫌う理由を知っていながら、気にしているのだ。
 トリスとバルレルの関係を。

「・・・けっ、言ってろ」
「ああ。さ、行こうか」

 出来たばかりの仲間たちと相談するために、1人の人間と3体の召喚獣が応接間への階段を降りはじめたのだった。






第02話でございました。
前回に比べるとかなり内容が少なくなってしまっていますが、どうぞご勘弁を(土下座。
マグトリが、夢主に気づき始めています。
その胸の引っかかりが確信へと変わるのは、いつのことやら(笑)。

そして、レオルド登場。
「十六夜の月」設定ではなんと、ネスティの護衛獣設定で行きます。



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