「う〜ん・・・」 「・・・・・・」 燃えている。 大地は焼け焦げ、遠目には地面に伏している人間らしき姿もある。 そして、自分の背後には青と赤とじいさん。 正面には大剣を携えた黒い甲冑の人がいて・・・ また巻き込まれたか、と素直にそう思う。 「え、と・・・とりあえず」 自分の隣にいる紺色の着物を着て、胸元に丸い水晶を抱えて。 ウサギのような耳の目立つ少女がいた。 かりかりと頭を掻いて、少女に視線を合わせようとしたところで。 「おい、テメエ!!」 「?」 赤い髪の青年―― リューグが今しがた落ちてきた青年にへと声をかけた。 「あぁ、俺は。 だ。とりあえず・・・状況は理解したよ」 「なんですって?」 周囲をぐるりと見回して、はそう告げる。 黒焦げの瓦礫を見るにここは村だった場所。所々から火が上がり、一般人にしか見えない人間たちが倒れていて動かないところを見ると、黒い鎧の一派が村を襲ったと解釈できる。 そして、村人の生き残りが背後にいる青と赤とじいさんだということだ。 「つまり・・・」 黒い甲冑に身を包んだ騎士へと視線を向ける。 「お前が・・・お前たちが、この村をこんなにしたんだな」 黒がかった赤の瞳をぎらつかせて、はそう告げた。 黒塗りの鞘から刀を抜くと、白い光が残像として残りながら、刃を黒騎士へと向ける。 「君たちは、早くここから逃げな。あとは俺が引き受けた」 「なぜじゃ・・・なぜ、無関係のはずのお前さんが、そこまでする?」 「・・・・・・」 じいさんの発した問いは的を射ていた。 ついさっき現れた素性も知れない男が、自分たちに味方してくれているのだから、無理はない。 は苦笑する。理由は簡単だった。 今まで楽しいことや嬉しいことはたくさんあった。それと同じくらいに悲しいことも、つらいこともあった。 悲しみに明け暮れている人を目の前に、無力な自分を嘆いたことは数知れず。 だから。 「もう、自分の前で悲しみに暮れる人を・・・見たくない」 目の前で生命が消えていくのを見ていることしかできない自分は・・・ここにはいない。 今の状況は、もう遅いかもしれないが。 「俺は、自分の信じた道を行くだけだ」 そう告げたのだった。 「わかった・・・お前さんも、無事でいるのじゃぞ」 2人を促し、じいさんはにそう告げて森へと姿を消していく。 その後姿を見やり、は軽く唇の端を吊り上げた。 「貴様・・・何者だ?」 「何者もなにもないだろう。今見ていたとおり、俺はただの召喚獣だ」 自分の隣にいる少女は知らないが。 彼女の様子から察するに、自分の味方をしてくれているようにも見える。 きれいというよりはかわいいの部類するその顔は、黒騎士に向いていたから。 「君も、逃げないと」 「・・・・・・」 少女は答えない。 かわりにシャツのすそを握り締めると、を見上げた。 その瞳は、一直線に彼の顔を射抜いている。 「1人で逃げるつもりは、ないわけか」 「・・・(こくり)」 再び、黒騎士へと視線を向ける。 彼は大剣を腰の鞘へと収めていて、戦う意思すら見られない。 むしろ、とその隣の少女の様子を窺っているようにには見えた。 や 「『鍵』がいないのならば、もはや我らがこの場にいる意味はない。戦る気でいるところを悪いが、退かせてもらうぞ」 「まぁ、彼らを逃がせたから今回はそれでいいさ。でもな・・・」 刀を納めて、黒騎士から一度視線をはずすと。 「次に会った時にはなんでこんなことをしたのか、聞かせてもらうからな」 そう告げて、隣の少女を横抱きに抱えて背を向ける。 「じゃあ、またどこかで」 そう言って、森へと姿を消したのだった。 「またどこかで、か」 炎の中で1人たたずみ、黒騎士は呟く。 彼とは、戦いたくない。 敵か味方かはわからないが、おそらくは敵に属するのだろう。 視線を向けられたときに感じた、強く底知れない巨大な力。 ただの召喚獣などと言っていたが、 「この俺が、ここまで恐怖するとは・・・な」 眼下を見やると、両膝がカクカクと震えていた。 とても『ただの』とは言い難い。 敵にはしたくないのだがな、などと内心で呟きながら、黒騎士は撤退の命令を下したのだった。 「そうか、ハサハっていうのか」 はハサハという名の少女を抱えて走りながら、そんなことを口にしていた。 背格好は自分の腰の少し上くらいで、動きにくそうな着物を着ている。頭から伸びる長い耳がとても目立つ。 服装から察するに、シルターンの召喚獣。これは間違いないだろう。 「誰に喚ばれたんだ?」 その質問を、彼女にかけてみると。 「・・・・・・」 彼女はじっ、との顔を見つめた。 は暗がりの上に森の中を走っているわけだから、細心の注意を払うためにも顔は前に向いている。 そのため、彼女が何をしているのかはわからない。 だから。 「どうした?」 「・・・(くいくい)」 シャツの腕部分をハサハは引っ張る。 森の出口が見え、月明かりに照らされた草原がその先に広がっているのを確認して、は走る速度を緩めた。 彼女を下ろして、 「もしかして・・・俺?」 こくり、と。 彼女は表情を変えずにうなずいたのだった。 おそらく、自分が召喚される直前に無意識になけなしの魔力を注いでしまったのだろう。 媒介は、腰の刀だろうか。 「ま、まいったな・・・悪いな、勝手に喚び出しちゃって・・・」 「・・・(ふるふる)」 声にせず、首を横に振ることで「大丈夫」という意思表示をしてみせる。 内気な娘なのか、会話自体ができないのか。 まぁ、今はそんなことはどうでもいい。 ポケットに手を突っ込んで、入れっぱなしになっていたサモナイト石を取り出すと、左手には刻印の消えた緑の石といまだ未誓約の黒と紫の石。 右手には、多少の光を帯びた紅の石と乳白色の石が握られていた。 その中の紅の石だけを覗き込むと。 「うわぁ、マジっぽいな。・・・どうしよう」 送還の仕方知らないしなぁ・・・ そんなことを呟いて、頭を掻いた。 歩く足を止めて視線が合うように腰をかがめると、苦笑。 「急にこんな物騒なトコに喚ばれて、驚いただろ。元の世界、還りたいよな」 じっとを見つめて、 「おにいちゃんは、ハサハのこと・・・きらい?」 ハサハはそう尋ねた。 声が出せないわけではないらしく、ただ内気な性格なのだろう。 ・・・初対面で嫌いかと聞かれては、正直答えに困るのだが。 「別に・・・嫌いじゃないけどな。まだ会ってから十数分だし」 「ハサハ・・・おにいちゃんと、一緒にいても・・・いい?」 か細い声で、彼女はそう口にした。 の旅は、当てがない。風の向くまま、気の向くまま。 一応、戦闘中に消えてしまった護衛獣の少女を探すというしっかりとした目的があるのだが。 手がかりなんぞまったくない状態だったので、当てのない自由な旅になっていたのだ。 まぁ、最近は色々あって旅どころではなかったが。 「多分、これから危険な旅になるぞ?」 「・・・(こくり)」 考えは変わらないようだ。 真剣な表情を崩すと、 「じゃあ、これからよろしくな。ハサハ」 「・・・♪」 彼女は、嬉しそうに笑みを浮かべてうなずいた。 結局、森を出たところでロッカとリューグに追いついたので、彼らに同行することになったのだった。 正直な話、からすれば助かったことこの上ない。 なぜから、彼は地図と方位磁針がないと目的地につけないという極度の方向音痴だったのだから。 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 プロローグ −後編− |
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